翌日。
 猫たちはまあ、喜んでしまうだろうというのは最初から分かっていたので、今日は微妙なラインの人たちに話を持っていく。
 いや、持っていくというより確認しに行くのか。どうも先に話は回ってるみたいだしな。

 まず、ノールさん。
「雌奴隷っていうけど、それってつまりここに住めってことなの?」
「あー……いや、住むに住めない子もいるから一概にそうとは言わないんだけど」
「イエスとノーで答えなさい。どっち?」
「の、ノーです」
「そう。じゃあいいわ。ちょうだい」
 ノールさんはあっさりと承諾した。
「……い、いや、実物は当日渡しなんだけど。……いいのノールさん?」
「奴隷なんて言っても実態は違う、ってここでさんざん聞いたし。要は君のオンナだって認めるかどうかなんでしょ?」
「……うん、まあ」
「私が他の男と寝るのイヤなんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ結局は同じよね。オトコありの目印を指に嵌めるか首に嵌めるかってだけの差よ」
 世間体的にだいぶ違うと思うんだけど、平然としているウチの雌奴隷たちにだいぶ毒されてないだろうか。
「ここでしか踊れない……っていうのはちょっと退屈過ぎて耐えられそうにないのよねー。ほら、芸って人集めてナンボじゃない? 田舎が嫌ってわけじゃないけど、いくら踊っても顔ぶれが同じ、反応も同じ……っていうんじゃ張り合いがないのよ」
「はあ……」
「ここも森のエルフのおかげで発展しそうだけど、街が大きくなるまでのんびりするのはちょっと芸を保つには長すぎるし。それに白エルフってダークエルフの芸には素直に反応できないじゃない。さすがにそういうヒトたちが認めてくれるまで……なんて根気は私の担当じゃないわね」
 まあ、要するにノールさんとしては「俺に独占されること」は異論がないが、ダンサーとしての本能的なものでじっとはしていられないらしい。
 俺は違うので芸を売る人たちの感覚は想像するしかないが、まあそういうもんなのかもなあと思う。
 一度目には感動するほど凄い芸でも、何度も見れば確実に反応は鈍くなる。そして見せている側としても、そういう相手に披露するのは、いずれ飽きてしまうだろう。
 実用品を作る鍛冶屋なんかの世界では「人が飽きたからって何だ、いい物は何度手にしたっていい物だ」と突っ張ればいいけれど、芸は結局人を唸らせられるかが全て。ノールさんの欲求は決して馬鹿にできるものではないはずだ。
「ノールさんに渡す予定の白首輪は……えーと、なんというか、一種の仮免許的な奴で、他の雌奴隷と違って新参の……あんまり深入りしてない子用の奴なんですけど」
「……? それ、他と違うの? っていうかどういうメリットとかデメリットがあるの?」
「……あんまり真面目に突っ込まれると困るんだけど、他の首輪より気軽に外していいよっていう……」
「外していい、って……つまり、他の男と寝てもいい、みたいな?」
「……ええと」
 別にそういうつもりじゃないんだけど、探るようなノールさんの視線に困ってしまう。
 よく考えたらちょっとチキンっぽいよなぁ。
 女性側は雌奴隷なんてお題目を飲もうっていうのに、外していいか自分で判断してね、というのは。
 うーん。でも、ノールさんを雌奴隷に入れるつもりは本来俺にはなかったわけだし……そこに過大な男らしさを求められても、という部分もある。
 どうしたものか、と頭を抱え始めてしまった俺に、ノールさんは苦笑して。
「それ以外の首輪は? 白が初心者用ってことは、他の色の首輪もあるんでしょ?」
「え? えーと……孕ませ希望の黄色と、孕ませ以外もなんでもOKの青首輪を予定してるんだけど」
「そ。じゃあね……」
 ノールさんは耳元に唇を寄せる。
「……私は黄色。塗り直しておいて」
「えっ」
「ふふ。孕ませられるもんなら孕ませてみなさい、って、前に言ったわよね……?」
 ノールさんはウィスパーボイスで、とんでもなくいやらしい一歩を踏み込んでくる。
 俺は喉を鳴らした。
「……俺みたいなドスケベにそういうこと言っちゃう?」
「ドスケベ弟の本気セックス、嫌いじゃないわ……♪」
 ……なんというか、さすがヒルダさんの妹、だよなあ。


 で、ミラさんたち三姉妹にも接触。
「雌奴隷ね。楽しい毎日になりそうじゃない♪」
「冬さむいっていうのがツラそうだけど、私この町気に入ったよ。コスモスさんとこで雇ってくれるって言ってたし」
「え、シーマのくせに私らより早く仕事見つけてるっ!?」
「ふふーん。貧乳ルキノとは人としてのデキが違うのだ」
「乳は関係ないでしょーが!?」
 ……実に軽いノリで、三人とも雌奴隷としてポルカに住む気満々だった。
「……いいのかなあ」
「あ、カルロス兄上にはなんとかいい感じに言っといてね。困ったらナンシー義姉上に言いつければ多分丸く収まるから」
「まあ、ほっといても大丈夫じゃない? どうせ父上の仕込みの商隊がエルフ貿易目当てにここらにも来るんでしょ?」
「私らがオニキスの女だからって、こーんな美少女に手も出せなかったタルクの男どもが情けなかったってことで」
「……うわー、ルキノ自分で言っちゃう? 美少女って言っちゃう? 100歳で?」
「ふ、ふつーに100歳なんてガキ扱いされるでしょ!?」
 セレンにも言われたけど、やっぱり本当にこの人たち大丈夫かなあ、と思ってしまう。100歳とわかっていても。
「で、雌奴隷になったら今以上にヤリまくっちゃうのよね?」
「ふふふ。自分で言うのもなんだけど私めちゃくちゃスケベボディだかんね。アンディ君が手放したくないのもわからなくもないね」
「……シーマ、それあのシャロンって女とか、ドラゴンたちの前で言える?」
「……勝ってはないかもしれないけど負けてはいないはず!」
 シーマさんはとにかくカラダに自信あるようで、雌奴隷にされるのも「自分の魅力を認められたため」とポジティブだ。
 そしてルキノさんも貧乳貧乳とイジられてはいるが、白エルフ基準で言えば充分にわがままボディ。そのおっぱいを拝んで「がっかり」と言える男なんて特殊性癖だろう。
「んで、ミラさんたちには白首輪を……」
「白って雌奴隷見習いみたいな意味なんでしょ? 聞いたわよ」
「ガチでいいのに」
「ねー」
 ……誰かが首輪の色の意味を先にネタバレしたらしい。
 いいんだけど、これ俺と雌奴隷たちの間だけで通じる秘密の暗号のつもりなんだから外部に漏らされると意味ないぞ? 街のみんなにはあくまで「オシャレ目的で首輪の色をつけ始めた」くらいに納得してもらわないといけないんだぞ。大丈夫なんだろうな?
「……孕ませ希望の黄色と、あらゆるエロどんとこいの青首輪ってのもありますが」
「あら。それは迷うわね」
「あ、私青がいいなー」
「うーん……確かに子供仕込まれるのはもうちょっと先でも……っていうか青いのつけてると普通のエッチはナシになるとか、避妊しなきゃいけなかったりする?」
「や、特にそんなことはないです」
「じゃあ青かなあ」
 シーマさんとルキノさん、青希望。
 ミラさんはちょっと迷って、結局青。
 ……さすがヒルダさんの妹たちだ。って、全部それで納得していいのか俺。

 コスモスさんとグロリアさんを探したところ、例のコスモスさんの軽食テラス予定地で、グロリアさんが木壁の色塗りを手伝っていた。
「グロリアさんってこういう仕事するんだ」
「えっちな絵ばっかりだと思ってた?」
「前に専門って言ってたじゃないですか」
「急に高尚なのを求められても面倒だからああ言っただけよ。塗料の変性魔術は得意だし、ここじゃオンナを売ろうにものどか過ぎてやりづらいからね。お仕事、お仕事」
 結構な肉体労働だと思うが、楽しそうにやっている。
 故郷だからということで、ここにいる間はあまり賃仕事のことを考えなくなっている俺や、特務隊としての仕事が変則的なおかげで温泉客として満喫しがちな仲間たちと違い、新しくここに来た彼女らは日銭を得る方法についてもしっかり検討せざるを得ないのか。
 グロリアさんなんか、ハーモニウムにあった家も引き払っちゃったからな。何も考えず……というわけには、そろそろいかないのだろう。
「で、ちょっと確認なんですけど。グロリアさん、今度のセレモニーどうします?」
「セレモニー……首輪の? もちろん行くつもりってセレンさんに答えたはずだけど」
「あー……その」
 この人雌奴隷になるのかな。今のところは普通に絵描きとしての興味だけで、深入りするつもりはない、ってのが妥当なんだろうな。
 こっちからもあまり無闇に押していくことではないだろう。まだ雌奴隷云々の話を本決まりにするには、彼女との交流は浅い。焦ることはないか。普通に白首輪をお渡しする方向で。
 ……と、勝手に納得して終わろうとしたらコスモスさんが気配もなく横に立っていた。
「うわっ」
「こんにちはスマイソンさん。もちろん私も行きますしガッツリ雌奴隷になりますよ♪」
「……はい」
「なんか気が進まない感じです?」
「い、いや、単にコスモスさんが俺にそこまで入れ込む要素が思いつかないなーっていう感覚があって」
「?」
 コスモスさんは不思議そうな顔をした。
「むしろ入れ込まない理由がない気がしますけど」
「……え?」
「スマイソンさんの顔とおちんちんと人脈と能力と性格、ひとつひとつ魅力語れますよ?」
「え、えー……?」
 別に付き合いは深くないのにそんなに?
「今、付き合いは深くないのに……って思ったでしょう? 娼婦は基本的に射精しに来るだけの男を、その僅かな時間で値踏みする生き物ですよ」
 ……た、確かに。
 そういう意味では男の側とは、人の見極めのスピード感が違うのか。
 グロリアさんにチラッと視線を送れば、苦笑気味に頷いている。
「男にとっては何もわかるわけがない一夜の相手でしかなくても、私たちは一晩でずっと深く理解しますし、自分の見る目が間違っていないと確信できるくらい長生きしてるんですよ♪」
「…………」
「それに私は、これでもタルクきっての高級娼婦と言われてますから。高級娼婦って、色々なところから情報いっぱい入ってくるんです。あなたが色々なことを成し遂げて、色々な人に信頼されて、これからも色々な人を救うだろうってわかりますし、だからそんな人とできるだけ仲良くなりたいし、出来れば雌としての本能を満たしたいとも思うんです」
「…………」
 改めて、この人は特別な人なんだな、と思う。
 俺の感覚では自然に思えないだけであって、そういう世界なりの打算も好感も存在するんだ。
 それを不気味だと切って捨てたら、きっと今後のためにはならないだろうな、とも思う。他にも身分の高い雌奴隷は既にいっぱいいるし、いつかはその感覚も実感として理解すべき時は来るんだろう、と。
 彼女の屈託ない、本当に屈託なく見える……400年以上の人生で身に付けたであろう笑顔を見ながら、思う。

「あ、もちろん首輪は青でお願いしますね♪ 娼婦捕まえておいて子作りオンリーなんてもったいない使い方させませんから♪」
「え、何それ。色増やしたの?」
「昨日新しく設定されたんだそうです♪ 黄色は妊娠奴隷、白はおためし奴隷、青はご奉仕愛玩奴隷♪」
 ご奉仕愛玩奴隷。
 なんだその字面。今初めて聞いたぞ。
 っていうか本当どこから情報漏れてるの。
「え、えーと、じゃああたしも青で。よろしくっ」
「いやグロリアさんは白のつもりで」
「青!」
 グロリアさん。煽られたらすぐ後先考えず受けて立っちゃうのやめた方がいいと思う。
 ……っていうか白い首輪そのまま受け取ってくれる子が出てこないぞ。どうしよう。

(続く)

前へ 次へ
目次へ