ポルカには現在、かなりの数の客が訪れている。
もともとの療養客に加え、アシュトン大臣やオニキス、シルフィードなどの大商会からの縁で訪れている商人もなかなかの数に上り、さらにそれに加えてバウズがせっせと輸送している麻薬患者や、猫コロニーから送られている娘たちなどもいて、田舎町の人口を一時的に激増させている。
そのうえ、もはや地元民のような顔をして商談に臨んでいるエルフたちも厳密には町外の客。
夏場とはいえ、これほどまでに人口密度が増えているのはポルカの原住民たちも見たことがないほどになっていた。
「宿泊施設に選択肢が少ないのが問題になっています」
クリスティが困った顔をしていた。
「え、元々宿屋もどき多いから、それを稼働させて解決したんじゃ」
「種族や国籍ごとに定宿としての分担が進んでいて……選べるほどの余裕を各層が持つには、もっと増やさないといけない段階に来ているんです。あるいは空き家をコテージとして開放してもらうか」
「野宿が出てるわけじゃないんだよな?」
「そうなのですが、予算や趣味にほとんど関係なく泊まる場所を固定せざるを得ないのは印象が悪い……と商人の皆さんが要望を出してきていまして」
「贅沢……と切って捨てるわけにもいかないか。まだまだ増える予定だもんなあ」
「ええ」
例えばこれが観光を想定してないド田舎なら、遠来の客が泊まれる場所は村長屋敷ひとつ……なんてことも珍しい話ではない。
でも、ここが今後も多くの来客を受け入れ、エルフと人間、トロットやセレスタとの交流拠点として機能する町にしていこうというなら、予算や気分に合わせていくつか選択肢を作ることは満足度の上で重要だ。
多少金に余裕があるからワンランク上の宿にしたい……とか、せっかくだからエルフ文化を多く取り入れた宿泊体験をしてみたい、とか。
料理屋だって同じ。今は各宿の食堂と酒場でなんとか回しているが、この前のコスモスさん同様、食事にもいくつもの選択肢があれば過ごし方に幅が生まれ、観光地としての魅力が倍増する。
ポルカの将来を考える上ではとても重要なことだ。
……が。
「……この話、なんでクリスティが抱えてるのかがちょっと疑問だ」
「アイリーナと男爵様が抱える話……の、はずなのですけど。……最近、私の方にばかり回って来るんです」
「アイリーナがサボってる?」
「それも少しだけありますが……まあ、アイリーナはお客さん受けがいいので一概に悪いとも言えないのですけどね」
「ああ。アイリーナが外からの客の相手をしている分、そういう地味な案件がクリスティの手元に来るのか」
「そうなんです」
元々クリスティはアイリーナの生まれる前から氏族長の名代として活躍しているらしい。
そのため、実務能力ではやはりかなりの差があるようだった。
それでも「駐ポルカ大使」はアイリーナが言い出したことなので、アイリーナに大部分を受け持つようにさせて、クリスティはその補佐という位置に収まっていたのだが……最近ではもはやその前提も怪しくなっているようだ。
「で、男爵にはどういう裁量をしろって言われてるんだ?」
「ポルカの元の住民による宿泊収容力の拡大には限界があるので、それ以外の方策を打ち出すなら私が音頭を取るように……と」
「……暗にエルフの労働力でなんとかしろって言われてる感じか」
「ええ。残念ながら」
猫コロニーやセレスタ、あるいはカールウィンからの労働力を引っ張ってくるにしろ、それを指揮できる人材は今のところいない。
特務隊長、あるいはオニキスの縁戚としてディアーネさんが進み出るべき部分かもしれないが、そのディアーネさんはつい数日前までカールウィンで頑張っていたんだから、男爵としては責任者として当て込めない。
となると、立場もあって実務能力もあるクリスティが責任者となって計画を打ち出し、エルフ以外の協力が必要なら彼女が交渉していくしかない、ということになるわけだ。
「なんつーか……ごめん」
「スマイソンさんが責任を感じることでもないのですよ。ポルカの交易拠点としての活性化は北の森の意向でもありますから。アイリーナは率先してポルカで腕を振るうと言い出したんですから、もちろん一番働いてもらいますけどね」
「うーん……俺も何か受け持つべき部分だと思うんだけど……」
俺が言い出して、みんなが動き出して、露見した問題点をクリスティたちが収拾していく。
俺はもっといろいろ考えなきゃいけないのかもしれない……と思うのだけど。
「あなたが全てを担う必要はないんですよ、ご主人様♪ ……私たちは、よくやったと褒めて欲しいのですから……♪」
クリスティが少しだけ妖艶な雰囲気を出しつつ囁く。
部屋に誰もいないからって雌奴隷モードだ。
「……そうやってエロに流れて誤魔化してちゃいけない気もするんだけど」
俺が微妙な顔をすれば、クリスティは真面目な顔に戻り、声音も少し低める。
「身も蓋もないことを言えば……あなたはみずから庶民、平民であろうとしている方。そして私たちは政の専門家、技能者です。あなたが慣れる気のない世界なのでしょう、こちら側は」
「…………」
「そしてあなたの時間は有限なんです。残された百年足らずの時間に、あなたが夢中になりたいものは、違うのでしょう?」
「……かわせない言い方してくれるよなあ」
俺が必要以上に偉くなろうとしていない……人に対して責任を負おうとしていないことを、ざっくり突いてくれる。
彼女たちにとっては、つまらない真似をしている暇もない程度の短命であることも。
確かにそういう目で見れば、俺が無駄に政治屋ぶろうとするなんて馬鹿げたことでしかない。
「私たちはあなたの時間を無駄にしないために、今まであなたの何倍も生きて培ったものを使わせて欲しいのです。それは、気に入らないことですか?」
「……ちょっとくらい『ご主人様』らしく前に立とうとする俺の意地も汲んでくれよ」
「残念、そこは私たちの領域なんです♪ 雌奴隷の晴れ舞台を邪魔しないでくださいな」
「ちぇっ。……じゃあご褒美期待してろよ」
「それでいいんですよ。……苦労するだけあなたのためになると思えば、地味な仕事も誇りになるんですから♪」
クリスティに微笑まれ、俺は虚栄心を看破されて恥ずかしい気持ちのまま、彼女の長衣の合わせに手を差し込み、セクハラを働く。
「ふふっ……早くもご褒美の前払いですか?」
「ただの八つ当たり。乳首抓ませろ」
「あ……んっ♪」
クリスティは身をよじる。
……本当に、有能な女が多いよなあ、俺の雌奴隷には。
で。
雌奴隷といえば。
そういえば、だ。
「おお、ぼっちゃん。今日は何のご用で」
「細工机借りたいんだけどいい?」
ジャッキーさんの工房に訪問して、俺は作らなければいけなかったものをまとめて作ることにする。
そう。雌奴隷といえば首輪だ。
エマとベアトリス。そしてネイア。
俺がエマ用のオシャレアクセサリーとして作ったペンダントを使い回して雌奴隷アピールしあっている三人。
それに、ガラティアにももちろん必要だ。
それからリェーダにも早く作ってやらないと。雌奴隷よりさらに深刻な「孕み袋」の自称を町中で公言されてしまう。あれよりは乗り手としての契約の首輪の方がナンボかましなのは言うまでもない。
あとはレイラとコルティ姉妹。
多重的な詭弁の上に成り立つ関係。他の娘たちと同じように扱っていいのかは微妙なところだけど、それでも彼女らを少なくとも俺の生きてるうちには死なせないと決めたからには、望むように扱ってやる必要がある。
合計七本。
……いや、せっかくだから。
首輪制作を終え、家に帰るとテテスが両手を広げて出迎えてくれた。
「お帰りなさーい……って、ご主人様? なんですそれ」
「ドア開けたからって俺が来るとは限らないから玄関で全裸お迎えはやめようテテス」
「大丈夫ですよー探知魔法使ってますから。……っていうかその首輪」
俺もテテスが出迎えると予想していたので、片手に彼女用のプレゼントを掲げながらの入室。
テテスは「孕み奴隷モード」。他の雌奴隷より優先的に孕ませないといけない緊急事態。
なので、気分を盛り上げる程度の意味ではあるけど、特別な首輪を作ってみたのだ。
「孕み奴隷の首輪。……お前用の目印な」
だいたい茶色のなめし革のままの雌奴隷たちの首輪に対し、黄色く塗った特別仕様。
塗っただけともいう。
「えっ……くれるんですか……?」
なんだかものすごく嬉しそうなテテス。
なんでこんなもの作ったかというと、簡単に言えば自分への鼓舞。
俺は実のところ、雌奴隷が孕んだら孕んだで喜ばしいけれど、単に孕ませることを目的としたセックスというのはそれほど気持ちが高ぶらない。
「孕むのも厭わないくらいエロい女の子とノーガードの快楽に耽る」というのは大好きだ。でも「早く孕ませるのを目標にせっせと頑張る種付け作業」には……エロ絵巻の題材的には嫌いじゃないけど自分で励めるかと言われると若干気持ちが燃えない感じ、わかってもらえるだろうか。
そこを解決するために、首輪を変えるという趣向だ。
「ポルカの誰にも内緒だ。でも、この黄色い首輪は孕み奴隷の目印だ。いいな」
あえて意味のある目印をつけることで、趣味性を持たせる。
元々首輪自体スケベな印ではあるけど、さらに特別淫靡な意味を持つ装いをさせることで、テテスを犯すことへのモチベーションを上げていく。
孕みたくていつも子宮に精子貯めているんです、という目印を身に付けて、テテスはこのポルカでずっと過ごすのだ。
女の子がそんな秘密の意味の装身具をつけている、それだけでワクワクするじゃないか。
「ありがとうございますっ……つ、つけていいんですよね!?」
「……うん」
でもテテスは元々孕ませセックスに全力過ぎるのであんま意味ないかもなー、と少しだけ思う。
が、奥の部屋からゾロゾロとアルメイダ、シャロン、それにアップルにリェーダにコスモスさんまで出てきて、しまったと思う。
全員エルフとダークエルフとドラゴンだから俺の言ったこと聞こえたよね。
「なるほど。孕みたいなら黄色か。私も早くマリー殿に孫を抱かせなくてはならないからな」
「私も兄上を吹っ切らせないといけないので……♪」
「あの……セレンも産みましたし、私も望んでもいいんですよ……ね?」
「孕み袋の私にふさわしいですね!」
「いいですねー。今度タルクの本店でも取り入れられるアイディアかも♪」
いやちょっと待ってコスモスさん、娼婦で孕ませ希望の印ってどういうことなの。
いやいや。違うそこじゃない。
「何なんだよこの集まり……」
「もちろんタルクいちのセックスのプロによるご懐妊講習会です♪」
「妊娠確率の高い体位や体調の整え方など、そういう真面目な座学を話していた。さすがはダークエルフの都の夜の女王だな、理論立っていて為になった」
真顔かよ。アルメイダ、お前本当に妊娠に前のめりだな。
「首輪を黄色くすればいいんですか?」
「……まあそういう感じだけど」
テテスと二人だけの暗号のつもりだったのでしどろもどろになりながらアップルに頷く。
その場の首輪持ちがみんな首輪を外し、色をどうやって付けるか話し合い始める。
「おいお前ら、孕み奴隷の印とかそういうの絶対ポルカの住民の皆さんに言うなよ!?」
念を押したが、なんかすぐに広まりそうな予感がしている。
(続く)
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