「急にドンと増えた首輪装着ガールズ」という目先の異変からのほとぼり冷ましだったとはいえ、「空飛ぶヤリ部屋」は順調に出来上がり、せっかくだから旅行したいという欲が芽生えている。
 だとして、問題になるのは行き先。
 真っ先に思い浮かぶのは、元勇者ブライアンや神官長……いや、今は国王代理を務めるデューク氏の待つカールウィン。
 しかし、こんな能天気な代物作ってカールウィンにいきなり乗りつけるのもどうかな……と思う。
 いや、対外的には馬車も小屋もドラゴンがぶら下げてくるものとしては全く同じで意味不明だし、小屋になったからいかんというのも完全に俺の主観でしかないんだけど……まあ、なんのためにこういう快適さを求めたのって言われると、ねぇ。言われないだろうけど。
 カールウィンに乗っていくのは、もうちょっとこう……他のところに乗り回して、自分の中で「乗り物」として馴染ませてからにしたい。
 じゃあどこに行くのか、というと……行き先としては王都やセレスタなんかになるんだろうけど。
 せっかく任務というか、兵士という仕事も終わり、あとは退役の手続きをするだけという状態になって、それなのに今まで「必要があって回った」場所に再訪するのはちょっと芸がないなー、と思ってしまうのは贅沢過ぎるでしょうか。
 せっかくの自由、せっかくの新しい乗り物だ。どうせなら……と欲も出る。
 そういうわけで。

 昼営業の酒場。
「私らにお鉢を回すとはお目が高い」
 と、胸を張って得意げな顔をしたのはナリス。
 そして成り行き的にテテスとシャロン、アルメイダもいた。
「旅。大陸を回りに回った旅のプロフェッショナルの我々こそが確かに旅行の案内人としてふさわしいと言えましょう」
「我々とは……そもそも私はアフィルムとレンファンガス以外はほとんど知らないんだが」
「多分、ナリスは私のことを言っているのよ。……兄上やベルガと回ったのは南部大平原のごく一部で、大陸中というにはささやかだったのだけどね」
「た、確かに一人一人はそんなに広く歩いてないかもしれませんけどみんな合わせればあらかたカバーですし!」
「ほぼナリスちゃんだよねー。でもナリスちゃんが案内するとなると、自動的にあのキングサイズベッドしかないエロ小屋で乱交しながら空飛んでいくことになるけどね♪」
「…………普通の馬車でも最近はだいたい移動中乱交だからそこは諦める」
 なんともいえない表情で悟りを示すナリス。
 あんまり諦めがいいとそれはそれで物足りない、とか言っちゃうと蹴られるから黙っておこう。
「それで、それぞれのオススメの場所は?」
「迷っちゃいますねえ。色々と行ってみたい場所も、みんなに教えてあげたい場所もあるんですけどぬひひひ」
 ナリスは絞れないようなのでとりあえず置いといて、先に(年齢的に)行動範囲の狭そうなテテスから行こうか。
「私としては何はともあれ東方山地かなー。レンファンガスの隣にリアン皇国って国があるんですけど、小国が多い東方山地にしては広くて、文化も独特で、何より近いです。高低差がとんでもないことになってるんで交易は細いんですけど」
「ドラゴンで行くなら関係ないってわけか」
「はい。一応ウチとも友好国なんで話も通しやすいですしね」
 東方山地か。
 独特の文化と自然環境で冒険家たちを魅了してやまない、ただし険しい山峡は生半可な迷宮より危ないっていうんで敬遠されてもいる、神秘の地域。
 今までも何度か話には上がっていて、興味は尽きないところだ。
「温泉療養でも有名なんですよねー。嘘か真か、入るだけで天才になっちゃう温泉や背が伸びる温泉、死者と対話できる温泉なんてのもあるとか」
「……天才になる温泉なんて権力者が囲って庶民に入らせたりしなさそうだけどな」
「言われてみればそうですよね……」
 まあ本気にするほどの効果はないってことなんだろうけど。
 でも温泉に入ることでどうなる、という発想は、ただの治療以外にもいろいろあるんだな。
「一応、癒しの霊泉みたいなのも話としてはありますけど……ポルカではあんまり、ですよねぇ?」
「まぁな」
 ポルカに実際にあるのだから、他には絶対にありえない、というものでもないかもしれないけど、とりあえず飛んでいきたくなるほど魅力的ではないな。
「アルメイダはなんか面白いところはあるか?」
「アフィルムは……そうだな。帝都が一番だろう。……というか、レンヌと帝都以外はよく知らない」
「そういや公国同士で縄張り意識が強いんだっけ……」
 レンヌはエルフが治める森の公国。アルメイダの故郷だ。
 立場は本家扱いの森の九氏族より低いというから、アイリーナあたりを連れていけば下にも置かぬ扱いってのを体験できるだろうけど……でもなあ。
「レンヌ本国に他の種族が行くのは勧められん。よそ者に対して優しい国では決してないし、何より……」
 アルメイダは口ごもり、目を逸らし。
「……トレント病で『木』にしてしまったハーフエルフたちを材木として作った城や町など、おぞましい。二度と戻る気にはなれん」
「ああ……うん」
 アルメイダはそれがショックで故郷を飛び出したんだっけ。
 ……まあ、俺も想像してちょっと引くけどさ。
 いくら見た目は「木」になっているとはいえ、元は人間の形だったモノだ。
 もしかしたらその木材を、ポルカの霊泉に浸したら……鉢植え状態から人型に戻ったというセレンのように、人間のパーツになるかもしれない。
 そう考えると、まんま人肉で城を建てるようなものだ。気持ち悪いなんて表現じゃ生ぬるい。
 アルメイダが居ても立ってもいられず飛び出した気持ちもわかるというものだ。
「シャロンは?」
「私は……ご案内できるほどに長居した場所は少ないのですが。兄やベルガは過保護でしたから、なかなか一人で自由に景勝を巡るというわけにもいきませんでしたし。だから、アーカスの森くらいでしょうか」
「アーカスは……こっちよりは開放的なんだっけ?」
「古代結界の守りと比べれば、確かに人力で守っている森は開放的といえますけど……栄光の氏族が格別に他の種族に気さくというわけではないですよ。普通です」
「アーカスの人たちが普通かって言うと……うーん」
「うーん……」
 ナリスの苦笑とテテスの溜め息。
 そしてシャロンが口を尖らせる。
「何だと言うんです」
「や、まあ、ここではスマイソン十人長やアイリーナさんのおかげで随分エルフも柔らかいという事情もあるんですけど」
「正直、雌奴隷堕ちする前のシャロン騎士長って感じ悪かったですよねー」
「っっ……そ、それはっ」
 顔を赤くするシャロン。
 そういえば、確かに何かというと引っかかる物言いをしてきて、自己顕示欲も強かった。
「わ、私を基準にすべきではありません……っ。こ、これでも場合によっては姫と呼ばれた者です。栄光の平均よりも……き、気位が高かったのは認めます」
「や、栄光の人に会ったのは騎士長だけじゃないですから。基本的に栄光の氏族って自分とこが栄えてるせいで南の他のエルフ見下しがちで感じ悪いですよ実際」
「私も騎士長以外に何人か見たことあるなー。なんていうか人間に対して完全に上から目線なんですよねー」
「……そ、そういう者も、中にはいるだけです……っ」
 身内の恥で小さくなるシャロン。
 俺はむしろ、あのトラブルメーカーのシャロンがたったの一年弱でよくこんなに大人になったなー、とそちらが感慨深いけど。
 大人になった……というのは正確には違うかもしれない。雌奴隷という立場を満喫した結果、むしろプライドを捨てて奉仕する方が楽しくなってしまったせいだろう。
 それで人を立てることを覚えて、結果的に落ち着いたというのは面白いものだけど。
「で、ナリスは結局思い浮かんだ?」
 最後にナリスに水を向けると、ナリスは腕組みをして少し悩んだ振りをしてから。
「まあ、ティンバレスに行きたいのも山々なんですけど……」
 セレスタ西部の港町ティンバレス。
 そういえば、前のラビネス騒動の時、寄るはずだったのにヒルダさんの目の怪我を治すために飛ばしちゃったんだったな。
 そういうとこに行くのもアリっちゃアリか。
「でも、ここぞオススメというのはやっぱり……あそこですね!」
 溜めるナリス。
 乗ってやる俺。
「あそこって?」
「……もちろん、セントガルドの温泉迷宮ですよ」

(続く)

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