人目を忍んで引き篭もり、大工の真似をさらに続けて数日。
ようやく思っていた内装がなんとか形になった。
……というわけで、その出来栄えを近しい相手に見てもらう。
「どうだ。素人仕事にしちゃなかなかのもんだろ」
呼んだのはセレン、アップル、ジャンヌ、それにアンゼロスとオーロラ。
古参面子でしかも年長組は呼んでいないというあたり、素人仕事とはいえ最初くらいは褒めて欲しい微妙な男心をわかって欲しい。
「これって外の小屋が北の森の家師の仕事で、内側がアンディさんってことでいいんですよね?」
「ああ」
しげしげと見て回るセレン。ちょっとだけ人選間違ったかな、というのは彼女。大工仕事も手慣れてそうだよね。
しかしエレニア産んでから母性的な姿ばかり見ていたので、なんか気持ち的に外見年齢がグンと上がって見えていたが、やっぱり子供からちょっと離れると「美女」というより「美少女」って感じの見た目なんだよなあ。
そう思えるのは、動きに「軽さ」があるせいかもしれない。快活さというか、華やかさというか。
ディアーネさんやライラはその気になればすさまじい敏捷性を見せるし、大の男を抱えても家の屋根に軽々飛び乗るほどのジャンプ力もあるが、普段はもちろんその素早さをひけらかさず、むしろゆったりと見える動きをしている。だが、その動きには無駄がなさ過ぎて、やっぱり少女らしさには程遠い。
セレンの動きにはいちいちほんの少しの「無駄」がある。小さな段差を上がる時も降りる時も軽く跳び、振り返る時も少しだけ動きが大きく、ちょっと回り過ぎてから角度を戻す感じ。
これはセレンに体捌きの心得が足りない……ということではないんだろう。いざという時の隠密力はディアーネさんのお墨付きだ。
そういう日常的な動きもまた、彼女にとっての自己表現なんだろうな。「媚び」とか「若作り」なんて言っちゃうといやらしい言い方になるが、エルフの血を持つ彼女にそういう指摘は無粋でもある。
どういう自分でいたいのか。少女の身軽さか、大人の落ち着きか。
外見がまだ年頃の娘と言って通る姿なのだから、無理に老け込むことはない。
そう考えれば自分の背筋も伸ばさなきゃな、と思う。俺の体だって霊泉で不調らしい不調もなく、10代みたいな健康体になっているんだ。年寄りぶっていたら損だろう。もっと今の境遇をありがたく思わなきゃな。
……なんて、あまり関係のない感慨にふけっていると、室内に入ったジャンヌの声で我に返る。
「この腰かけ、畳めるようになってるだな。本当にアンディが作っただか」
「ああ。それはちょっと凝ってみたポイントだ。頼りなく見えるけど結構頑丈なんだぞ」
壁に座面を上げられる長いベンチ。刻紋加工で耐荷重は強めになっている。
作ってから何度かぴょんぴょんと飛び乗ったが軋む気配もない。エルフ領の木材の品質もいいが、試行錯誤した刻紋の効果も高いはずだ。
「こっち半面がベッドで……天気が荒れてる時には傾いたり振り回されても耐えられるように、ちょっとした手すりも生やしてある」
「邪魔じゃない?」
「これが邪魔になるとなったら相当フリーダムな寝相になるだろうな……」
半面を占めるベッドエリアには、寝ながらでも体を固定できるよう、腰横あたりの位置に1メートル間隔で逆U字型の手すりをつけた。
折れてしまっても困るので、鉄棒で芯を作って木で挟む形にした。みんなで裸になるベッドだから、鉄でひんやりすると嫌だよね、ってことで。
ベッドに関しては普通にスプリング構造。男爵の館のベッドをこっそり参考にして、コピーする形で作った。やってみればできるもんだ。
鉄関係の部品は一度ブレイクコアたちの迷宮村に行って一気に作らせてもらっている。ジャッキーさんちは敬遠。
そのベッドの寝心地をアンゼロスやオーロラが試しているが、なかなか悪くないようだ。
「毎日寝るならもうちょっとフカフカな方がいいけど、エッチのためのベッドならこれくらいの硬さがいいかも」
「汚れへの対策も気になりますわね。まあ、いざとなれば魔法という手もありますけれど」
「それに関しても万全だ。実はそのシーツは桜の氏族の秘伝の優れものらしくてな」
クリスティに一度相談したら、汚れや匂いに強い織物がある、といって反物をドサッと寄越してくれた。
桜のエルフは一角馬の世話などで服が酷い目にあうことは珍しくなく、そういう役目の者向けに開発されたものなんだそうで。
加工の関係で色は薄いグレーにしかできず、華やかでないので氏族の者にはあまり人気はないのですが……と苦笑していたが、たとえ馬糞漬けになっても軽く水で洗うだけで色も匂いも全く残らないというのだからすごい性能だ。それでいて肌触りはシルクにだって劣らない。
……これを森の外の商人に売ったらすごい外貨になるんじゃ、と言いかけたけど保留。
せっかく適した材料なのに、すごい外貨を要求されても困る。うん。
そういうわけで反物をシーツとして縫い合わせてもらい、だいぶヤンチャなセックスをしてもお手入れ簡単のベッド完成。
ついでに床面からあまり離さない形に作ったので、傾いた拍子に落っこちて痛い、という事態も避けられるはずだ。
もちろん、予定通りに部屋の内径に合わせたフレームを組んで、長椅子もベッドも手すりも全部床面壁面にしっかり固定してある。逆さまにされたらさすがに強度的に心配だが、真横になる程度だったらベッドが滑って挟まれる……なんてことにはならないはずだ。
「それで……アンディさん。これでタルクとか、バッソンとかに行くんですよね」
アップルが室内を見回して。
「荷物置き場はどうするんですか?」
「……あ」
……そういえばそうだ。
人間はまあベッドに寝たり座ったりすればいいけど、手荷物なしで旅行ってのはあんまりしないよな。
でも、馬車なら適当に椅子の下や座席の間に押し込めておけば固定できたけど、こう広いとそうもいかない。左右に軽く傾いただけで荷物がズザザザーッとなったら結構気になるだろう。
かといって荷物置き場を今から設置するとなると……。
「屋根裏でいいんじゃないですか?」
セレンが指差す。
一応この小屋には屋根裏スペースがある構造になっている。
でも、そこを開ける手段がない。
「そこなー。どうしても入れなかったんだよなー」
「欠陥じゃないですか」
「鉄の刃でも切れないくらいのめちゃくちゃ特別な木らしいから、ネズミも雨漏りもないって思ってるのかもしれない」
そう聞いて、ジャンヌはゴツゴツと外の壁を叩く。
「なんていう木だ?」
「一応教えてくれたけど覚えきれなかった。エルフ語のめっちゃくちゃ長い名前の木らしい」
適した訳語がないが、無理矢理訳すと「清冽の光の英雄の右の墓の姉の勇敢なる思い出の座する香木もどきもどき」とかそういう名前らしいのだが、いくらなんでも略した名前くらいつけろよ、とアイリーナに言ったら、実のところエルフの間では「例のあの硬い木」という言い方で通ってしまっているらしかった。
それはそれでパッと言われてもわからない。
「でも屋根裏スペースに入れないってのもおかしいですよね……あ、もしかして」
セレンが外に出て、ひょいっと屋根に上る。
簡単に言うが地面から床まで50センチ近くあるので、屋根の庇まで3メートルはある。俺は軽く上るのは無理だ。
そして何かごそごそ。
「ありましたよー、入り口♪」
「マジ?」
「はい♪ 入れますよー」
慌てて梯子をその場で作り、屋根に上ると、変なところにぽっかり四角く入り口がある。
「これどうやって開けたんだ? 雨漏りしない?」
「ちゃんと閉めれば雨は入らない構造になってるみたいです。でも狭いですねー」
ここを手荷物入れにすると、出し入れのために屋根にいちいち上がるのがちょっと面倒だ。
でも腰を屈めないと出入りできない大きさのスペースは、確かに物置にはいいんだよな。
「この木材、音をほとんど吸収しちゃうみたいですし、密航にもいいかもしれません♪」
「いや密航はするなよ。むしろ誰が何の理由で密航するんだよ」
「……えっちしてる私たちを見たいランツさんとか?」
「この小屋凄い精密だからそんな隙間ないよ! っていうかランツくらいだったら普通に下に乗せててもみんな目の前でエッチ見せつけられるよ!」
「……え、そ、そうなんですか?」
セレンにちょっとびっくりされた。……そういやセレンはレンファンガスの砦とかシタール制圧には関わってないから、そっちで起きたモラルハザードに関しては知らないのか。
「多分アンゼロスとかテテスとかシャロンは、ランツに見られるくらいは余裕。フェンネルたちはまだ無理かもしれない」
「……そ、そこまでみんな行ってるんですねぇ……私も頑張らないと駄目かな……?」
「いや頑張らなくてもいいんだ。うん」
そもそもランツを同伴するなら誰か他のドラゴン使って馬車に乗せる。
わざわざ見せつけて喜ぶわけじゃ…………あ、いや、目覚めかけてる子は結構いる気がするけど。いやそれは関係ない。本題と関係ない。
とにかくここを使った密航は、きっと何も面白くないし意味もない。よい子はやめようね。
「とりあえず、馬車で飛ぶよりは多分ええ感じだなや」
「僕もいいと思うよ。なんというか、その……いよいよアンディもエッチばかりしていられる身分になるんだなあ……って思うし……♪」
「今までが窮屈過ぎたのです」
「もう任務も終わりましたし、みんなどんどん妊娠するつもりですからね……♪」
改めてみんなに感想を聞けば、まあ、だいたいこんな感じになる。
俺の大工仕事が上手いとか下手とかは……まあ、専門家でもないからあまり言えないよね。
ちょっと寂しいけど。本当は結構やるじゃん程度に褒めて欲しかったけど。
でも、実際のところ飛んでみないとわからない部分もある。
あくまで馬車の代わりに快適に移動するのが目的の小屋だ。なら飛ばないといけないだろう。
「ライラ!」
呼んでみると、どうやら近くにいたらしく、数秒ほどでライラが空からストンと飛び降りてきた。
「ほ。なんじゃ」
「試験飛行だ。この小屋抱えて軽く一時間くらい、その辺をぐるっと飛んでみて欲しい」
「なるほど。……もっと集めなくてよいのかえ?」
「それは……」
確かにもっと乗せて試験してみた方がいいかもしれないけど、まずは使い勝手、乗り心地が知りたいだけだからなあ。
……と思って搭乗予定の雌奴隷たちを見ると、小屋の外で服をどんどん脱ぎ捨てて五人揃って裸になろうとしている。
「いや乗り心地を知りたいだけだからまずはエッチとか関係なく……っていうか何なんだよ、どうして何も言ってないのにみんな小屋の外で脱ぎ散らかすんだよ!?」
「『空飛ぶヤリ部屋』だで」
「まあそういう名前の小屋なら、雌奴隷としては服着ては上がれませんよねー♪」
「テテスさんやシャロンさんに自慢されて、いつお呼びがかかるか楽しみにしておりましたし……♪」
「雌奴隷を全裸のハメ穴状態のまま連れ歩くためのやつだって聞いてるし……」
「わ、私は……むしろ今日からずっと裸でここに住めって言われたら喜んで住みますっ」
待って。それ俺言ってない。コンセプトとしては確かにちょっとそれっぽいところあるっていうか、気兼ねなく空中エッチしながら移動するためのやつだけどそこまでは言ってない。
「ほほ。よう考えれば、他の女も詰め込んでおったら一時間では済まぬな♪」
「…………」
ある意味、テスト使用という意味では正しいのかもしれないけどさあ。
(続く)
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