ポルカに帰りついて、お互い久しぶりに会う女の子や初めて顔を合わせる子が発生し、そしてぎこちなく距離を計りあう事態がそこかしこで生まれている。
 例えば。
「来ちゃった♪」
「……とりあえず歓迎はします。将来のポルカ住民として」
 タルクのマスターオブ娼婦・コスモスさんとディアーネさん。
 お互いに決して知らない間柄というわけではないけれど、コスモスさんが俺の子妊娠狙いでポルカに長期旅行……という状況には、鷹揚に流しにくいものを感じているようだった。
 コスモスさんはヒルダさん同様400歳代後半。同郷なうえに年齢的にもあまり安易に強くは出られない相手だが、それはそれとして見た目は妙に若い……というか幼くも見えるのでややこしい。
 そのコスモスさんは、さっそくポルカで商売を興そうとしているようだった。
「何をするつもりですか」
 ディアーネさんと一緒に見回す。
 コスモスさんが一人で片づけをしていたのは、ポルカの中央広場にほど近い空き家の庭だった。ただの移住準備という感じではなく、明らかに庭を「何か」に使おうとしている気配がある。
「とりあえずは地盤作りとして軽食テラスでも始めようかなって思ってるの」
「軽食テラス……?」
「そ。酒場とか食堂っていうほどカチッとしたのじゃなくて、お喋りしたりするのがメインのところ。ここの酒場ってどうしても少し地元の男の人専用みたいな雰囲気出ちゃってるでしょ? そこをもう少しオープンにして、奥さんたちや子供とか、異種族にも出入りしやすい雰囲気の場を作ろうかなって」
「それは酒場のマスター殿とすり合わせないと客の奪い合いになってしまうのではないですか」
「平気平気、もう交渉はしてるの♪ そもそもあの酒場はキャパシティオーバーになりかけてるみたいだし、ここは食事関係もっとあっていいはずなの。それぞれの宿屋併設の食堂は賄いの延長みたいな感じだし、エルフやセレスタ商人の往来をもっともっと増やしていくつもりなら、サービス業の需要は確実にどんどん上がるから狙い目。当面はセレスタ料理ってことで住み分けるつもりだしね♪」
「……商人としては成功者のあなたには出過ぎた話でしたか」
「ううん、いきなり来て街をかき回されたら困るっていうのもわかるわかる。それに私がやるなら絶対実はえっちな店って思ったでしょ。でもセレスタとは文化が違うし、ここでは領主の男爵さんに睨まれちゃうと商売はそこで終わりだからね。いきなりはしないの」
「……将来的には?」
「そこそこの人口になったら性欲の行き場がないっていうのも不健康だと思うのよね♪」
 ……遠大な計画らしい。
 いや、ダークエルフとしては10年20年先を見据えた計画なんて特に遠大でもないのか。
「ゆくゆくはタルクのお店の子たちを保養ついでに連れてきて、季節交代くらいでお仕事できるようにしてもいいかなって思ってるの。ウチはいろんな種族の子がいるから、なんなら北のエルフの子でも働けるように♪」
「いやそれはなんかこうえらい問題があるんじゃないですか」
 思わずツッコミ。
 うん。ほら、俺は最終的にドラゴンたちの加護があるからともかくとして、一般的には外部の男に股を開いたエルフは破門を受けて路頭に迷ってしまうのでは。
 ……と思うのだが。
「ウチの秘伝の魔術なら避妊含めた身体的ケアは完璧♪ それにアイリーナちゃんから聞いた感じ、処女性よりもやっぱり血が汚れることの方が問題みたいだから……そもそも千年生きる長命種が無駄に処女とっとくのこそどうなのって思うの♪」
「…………」
 まあ……言われるとそうだけど。
 人間の処女だってハタチはまだともかく、三十路四十路まで取っておくのは逆にどうなのって話だしな。
 ……いや、そうじゃなくて、カラダを売ったという過去が何百年先まで問題になるんじゃ?
 でもそれも人間の短スパンな価値観でしかないと言えばその通りな気もするし……。
「…………」
 ディアーネさんは非常に複雑な顔をしている。
 あ、そういえばディアーネさんも200年処女でしたね。100年もののミラさんたち三姉妹ですら焦ってたし。
「なんにしてもウチのポリシーは売る側も買う側も楽しい風俗業だから、そういう素養がないのにお金に困ってるだけみたいな女の子は採用しないんでご安心♪ 普通の飲食店含めた多角経営プランはそういう子にも優しいはずでしょ?」
「……う、ううん……」
 いいのかなあ。
 まあ今のところは大人しく普通の飲食店やろうとしてるだけだから、誰も文句は言えないんだろうけど。ゆくゆくは娼館が進出してくるための足掛かりだなんて知れたら、さすがにコスモスさんほどの人でも叩き出されたりしないだろうか。
「あ、もしかして猫ちゃんたちがウチの毒牙にかかったりしないか心配してる? 大丈夫大丈夫、そこもルナちゃんやヒルダと話し合ってます♪」
「……え、いや」
 そこまでは気が回ってなかった。
 でも、考えてみればポルカは(ライラが連れてくるおかげで)猫コロニーと外界の出入り口になるから、そこからさらに外を目指す過程で、資金作りのために娼館働き……っていう選択肢を提供することにもなるんだよな。コスモスさんの起業は。
「心配しなくても、猫ちゃんたちが本当に外を目指すならライラさんたちドラゴンの皆さんや北方エルフの皆さんが手を貸すことになってるから、スマイソンさんがキープしたい子がお金目当てに勝手に娼婦になっちゃうっていうのは食い止められるはずでーす♪ っていうか私もスマイソンさんとはいろんな意味で末永くやりたいので、お手つきの子を目先のために娼婦落ちなんてさせませんよ♪」
 ウィンクするコスモスさん。
 ディアーネさんは口をへの字にして悩み顔。
「……む、むう……なんだかコスモスさんを放っておくと、そのうち頼らざるを得なくなってなし崩しに文句を言えなくなっていく流れになる気がする」
「えへへー。よろしくね、ディアーネちゃん♪」
 アイリーナやオーロラらとは違う意味で社会能力の高いコスモスさんは、わりとガチで今までいなかった、俺には手に負えないタイプなのではないかと思う。

 秘密温泉に向かう。
 そちらは今回、シャリオの湯治に使わせることにしている。普通の温泉に浸からせるのは色々と説明が面倒だから。
 片腕をなくしたシャリオの事情をみな知りたがるだろうし、もしもカールウィン事件のあらましを第三者が知れば、その元凶にもっとも近かったシャリオがポルカで湯治するなんて信じられない話だろう。
 そういった面倒をあまり大っぴらにしてほしくはないし、シャリオも大浴場でなければ不満などとは言わないはずだ、ということでそうなった。
 ……そして。
「ちょっともう少しアゴ引いて。おっぱいは突き出して。そう。腰はくいっとこんな感じにね。そうそのポーズ」
「こ、こう……か?」
 秘密温泉に黙って浸かるシャリオをよそに、何故か森の中で全裸でポージングさせられるリェーダとそれをスケッチするグロリアさんの姿。
「グロリアさん……そいつ一応シルバードラゴンなので無闇にヌードスケッチに使うのは」
「いいじゃないの。こんないいカラダしてるんだし、アンタのためなら今後いつでもどこでもすっぽんぽんで過ごすことも厭わないって宣言してたし」
「リェーダ。俺それやめてって言ったよね」
「か、覚悟の話です!」
 誰彼構わずその覚悟の表明しないでお願い。
「しかし新しいドラゴンの女の子連れてきたと思ったら姉妹奴隷に自称孕み袋とか……ホントあと何人いるの?」
 筆を走らせながらも呆れ顔のグロリアさん。
 姉妹奴隷……? と思って温泉のほうを見ると、脱衣籠置き場の壁の影からレイラとコルティ姉妹がこっちに顔を覗かせていた。
 あいつらも誰彼構わず俺の奴隷宣言して回ってるのか。
「お前らちょっとここに来て座れ。シットダウン」
 二人を呼んで土の上に正座させる。おずおずと出てきた二人も全裸で、いや温泉だから間違ってないんだけど、何だろう、一人で服着てる俺が村娘を次々晒しものにして喜んでる悪い領主みたいじゃないか。
 っていうかグロリアさん、ヌードスケッチする時に自分も脱ぐのはもう性癖ですか。
「な、何よ……舐めろっていうの?」
「コルティより私が先にご奉仕を……」
「そうじゃなくて。俺がいないところで勝手に奴隷とか言って回らないように。俺はこの町では普通の人なんだよ。世間体ってものがあるんだよ」
「なんでよ!」
 コルティにキレられた。
 なんでと言われても。
「リェーダ含めて四頭の乗り手とあれば、こんな小さな町で支配者とならぬのはむしろ不義理では?」
「俺は他人の支配に時間使うよりエロいこととか鍛冶仕事に時間使いたいの! そういうのはやりたい奴がやればいいの!」
「支配者になって誰にも文句言わせないようにしてから堂々とエロいことしたらいいじゃない! それこそ仕事は他のやりたい奴に任せちゃえばいいでしょ!」
 コルティは全裸正座のくせに指差して強気で反論してきた。
 俺はそのコルティの前にしゃがみこんで顔を近づけ、姉に比べてささやかながら生意気に尖ったおっぱいのてっぺんを人差し指で押す。指差し返し(直接)だ。
「ひゃうっ……」
「俺は俺より偉い人がいるところに住みたいの。尊敬できる人がちゃんと領主としての仕事をしてくれる街で、普通の生活して、その上でエロいことする時は思いっきりしたいの。わかれ」
 右と左の乳首を指で交互に押しながら、コルティにこんこんと諭す。
 張りがあって元気に指を押し返してくる若々しいおっぱいだ。
 雌奴隷をすると自分で主張している手前、そんなイタズラを拒絶も出来ずに顔を赤くし、受け入れるコルティ。
 レイラのおっぱいはどんな感触なんだろう。そういえば触ったことないな、と思って、コルティの感触の残る指先を見つめ、レイラのおっぱいをジッと見る。
 子供の頭くらいの大きさと見事な丸さ、そして氷竜独特の白い肌に息づくピンクで少し大きめの乳首。
 改めてしっかり長じたドラゴンのおっぱいはすごい。見とれる迫力だ。
「……っ、失礼な奴ね!」
 いきなりコルティがキレる。
 一瞬きょとんとした俺は、少し考えて、自分の行動を見ておっぱいの感触が物足りなくて隣に目移りしたように見えたんだと理解した。
「なんだよ。もっとつついて欲しいのか」
 俺はコルティの両おっぱいをさらにぷにゅぷにゅ交互につつく。
 コルティはやはり赤面して俯きつつも、小さく。
「……つつくだけ?」
 と呟いた。
「…………」
 ……えーと。うん。
 他人のドラゴンだし。
 俺は他人の情愛を邪魔する趣味はないし、自分には愛情を向けないと公言する相手には出来れば手をつけたくない。
 自分で言うのもなんだけど、俺はセックスしたら独占したくなる。処女となればなおさらだ。
 自分がムキになるのは目に見えている。しかし死んだ奴に対抗するのは不毛だ。
「何? そっちの姉妹奴隷は犯さないことにしてるの?」
 グロリアさんが怪訝な顔をする。やっぱりエルフ耳なので小声のつぶやきも聞こえてるか。
「ハメたいなら私にハメてもいいけど。しばらくぶりだし」
 イーゼルに向かいながらも自分も裸の彼女は、形よく整ったお尻をふりふりと向けて来る。
「じゃあハメます」
「ちょっ……」
 躊躇なく立ち上がる俺の服の裾をコルティが掴む。
「なんでよ!」
「……あんまり他人の女とわかってるものに手をつけたくない」
「アンタの雌奴隷になってあげるって言ってるでしょ!?」
「俺はラブラブセックスしたいんだよ」
「っ……わ、わがままな奴っ……」
 わがままかなあ。
「じゃあラブラブになってやればいいんでしょっ……!」
 コルティはそう言って俺を引き下ろし、そして足を広げて、真っ赤になって睨みながら。

「……は、早く、ヤリなさいよっ……愛してあげるからっ……♪」

 どこまで演技なのか。
 性器を広げ、羞恥の中に期待と欲情を隠しきれない声で、そう言った。

(続く)

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