セレスタから来ている官僚たちへの挨拶を済ませ、ディアーネさんは俺たちに合流する。
そしてマイアとエマに抱えられ、再び離陸。
次はライナーの墓……に行く前に、いったんクリスタル・パレスだ。
クリスタル・パレスでは、飛んでいるマイアたちの姿を見かけた者がいたらしく、着くとすぐに出迎えがあった。
「ようこそ、偉大なる乗り手よ」
「宴を用意します」
レイとリェーダだった。
いやいや待って。
「と、とりあえず顔を出さないのもあれかと思って来ただけだから、宴会とかはいいって」
「まあそう言わず。既に馳走の準備をしているのです。我々の顔を立てると思って」
「意外と強引になってきたなレイ……」
ハハハ、と機嫌よさそうに笑ってみせる美青年。
パレス(というか村)の中身を物珍しそうに眺めるディアーネさんには、何人かのドラゴンがビクッと反応している。強者のオーラか、あるいは以前の戦いでの鬼神の如き活躍がリェーダによって伝えられたか。
「警戒されているな」
ぼそりと呟くディアーネさんに、エマがフォローするように駆け寄る。
「あなたの戦いぶりは竜に勝るとも劣らない、というのは、皆驚いたのです。気を悪くしないで下さい」
「私でもボナパルト殿や暴虐のアネットには及ばない」
「あの方々も強かった……でも、あなたも間違いなく人の究極のひとつですから」
「そう必死になって持ち上げなくてもいい。私はアンディの単なる妻の一人だ。アンディ相手に戦うつもりがないなら身構える必要も気を使う必要もない」
エマの方を軽くポンポンと叩いて安心させるディアーネさん。
……軽く妻って言ったぞ。
「……まだ結婚はしてませんよね」
囁くと、ディアーネさんは苦笑。
「恋人だ雌奴隷だと言うより、そういうことにしておく方が面倒はない。それに、いずれはしてくれるつもりだろう?」
「ええそれはもちろん……でも、そうか……」
結婚かあ。
言われてみれば、フワフワと雌奴隷の名目での付き合いをみんなと続けてるけど、いっそ結婚してしまえば周囲からの妙な誤解も減るんだろうな。
いや本当に誤解かというとそれも微妙なんだけど。女の子たち側は雌奴隷ムーブする気満々だし俺も時々乗っちゃうし。
それにみんな、俺を頂点とした上下関係をしっかり作ることで、本来ややこしい身分関係をなしにして人間関係を円滑に回している節もある。一概に悪いってわけじゃないんだろうな。
でも、みんなとしっかり結婚してしまえばもうややこしくない。俺本人がどんなセレスタ大富豪だよって状態になりはするけど、いちいちどういう関係かという点に周りの目を気にする必要がなくなる。
夫婦なら夜にどれだけはっちゃけていようが口出しする方が無粋ってもんだしな。例え奴隷プレイしてたとしても単なる性癖だ。
「結婚……する方がいいよな……」
遠い目で呟いた俺に、逆にディアーネさんが慌てる。
「べ、別に急かしているとか今の関係が半端だとか訴えているわけじゃないんだぞ。まだお前もポルカも大変な時期だ。慌てて関係を整頓しようとすれば無視できない混乱が起きるかもしれない。いずれはの話だ、いずれ!」
「混乱って」
「今現在、雌奴隷という境遇に心底納得している娘たちに、急に妻という肩書きを与えるのは得策じゃない。雌奴隷と違って気持ち的な関係じゃない。社会的地位だからな。妻というありように対して、良くも悪くもひとつふたつはこだわりがあるのが女の性だ。不用意に推し進めれば確実に面倒な事態になる」
「それはまぁ……そうかもしれないですが」
とりあえず一番面倒なことになるのはディアーネさんちな気はする。一時の火遊びじゃなくなるわけだもんな。
他の姫君や女王級の身分の子たちも、単なる自称の変化だけでは済まないだろう。ポルカのエルフ領窓口としての繁栄が始まったばかりで、近所にカールウィン移民予定もあり、何より俺の退役手続きが終わらなくて身分がフワフワしてる中で一気に進める話じゃない、という理屈はわかる。
「全員が良き妻になろうとしたら、お前は一日にどれだけ食事をしなければならなくなると思う?」
「……うん?」
あれ?
「食事?」
「妻の仕事の第一は炊事。掃除洗濯はさておき、子産み子育ては夜の結果次第としても、妻という肩書きを持つにあたって譲れないのは夫を食卓で満足させること……それは多くの文化圏で共通する話だ。急に妻と扱われるようになったら、それを他人に任せることができない者も多く出るだろう。お前が忙しいうちに結婚話を進めてしまえば、必ずそこで打ち合いが起きてしまう。雌奴隷の夜の掟のように、先任の者が決めたルールで縛れる話ではなくなる」
「あ、いや、政治レベルの話じゃなくてそういう?」
「内部の話だ。外部の話はどうにでもなる。お前はドラゴンライダーなんだから」
「……ああ、ええと……とにかく慌てるべきじゃないというのはわかりました」
どっちも乱暴に制御しちゃいけない案件だというのは理解しました。
目がいい耳がいいというのも良し悪しで、俺たちがカールウィンを訪れたというのが伝わった段階でご馳走の準備は始まっていたらしく、俺たちが長老の家を訪れた時にはもうだいぶ多くの料理がテーブル狭しと並べられていた。
これ見たら「あ、いらないんで」というわけにはいかなくなる。ドラゴンならその気になれば無茶苦茶に食えるし、別に料理を無駄にするってこともないんだろうけど、やっぱり用意させておいて手を付けないのは心苦しい。
「よく参られました。偉大なる乗り手」
「普通にスマイソンでいいんだけどなあ」
「敬意の挨拶として収めてくだされ」
ガラム翁はそう言って平手を差し出し、椅子を勧める。
前回来たネイアはともかく、ベアトリスは見たこともない凄いご馳走に圧倒されつつ目を輝かせている。
「あのタルクってとこの宴会より凄いかも……」
「シーマさんたちにはちょっと申し訳ないけど、ドラゴンの調理術と比べるとな」
美味しさの方向性が違う、というのもある。
極彩色、濃厚かつエネルギッシュなセレスタ料理と、同じ肉料理であっても滋味に溢れ、体に沁み込んでくるような素材の旨味と栄養的満足を自然と感じるクリスタル・パレスの料理は、同じ「美味しい」にも別の出口があることを実感させてくれる対比だ。
「人間の街にも、我々のもてなしに匹敵するものがありましたかな」
「匹敵というか……まあ、最近ちょっと歓迎してもらえる機会があったんだ」
「ふむ。それでは我々も少し頑張らねばなりますまい」
ガラム翁は、せっせと料理を運んできているドラゴン女性の一人に目を付け、手振りで指示をする。
すると女性は頷き、料理を置いた後に……おもむろに服を脱ぎ始める。
「え、何!?」
「偉大なる乗り手は相当に色を好むとか。折よく、我がパレスの女たちには酌をしたいというものも多いのですじゃ」
「いやお酌はいいけど脱ぐの!?」
言ってる間にもエキゾチックで幽玄な趣の東方山地風衣装は次々脱ぎ捨てられ、特に名前もわからないドラゴン女性は素っ裸に金の首飾りと腰飾りだけの姿になって、そっと酒壺を手に寄り添ってくる。
ガラム翁は頷いた。
「人の女はなかなかこうまで思いきれぬものでありましょう。これも我がパレスの服属の証、いかようにも楽しんで下され。どう触ろうと抱こうと本意、足りなければ四人でも五人でも増やしますじゃ」
「エマ。……ここってこういうとこだっけ?」
「私の記憶では違うのですが……何ぶん私も若輩ですし、主様ほどの乗り手をこのパレスが迎えたのを見たこともありませんので……」
もっと上品なパレスだと思っていたが、意外とみなさんノリがいいというか……エマやリェーダがアピール成功気味なのを見て自分もあわよくば、という気になるドラゴン女性が増えたのかもしれない。
けど一応、俺って自前の雌奴隷連れてるんですよガラムさん。
あとね。
「……あー、こういうのはタルクでもあったので……」
オニキス商会ダークエルフメイド団やコスモス本舗の娼婦の皆さんも、全裸で奉仕することには特に躊躇しなかったよね。集団だからこそのノリもあったと思うけど。
……というと、ガラム翁はムム、と唸り。
「ならば集められるだけ集めましょう。いかに人の街のもてなしが過激と言えど、銀竜の雌をよりどりみどりという贅沢にはかないますまい」
「いやそこで対抗するの!?」
俺とガラム翁はわけのわからない見栄勝負(というか俺の体験にガラム翁&パレス女性で対抗)に発展。
一方、テーブルの隣同士に座っているネイアとディアーネさんは小声で囁き合う。
「……ディアーネ百人長、止めないのですか」
「別にこの場限りでアンディが楽しむ分には構わない。猫コロニーのような場所もあるから今更だな」
「……鷹揚過ぎませんか?」
「羨ましくなったら混ざればいいんだ」
ナイフとフォークを動かしながら淡々としたものだった。
発生からずっとハーレムが発展し続けていくのを見てきた貫禄というべきか。
一方、とても複雑そうなのがリェーダとエマ。
「……そういうのは私の契約話の後にしていただきたかったのですが」
「……母上や伯母上まで」
続々と集まってきてガラム翁に一礼し、お酌ガールとして服を脱いでいくシルバードラゴンたちの中に、エマは自分の家族や親類の姿を見つけてしまったらしい。
でもマイアは特に何も感じていない顔でもぐもぐしていた。既に一族で種乞いが日常になっている彼女にとっては当然の光景らしい。
あと次々増えていくシルバードラゴン女性の中にはサフル並み……っていうか人間なら10歳にもなってなさそうな子がいるんですが。
「あんな小さい子までやらせるの!?」
「ほう、ソリスをご所望ですか。確かに人ではなかなか楽しめぬ年恰好」
「いや俺は」
「竜は頑丈です。ご所望なら問題なく交尾出来ましょう。孕むかは別ですが」
裸の銀髪幼女は「します?」と上目遣いで言いつつ下腹部に手を添えてさりげなくアピール。
「ほんとエマが清楚なままだったのが不思議だよ……」
「精力に長けた乗り手がパレスに訪れてくれているのです。子供とはいえ、竜が睦言の作法を学ぶにはひと月もあれば十分ですよ」
幼い外見に似合わないしっかりした口調で言うソリスちゃん。
……俺が現れたからクリスタル・パレスの意識改革でこんなことになっちゃったっていうのか。
「でもさすがにここまで小さい子はアウトで」
「……残念です」
ソリスちゃんはすごくがっかりした顔をして服を着直す。
うん、正直どんなもんかなと興味なくはなかったんだけど、手を出したらだいぶ駄目なラインの気がするんだ。いくらサフルみたいに実年齢が俺より上だとしても。
(続く)
前へ 次へ
目次へ