セレンに改めて確認しに行く。
 ちゃんと横の繋がりで話が伝わるかな? なんて言っている場合じゃない。放っておくと逆に余計な配慮が行き過ぎる。
「今回の首輪授与はエマとネイアとベアトリスとガラティア、それにリェーダとレイラとコルティだけだ。七人だ。でもセボリーに確認したらなんか10人くらい増えてるじゃないか」
 強い態度で臨む。
 しかしセレンは首を傾げて微笑み。
「んー、セボリーさんと話してて『次はあの子たちが仲間入りじゃない?』みたいなのも少し混ざった感じはありますけど……でも妥当な感じの子に声をかけてるはずなんですけど」
「だ、妥当って……だいたいな」
「例えばアゼルちゃんとリゼルちゃん。……本気でどんどんエッチしたいのに『雌奴隷だけ招待』に呼ばれない、って温泉で愚痴られちゃいましたよ?」
「う」
 ……確かに、最近「雌奴隷だけの特権」的なイベントはちらほらある。
 元々雌奴隷たちの姿は数の暴力で異常性を押し流し、「こういう文化もあるのかもしれない」と変な納得をさせてしまうところがある。
 落ち着いて考えれば「そんなものに混ざる判断なんてありえない」という人までも、あまり勢いで巻き込んではいけない……という配慮のつもりの線引きだったはずなんたけど……。
 気づけばアゼルやリゼルはそういうのとは別方向の例外になっていた、という部分はある。
「孕ませ専用出張者」なんて立場は雌奴隷以上にエロい。しかし、俺が安易に「雌奴隷」にすれば、彼女らは今後も猫コロニーに戻らず、あちらの繁栄に寄与できないことになりかねない。それは送ってきたドナ婆さんや俺の本意ではないのだ。
 だが、最近の雌奴隷との格差は、彼女らのそういった覚悟というか期待というか、そういったものからすれば甚だ不本意であったんだろうというのもわかる。
 彼女たちのスタンスで言えばどんなスケベで倒錯的な乱痴気祭りでも混ざれるに越したことはないのだ。参加の権利が欲しいのだ。
「……新しい首輪のタイプを制定する機会かもしれないな……」
「はい?」
 テテスへの種付けを頑張るために作ったはずの色付き首輪が、いつの間にかいろんな意味で暴走し始めている事態を収めるためにも。
 アゼルたちやレイラたちの首輪に、さらなる新しい意味を与えてやるべきなのかもしれない。
「いや、それはそれとして。さすがにディアーネさんちの姉妹を全部雌奴隷はちょっとどうかと思う」
 ノールさんとお料理三姉妹。
 彼女らはディアーネさんやヒルダさんの現在の境遇、そして俺との関係を面白がってはいるだろうが、安易に雌奴隷のうちに入れていいはずはない。
 むしろそれで納得するのか。セレンたち自身が。
「でもミラさんたちに個別に『雌奴隷になる気あります?』ってそれとなく聞きましたけど、皆さんまんざらでもなさそうでしたし。ノールさんにはまだ聞いてませんけど、特にアンディさんとの子作りに積極的みたいですし」
「ええー……」
「だいたい、フェンネルさんたちなんて温泉でいきなり裸で会って、その場でフワッと乱交した末に雌奴隷にしたじゃないですか。ミラさんたちがその気なら、基準としておかしいことなんてないんじゃないですか?」
「……うう、言われてみれば」
 フェンネルたち四人にはほんとにそういうノリだった。
 彼女らが森ではあまり男女関係に期待を持てない「あぶれ者」であるという事情はあったものの、躊躇はしなかったよね、確かに。
 それを考えれば、同じく俺に処女を捧げ、同じく男にあまり恵まれず、また俺とのセックスを大いに気に入ったミラさんたちが雌奴隷として首輪をつけることは……いけないというわけじゃない、のかなあ。
「あんまりモノをしらない猫獣人の子たちならともかく、百歳のダークエルフを相手に『首輪をつけることの屈辱とか重大さが分かってないのかもしれない』みたいな心配はアンディさんがすることじゃないと思いますよ?」
「……そりゃまあ、そう……なのかもしれないけど」
 納得して引き下がりそうになる。
 あ、いや、待て。話は全然済んでない。
「グロリアさんやコスモスさんまで混ぜるって話じゃないか」
「あ、その二人は首輪希望というより普通に見物希望だそうです」
「それで納得するの!?」
「秘密の儀式とは言いますけど、元々私たち自身が新しい奴隷仲間を迎え入れるためのケジメですし、理解があって邪魔もしないヒトをあんまり厳格に除外するのもどうかなって。それにスワローさんの件もありますし」
「どういう件だよ。いやそれが最大の疑問だった。なんでレディ入ってるんだ、あの人一番無関係じゃないか」
 この間までセックスの選択肢に一瞬も入らなかった相手だぞ。
 皆さんお忘れでしょうが俺はかなりの面食いと自負しております。美人じゃないと無理です。以前のレディは完全な射程外。
「ヒルダさんのねじ込みで……」
「何をねじ込んでるんだあの人は」
「今まであんな容姿だったせいで、まともにセックスなんかしたことないんだそうです。せっかくだしガッチリ処女散らしてあげて☆ だそうで」
「それこそ本当に首輪の儀式の続きでヤッていい話じゃなくない?」
「逆に何十人と裸になってセックス見守る空間なら逃げ場もないしいいでしょ☆ って言ってました。確かにあの人、妙に恰好つけて逃げ回るところありますからちょうどいいんじゃないでしょうか」
「セレンの中のレディ評はどうなってるんだ」
 シタールでの一件も、もちろん当時はポルカで身重だったセレンは又聞きだ。レディとはこっちに来てからの面識のはず。
 しかしセレンが簡単に騙されて人を侮るとも思えないんだよなあ。
 ……レディはそれだけわかりやすくヘタレだったということか。性に関して。
 ……いやまて。まだいる。
「それとな。うん。これだけは間違いなく言えるけど、シャリオだけはどうあっても俺の首輪なんてつけない」
「あ、はい。知ってます」
「……うん」
 知ってるんだ。
 ならいい……いや、よくなくない? よくなくなくなくない?
「じゃあなんで呼ぶんだよ」
「えっ、他の雌奴隷ドラゴン全員セレモニーに引っ張り込むのにシャリオさんだけ放置するんですか?」
「……あ、安全面の問題?」
「大体そんな感じです。あとはまあ、アンディさんのことだし結局はオトしにかかっちゃうんでしょうから、今のうちに除け者にすることもないですよね」
「お前最近俺の事何か誤解してない?」
 どうも調教師のレッテル貼ってくる連中みたいな嫌な先入観を感じてしまうぞ。
「だってアンディさん、シャリオさんに死ねって思ってませんよね?」
「……それはまあ」
「じゃあ彼女の腕が治った後、またゆっくり自殺するって言って帰るの放置するわけありませんよね?」
「…………」
「え、もしかして本当に死ぬの黙って見守るつもりですか?」
「せ、説得はするかもしれないけどさあ。そんな頑固に死のうとするなよって」
「そんなフワッとした言い草でドラゴンが考えを変えたりしないのくらい、私だって分かりますけど」
「…………」
 そうなんだけど。確かにそうなんだけど。
 だからってさあ。
「はい。他にはありませんね?」
「……みんな納得するのかなあ、これ」
「アンディさんが『いいんだ』と言い切れば誰も文句は言えませんよ。みんなアンディさんの雌奴隷なんですから♪」
 誘導されまくってる気がしてならない。

 エレニアとピーターを多少くすぐってから、アイリーナの部屋を訪れてみると留守だった。
 クリスティもいない。二人揃って男爵邸を空けるというのは珍しいな、と思いつつ手近にいた桜の氏族の子(メイド見習いをしていた)に聞くと、二人とも森に出かけているらしい。
「なんか会議の招集とかでもあったの?」
「いえ……そこまでは聞いていません。私もポルカ詰めで森の情勢にはあまり明るくありませんので……」
「そうか……わかった。ありがとう」
「……あ、あの、私は駄目ですよ? 婚約者がいますから」
「えっ」
「その……銀のフェンネルのようにはちょっと」
「別にエロいことをしようとしたわけじゃないから!」
 全く無関係のエルフ娘にまで顔を見れば犯されるものと思われているのか。いや、その割に意外と距離が近いけど。
 駄目と言いつつ期待されているんだろうか。これもフェイザーの奴の風評のせいか。

 さて。
「……どうやって入ろう」
 何も考えずに森の入り口に来てしまった。
 夏の森は爽やかな風が通ってきて気持ちいいが、入り口に突っ立っていても仕方がない。
 どうせならフェンネルでも連れてくればよかったな。北の森出身の子なら誰でも入れるけど、もしアイリーナたちがフォーマルな場所に出向いているとしたら、そこに入っていけるほどの知識と地位がある子は少ない。
 と、入り口前で思案しつつ、もしかしたら誰か通りかからないかなー、とも期待する。
 エルフたちもどこからでも野放図に出入りしているわけではない。道はある程度決まっている。ここを通るエルフがいたら、ちょっと頼んで銀の氏族庄まで行くことはできるはずだ。
 でも意外とそんなに出入りはしてないらしい。30分くらい待ってみたけど誰も通らない。
 しかしポルカって刺す虫いないんだな。バッソンの夏場は蚊が多くて難儀したよなあ、とどうでもいいことを思い出しつつぼんやり立っていると、やがて森の方から足音が聞こえてくる。ようやく誰か出てきたらしい。
 アイリーナたちだったら手間が省けるな、と思って木々の向こうを見ていたら、とても思いがけない人物が現れた。
 一人は赤の元氏族長、ディエル。森を出てきたのを見たのは初めてかもしれない。
 そしてもう一人。

「……えっ? アンディ……なんで?」
「こっちの台詞だ」

 額から一本角を生やした、純白の髪の娘。

「なんでお前……どうやって?」
 聖獣にして北の森の守護獣、ブレイクコア。
 本来は迷宮付近でしか生きられないはずの彼女が、何故かポルカに現れていた。 

(続く)

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