とりあえずという感じで温泉に入ってしまったが、本来霊泉の水を浴びるのは外傷や肉体疲労に効く処方。
 どちらかというと内部的消耗によく効くのは飲用だというのが古くからの言い伝えだ。
 いや、実際のところどっちもある程度は効果があるし、そこにどれだけの差があるの? という疑問に関してはポルカの診療所の医者も把握はしていない。
 ポルカで生活する限りは生活用水は霊泉水がほとんどになる(汲み置きすると効力が死ぬけど)し、温泉は無料なので、療養客はどっちにしろ存分に飲み、浴びることになる。
 まあ治るのだけは確実なんだからいいんじゃないかな? と雑なことを言っている。さすがポルカで一番暇な職業と言われるだけはある。
 それはそうなのだが、金玉の消耗は多分、分類でいうなら内臓的な消耗だと思うんだ。
 もちろん、普通に温泉で源泉に近い方のお湯(垢浮いてないから)を掬ってガブガブ飲めばいい、という身もふたもない方法もあるが、それよりはおいしく心地よく回復に努めたいところ。
 となると、リンジーおばさんのドリンクスタンドに向かうことになるのだった。
「おやアンディ。しばらく見ないと思ったらまた知らない娘さん連れて」
「とりあえずドリンク、みんなに一杯ずつ。……あれ、これって」
 ドリンクスタンドの受付台の上に、盆に乗せられて20個ほどの饅頭が置いてある。
 覚えのある形と香り。
「もちろんリンドンの饅頭だよ。そんなに遠くないんだけど、わざわざ向こうで買って持ってくるのは面倒ってお客が多くてねえ。今度からこっちにも運んでもらうことにしたのさ」
「饅頭なら熱いお茶がよさそうだけどなあ」
「そう思うんだけどねえ。霊泉水沸かしてお茶入れてみてもなかなかしっくり来なくてねぇ」
 リンジーおばさんはそう言いながらも定番の果汁入り霊泉水を作ってくれる。
「でも、この果汁ドリンクと饅頭でも充分うまいっちゃうまいな」
「甘さの方向が違うからねえ。でも、やっぱり甘さ控えめのお茶がいいわよねえ。で、クリスティちゃんに相談したら森には色々なエルフのお茶があるって言うじゃない。持ってきてもらって試そうと思ってるんだけど」
「いや、ちょっと待ってリンジーおばさん。それはちょっと待って。クリスティには俺が話すからそれまで待って」
「なんだい急に。女が自分の見てないところで話を進めてるのが気に食わないってかい? 器量の小さい男だねえ」
 リンジーおばさんに冷たい目で見られるが、そうではない。
 エルフのお茶は人間が飲むと副作用がある場合がある。
 それが原因で、クリスティをレイプしたりした経験が俺にはあるのだ。
 が、それを詳しく説明するとクリスティの名誉にも関わるし、何より俺の所業に対する血も凍る評価が下されることは想像に難くない。いやあれ俺悪くないけど、絶対どう転んでも俺への誤解が進むだけなのが見えるので、敢えて説明はしない。
「それでそのコたちはなんだね。アンゼロスちゃんは知ってるけれど」
「はーい♪ セレスタ南部から来たレスリーって言います♪ スマイソンさんの子供とか欲しいなーって」
「絵描きのグロリア。よろしくね」
「あの……ええと、雌奴隷の……ガラティア、です……」
 うん。グロリアさんはえらい。他二人アウト。
 リンジーおばさんの視線、氷点下。
「……手え出してるの何人目なんだい」
「数えてません」
「親悲しませるもんじゃないよ。いくら霊泉でも刺されて死んじまった後では蘇らせてくれないよ」
「いや一応みんな納得の上でこう、アレなんでほら」
「そんな都合のいい話があるもんかね」
 リンジーおばさん、あくまて懐疑的。
 そこでコスモスさん、フォロー。
「あ、大丈夫ですよー。私そもそも娼婦なんで結婚とか考えてませんし、子供だけ孕ませてもらう腹積もりなんで♪」
「はっ!?」
 全くフォローになっていなかった。
 さらにガラティア。
「わ、私もその……南で何度もらんこ」
「ガラティア。とりあえずそういう話は今度な? ドリンク飲むのに専念しような?」
 今度は俺がインターセプト。これ以上変なこと言い出す前にしっかりポルカでの過ごし方とか教えないと。
「リンジーおばさん。饅頭も全部。釣りはいい」
「えっ、ちょっ……」
 とりあえず口止め料というか、それ以上追求しないでくださいの印に多めの金貨を置き、俺は彼女たちを引き連れてずんずんとスマイソン家に連れて行くことにする。
「こ、コップは返しに来とくれよ!?」
「後で持ってくから!」
 変な常識に染まっていく子を眺めるのは楽しいけど、やっぱり地元では危険がいっぱいだ。
 ベアトリスもガラティアもしっかり教育せねば。あとコスモスさんも多分わかってて言ってるけど注意しなくては。


 スマイソン家ではセレンとエレニア、ジャンヌとピーターが待っていた。
「おかえりなさい、アンディさん」
「良く帰っただよ」
「あれ、男爵邸引き払ったの?」
「んにゃ、まだ放してくれねえだ。特にピーターを男爵の奥さんがお気に入りだでな」
「なんかもう半分自分の子供みたいに思ってますよね、男爵夫人」
「ありがたいけど、そろそろこっちに引っ越さないとな。俺たちが旅烏だった頃はともかく、もうすぐ退役するんだし」
「赤ちゃんのお世話、手伝ってくれる子も多いですしねー。猫獣人の子たちとか、オレガノさんたちとか」
「男爵んちのうまい飯もええだが、貴族の食事に慣れさすと大変だで」
「物心つく前に私たちの水準の食事にしないといけませんね」
 なんだかんだで男爵は金持ちで、食事もいつも庶民とはランクが違う。
 離乳食を過ぎた後までそれで過ごしていたら、庶民の暮らしに戻れない。
 ……のだが。
「竜の乗り手ともあろう方の子供に、あえて貧しい食事をさせるなんて」
「日々の糧に困ることは金輪際ありますまい」
 ミシェラにエアリ、ブルードラゴンのうちの年増組がスッと奥から出てきた。
 当然のように全裸だった。
「ちゃんと表歩く時は服着てるよな……?」
 念のために確認する。いや、俺はとても眼福なんだけど、奥さん方と子供たちが多分困る。いつも全裸の美女が当然の顔して歩いている街として定着してしまうのは色々よくない。
「無論、外に出る時は着ておりますが、この家の中では裸で主様をお待ちするのが礼儀かと」
「我ら、いつでも主様の逸物に奉仕する用意でおります」
「いやそこまでガチで待たれても……というか、一杯相手がいるからそんなに時間使ってあげられないというか」
「私たちのことは精液を吸い込む家具の一つとお思い下さいませ」
「気が向いた時にお使い下されば」
 我が子を抱くセレンとジャンヌを前に、穏やかな笑みを浮かべる全裸豊満美女二人。
「だ、誰……?」
 そのあまりにも堂々とネジの外れた言動に、ガラティアは慄然とする。
「ミシェラとエアリ。マイアの親戚で、二人ともブルードラゴンだ。……よくこの家で、こうしてたむろしてるんで……まあそういうもんと思ってくれ」
「え、えっ……? 確か三頭、だよね? あんたのドラゴンって」
「私たちは契約外ですが、特に乗り手のいない竜は尊敬すべき乗り手に奉仕するものですので」
「もとより我らのパレスにおいて服飾は催事の装いでしかない。みな、裸でいるのが自然なのだ」
 穏やかに新入りにルールを教える美女ドラゴンたち。
 そして、赤子を抱いている二人はそのあけっぴろげなまでの性的アプローチに眉を顰めることすらない。
 いや、ミスティ・パレスにはいろいろ世話になってるしね。
「アンディさんに良く尽くしてくれる方たちですから。文化的に、もし孕ませてもそんなに不利益があるわけじゃないみたいですし」
「不利益など。むしろ孕ませてもらえば一族挙げての祝いとお礼をすることになりましょう」
 エアリがこともなげに言う。……まあミスティ・パレスってそんなノリだよね。マイア以外の四頭もみんな妊娠ウェルカムで。
 母親や従姉を隣に並べてガチ子作りOK、みんな何の疑問もなし、ってのは猫コロニー同様というか、無知では決してないだけに、ある意味それ以上というか。
「……あ、あの、ええと……っていうかあたしも雌奴隷だし、脱いだ方がいいのかな」
 混乱した挙句、必死に素っ頓狂なエロスについていこうとするガラティア。
「いや別にそんなことはないから。こいつらがそもそも服着たがらない文化なだけだから。エッチする時以外は服着てていいんだ。っていうかここ俺の地元なんで本当、指示のない時には空気読んでエロアピールとかしないで普通にしてて欲しい。もう俺がエクストリームスケベだというのは知れ渡ってはいるんだけど、せめて人間としてはクズと思われたくないんであんまり強烈な字面をみんなに言って回らないで欲しい」
「そ、そっか……」
 一度服にかけた手を下ろすガラティア。
 そして何も聞いていなかったように全裸になって服を畳んでいるコスモスさん。
「聞いてました?」
「聞いてましたけど?」
「あのコスモスさん。特に脱がなくていいんで。今から乱交祭り始めるとかじゃないんで」
「いえ、私も今後お宅のおちんちんハメる家具だと思っていただいていいんですよ♪」
「いやちょっと待って下さい。とりあえずウチの嫁たちの視線まで冷たくするのやめて下さい」
「コスモスってなんか聞いたことあるだな」
「確か前にカルロスさんに用意してもらったタルクの娼婦さんでしたっけ」
「はい♪ ご主人のおちんちんと精力に惚れ込みまして、この際妊娠させていただけると嬉しいかなーって」
「なんでそうなるだ」
「娼婦の人って妊娠NGなんじゃありません?」
「あ、私の場合娼婦業は趣味なんで。娼館自体私のですし。ウチに末永く縁を持ってほしい、例えばウチの味方にしておきたい人だったり、娼婦のコたちも喜ぶようなすごいセックスする人だったりはこう、赤ちゃん産むって形で誠意を示したいかなあって」
「……アンディさん」
 セレンがジトッとした目で俺を見る。いや、そんな見られても困るというか。
「お金払ってまで、そんなに色んな女の子と遊びたいんです?」
「い、いや、それは俺の意向じゃないぞ」
「あ、私を見事妊娠させてくれたら、以降のウチでの女遊びはロハでいいですよ♪」
「……わかんねえだ。何考えてるだこのダークエルフ姉ちゃん」
 ジャンヌの疑問に、コスモスさんはおっぱいを持ち上げるように下から抱きつつ明るく言う。
「ご主人のおちんちんが好み……ってのも本音ですけど、経営者としてはドラゴンライダーでオニキスの秘蔵っ子六人メロメロにしちゃう人、味方にしとかない手はありませんし♪」
「……エロイのかドライなのかわかんねえ姉ちゃんだなや」
「まあ、理解はできる理屈です。それで子供作って人質にするっていうのは気に入りませんけど」
「人質じゃないですよー。価値観の違いです。子供を不幸にするような育て方はしませんよ♪ まあ、ウチの娼館の文化を許容できれば、って感じですけど」
「説明、してもらえますよね」
「んだ。雌奴隷って腹積もりでねえなら、きっちりしておく必要あるだ」
「もちろんです♪」
 一応、既に子供を抱いているセレンやジャンヌを前に、エッチする気満々の全裸のまま、コスモス本舗のシステムの説明を始めるコスモスさん。
「強いわよね……この状態で堂々としてるなんて」
 グロリアさんはさすがに張り合う勇気はないようだった。
 そしてガラティアも、ポルカを静かに牛耳る雌奴隷の巨頭たち相手に尻込みしたようで、不安そうに言ってくる。
「あ、あの……あたし、大丈夫、かな? 今更やっぱり駄目だから帰れって言われても帰れないんだけど……」
「大丈夫。ちゃんと雌奴隷になるつもりの子にはこいつら寛容だから」
「……え、ええー……」
「そういうもんなんだ」
 改めて、おかしな話だと思う。しかしそういうものなのだとしか言いようがない。

(続く)

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