もうすぐ夏が終わる。
いや、セレスタとかもっと南ならまだまだ一か月以上は袖いらないんだけど、ポルカの秋は早い。そして短い。
下手をしたら一か月後には雪もちらちらし始めるくらいだ。一年の半分が雪景色というのは誇張ではない。
……とはいえ、世の中にはもっと北というのももちろんあるんだよな。エルフの森より北ってどうなってるんだろう。一年中雪が降り続けてる土地なんかもあるんだろうか。今度アイリーナかクリスティにでも聞いてみようかな。
……なんて思いながら今日も「空飛ぶヤリ部屋」の改善構想。テーマは屋根への上り下り。
エースナイトに猫獣人にドラゴンたち……と、ジャンプひとつで屋根に乗れる子はとても多いんだけど、それは正直危ないよな、という気持ちもある。
ドラゴンだったら3メートルやそこらから落ちたところで怪我すらしないだろうけど、エースナイトたちや猫獣人は頭から落ちれば大怪我だ。心配のし過ぎと言われるかもしれないが、時には体調不良ってものもある。
何より、屋根に上って何をするかと言えば、屋根裏への荷物の出し入れなのだ。大事な荷物の出し入れをピョンピョン飛び跳ねなくてはできないというのは駄目だろう。
そういうわけで昇降手段を考える。
一番簡単なのは梯子だ。高さ3メートル、余裕を見て4メートルなら、そのままの長さでも小屋の中にしまっておける。
でも簡単ではあるけどスマートではないよな。出し入れに手間もかかるし。
次に考えたのは縄梯子。軒下にフックをつけてぶら下げる案。これならコンパクトだ。
ただ……軒下から下げるとオーバーハングになるんだよなあ。屋根に乗る段階でだいぶ不安なアクションをしないといけない。これは荷物の運搬という目的を考えるとちょっとナシだ。
じゃあいっそ屋根裏入口から縄梯子をスタートさせてしまえば、というのも考えたけど、それは最初に誰かがジャンプで飛び乗る前提になるよね。……うん。目標は「ジャンプで乱暴に乗り降りしないで済む手段」だし、それなら普通の梯子の方がいくぶんマシだ。
「うーん……」
家の二階から小屋を見下ろして唸る。
いっそのこと、こうして他の建物の横にくっつけるように置くことにすれば簡単に乗り移れる……いやいや。それは解決策とは言わない。
できるだけ取り回しのいい梯子を作るというのが現実的な解決策。それはわかってるんだけど。
「せっかく素材もあるし技術者もいっぱいいるんだから、気の利いたやつを考えたいよなあ……」
技術者とは青の家師(大工)であるエルモたちや、魔法によって加工の補助ができるアイリーナやクリスティ、それに金属加工やアフィルムのギミックウェポンに造詣の深いダン爺さん。
北の森の木材やドラゴンの秘宝素材を使い、彼らにアイディアを提示できれば、何か面白い昇降器具が作れる気がするんだ。
ううむ……。
「滑車で昇降する荷物籠……うーん。モノとしては面白そうだけど……小屋の付属品としては嵩張りすぎるか……? いや、伸縮棒作って三脚みたいに立ててやれば……あー、でもなあ。そもそも梯子より大掛かりになっちゃ意味が……」
絹の鎖、ドラゴンの鱗、希少金属、小屋の木材。それに刻紋技術。
どう組み合わせて、どう作ろう。どう使おう。
こういう思考をしている時間は、難しくも楽しい。
……が、窓辺で小屋を見下ろして二時間ほどもニヤニヤしていた俺を、周りは若干誤解しているようで。
「主様。ご用命あらばいつでもお申し付けを」
「え……いや、特にないけど」
急にどこからか現れて囁いてきたエマは、俺の返答に露骨にがっかりしたり。
「ご主人様、欲求不満ですかー? 私いつでも空いてますけどー」
「いやテテス服は着ような。誰が訪ねてくるかわからないんだし」
「むー」
テテスにも不満顔をされたり。
「そんなとこからプレイの妄想して楽しんでないで実際にやったらいいのに。むしろやれ」
「いやそういう妄想じゃないんだけどっていうかグロリアさんいつ来たの!?」
直球でグロリアさんに指摘されて初めてどういう風に見えてるか自覚したり。
……はい。あれは「ヤリ部屋」ですよね。ヤリ部屋を見てその持ち主が何考えてるかなんて普通そういう風にしか見えませんね。
「相手見つかんないの? 私が相手してもいいけど?」
「いや、まあ、別に袖にされてるわけではないんだけど……単に部屋の改造案というか、新しくいじる案を考えてたっていうか」
「あの数の女にツバつけてるんだから、もっと励んだ方がいいよ? 私ら長命種はともかく、獣人とか人間とかの若い子はどんどんハメまくってあげないとストレス溜まるでしょ。一度性欲に正直になるって決めさせたんだからさあ」
「それもそうだけど……」
別に怠けてるつもりはないんだけど。いや、でも確かにアゼルたちやルナにここ数日声かけてないな。
あのセレモニー後の首輪大増殖のほとぼりも冷めてきたんだから、そろそろ言い訳もできない。
「……じゃあ獣人の子たちを中心にしようかな、今日は」
「おっ、いいねー。もちろん見学させてくれるよね?」
「グロリアさんも裸見せてくれるなら」
「いや奴隷なんだからおっぱいやおまんこくらいいくらでも見せるし中出しもしていいけど。それは交換条件じゃなくて普通に『お前も混ざれよ』って言うべきシーンじゃない?」
「そうなんだけどそうじゃない……」
グロリアさんはまだ「雌奴隷といっても俺にとっては恋人やお嫁さんのつもり」というのは、あまり咀嚼できていないらしい。
まあ今となっては逆に理解しづらい概念になってきてる気もするけど。
猫屋敷や酒場を回って、今日のお相手を探そう、ということで。
「それじゃあ今日も種付けのお仕事頑張ろー。おー」
「お仕事って言わんでください。俺はエッチは楽しいからする派なんで」
「えー。世のエロ絵巻愛好者がみんな羨む響きなのに」
俺と腕を組みながら歩くグロリアさんはとても楽しそうだ。
エッチな場面を見たり体験したりするのが心底楽しいからだろうか。根っからだなあ、と思い……いや。
「グロリアさん、ちょっと前よりだいぶ綺麗になった」
「え……そう?」
肌が。
……そう。
「ちょっと前」、つまりポルカ生活を始めるまでの間には俺にもわからなかったが、今ならわかる。グロリアさん自身の言う通り、荒れた生活の影響で肌艶もなかったし笑顔に影もあった。そこがまた独特の世慣れ感が感じられたところでもあるけど。
今はそれこそ年頃の娘と変わらない、弾けるような質感。どこか毛羽立ち感のあった髪もしっとりつやつやで流水のような手触り。
これが本来の彼女であるなら、自分を磨けていないと悔いていたこともわかろうというものだ。
「やっぱり? ふふふふ、まあ自分でもわかるんだよねー。私も磨けばまだまだ光る! ってね。こうも肌に自信が出てくると人前に出るのも楽しくなるよ」
「まだまだって……そんな歳ってわけでもないでしょうに」
「あはは、まあそりゃババア面したら一部の人に怒られそうだけど。でも裏道で不健全な生活しつつおまんこで生活してたら、自分が日々劣化していってるのはどうしても感じるし、気持ち的に老け込まされるっていうかね……瑞々しい気持ちにはなれないじゃない?」
「そういうもんですか」
「本当に、自分の健康に自信持てるっていいことだよ。忘れてた」
……一見して不自由がなくても、やっぱりそういうのって劣等感になるんだなあ。
「こうもピカピカになったら、今度は自分のオンナとしての性能も試したくなるもんよ。ここだけの話、早くハメに来てくれないかなってずっと思ってたんだから」
「……申し訳ない」
ふざけてしなを作るグロリアさんに小さく謝る。ちょっとだけ「グロリアさんは絵を描く方が忙しいからわざわざハメ要員に呼ばなくてもいいかな」なんて思ってたことは否定できない。
「悪いと思ってるなら……種付けのお仕事、今すぐしない?」
グロリアさんは囁く。
思わず左右を見回す。まだ町の大通りまでは少し遠いが、それでも人通りがないとは言えない場所。寝転ぶのにちょうどいい下草が道の左右に生えていて、目隠しになるものはまばらに生えた木の他には何もない田舎道だ。
「私だって孕み腹。あんたが孕ませていい雌奴隷。猫ちゃんやコスモスばっかりじゃないよ……♪」
ゆったりとした服の上から下腹部を撫でつつ妖艶に囁くグロリアさん。
急な誘いに戸惑う反面、やっぱりグロリアさんをよく観察して綺麗だと思ったのも事実なわけで、その彼女が今にも脱いでセックスを始めよう、と誘っているのに魅力を感じないわけもない。
この前の月夜のダンス乱交でもヒヤヒヤしてたくせに懲りもせず、と思われそうだが、白昼堂々中出しセックスを誘惑してくる美女に対して理性は抵抗の術を持たない。
「……こんなところで孕んだと知ったら子供がグレそうだ」
「エルフ的にはそのへんの草むらで妊娠するのはわりとポピュラーだけど?」
「……そうだった」
エルフの伝統としてはそうなんだっけ。
まあ、そのへんの草むらとはいってもこんなに開けた場所じゃなく、森の中だろうけど。あ、でもアイリーナとは魔法で湖面に浮かんでセックスしたりもしたっけ。
アイリーナが特別変態という線もなくはないけど、やっぱりエルフはそこに関しては開放的な種族と言えるんだろうな。
そんなことを考えながら。
一段と輝きを増したハーモニウムの夜のアイドルと、俺は道からわずか数メートルの草むらの中で抱き合い、キスをしながら倒れ込んだ。
(続く)
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