肉ケーキはタルクらしいというかセレスタらしいというか、やたらとパワーが付きそうな味がする。
 馴染みのある豚肉や鹿肉、牛肉といったものや、鳥類かなんかと思われる肉も折り重なり、さらに何やら内臓と思われる特殊な歯ごたえの肉も織り込まれている。それぞれに丁寧な下処理と大きさ太さの違う断片化が施され、緻密に計算された甘さと酸味、僅かな苦みを含むソースが調和を図っている。
 また飽きが来ない程度にネギ、イモ系と思われる植物の香りと歯ごたえも混ざっており、相変わらず途方もない手間暇とセンスを感じさせる一品に仕上がっている。
 とまあ要するに、大してグルメでもない俺では詳細に分析しきれないような繊細な代物ながら、方向性としては実にマッチョでエネルギッシュな料理。
「どんだけの種類の肉使ってあるんだコレ……」
「どうぶつの種類ベースだと9つ。牛豚鹿ラクダ羊、砂漠トカゲにダチョウにあとなんだっけ」
「アロワナとヘビ肉も使ったよー」
「ヘビ?」
「なんかでっかいやつ。全長が私とルキノが両手広げたくらいあった」
「なんかって……」
 雑な。
 と思ってたらミラさんが気まずそうに補足してくれる。
「……コブラよ」
「……コブラってーと」
「湖沼地帯やクイーカの方にも住んでるけど、首の周りになんかこんな感じの襟みたいなのがついてるヘビ。毒蛇ってことで有名だけど、出入りの食材商人が置いていったらしいから普通に食べられるはずよ」
「毒蛇……」
 北の方にはあんまりいないからちょっとビビる。そして平然と料理するシーマさんの胆力にもビビる。
「毒蛇如きがなんじゃ。食える部分を使っておるのじゃろう。虫を食うのに比べれば大して気にもなるまい」
「そりゃまあ……うん。でも北の郷土料理じゃんあれ。氏族長自ら腐していいのかよ」
「わらわはあまり好まんからの。特に足が嫌じゃ」
「アイリーナ様はこれで結構好き嫌いが多いものですから……」
「わらわが正常なんじゃ。古代どれだけ飢えておったのかと思うような料理をいつまでも残すのは感心せんわ」
 アイリーナがフェンネルに口元を拭われながら愚痴る。
 まあ誰もが好きなもんばっかりでもないよね。郷土料理って。俺も野草料理苦手だし。
「それと内臓だとか部位だとかでそれぞれ処理を変えてるから……全部で40種類くらいのお肉フェスティバルになるかな」
「そんなに」
「正直組み立てながらちょっとトランス状態だった」
「……あんまり二度三度とやれそうなもんでもないですね」
「全く同じのを作れと言われると難しいね。いつものことだけど」
「シーマは料理する時に完全にセンス頼りだからねー」
「食材いじりながら考え込んでたらまずくなるじゃん!」
「それもそうなんだけどね」
 ほとんど考えずにうまいもの作れるっていうのはすごい天賦の才だと思うと同時に、ちょっとだけわかる気もする。
 いい素材が手に入ると「こんないい素材ならこう活かさなきゃ」っていう直感が働くことは、物作りをしていれば誰もが体験することがあると思う。
「あと今回は精力料理っていう方向性が決まってたしねえ」
「……精力料理?」
「あ、そうそう。ホントはこれ、アンディ君向け料理の試作だったんだった」
「俺向けなの!?」
「だって肝ばっかり食べるのはつらいって言ってたし」
「それは……うん」
「別に肝臓だけじゃないんだよね、精力つくものって。食材の組み合わせのシナジーは色々あるし、直接味に関わらない部分にも工夫のしようはあるし。そういう風に単一目的の料理でも楽しみ方は無限だというのを我々は実践したいのです」
「我々っていうか主にシーマだよね」
「なんだよ私一人が張り切ってることにしたいのか! 別にそれでもいーんだぞ! これ作ったの私一人の手柄でいーのか!」
「はいはい。ちゃんと三人でやったよね」
 なんだかシーマさんが一番料理面で有能なのに三人の中では末っ子みたいな扱いだ。
 まあ、長年のコミュニケーションの役割分担みたいなものもあるんだろうけど。
「……って、ちょっと待ってシーマさん。つまりこれ皆食べたってことはみんなヤル気満々のギンギンになるのでは」
「…………そうかもしれない」
 てへ、とシーマさんが笑ってごまかす。
 いやちょっと待とう。俺がヤル気になるのはともかく女の子たちがみんなギンギンはますます俺が不利になる。
「……だってほら、コレ試作品だし。おいしいかどうか味見だけって感じのつもりだったし」
「戦争が始まってしまう……」
「まあでもホラ、アンディ君ってあれでしょ、女の子がいくらエロくてもウェルカムなんでしょ?」
「そりゃそうなんですがこれから行く場所が問題でして」
 説明するのもまどろっこしい。
 このままでは猫コロニーに辿り着く前にみんなと一戦交えていかなくてはいけなくなる。
 いや、それでもいいといえばいいんだけど。できればモタつきたくはないよね。
「ライラ! マイア! エマ!」
「ほ。わかっておる」
「急げば夕方には着くよ」
「場所はわかりませんが全力で飛びます」
 三人ががそれぞれバッと脱いだりポーズを取ったりしてドラゴン体に変化。
「みんな、次に行くぞ!」
「え、もう?」
「せわしないねぇ」
 まだ食べていたグロリアさんとレディが慌てて肉ケーキの欠片を口に押し込む。ワインをそっとメイドさんたちが差し出して流し込んでいる。
「ルナ、ガラティア知らない? どこに行った?」
「さっきフラフラとあっち行った」
「連れてきて。僕はベアトリス探す」
「ベアトリスなら私が探します」
「あの二人はちょっと目を離すといなくなってしまいますわね」
 アンゼロスやルナ、ネイアはシャッと散って新参二人の捜索。ガラティアは大陸のしかも大金持ちの屋敷が珍しいから仕方ないとして、ベアトリスも困った子だ。
「それでー。……私はついてっていいんですよね?」
「……ポルカ観光なら特に拒否はしませんが」
 トトト、と俺の元に歩いて来て笑顔で手を握ってくるコスモス嬢。
「専属娼婦とかそういうのは結構なんでそこらはよろしくお願いします」
「お互い悪い話じゃないと思うんですけど」


「……このコロニーがある意味、全員俺専用娼婦なんで」
「ほえー……」
 タルクから飛ぶこと数時間。
 ラッセル砂漠中部の猫獣人コロニーに着くころには夕方になっていた。
 そしてドラゴンが三頭ばさばさ砂漠に着陸すると、家々からいち早く駆け寄ってきた猫娘たちが俺を見つけてみんなでにゃーっと歓声を上げる。
「お客さんだー♪」
「なんかいっぱいきたー!」
「みんなに知らせてこなきゃ!」
 こちらも女の子の数は多いが、それ以上の数の年若い猫娘たちが馬車三台を囲み、俺をもみくちゃにして大喜び。
「この子達全部?」
「ええまあ、はい。多分全員、俺に中出しされた経験あると思います」
 グロリアさんやノールさん、それにミラさんたちも含め、初めて来た人たちは無邪気で純朴な猫たちの姿にいぶかしげな顔をする。
 見た感じは普通の田舎の女の子たちといった感じで、俺が話していたようなエロパラダイスの住人には見えない。
 が。
 ……俺もちょっと好奇心というか悪戯心というか、そういう感じのものが働く。
 三十人くらいの猫娘たちを見回して。
「じゃあ……早速エッチしたいから、みんな脱いで裸になってくれ」
 夕景の砂漠で堂々と言い放ってみる。
 ……猫娘たちは少しきょとんとして、そして見慣れない客たちの視線を少し気にして。
 でも、お互い顔を見合わせて、悪戯っぽく微笑み合ったあと。
『にゃーーーーーっ♪』
 見通しのいいその場で、みんなでスポーンと服を脱いで、空に投げた。

(続く)

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