王女は予定通り、男爵邸に預けることになり、それはフィオーナも同様。
ただ、ドラゴンによる接近護衛はしないことにする。どうせポルカにいる限り、ドラゴンの目や耳をかいくぐる不埒者は存在しようがないし、形式的な護衛、実質上の世話係というならフィオーナだけで充分だ。
「細かいことはアイリーナ、頼むぞ」
「しっかりした娘じゃ。わらわの出番などないと思うがのう」
「あれでも言うほど打たれ強くなさそうな感じがするんだ。それにフィオーナは北西語話せないんだから、屋敷のメイドに誰でも用を伝えるってわけにいかないだろ」
「……まずはそこからじゃの。剣は駄目でも言葉の習得意欲ぐらいはあってくれると思いたいが」
どうやらアイリーナはフィオーナに北西語を教えるつもりのようだ。
そんなに簡単にいくかな……と思うが、あまり頭がいい方でもない俺にエルフ語をだいぶ聞き取れるようにしたくらいだから、外国語講師としては実績ありだ。
「それより、そなたはラン王女たちに気を回し過ぎじゃ。一段落ついたら居残りの娘たちへのフォローを忘れるでないぞ」
「え……あ、ああ」
「わらわたちはあくまで第一陣として選ばれたに過ぎぬはずじゃからの」
そういえばそうだな。今回置いていったメンバーには「空飛ぶヤリ部屋」の定員上の問題ということで我慢してもらったのだから、他は他で遊ぶ機会を作らないといけないか。
といってもどうしたものかな……ラン王女たちを放っておいてまた小旅行をするのもあれだし。
翌日。
「えっちするだけなら別に飛ばさなくてもいいんじゃないですか?」
「えっちするだけって」
「私は別にそれで構いませんし♪」
今日も今日とてスマイソン家に上がり込むなり、コートを脱ぐ感覚でパンツまで脱いで裸になってしまったテテスが嬉しそうに言う。
「要はベッドルームとしての使い心地をみんなに体験させるんですよね?」
「……まあ、うん。そうだな」
「ポルカに置いたままでもそれはできることです。ラン王女やフィオーナさんから無責任に目を離すって事態も避けられますし、何より数の多い猫ちゃんたちは最初から交尾のことばかりしか考えてませんし♪」
「……い、言われてみればそう……なのか?」
でも確かになあ。テントや野外調理器具なんかの野営装備は、いきなり長距離持ち出して使ってみる前に、庭で試してみるのが当たり前だよな。
そう考えれば、「ヤリ部屋」の実用テストとしてわざわざ行き先を考える必要はないのかも。
いや、でもなあ。移動設備として作ったのだから、いろんな場所に飛んでみせてその利便性をアピールしたいという気持ちも……でもまあ、それは単に俺の顕示欲でしかないといえばそれまでか。試用という目的とは別。
「そ・れ・でー……せっかくですから秘密温泉に置いちゃうっての、どうです?」
「……あそこに? っていうかそれこそ王女やフィオーナの邪魔になるんじゃ」
「王女様、あそこがシルバードラゴンの溜まり場と理解してても普通の女湯に行くの嫌がりますかね?」
「あー……」
言われてみれば、あの場での入浴はラン王女にとっては恐怖体験でしかなかったのか。
薄衣を着られないという文化の差を飲んでも普通の女湯に行くかもしれない。というか行くよね。ドラゴンの恐怖と比べるまでもないよね普通。女湯は最近あんまりうちのドラゴンは行かないし(男湯に来た方が俺に喜ばれるから)。
「となると……しばらくはあそこで乱交パーティかな」
「それがいいですよ♪ それでそれで、何日かご無沙汰だったんで至急孕ませ汁仕込んで欲しいかなって♪」
「いや、うーん……まあいいんだけど、今日はもっとみんなにフォローして回りたいからその後じゃ駄目かな……」
「えー。今まさに孕ませ交尾完全OKのおまんこがあるのにご主人様ひどーい」
「最近そういう主張が多すぎていちいち飛びついていられないんだよう」
「まあドラゴンの皆さん全員そうですもんねえ。むー、私程度の並みおっぱいじゃパンチ弱いかー」
いや、巨乳のヒルダさんとかコスモスさんとかレイラでもそうそう飛びついていられないけどね。というかテテスは若い人間族なので妊娠率がおそらく一番高いから、別種の興奮はあるんだけどね。
孕ませることにリアリティとプレミア感を感じるのは仕方ない。必要なこととはいえ、我ながら下衆だとは思うけど。
テテスをそのまま連れ出して「ヤリ部屋」で待たせ、他の面子にフォローの計画を伝えがてらにお誘いに行く。
とりあえずは手近なところで猫屋敷の面子でも……と思ったが、草原で剣の打ち稽古をするネイアとベアトリスを見つけてしまったので声をかける。
「おーい。二人ともー」
「スマイソンさん」
「何よ」
ネイアはずいぶん軽装。いつも帽子にマントの服装というイメージがあるが、もちろん帽子は封印中。今日はふわふわの金色の髪を髪留めでアップにまとめて、服も動きやすそうな袖なしのシャツに太もも丸出し短パン。
なんというか……ものすごく開放的だった。
俺じゃなかったら目のやり場に困るところだ。俺はこの道のプロだから健康美を目に焼き付けるけどね。
そしてベアトリスも似たような袖なしのシャツに、こちらは南方風のスリットスカート。丈は長くはないが、はしたないと怒るほどではない。
「訓練してたのか。別にもう戦わなくてもいいと思うけど……」
「何と戦うと言われると困りますが、他に取り柄もありませんから……趣味と思ってください」
「……訓練しないとお互い太るからって言ってたくせに」
「べ、ベアトリス!」
……気にしてるんだなそういうの。まあ、向こうに比べると食い物美味しいからね。うん。
ネイアはともかくベアトリスは勇者だった数か月前に比べるとだいぶ丸くなってきた。いや、丸くなったって女の子に言うと絶対嫌な顔するけど、それまでは女の子というよりなんかこう、獣みたいな骨と筋肉の塊っぽさあったし。
やっぱりそれなりに女の子らしい柔らかさは必要だと思う。
「ネイアはそもそも食べる量節制したらいいのに」
「あなただって出されただけ食べるじゃないですか……」
「私はそもそもまだ成長期だからどんどん食べなさいってヒルダに言われてるもん。それに運動不足気にするほど動いてないわけでもないし」
「何の運動してるっていうんです」
「……そ、その、えっち……とか」
「それでいいなら私もしてますっ」
お前たちそれ俺を前に話すことかな。
「まあ、そのえっちの誘いなんだけど……」
「え、はい。すぐですか?」
まるで「一緒に散歩でもどう?」と聞かれたかのように自然に聞き返すネイア。
ベアトリスはさすがにちょっと顔を赤くして、しかしネイアを見て冷静を装おうとしている。
羞恥心はベアトリスの方が低いかと思っていたけど、ネイアの方が振り切ってるのか。
「すぐ……まあ、うん。できれば」
「どこに行って待てばいいんでしょう」
「…………えっ」
ネイアの返事に意外そうな声を上げたベアトリスは、その場で服を脱ごうとしていた。
単に「エッチに誘われた」という事実に対する解釈が違ったらしい。
そりゃいきなり町が近い野原で青姦始めると思えば多少は羞恥するよね。
「……ベアトリス。その……うちの方にある移動用の小屋で待てばいいから」
「……う、うん。わかった」
「他にもメンバー集めを?」
「しばらく空けたからさ。できるだけどんどんフォローしたくて」
「そうですね。賑やかにやりましょうか」
にっこり笑って家に向かって歩き出すネイア。雌奴隷として心得が行き届き始めたというか、開き直り始めたというか。
でももう少し可愛く嫉妬して欲しいなあ、とか無茶なことを考えたりもする。
……それを期待するならそもそも雌奴隷ハーレムとかやるなって話ですね。わかってます。
他にも声をかけに行くか、あとはリェーダやエマ、マイアあたりでも呼んで、小屋を動かしがてらにメンバー入りしてもらおうかと考えながら町を歩く。
連れていったメンバーの数を考えると10人が定員だけど、セックスするとなるとあまり一気に数を集めても待たせる時間が長い。このあたりで妥協しておく方がいいかな、と迷う。
……そして、中央広場でちょっと珍しい光景を目にした。
「では素振りから始めよう。一本一本、雑に振ってはいかんぞ。必ずその一振りを相手に決める、そのイメージをしながら振るのだ」
『はい!』
男爵の前にポルカの若い衆。ジョニーやキールを上限に、下は8歳くらいの少年まで30名くらいの男が木剣を手に指導を受けている。
そしてそこにフィオーナも混ざっている。ラン王女もまた、広場を見渡せるところに椅子を用意されて座っていた。
「おいキール、何してるんだこれ?」
「何って……ああそうか、お前子供の時に一回やったっきりだっけ。男爵の剣術講座」
「?」
やったっけそんなん……ああ、なんかちょっと記憶に引っかかったような。
「たまにこうして男爵に教えてもらうんだよ。今は俺たちが町の門番だけど、下の連中にいずれ交代しなきゃいけないし……それに見込みのある奴が出たら男爵が援助して剣聖試験受けに行かせてもらえるんだ。いや、今はエースナイト試験だけど」
「……ああ、なんか思い出した。嫌な思い出だから忘れてた」
確かに子供のころ一度だけ、男爵に剣を教えてもらう会に参加した覚えがあった。
そして一通りの素振りをし、打ち稽古の相手したのはキール。当時デブだったが、デブだったおかげで子供のわりにはパワーがあった。
そして俺はキールとの打ち合い一発目で剣を叩き落とされ、さらに木剣で頭を思い切り叩かれて気絶。
たんこぶは霊泉のおかげですぐに治ったが、その動きの拙さ、反応の悪さから、剣の才能がないのは誰の目にも明らかだったので、それ以来絶対参加しなかったのだった。
「……お前にタンコブ作られたんだった」
「悪かったって。あんな思い切り叩く奴があるかって当時俺も親父にブン殴られたんだからおあいこだろ」
「いや、あいこかそれ? 俺何もやり返せてなくない?」
俺と話しながらもキールは号令に合わせて横、縦、と剣を振る。いつもはハルバードばかり持っているが、なかなかどうしてその動きも堂に入っている。
そしてフィオーナに目を移せば、確かに木剣を振る動きは綺麗だった。反りも刃筋もない木剣だからかもしれないけど。
「よし、素振りはこの辺でいいだろう! では打ち稽古だ! くれぐれも目と口、首には当てないように気をつけろ! 霊泉では治らんからな!」
そう。
この男爵の剣術講座は結構過酷。なんといっても防具もなしで「当てていい」。
木剣が片手用の長さでそれほど重くないというのもあるが、霊泉に入ればだいたいの負傷は翌日には治ってしまうから。それに痛い方が防御・回避技術の大切さを覚える、というのが男爵の考えなんだそうで。
そしてフィオーナはジョニーと向かい合っていた。
フィオーナはなんか言う。南部語なので通訳のいない今はよくわからなかったが、表情とポーズからして多分「女だからとて加減は無用。これでもラン様の身を任せられた騎士であるぞ」とか言ったんだと思う。
ジョニーは首を傾げつつ、男爵に目で「いいんですか」と問う。男爵は頷き、開始の合図として手を上げる。
ジョニー、踏み込む、出方を見るための鋭く入り、引くステップだ。
そしてフィオーナの攻撃を誘いつつ、様子見の一発をフィオーナのがら空きの脇腹に放つ。
フィオーナ、直撃。
「っっっっっ……!!」
うずくまった。
終了。
「お、おいっ……あの男爵? 確か男爵のお客でしたよね!?」
「……彼女を霊泉にご案内する。あとはジョニー、代わりに仕切ってくれ」
「は、はい」
男爵はラン王女と一緒に肩を貸し、フィオーナを連れて行ってしまった。
「……ジョニー。彼女、どうだった」
「アンディ。……えーと、ちょっと身を反らすくらいで避けられたよな……あれ」
「俺ができたかどうかは別として、そういう振りではあった」
……町の番兵に完敗する程度かー。
先、長いな……。
(続く)
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