リェーダは初めて知った交尾について、とりあえずのところは非常に好ましい印象を抱いたらしい。
「はぁ……これから孕み袋として主様に使っていただける……♪」
 ……とても。
 初エッチ失敗でセックスそのものに嫌悪を抱く女性というのも決して有り得ない話ではないと聞くし、そういった点についての大きな補助要員でもあったヒルダさんは今回絡んでいない。
 よく考えると初エッチ失敗の可能性も少なからずあったわけで、我ながらちょっと危ない橋を渡ったな、と今さら思う。俺、未だにそういうテクニック面に関しては熟練者とは言えないところあるし。
 まあリェーダがセックスに悪印象を持ってしまったところで、向こうが抱いてくれと言い出したのだから抱いたまでのこと、特に実害があるわけではない……という考えもできるけど、それはあまりにもね。
「随分チンポが気に入ったみたいだな。よかったよかった」
 ……とまあ、責任を果たした安堵感みたいなものから口に出した言葉だったが、言ってから考えてみると、やはりものすごく悪役っぽいこと言ってるなーと思う。
 俺はもうそういう邪悪なイメージから逃れられない運命なのか。
 一人でちょっと落ち込むものの、エマもマイアも特に疑問には思わなかったらしい。
「無理もない。アンディ様にあんな風に迫られたら、雌として応えないわけにいかない」
「……ちょっと気持ちはわかってしまいます」
 ……ドラゴン娘ってそういう細かいニュアンス気にしないよね。最初から俺を上の存在として見てるせいなんだろうけど。

 で、そこに僅かに反応したのはネイアだけだ。
「なんだか……ポルカで噂の『調教師』みたいな物言いですね……」
「うん……自分でもそう思う」
 しみじみと頷く。ネイアはいい子だ。恋愛結婚の概念が壊れかけていたカールウィン人なんだから、ベアトリスみたいに考え方が明後日の方に暴走しててもおかしくないのに、まともな常識を保持してくれていて助かる。
 この差は何なんだろうな。師匠が女性なおかげだったりするんだろうか。
 そんなところに思いを馳せていると、リェーダが改めて俺の前に跪き、確認してくる。
「主様。それで私は、今後どういたしましょう。引き続きこちらでカールウィンの谷の監視を続けながら主様のおチンポを待てばよろしいのでしょうか。それとも山脈の向こうまでお供して孕み袋の本分を全うすればよろしいのでしょうか」
「そんな真面目な顔してそういうの言われると困る……」
「?」
 リェーダ的には「おチンポ」も「孕み袋」もふざけた単語ではないのだろうか。ないんだろうな。
「この私、不肖ながら今後百年一切の衣服をつけず、お傍に仕えてお情け乞いを続ける覚悟もあります」
「いやそれは勘弁して。そういうのもう何人もいるから。というか服は着るべき時には着て欲しい」
 ブルードラゴンたちとかな。
 あと雌奴隷の中にも社会生活放棄してセックス漬け生活しろって言われたらむしろ喜んじゃう子、多分結構いるし。
「そ、そうですか……雌としての喜びを教えていただき、自らの使命に目覚めた思いだったのですが」
「お前はむしろ力の契約した方がいいのかもな……」
「孕み袋にしてやる」と言われて本気でそういう生活を妄想しちゃうあたり、加減というものがなさそうだ。
 ちゃんとセックスはオプションとして楽しませてもらうべきだよな。


 朝なので家屋から出ると、幽玄な朝もやに包まれた山の眺めがなんとも美しい。
 パレス内での人……いや、ドラゴンたちの流れも朝早いからといって途絶えていない。むしろ、俺たちが顔を出すタイミングをあらかじめ察知して、朝食のもてなしの準備を始めていたようだった。
 早くから働かせて申し訳ないな……と思ったが、そもそもドラゴンはあんまり寝ないんだった。その超感覚で俺たちが屋内でやってたこともしっかり察知してたんだろうし、ある意味ずっと臨戦態勢だったんだろうか。
「お楽しみいただけましたかな、偉大なる乗り手よ」
「……楽しませてもらったけど、一応身内が変な犯され方してるのをそんな鷹揚に言うのもどうなんだ」
 ガラム翁は読めない微笑みを浮かべて、食卓を手のひらで示す。
 屋外に出されたテーブルには、昨夜に劣らぬご馳走が所狭しと並べられていた。
「リェーダとの交合で、旧来の義理は終わったことでありましょう。他の雌も待っております。なに、どれもリェーダと同じく、お好きなように孕ませていただいて構いませぬ。我らがパレスの雌の胎は全て御身のものと思っていただいて結構」
「思うんだけど、あんま極端すぎるのもどうかと思うんだよな! ここってわりと文化的なパレスだと思ってたんだけど!」
「乗り手への畏敬を抜きにしても、竜にとっては交尾は決して重大なことではありませぬ。他ならぬ御身が望まれるなら、いかようにも楽しんでくださって結構ですじゃ。何より、人の町や青竜たちにもてなしで負けたとあっては我らの誇りに関わる。このパレスは最も御身との関わり深く、また尊重も強いパレスであろうと自負しておりますゆえに」
「えー……」
 その行きつく先が村内セックスフリー宣言ってどうなの。いや確かにミスティ・パレスもそんな感じだけどさ。それはあそこが裸族集落ってこともあってのことでさ。
「できることなら偉大なる乗り手たるスマイソン様には、このパレスに住み着く気持ちになるくらいのもてなしをいたしたいのです」
 どこからともなく酒壺を持って現れた全裸女性が、たおやかに微笑んで言う。
 ……ドラゴンパレスに住み着いて、手当たり次第無責任種付けかあ。
 実際に美人が集まっては脱いでくれているのを横目で見ると少し心が動く。
 そんな俺をディアーネさんはジト目で見た。
「アンディ。……ミスティ・パレスでも同じような誘いは受けたんだろうに」
「……あー、そういえば」
 ちょっと形は違うけど「いつでもフラッとセックスしに来ていいんですよ」的なことは言われたよね、前に。
 そしてそれに対し俺は「そんな怖いことできるか」と言って実行しなかったのだった。
 あっちは駄目でこっちはいいという理屈もないよな。いや、ミスティ・パレスは岩窟だからそもそも住みつくには不適そうだけど。
「……しょ、食事はともかくそういうのはまた今度で。そのうち楽しませてもらうかもしれないけど今はまだ行くところとかあるから」
 丁重に種付け祭りのお誘いはお断りする。
 いつか楽しませてもらう目を残したのは俺の心の弱さだ。だってほら、美人がみんなしっかり責任問題まで考えた上で好きなだけハメさせてくれるっていうのに完全ノーなんて言えるわけないじゃん。言えるわけないじゃん。
「また今度ですか。では楽しみにしております」
 シルバードラゴン女性は屈託なく言って、それでも服は着ずにお酌をしてくれる。最高にサービスいい。
 で、ここにナリスあたりがいたら「断っといて結局鼻の下伸ばすんかい!」って言ってくれそうな気がするのだが、ディアーネさんは「まあ酌くらいなら仕方ないか」という感じで肩をすくめておしまいだし、ネイアとベアトリスはさっさとごちそうに手を出してるし、マイアもエマもリェーダも、俺が全裸女性が前傾姿勢でお酌してくれるのを嬉しそうに眺め、ほとんど無意識に重たげなおっぱいに手を出してそっと持ち上げるように触るのを見ても当たり前のように流してしまう。
 ツッコミ不在。
「交尾はお手間というのでしたら、お食事中に口でご奉仕しましょうか?」
「い、いや、食事に集中できなくなるからそれはなしで」
 積極的な銀竜女性のお誘いをヘラヘラかろうじてかわしながら、朝食をたっぷりといただく。
 心なしか精力系料理が多かった気がする。俺が乱交する気になる線に備えてたんだろうか。


 日もすっかり上ったところで、俺たちはクリスタル・パレスを離れてライナーの墓に向かうことにする。
 リェーダは俺の決意を話すと、やはり困った顔をした。
「それで心変わりをさせるのは難しいと思います。よしんば我々が主様の意向に納得し、彼らのことを不問にしたとしても……竜が主のために全てをなげうつのは、魂に刻まれる誇りの問題ですから」
「さんざん聞いたよ。それでも俺は、今という時間、生きている同士で話ができるってことを信じようと思う」
「…………」
「生きているってことは変われるってことだ。決まりでも、気持ちでも、変えられる可能性がほんの少しでもあるってことだ。変わらないから無駄っていうのはナシでいこう。……もしドラゴンライダーっていうのが本当に偉大だと、お前たちが思うのなら……」
 リェーダの肩を強く掴んで。
「どんな大事な掟でも、誇りでも、運命でも……変えることができていいはずだろう。お前たちが持ち上げているのが顔も知らない先祖の作ったルールじゃなく、生きた俺だというのなら」
「……それは」
「変えよう。俺に俺らしいことをさせてくれ。……俺の手は剣を握るための手じゃない。何かを作り、誰かの手を握るためにある。変わらないものがあるのなら、それを変えるためにある」
 ああ。
 また、グランツ百人長の言葉を無断拝借しちゃったな、と、少ししてから気付く。
 あの王都決戦の前、俺が俺の戦いを始めようと奮い立った言葉。
 そのうちまた礼を言いに行こう。
「……はい。その通りです」
 リェーダはギュッと胸の前で拳を握り、俺を見つめて頷いた。
「偉大な……偉大な乗り手。その意味を、実感しました。あなたはやはり、偉大な方なのですね」
「……そ、そうか?」
「竜の盟約に則り、竜の誇りに沿い、竜を乗りこなす乗り手は数多ある。しかしあなたはそれを超えようという。変えようという。牙を向けたあの者たちを救うために。……資格を持ちながらそれに安住せず、そう思えることは稀有です」
「……そうかな。まあ、なんでもいいけど」
 リェーダは吊り気味の気の強そうな目をキラキラさせ、微笑んで。
「改めて、あなたの孕み袋として励みたいという思いが強くなりました……!」
「いやここでそれ蒸し返す!?」
「蒸し返すも何も、今の私の一番の責務です。あなたの子を私の胎で、一人でも多く残さねば……!」
 なんてまっすぐな目で言うんだ。
「ほんとごめん。とりあえず力の契約しよう。雌奴隷契約でもいいや」
「何かご不満でも!? 私の膣がお気に召さなかったのですか!?」
「そんな大声で膣とか言うな」
 ディアーネさんは肩をすくめ、ネイアは面倒なのか耳を塞いで聞こえないというジェスチャー。ベアトリスはよくわかってない。
 エマは感じ入ったような顔をして……マイアはドラゴン体に今変身した。
「とにかくその孕み袋云々は一旦保留!」
「何故です!」
 この子をポルカにこのまま連れていくと俺への視線がまた冷たくなりそうだ。

(続く)

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