ノールさんに話を通すと、わりとすぐにミラさんシーマさんルキノさんの三姉妹が現れた。
「もう南まで行ってきたんだ。早いねー」
「今作ってたんだけど食べる? シーマの謎料理」
「謎ってゆーな! 私だけの責任にするなー! 二人とも一緒にやってたじゃん!」
 相変わらず暇があると料理しているようだった。
 そして彼女たちがワゴンで運んできたのはでかいケーキのような何か。
 形だけならケーキと言って差し支えないので第一印象はそれ。だが精緻に組み上げられているのは肉やフルーツ、各種野菜の小片で、ケーキ的な軽さは全く感じられない。どちらかというとミートパイの親戚だと思うのだが、こうも立体的に材料が組み上げられているのは見たことがないので正直なんと言っていいものやら。
「題してシーマ肉」
「私の肉みたいじゃん! 自分の肉食わせるヤバい奴みたいじゃん!」
 ……いるけどね世の中にはそういう子。いや具体的にはブレイクコア。
 そんなことはともかく、さっそく食いしん坊のネイアを始めとして、雌奴隷たちの中でも肉山盛りに怯まない子が寄っていく。
「どうやって食べるのでしょうか」
「ほ。手づかみで良いのではないか」
「せっかく綺麗に盛りつけられているのに乱すのは忍びないね」
「ナイフで切り分けたらいい」
「どなたか清潔な刃物を持ってませんか?」
 ネイア、ライラ、アンゼロス、ルナ、それにフェンネル。フェンネルは食べたいというよりみんなに給仕するつもりなんだろう。
 で、ミラさんがメイドさんに指を鳴らすと、ササッと近くにいたメイドさんが料理用ナイフを持ってきてくれる。
「どうぞ」
「あ、どうも」
 何故か少し離れていた俺が受け取る羽目に。
 で、みんなの視線が集まってきたので仕方なく肉ケーキをザクザク切り分ける俺。
 ……って、いや、そうじゃなくて。
「いやあのさ、俺たちこれからまた北の方に行くんだけど」
 手を動かしながらミラさんたちに現状説明。
 ドラゴン編隊で砂漠の上を飛び、ルナの故郷の猫獣人コロニーに一日滞在したあと、ポルカに向かうという旅行プランを告げる。
「……で、えーと」
 ……そこまで喋って、俺はどう言えばいいんだろう、と少し悩む。
 中出ししてやる約束だからついてきてくれ?
 いや料理切りながら言うことかそれ。
 っていうか、それに関してはわざわざタルクの外まで連れ去らなくても、ここで数時間あればできるっちゃできるし。
 えーと。だとしたら俺は彼女たちにこの後何と言えばいいんだろう。
「この娘らも連れていきたいのかい?」
 ひょい、と切り分けた肉ケーキを取りながらレディが話の合いの手を入れる。
 俺は少し悩みつつも頷く。
「せっかくだし……」
 他に理由らしい理由が言えない。
 レディがたっぷり300グラムはありそうな肉切れを二口で食べるのに地味に驚きながら、どう誘ったものかと思案していると、ミラさんは困った顔をした。
「トロットってあんまりダークエルフに風当り良くないんでしょう? ディアーネ姉さんやヒルダ姉さんみたいな無敵キャラはともかく、私たちはちょっと心配なのよね」
「無敵って何よう」
「誰に対しても同じ態度で押し通せる実力があるでしょ、二人とも。そういうのは私たちにはちょっと無理よ」
 ああ、うん。無敵だよね、二人ともある意味。
 ディアーネさんは武力、ヒルダさんはその医術とエロさによって誰からも畏怖され得るエキスパートだ。ダークエルフを差別的に扱う北のエルフですら、容易には手を出せないほどに。
 ノールさんもおそらく、ポルカで保守的なエルフに行き会ったとしても寄せ付けることはない。存在感が凡人とは違う。
 だがミラさんたちはどうか。
 少なくともパッとわかるレベルでタダモノでない感じはしない。
 そういう人がポルカにいきなり行ってどういうことになるか……うーん。
「いや、むしろエルフ領の者共の意識を計る良い機会じゃ。ぜひとも来て欲しいものじゃな」
 アイリーナが、割と小さな切れっぱしをフェンネルに貰いながら言う。
「かつて保守派の爺婆どもが宿敵とすら目したトロットの人間族とも、ぎこちなくはあるが友好関係を結べておる。じゃが、それだけでは足りん。現状はポルカの優しい住民たちに甘えて上手くいっておるが、エルフ族の頂たる九氏族の民の器が、そんな甘えの中でしか通用せぬものであってよいはずがない。ダークエルフともドワーフとも、どんな種族とも紳士的に行き会う気構えがあってこそ、ポルカという理想郷に顔を見せる資格があるというもの」
「そのための試験官にミラさんたちを使おうっていうのか?」
「出来れば、じゃがな。もしも不愉快な思いをしたようなら、遠慮なくわらわに報告して欲しい。エルフはあそこで我が物顔をしておってはならん。子々孫々、その先の時代にまで、エルフがポルカの良き隣人であり続けるためじゃ」
 立地もあり、また氏族長というトップクラスの実力者が陣取っていることもあって、ポルカにおいてはエルフという種族が優勢な状況だ。だが、それを鼻にかけるようではいけない。
 ポルカにはクロスボウ隊の駐屯地もあり、またいずれはカールウィンの民も近くに引っ越してくる。そのうちきっと、国際色豊かな町になるのだ。
 どんな隣人ともうまくやる「マナーのある先客」でありたい、というアイリーナの願いは、立派なものだった。
 が、それで実害を受けることになるかもしれないのにポルカに来てくれ、と言われたミラさんたちにとっては、得の多い提案なのだろうか。
 ……と、思うが。
「そういうことなら面白そうじゃん」
 ルキノさんがニヤリと笑い、乗り気になる。
「え、本気? 行くの?」
「つまりあれでしょ? 基本お友達になれる前提のエルフが集まってるわけでしょ?」
「そりゃそうだけど……そうでないのにあたるかもよ、って言われてるようなものじゃん」
「みんなで敵視してきて針のムシロっていうなら行くだけ苦行だけどさ、エルフがわざわざそういう対等の場に出てくるなんて珍しくない? ポルカの霊泉がすごく美容にいいっていうのも魅力だしさ、そういうツアーなら行く価値あるよ。何より私らは商人の娘、人脈は広げて損はなし!」
「もっともらしいことを……」
「何よりタダで、歩く苦労もなく旅ができるんだから行かなきゃ損でしょ? それにほら、アンディ君もいるし」
「あー……う、うん」
「それはねー……うん、確かにね……」
 三人で照れくさそうに視線を交わしつつ、チラチラとこっちを見る。
 やはり彼女らも中出しの約束を気にしてくれていたようだ。
 よ、よし。なんとかカルロスさんちの面々の見てる前でもある程度恰好がつく流れになったぞ。
「でしたらメイドは何名手配されますか」
「うわっ」
 いきなりメイド長が背後にいた。
 びっくりして切り分けた肉ケーキが一つ落ちそうになって、マイアが滑り込みキャッチしてくれる。
「い、いや、メイド?」
「お嬢様方の身の回りのお世話や食事の用意、護衛に暗殺にスマイソン様の下半身のお世話まで何でも承ります」
「他はわかるけど護衛とか暗殺!?」
「心得がある者もいるという程度ですが」
 メイドに何をやらせてるんだカルロスさんは。
「まずアンディの下の世話ってとこ突っ込もうよ」
 アンゼロスがジト目で言ってくるが、もうこの人たちは最初からそれ目当てな気がしているので俺は敢えてそこには触れない。触れたらまずい気がする。
 黙っていたノールさんが少しうんざりした感じで助け舟を出してくれた。
「メイドはいらないわよ。そもそもあなたたち屋敷以外の仕事しないでしょ」
「は。差し出がましくはありますが、ご用命ならばと」
「またそのうち弟クンも戻ってくるから焦らずに待ちなさい」
「かしこまりました」
 俺また戻ってきて彼女たちと乱交するの既定路線ですか。いいけど。
 ……一応、若干下品な単語は出たものの、なんとかまともな会話で済んでいる。
 レディも「おやおや、メイドにまでモテてるのかい」という顔であるが流してくれてるので、一応セーフライン。
 だったのだが。
「それでウチの娼婦は何人くらい持っていけます?」
 嬉しそうに現れたコスモスさんが一気にぶっちぎった。
「持っていくってなんですか!」
 思わず勢いよく返答してしまった。さっきのメイド長には我慢したのに話題に触ってしまった。
「それはもちろん道中の慰みにしてもいいですし、雌奴隷さんたちの技術指導員でも、なんなら身請けでもいいですし♪」
「みんな趣味だから身請けがないのがコスモス本舗だったんじゃなかった!?」
「便宜上の表現ですよお」
「何の!? いやいいですごめん。というか何でそんなついてくる気満々なんですか」
「んふふー。聞きたいですか? 言わせたいですか?」
「……とりあえず食事中なんでこれ以上は下品な話題はやめましょう」
 溜め息。
 とはいえ、ポルカに行きたいというなら断る理由はない。美容にいいから、という大義名分は女性なら誰だって惹かれるのだろうし。
「スマイソンさんなら、ウチの子100人ぐらい持って行って後宮に入れてもいいんじゃないかしら。知ってます? ああいうのって充分な生活が保障できてるなら、実際のエッチはたまに相手する程度でもいいんですよ? 普通の人間族の精力考えれば当たり前ですけど」
「いや本当そういうのはもうたっぷりいるんで。俺のエッチ相手として娼婦さんを拉致っていくっていうのはナシで」
「特にこの前呼んだ子なんて、みんなお呼びを楽しみにしてますけどねー」
「また行くんでその時によろしくお願いします」
「アンディ……」
 アンゼロスが呆れた顔をしたが、こう言わないと収まらないじゃん。
「相変わらずだねぇコスモス」
「スワロー♪ あなたも相変わらず立派な体格」
「どうもあの女医が言うには、ポルカってトコならこの肉をなんとかできるらしいんだけどね。ま、少しでもマシになるならと思ってね」
「そっかー。うんうん」
 コスモスさんとレディが和やかに再会を喜ぶ。
 俺は肉ケーキをほおばりながら、できるだけ早く出発しないとたいへんなことになるぞ、と思う。
 メイド長とコスモスさんは止めたが、他のメイドさんや前に関係した娼婦の皆さんがここぞとばかりに押し寄せてこないとも限らない。
「ライラ。マイア。エマ」
「ほ?」
「なに」
「ご用ですか」
「食べ終わったらすぐ飛ぼう」
 俺が言うと、三人はそれぞれすぐに頷いてくれる。
 正直言うと、娼婦やメイドのみなさんをドカンと連れていくのも興味ないわけじゃないんだけどね。
 これから猫コロニーに種付けに行くってこと考えると、あまりないがしろにできないお相手の人数は増やせない。
 あと、セレンやディアーネさんにも何と言っていいのやら。せめて彼女らに話を通してからじゃないとややこしい。

(続く)

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