酒場であんまり酔えなかったので、お持ち帰りの酒をカメに入れてもらい、寝床で呑むことにしてファラールをあとにする。
「こんなに暗くなってもドラゴンってちゃんと飛べるの?」
「ほ。関係ないわ。なんなら嵐の中とて間違いなく飛んでみせよう」
 ファラール郊外の闇の中でライラがブラックドラゴンに大変身する。
「ま、そういうのはチビどもの方が得意ではあるがのう」
「チビどもって……」
「私たち氷竜の方が特性的に雨風に感覚が強い。こんな近距離ならともかく、大陸間を飛ぶような話になると、ライラ様は多分星がない日はちょっとコースずれる」
「赤クジラってそんな近場扱いなんだ……」
「人間だって歩いて半日もかからないのは大した距離って言わない。ドラゴンが自分の翼使っても一緒」
「スケール違う……」
 改めてドラゴンたちのとんでもなさに感心しているガラティア。
 そしてベアトリスは何かの拍子に呑んでしまったらしく、酔っぱらってネイアに背負われている。
 俺が背負おうか、と言ったのだが、それなら私が、とエマが気を使い、小娘が小娘を背負うのは見目が悪かろう、とライラが代わろうとし……回り回ってネイアになったのだった。
「豊かで平和な夜っていいですねえ……」
「平和かどうかはともかく、酒も料理もいい街ではあるな」
「カールウィンでは望めなかったものですよ。お酒を飲んでいい気分でこうして夜道を歩くなんて」
「ああ、そりゃあ……な」
「それも、こんなに遠い国……呑んで食べて珍しいものを見て、そして夜には愛されて……つくづく人生、楽しいです」
「……地味に今夜のエッチ、プレッシャーかけてる?」
 っていうか昼間にさんざんフリーダムしたよね。
「あ、いえ、そんなことは……で、でも、みんな裸にして睦み合って寝るんですよね?」
「……まあ寝床の様子次第だけど、できるようなら」
「楽しみです」
 屈託なく笑みを浮かべるネイア。すっかり芯まで雌奴隷だ。

 馬車に乗ってライラに運ばれ、赤クジラまでひとっ飛び。
 で、当然のことながらテオ船長は不良娘の深夜帰りにカンカンに怒っている。
「どこに行っていた」
「うっさいなぁ」
「答えろ」
「アンディと遊んでたんだよずっと! 父ちゃんがどーのこーの言うことじゃないだろ!」
「貴様……!」
 割とダイレクトに俺に迫って来ようとするテオ船長を、戻っていたバウズが押し留める。
 まあライラとかエマが暴力は許さないだろうけど、バウズが止める方が絵ヅラ的にカドは立たないよね。女と掴み合いになる(しかも多分負ける)とテオ船長だいぶかっこ悪いし。
「ファラールでは遅くまで遊んでても平気だったじゃんか! 何肝っ玉小さくしてんだよ!」
「向こうにいた時はゴロツキなら直接締め上げられた。今は直接手が出せん。どうなっても助けられん」
「父ちゃんより強い女ばっかりだよ」
「お前の面倒を見る義務はそいつらにはない。見捨てて飛んで逃げられる連中に任せられるか」
「本当に子離れできておらんのう……」
 ライラが呆れる。まあ親としては正しい姿だと思う。
 けど、どうしたもんかな。
 ガラティア貰おうという話になったら、この人死ぬ覚悟で挑んできそうな気がする。
 なんとか平和裏にそういう話に納得してもらえないもんか。
 と、思っていると。
「あ、父ちゃん。あたしポルカってとこ行くから。海賊の女にはならない」
「……なに?」
 ガラティアは何の溜めも駆け引きもなくいきなり切り出す。
「どういうことだ。許さんぞ」
「あたしは父ちゃんの嫁じゃない」
「だからってついていっていい相手と駄目な相手はある!」
 うん。俺が親でもついて行っちゃ駄目な相手と即断すると思う。
 気軽に攫って行って処女膜破って腰が抜けるほど種付けしてぬけぬけと帰ってきたという、今の行動を知ればなおさら。
「父ちゃんがそんな相手探せるのかよ。どうせ顔の利く相手だって海賊じゃん。ロクデナシばっかりじゃんか」
「……政府の海兵やファラールの商人にだって顔が利かんわけではない。いい相手は……さ、探してやる」
「できもしないこと言うなよ。っていうか、父ちゃんのツテで生きてる限りは、あたしもどこ行ったってロクデナシの子でしかないじゃんか」
「ぐっ……だが! お前は一人で生きる実力などない! 狭いラパールの狭い海賊の世界の事しか知らんのに、親の手を離れて何になれるつもりでいる!」
「そんな言い訳でいつまでも逃げられると思ってるから父ちゃんは嫌いなんだよ!」
「言い訳だとっ……親に何を……!」
「一人が寂しいなら自分で女でも捕まえろよ! 子供は親の寂しさ紛らわす人形じゃないんだよ!」
 あの。
 本当にどっちの言い分もわかるんですが、そのせいでどっちの台詞もきついんです。
 やっぱりやめようかなガラティア連れてくの。雌奴隷にするの。
 どう考えたってこういう啖呵切って陸に上がって即ちんぽ漬けは、パーフェクトにバッドエンドだよね今更だけど。
 ガラティアが「海賊じゃない真っ当な女の子になりたい」という気持ちは歓迎すべきことだ。お題目としては。
 テオ船長に、いつまでも子供で寂しさを紛らわせてはいけない、というのも道理だ。
 でもそれをテオ船長が認めた瞬間、彼女は俺とのセックス中心の生活になる。全然真っ当じゃない。海賊の方がまだちょっと真っ当かもしれない。人の尊厳として。いや、雌奴隷より海賊の方が下ってことはないよね。
 ……俺はその外道な人生急展開を幇助していいんだろうか。
 テオ船長とガラティアががなり合っているのを見ながら頭を抱えていると、アイリーナがスッと横に立つ。
「悩み深い顔をしておるが、そう悩むことはないぞ、スマイソン殿」
「アイリーナ」
「たまに遊ぶことはあるが、そなたは女を真に奴隷とは扱わぬじゃろう。側室と呼ぶには見合わぬ身分ゆえにそう呼ぶしかないだけで、そなたの雌奴隷は惨めなどではない。何故それを忘れてしまうのか」
「……そ、そりゃそうだけど……」
「多くの竜を統べ、人の世を守る偉大なドラゴンライダーの側室。悪い前途ではない。そなたは胸を張っておれ」
「……でもイリーガルな暴力で成立する立場だよな、ドラゴンライダーって。海賊とあんまり変わらないよな。……もしエレニアがこれと同じことを言って反抗したら俺どうしよう、って気持ちにどうしてもなる……」
「そんな先のことを気にしてどうする。将来のことは将来気にすればよいじゃろ。そなたは幸せにしてやるべき娘を一人増やした。かの娘はほんの少しのしがらみと引き換えに、女としての快楽を得て、そしてそなたの強い味方全ての間に居場所ができる。それだけじゃ」
「……それでいいのかなあ」
「よいのじゃ。それが正当だからこそ、ここまで雌奴隷が膨れ上がったのじゃろ」
 なにより、とアイリーナが小さく囁く。
「もしもエレニアがそんなことを言い出したら、エレニアにもそなたのスゴさを教えてやればよい。あのセレンの娘が、それで尊敬をせぬわけはないじゃろう」
「……親としてそれは絶対に避けよう」
「なんじゃ。猫コロニーでは娘の前で母親を犯すくらい余裕じゃったと聞くが」
「よその親子をまとめて抱くのと自分の娘に欲情するのには天地の差があると思う」
 絶対そういうつもりで娘を育てる男親になってはいけないと思う。うん。
 なんというか最悪だろういろいろ。
「別にエレニアを犯せと言うておるわけではないのじゃが。……そなたの夜の様子がどれだけ凄まじいかを知れば、凡百の男と違う父の偉大さをエレニアとて理解せずにはおれぬという、な」
「いやどっちにしても親のセックスを娘に見せるのは教育としてその」
「やったんじゃろ」
「……はい」
 言い負けた。
 いや、でもなるべく避けようそれは。エレニアにはまともな子に育ってもらいたい。
 ……なんて言っているうちに、テオ船長はガラティアに完全にやりこめられて顔を真っ赤にし、鼻息を荒くしながらこっちをチラチラ睨んでいた。あわよくば俺を叩きのめして話を終わらせたいという感じだ。
「殴られそうな流れになってきた」
「ライラ殿が守ってくれるじゃろう」
 などと言っていると、案の定テオ船長はズカズカとこっちに肩を怒らせて歩を進め、襟首に手を伸ばす。
「貴様、ガラティアにどう……」
 と、その太い腕をパシッと掴む小さめの手。
 ライラではなかった。
「……むにゅ」
 眠そうなベアトリスが、何故かいつの間にかネイアの背を降りてテオ船長の手を止めていた。
「放せ……っ、っっ!?」
 テオ船長は振り払おうとして力を込めて腕を振ろうとして、……何かおかしな感じに力を利用されたような動きで人形のように空中をぐるりんと暴れて地面に逆さに落ちた。
 ポルカのエルフ四人娘のローリエがやる空気投げみたいな感じだった。
「……にゅふふふふ?」
「な、何だこの娘はっ……貴様、男なら小娘の陰に隠れず正々堂々とっ……」
「うひゅー♪」
 なんだかよくわからない声を出しながら楽しそうなベアトリスは、勢いをつけて跳ね起きたテオ船長をその勢いのまま明後日の方角に投げ飛ばしてしまった。
「ぐぬぁっ!?」
 何やってんだ。っていうかやり過ぎだ。
 そもそもベアトリスってエースナイトとしての基準ではそんなに強くない方のはず。テオ船長を一方的にボコれるような腕じゃなかったはずだが。
「いい加減にしろ、娘っ……俺はそこのスマイソンと……」
「ぬふふふふふ」
「な、なんだその動きはっ……やめろ薄気味悪い、なんなんだっ!?」
 異様に早い千鳥足という奇妙なステップでテオ船長に迫り、袖や帯を手当たり次第に掴んで引いて、そして投げ飛ばす。
「ぬおおおお!?」
「あひははははは」
 …………。
「おい、ネイア。あれ何」
「……わかりません……あんな動きはカールウィンの教練にはありませんけど……」
「っていうか酔って暴れてるだけなのかあれは。テオ船長もエースナイトに近い実力だったはずだけど」
「普段のあの子より強いかもしれないですね……」
「……止めよう。下手するとテオ船長死ぬぞ」
「は、はい」
 ネイアとアンゼロス、オーロラ、そしてマイアとエマが総がかりで取り押さえにかかる。もちろん俺も。
 が、その面子をベアトリスは次々変な動きでぶん投げ、奇怪な笑い声を上げてヌルヌルと捕縛を逃れ続ける。
 明らかに普段より強い。
「ら、ライラ、バウズ、これなんとかして!」
「ほ」
「仕方がないな」
「いや、わらわに任せよ。……ベアトリス、わらわを見よ!」
「ふひ?」
「────!!」
 アイリーナは「毒蛇の目」を発動し、ベアトリス麻痺、転倒。
 ようやくベアトリス大暴れは止まった。
「……父ちゃん、生きてる?」
「う、うぐぐっ……な、何なんだ奴の一味は……あんな子供までが……」
 テオ船長はめったやたらに投げられまくり、起き上がることもできないほど酷い目に遭っていた。
 ……本当にうちの子がすみません。

(続く)

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