とにもかくにも、早期にレディをシタールに戻さないといけない。
あの町のヤバさはセレスタでも有数だろう。権力者の不在があまり長く続いていいはずがない。
というわけで、そのまま送り出す……前に、レディの首輪の塗り直し。
白首輪の意味を外部の連中が知るわけはないけれど、ドラゴンの庇護を受けたという主張をするためにずっと着用していく方針だし、またレディ自身の「仮免許みたいな扱いは嫌」という意向のためにも、ちゃんとした色にしておく方が望ましい。
「……青?」
「う、うん。まだ子供が欲しいって感じじゃないし……」
レディにそう希望されたので青首輪にする。
少し突っ張ろうという気配を見せつつ、ハッと気づいてしおらしくする素振りが見え隠れするが、まあそれでも態度が女の子らしくなっているのは上出来だろう。これからシタールでまた突っ張らなくてはいけないが、俺の前ではあくまで女の子でいてもらわないと困る。
いつかは、あの大樽が歩いていたようなレディの姿なんて信じられない与太話になるんだろうな。
「シタールに帰ったら美容には気を遣うのよー? ポルカでは霊泉水が生活水だから普通に暮らしててもお肌が荒れることなんてないけれど、海の近くで荒くれ相手の生活なんて、ストレスと潮風で髪もお顔もガサガサになっちゃうんだから☆」
「一応は香水屋やってたんだし、少しは詳しいつもりだけど」
「でもあの肥満じゃ磨き甲斐がなかったでしょ? 土地や年齢、体質にあった美容アイテムはそれぞれ違うから、しっかり研究して自分で維持しないと、次にアンディ君に会ってもエッチしてもらえないわよ☆」
ヒルダさんに脅されるレディ。
……しかし、本当に「あの」レディの面影、全然ないよなあ。
年の頃は20代前半、それもちょっと童顔ってところか。弛みが取れれば目は大きく、アイシャドウなんかつけなくとも強い眼力がある。
黒髪はここでの短い生活の間に、ライラほど見事……とまでは言えないながらも、エルフ系として恥ずかしくない程度に輝きを取り戻している。
肌艶も瑞々しく、ダークエルフらしい挑発的なプロポーションと、まだ女の色気を魅せるのに慣れていない初々しい所作が同居する。
総じて、女扱いに慣れていない乱暴娘……みたいな印象だ。
……ベアトリスやガラティアとちょっと被るけど、経緯は逆という感じか。いや、自分を女と思ってなかったのが開花したっていうのは、ある意味似てるのか?
自分の中での益体もない分類行為に苦笑しながらも首輪を塗り直し、近くにいたコスモスさんにサッと乾燥する魔術をかけてもらう。
そして、その首輪を改めてレディにかけて、肩をポンポンと叩き。
「また仕事が一段落したらポルカに来て。いつでも……というのはダークエルフの寿命からすると詐欺になっちゃうか。まあ、待ってるから」
「そっちこそ、またしばらくしたらシタールに来てよ」
レディははにかむように微笑み。
「ここに負けないくらいエッチな町にしておくから……♪」
「いや、それはやめて」
前回行った時みたいに若い娘を接待に捧げられても困る。いや、ちょっとだけは興味なくもなかったけど……でもウチの雌奴隷たちの方がずっと魅力的だったし、やっぱり遠慮で。
猫コロニーみたいにぽこぽこ知らない我が子が増えても困るし。……タルク? あそこはちゃんと避妊魔法が行き届いてるはずだから。うん。
レディはライラに送っていってもらうことになり、すぐに馬車で離陸した。
それを見送ったら、俺は「小屋」の設計図引き……といきたかったが、実はそういう図面は作ったことがない。
鍛冶仕事だと見本に合わせて作ることはあっても、図面はあんまり使わないのだ。……そもそも字なんて読めないって鍛冶屋もたまにいるし。
さすがに俺はそこまで低教養ではないけれど、描きたい概念さえしっかり通っていればいい刻紋図とも違う。材料の立体的な組み方切り方をどうやって計算し、反映すればいいんだろう。
「うーん……」
男爵邸のアイリーナの仕事部屋で、羊皮紙を広げつつも唸ってしまう。
「何がそんなに難しいのじゃ。まず形を決めて縦横の寸法を決めて、それに合わせた足し算引き算するだけじゃろう」
「簡単に言うけどさあ」
「あんな筋肉ばかりのオーガたちもやっておることじゃ。そなたができんわけもあるまい」
「あいつらちゃんと図面作ってたのか……」
「……そなた職人というものを侮り過ぎではないか?」
「鍛冶屋が体で覚えろの世界過ぎたんだよう」
俺がハンチクで修業終わっちゃったせいもあるんだけどさ。
……まあそうだよね。大工はそんな調子じゃやれないよね。家や家具で材料の寸法狂ったら組み上がらないし。
と、そこに現れたのは……ガラティア。
「あ、いたいた。何してんの?」
「大工仕事の設計図……」
「へえ。そんなのもやるんだ。……って、全然出来てないじゃん」
「どうやればいいのかわからなくて……」
「あたし手伝おうか?」
「……え?」
思わずまじまじとガラティアを見る。
……設計図とか書ける感じには……見えない、よなあ。乱暴海賊娘だし。
「なにその目」
「……こういうの書けるの?」
「あのねえ。赤クジラでは何でも自分たちでやるしかなかったんだからね。海のそばだから木が傷みやすかったし、部屋に合う家具作るためにいちいちカタギの大工引っ張ってくるわけにもいかないし」
「……でも船長の娘がやるものなのか、そういう仕事」
「ウチの連中アホばっかで、椅子もテーブルもベッドもすぐブッ壊しちゃうんだもん。修理も下っ端にやらせはするけど、下っ端なんてアホの中でもさらにアホだからへったくそだし……結局自分で作ったり直したりできないと駄目だったんだよ」
……海賊も海賊で苦労してるんだなあ。まあ、確かに物作りなんて向いてなさそうな連中ではあったけどさ。
酒! 女! 暴力! って感じだったもんな。
「船もお前が直してたの?」
「それは専門のジジイがいたけど、船以外は箱一個すら作らない偏屈ジジイでね……全く、使えない奴ばっか」
「ははは」
船大工という仕事にプライドがあったのか、ただ自分の管轄外の仕事はきっぱり断るタイプだったのか。
とにかく。
「じゃあ、手伝ってくれ。こういうの作りたいんだよ。こう、入れ子みたいなさ」
「何これ。二重箱?」
「エルフ領の特別な木でできた小屋で、頑丈なのはいいんだけど穴空けるのも無理そうでさ……」
…………。
ガラティアと俺、そして時々アイリーナが口を挟んできながら、なんだかんだと書いたり削ったりしながら図面を作った。
結局、書き上がってみればそれほど複雑なものではなかったのだけど、必要な情報は多分揃っている。
「いい感じじゃない。これ、今から作るの?」
「ああ。サンキュな」
「せっかくだから手伝わせてよ。どうせこっちで他にやることないし」
「……いいのか?」
「変なとこ遠慮深いよねアンタ……」
ガラティアは苦笑しながらも元気よく立ち上がる。
「だってこれ、要するにエッチしながら飛ぶためのものじゃん」
「……ま、まあな」
「あの狭い馬車じゃエッチも不自由だったし……これが完成したらどこへでもセックスしながら行けるんでしょ♪」
「……そんなにハメまくられたい?」
「当たり前じゃん。そのためにこんなとんでもない田舎まで来たんだし♪」
ラパールから見ればポルカもとんでもない田舎か。
いや、まあラパールもある意味では田舎だとは思うんだけど……。
「首輪授与式ではドラゴンとかエルフとか、とんでもない奴らがみんなライバルだって見せつけられちゃったけど……それでもむしろ『そういう連中に並ぶほど気に入られてると思え』って、あの子持ちのハーフエルフも言ってたし」
まだ立ち上がっていない俺に覆いかぶさるように、ガラティアが顔を近づけて、囁いてくる。
「なおさら、アンタがものすごい奴なのが実感出来ちゃったっていうか……端っこに座って安心してる場合じゃないな、ってね♪」
浮世離れした超美人ばっかりの、40人規模のエロセレモニー。
そのインパクトは、一応納得の上での参入だったとはいえ、まだまだ感覚的には普通よりだった小娘も「遠慮なくエロに飛び込んでいかなきゃ」と思わせるほどのものがあったらしい。
「せっかく本気でエッチな奴に全部預けちゃったんだし、この状況は楽しまないと……でしょ♪」
「……まあ、後戻りはさせないけどな」
「うん。……早く完成させて、どこにでも連れていってよ、裸のまま♪」
ちゅ、とキスをして。おもむろにお尻を掴み、抱き寄せて。
……そこで咳払いする白の氏族長様。
「……わらわも、図面づくりは手伝ったのじゃが」
「はいはい。……せっかくだから二人とも『小屋』でやろうぜ。まだなんにもない状態だけど、今からいろいろ作り込んだら、きっと逆に貴重な体験になるし」
「♪」
「♪」
ガラティアとアイリーナは、揃って期待した顔で目を細める。
たっぷりと気持ちを高ぶらせた二人が、俺に手を引かれてスマイソン家裏の「小屋」に辿り着く。
靴のまま「小屋」に入って手を広げ、二人を振り返ると、何故かガラティアとアイリーナは小屋の扉の外に服を投げ捨て、裸になってから小屋に裸足で上がってくる。
「……何してんの。外に服捨てたら何してるかバレるじゃん」
「いいじゃん別に。自分ちでエッチしてるのバレたって怒られる筋合いないでしょ、アンタも♪」
「そうじゃ。それに、このセックスのためだけの空間において、わらわたち雌奴隷はそれなりの恰好をすべきじゃろ♪」
褪めてきたとはいいながら、まだまだ日焼けの色を残すガラティアの健康的な裸と、元々の白さにインドア生活と霊泉の美容効果もあいまって、まるで絹で作った人形のような繊細な肌を一切隠さず晒すアイリーナ。
二人ともだいぶ期待していたようだ。隠しきれない欲情が、固く充血した乳首と、股に伝う雫、そしてその匂いで鮮烈にアピールしてくる。
人数もだいぶ増えたから、チャンスにはどんどん押していかなきゃ、という思いもあるんだろうな。
そして俺も。
「全く。感心な奴隷っぷりだ」
ニヤニヤが止まらない。二人の股間にゲスく伸びる手、そして生意気乳首へのキスで応える。
夏の昼間の爽やかな日差しが、透明な窓から射し込む。
木の性能か、魔術の力か、外の音なんて何も聞こえない。
そんな静謐な空間で楽しむ、それぞれ別な意味で若い少女たちの肌と蜜。
「ようこそ、この小屋の最初の餌食たち」
カッコつけて囁いても、期待汁を垂れ流す雌奴隷たちは静かに笑みを返すだけだ。
(続く)
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