せっかくなのでラン王女とフィオーナも小屋に乗らせ、エマに抱えさせてスマイソン家まで一気に飛び戻る。
歩いたってそう時間のかかる距離ではないが、夜の森はちょっと気味悪いし、獣道しかないので急に蜘蛛の巣とか引っ掛かってきて油断ならない。
そして彼女らを男爵邸に送る役はテテスに任せ、俺は作戦会議のために「レスリーハウス」に向かう。
まあ作戦会議と言ってもフィオーナの修行に関する今後の展望と、王女の快癒宣言どうしよう、という程度なのだけど。
「フィオーナを鍛えるのは少し時間をかけたいな。中途半端に放り出すのは不義理だ。せめてエースナイトとまでは言わずとも、セレスタの歩兵隊の正兵に不足ない程度には仕上げたい」
ディアーネさんはそう言う。
「見込みはあると思いますか」
「自負と実態が噛み合っていないだけで、運動音痴ではないな。姿勢はいいし、ある程度の敏捷性も柔軟さもある」
意外と評価高いな。まあ、逸材と言っているわけではないけれど。
「本人は多分やりたがらないと思うけど、あの子ダンス向きだと思うわよ」
とは、同じテーブルにいるノールさん。
「そりゃまあ、向こうの女騎士は剣舞が本職みたいだから、そうなんでしょうけど」
「見てると結構リズム感いいのよ。相手の打ち込みが単調だと結構捌いてるのよねー」
「……なるほど」
「バランス感覚も悪くないわ。体の動かし方がわかってないだけで、ちゃんとひとつずつ教えたら結構早いうちにいっぱしの舞い手になれるんじゃないかしら」
「高評価だ……」
10歳児にボコボコにやられた騎士の評価とは思えない。
同席しているアンゼロスやネイアは苦笑という感じだけど。
「いくら痛い目にあっても立ち上がる根性があるのは認める、かな。ただ、王女の直衛という矜持があるから踏ん張りがきいてるだけで、一から学び直すことができるタイプかはまだわからない」
「まだ本気で命の危機感をもって戦ったことがないようですからねぇ……」
特にネイアにとっては、戦うということは「命を張る」ということだ。そのつもりもなく暴力を手にする不心得者に激昂したこともある。
フィオーナはそういう邪悪さはないが、とにかく殺意を伴う暴力に対する認識が甘すぎる。
いくらポルカでボコボコにされても、それが命を奪うような種類のものでない以上、ネイアにとってはまだまだ「恰好だけ」でしかないだろう。それはつまり、ネイア的には戦士としてスタート地点に立ってすらいないということだ。
それらを身につけさせる……というのも、この慣れない場で短期間で確実に、というわけにはいかない。
俺たちが促成を急ぐあまり、フィオーナの気持ちが折れたり曲がったりしては元も子もない。
「ああいうタイプを『本物』にするというのは……僕はちょっとやったことがないから、正解の策が思いつかないな」
「同じく、です。覚悟の甘い勇者というのはいないわけではありませんが、カールウィンは逃げて逃げられる先などありませんからね。結局はすぐに現実にぶつかるものです」
それぞれに後進を育てた実績がある二人だが、フィオーナのご機嫌を取りながら育てる自信はないし、その義理もない、というのがまあ当然の結論。
そしてディアーネさんはそんな二人に苦笑を返す。
「お前たちは、ある程度の『完成品』をさらに育てただけだものな。……わかった。まずは私に任せておけ」
「あそこからでもいけるもんですか」
「お前は私が何者なのか忘れていやしないか。軍隊というのはそもそも、戦闘本能があるかどうかも定かでない農民や町人の子弟を、矢も槍も飛び交う戦争で生き残れる兵士に育て続ける組織だろうに」
「……そりゃそうですけど」
この人はその軍隊で数十年、自分の部隊を作っては運営し続けている人だ。
フィオーナがたとえ常人より才能がなくたって、戦場にあって生き残る力を与えられる。
俺だって直接戦闘力では劣るとはいえ、クロスボウを持てば命のやり取りをする、そういうモノになる。
俺もディアーネさんに、ただの鍛冶屋見習いのガキからそこまで育て上げられた一人なのだ。
「だが、時間は節約したいからな。しばらくライラを借りるぞ」
「どこかに行くんですか?」
「結局のところ、ただの訓練と思えるような体験だけでは限界があるからな。時々は遠出も必要だろう」
ディアーネさんは楽しそうだ。最近は面倒な仕事が多かったからか、そういうのがいい気分転換なのかもしれない。
「あ、それと……ラン王女の方ですけど。喘息って、治った判定どう出すんですか」
「ああ、それはヒルダ姉上に任せようと思う。……普通なら症状が消えたからといって、完治したと言い切るのも少し難しいが」
「そこはポルカですからね」
「ああ。……ヒルダ姉上なら診断の術も多く知っている。私はザッと感覚で調べるしかない部分でも、おそらく明快な判断が出せるはずだ」
本当なら治ったとも治っていないともつかないまま、いつぶり返すかもわからずに怯えるしかない……そういう病気なんだろう。だが霊泉なら根治できる。
肺病で苦しんだミリルもそうだが、恐れずに呼吸し、運動ができるというのは、きっと王女にとっても別の人生が始まるような出来事に違いない。
だから、そうなったことをできるだけはっきりと伝えてあげたい。下心なしにそう思う。
……いや、俺が女の子助けると下心にばかり注目が集まるきらいがあるけど、さすがにもう本当に追加雌奴隷はいらないからね? 今の子たちで大満足すぎるからね?
どちらかというとフィオーナの生おっぱいは一度拝みたいな、と思っている程度で。うん。あれはいいものだよ。
「話、終わった?」
そこにルキノさんが料理を持ってきて、皿を置くと同時に自分も座る。
今日の一皿はフィッシュフライ。エルフたちが持ってきた海魚を開きにして揚げたものだ。油が違うのか、セレスタでよく食べるものに比べてギットリ感がなく、香りもいい上に、揚がり具合もさすがの美しいきつね色。
そこにこれまた森の中で採れたらしいマイルドな芥子を使ったディップでいただく。
「お前の方からもなにか話があるのか、ルキノ?」
「なにかも何も。ミラがめちゃくちゃ楽しんできたって自慢しまくるんだもん」
「……まあ、楽しんでいたな、あいつは……あんなに淫乱だとは思っていなかった」
ディアーネさんは苦笑した。まあそれはお互い様だと思う。処女段階でわかることじゃないし。
「ミラとそんなにしたなら次は私でしょー? なんで声もかけてくんないのよ。暇でしょうがないじゃない」
付け合わせの銀梨スティックフライで頬をつつかれる。いや、銀梨フライってなにそれヤバそう、と思われるかもしれませんが結構うまいんです。熱を加えることで酸味が減って甘味が濃くなり、デザートとして優秀。そして別にシーマさんのオリジナル料理というわけではなく、銀に元々ある食べ方のひとつ。
「いや、なんかミラさんとかシーマさんのゆるゆる加減に比べて、ルキノさんって態度がシャキシャキしてるから誘うのにちょっと気合がいるっていうか」
「ミラがそんなにゆるゆる? あれ結構冷めてないー?」
「エロいことしたい雰囲気をちょっとでも見せるとすぐにスイッチ入るから、あの人……」
「あー。そっかそっか、スケベ度が普段の態度と差し引きでもぶっちぎってるんだ……」
銀梨スティックフライを半分口に入れて唇で縦に振りながら、ルキノさんが少し難しい顔をする。
「シーマはあのおっぱいだしなー。ミラもそんなに前のめりってことは、私もなんかオリジナリティのある攻め手を考案しないといけないか……」
「いや、オリジナリティいる?」
「40人もいるんだから、他でもいいようなアピールしかできないんじゃ生き残れないよね」
「死なない死なない」
ルキノさんも真っ当にかわいいんだからアクロバットしようとしなくても。
……と、穏当な路線を推そうとしていたらノールさんが横から身を乗り出してきた。
「あ、それならさ。今夜ふたりで組んでみない?」
「え、何?」
「ちょっとねー。グロリアに面白いネタもらってね♪」
グロリアさん。
……グロリアさんが絡むってことはエロ絵巻関係ではないかと推理が冴えわたるんですが。
んで。
深夜、再び「空飛ぶヤリ部屋」
月が煌々と光り、差し込む中で、俺はギターを持って待機している。
そしてノールさんとルキノさんは踊り子衣装にお着替え中。
元々露出が多く足の動きを邪魔しない、砂漠南では結構見るセクシータイプだが、いったんそれを着て俺の前に二人で立ってから、二人はニヤリと微笑んでブラジャーもパンツも脱ぎ捨ててしまう。
まろびでる四つの乳首と二つの淫穴。
「段取りはわかってるわよね、弟くん♪」
「一応……っていうか、こんなんあるんですかね本当に」
「なければ弟くんが世界唯一の実現者ね♪」
手元には「実録娼館紀行」というエロ絵巻の4巻。つい最近出たのをオナニーブラザーズがどういうツテを辿ったのか手に入れていたらしい。
それをグロリアさんがオリジナルエロ絵(モデルはリェーダ)をカタに借り受けて、それがノールさんに又貸しされている。そしてそれを今、俺が読んだ。
砂漠近くのある街の娼館。所属娼婦の本業がダンサーばかりのそこでは、客が自ら演奏できると受けられる特別サービスがあるという。
それは「定額料金で、演奏曲のレパートリーの数だけ射精できるコース」。
ダンサーは客の演奏で舞い踊り、一曲終わるごとに客の射精を受ける。客は精力と曲目の続く限り、娼婦ダンサーたちが自分の精液を股間から垂れ流し振りまきながら踊り、再び自分の精液を胎に受ける姿を楽しめる……。
かつてダンスの練習機会を作るために始められたサービスだったが、もはや娼婦ダンサーたちはこの快楽に満ちた淫らなダンスをこそ一番の花道と捉えている節も見受けられる──。
あったまわりー。
と思いながらも、そんな娼館あったらいいなと思う男の浅ましさ。
そしてお忘れかもしれませんが俺はギター弾けます。譜面読めないので耳で聞いた曲を真似するだけですが。
「ところでノールさん。俺、踊れそうな曲ひとつしか知らない」
「……ふふっ、何度でも踊ってあげるわよ。おちんちんさえ勃てばね……♪」
「一曲交代だから、一発で満足しちゃ駄目だかんね?」
月光に浮かぶ、あられもない姿の姉妹ダンサー。
淫らなダンスナイトが始まる。
(続く)
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