セントガルド王国は比較的新興の宗教国家だ。
 建国は約40年前。建国王にして初代教主がまだご存命らしい。もう譲位したらしいけど。
 宗教国家というのは難しいので、正直そんなに長くもつ国ではないだろう、というのがお偉い筋での予想らしいのだけど、なかなかどうして今のところはしっかり運営しているらしい。

「異様に長い挨拶だけは何度聞いても慣れませんけどね。それ以外は結構感じのいい国ですよ。アーカスとかリュクスの居心地が格別悪かったってのもありますけど」
「……ナリス」
「あ、いえいえ、別に騎士長をくさす意図があるわけでなくてですね? ほら私はぐれエルフですから人間族より逆にアーカスエルフたちの風当たり強いんですよ。もうこっちの一挙手一投足に完全否定が常に入る感じで……ホントね、当時のパーティメンバーが逆に気を使って早く抜けようかって言い出すくらいで」
「ある意味、直接私の悪口を言われるより辛いのだけど……」
「うっ……そ、そうじゃなくて問題はセントガルドでしょう! そうセントガルドの話ですよ!」
 旅荷物を運びこみながらの、ナリスによるセントガルド解説。
 位置としては南部大平原のうち比較的北側、レンファンガスやセレスタに近い国に入る。
 そのため、レンネストで一度降りて休めば、その温泉迷宮という場所にもそこから一日以内に直接飛べる距離だそうだ。
 休むのはもちろんドラゴンではなく人間側の都合。飛びっぱなしだと疲れるのはむしろ乗客だ。
 ……いや。
「そういえばこの『ヤリ部屋』って寝ながら行けるんだし、馬車旅よりも疲れは減るんじゃないか? もしかして直接丸二日飛ぶとかもいける……?」
「アンディ。……別に体力だけの話じゃないよ。トイレとか、空から垂れ流すわけにいかないじゃないか」
 アンゼロスに呆れられた。
 が、ライラは屋根の上に腰かけながらクックッと笑う。
「やってしまえばよいではないか。鳥どもは皆そうしておるぞ」
「下に人がいたらどうするんだ。っていうより、そんな落ち着かない排便はしたくないよ」
 アンゼロスはザックをライラに投げつける。ライラはそれをひょいと片手で受け取って後ろにトス。
 俺が持ったらフラつきそうな重い荷物が、彼女の背後にある屋根裏の入り口に軽々と消えていく。
 中ではオーロラがそれを整理し、効率よく詰め込んでいるはずだった。
「しかし、いずれはそういう旅をするかもしれんぞ。竜の翼をもってしても西方大陸は何日もかかるからのう」
「なんでそんなところに行かなくちゃいけないんだよ」
 アンゼロスが口を尖らせる。
 その頭を撫でて宥める。
「まあまあ。いつか、の話だろ。……ライラの同郷の連中が引っ越した先だ。すぐっていうつもりはないけど、いつかは行ってみたいと思ってるよ」
「アンディ……」
「せっかくドラゴンライダーなんだ。ドラゴンの翼で、歩きじゃ一生かかるくらいうんと遠くにだって行ってみたい。誰かと戦おうってんじゃないんだ、そういうのもいいだろ」
「……置いていかないならいいよ」
「当たり前だ」
 アンゼロスの頭をさらにナデナデ。
 可愛いよなあ。実際、アンゼロスはライラの「ドラゴンナイト」なんだし、連れて行かないなんて有り得ないけど。
 しかし、実際何日も空の旅をするとなったら食べ物や水の備蓄とか大変だし、こういう小屋タイプじゃ駄目なんだろうな。
 海の水をなんかして飲めるようにする魔法とかありそうだけど、飛びっぱなしでは水を汲むのも魔法を使うのも難しいだろうし、釣りか何かで食べ物を確保することを考えても着水能力は欲しい……あれ? そうなると結局船を抱えて飛ばせるのが最適解になるのか?
 そのための船をどこかで手に入れて改造するにしても……船って高そうだよなあ。作れないかなあ。でもそうすると余計に何年か勉強する必要ありそうだな。
 ……いや、確か家師のエルモって青だよな。あいつ船も作れたりしないかな。青って漁業が盛んだし。
 彼に直接作らせるんじゃ、やっぱり払うもの払わないと義理が立たないから作り方を教わる感じで。
 この小屋に使ってる木なんか、船の構造材にしたら最強だろうな。強いし軽いし。どれくらい回してもらえるかはアイリーナ頼りなんで締まらないけど。
 うん。いいぞ、なんか実現しそうな気がしてきた。何年後になるかは別として。
「……アンディ、なんか気持ち悪い笑い方してる……」
「き、気持ち悪いとはなんだよ。やましいことは考えてないぞ」
「本当? ……これからみんなと一緒にエロエロ旅行なのに?」
「……い、いや、それが嬉しいのは勿論だけど今考えてたのはそれの話じゃない」
 アンゼロスのジト目にどう言い訳したものか。
 俺の場合、エロいことを考えて気持ち悪い顔をするのがむしろ正解な場合もあるのがややこしい。

 今回の旅行は「空飛ぶヤリ部屋」の運用試験。
 つまり、軍務では全然ないし、強い娘ばっかり連れていく必然性もない。
 しかし「行きたい人集まれー」なんて無邪気に声を掛けたら下手するとブレイクコア以外全員来てしまう。さすがに5メートル四方の小屋ひとつに40人近くも乗せるのは無理がある。
 なので、独断で随行者を勝手に決めることにする。
 まず俺とナリスは確定。ナリスの提案なんだから彼女なくしては始まらない。
 それと飛行要員としてライラ。
 マイアやエマ、リェーダでも構わないといえば構わないが、まずはパワーのある成竜に飛ばせて具合を見るのが筋だろう。全体重量は余計なものを排している分馬車よりむしろ軽いはずだが、余力がある方が不測の事態に強いだろうし。
 そしてアンゼロス。ライラの「ドラゴンナイト」だから、という洒落っ気もあるけれど、やはり温泉迷宮ということで、軽装で頼りになる戦闘力を取った。いや、ほとんど魔物は出ないらしいけど俺超弱いし。
 そして同じ理由でディアーネさん。アンゼロスは俺個人の護衛として、10人単位の全体の統率としてはやっぱりディアーネさんに勝るものはない。
 それとシャロン。彼女も素手でも強い。あと露出狂気味なので、迷宮で温泉という、ある意味露出なしに済むわけがないシチュエーションには最適かな、と思った。
 彼女らを護衛として。
 アイリーナ。小屋そのものの提供者だから最初に乗せてやるのがカドが立たないかな、と思う。
 マローネ。最近もどうやら将来に迷っているようなので、外に連れ出してやりたい、という考え。
 ガラティア。ひとりだけラパール出身なのでちょっと孤立気味。こういうイベントには真っ先に連れ出してあげたい。
 ローリエ。寺院のこども教室も夏休みになって暇そうだったので。
 ミラさん。せっかく混成だし三姉妹のうち誰か一人入れようかな、と思ってたらたまたま最初に会った。
 というわけで、合計11人。
 残りの雌奴隷たちはまた別の旅に連れて行くと約束して、とりあえず今回はこの面子で。

「温泉迷宮はですねー、元々は多分ああいう形の施設じゃなかったと思うんですけど、街ひとつ……いや、二つ分くらいかな? って大きさの露天迷宮が下から湧いてきた温泉で半分かた水没してるんです。そのせいかどうなのか知らないですけど迷宮の『気』の精製能力はほとんどないらしくて、だから迷宮なのに魔物がほとんどいないんですよね。いや、そのせいで他に魔物発生地域が出来てるだろうことを考えると笑い事じゃないんですけど……ってうわっ、人が話してる最中に!」
「小屋」の中に全員が乗り込み、ナリスがどっかりとベッドに腰かけて温泉迷宮の話を始めた直後、乗った要員はみんなアンゼロスとシャロンに先導される形で服を脱いでしまう。
「風呂はまだまだ先ですよ!?」
「往生際が悪いわよナリス。立派なベッドと長い時間があって、ここは誰も見ていない。雌奴隷ばかりなのだから、もうすることは決まっているでしょう?」
「そりゃそうですが! ……ええいもう!」
 ナリスもヤケクソ気味に脱ぎ始めた。
 ……脱いでから白首輪を律儀につけて、ふんす、と鼻息一つ。
「目的地の話くらい落ち着いて聞いてからおっ始める程度の自制はないんですか全く!」
「いや、別にお前は話し終わってから脱いでも良かったんだけど」
「今さら言うな!」
 とりあえず、という感じでローリエの小さな裸体を捕まえながら言う俺に、ナリスは怒った。

(続く)

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