ドラゴンに乗ってラパール諸島首都ファラールへ。
 小さな国だが海の幸と貿易の品々は多く、種族的に開放感がある面もあって、下手するとセレスタのどの街よりも息苦しさは少ないかもしれない。
 もちろんガラの悪い連中も多いが、それに関しては俺たちは特に恐れることではないし。
「旨い酒がある酒場が良いのう」
「甘い果物ほかにもいろいろあるってほんと?」
「主様、この装いは少しおかしいでしょうか? 先ほどから妙に視線を感じますが……」
 ドラゴン三頭がいるのにチンピラが何人寄って来たって話になるはずもない。
 ……というか、さっきから何人かフェンネルやグロリアさんに手を出そうとしてはエマやライラに路地裏に連れ込まれて帰ってこなかったし。
「エマ、多分ちょっと厚着すぎるのが問題なんだ。ここらはあんまり丈の長い服は着ないから」
「そういえば……そうですね」
「普通は蒸し暑いんだよ」
 ドラゴンはただでさえ暑さにも寒さにも強い。
 だからライラのような雑なドラゴンはどこに行っても適当な布を巻いただけみたいな雑な服装だったりするし(それでも何か由緒ある服に見えなくもなかったりするけど)、それでも何一つ本人的には問題ない。
 が、ライラの場合は「服に金をかけないのかな、美人なのに」と思うだけなのでともかく、エマのように上等な着物で、しかも北方の重ね着しまくる系の服は場違い感がすごい。暑くないのか、とか、何の祭りだ、とか、どこのお大尽の娘だ、とかツッコミの仕方に迷ってしまう一般の方々の気持ちもわかる。
「わらわのように臨機応変に着替えればよいのじゃ」
 アイリーナはその点フットワークが軽い……というか、色々な気候に合わせた服をあらかじめ用意しているらしく、北にいる間は暖かそうなローブを着るし、南に来てからは足や腕丸出しの活動的なミニワンピースを着たりする。
 普通の貴人がそんな服装をしていると「はしたない」と言われかねないが、まあウチの雌奴隷として首輪付けてる時点で今更だ。それに見た目がだいぶ幼いので、少々露出が多くても性的な雰囲気があまり出ないというところもある。
 あとエルフの森でも露出に関する観念は色々と怪しい部分あるよね。一概に「女が肌を見せる服を着るのは俗悪」というトロット的な感覚とは一線を画しているところはある。それもあっての服の用意の良さなんだろう。
「しかし、そんなに多くの着替えは持っていませんし……」
「エマの分の服ぐらいはそこらで買えるだろ。ライラ、なんか金に換えられそうな小物ある?」
「ほ。多少は貴金属類もあるが、換えるアテはあるのか」
「確かガラティアが前回面通ししてくれた商人がいる……よな?」
「ああ、ヘザーさんに通せば間違いないね。父ちゃんも顔見せたうえで話つけたし」
 ということでエマの服の資金(と、夕食代)のためにライラの蓄財をちょっと使おうとすると、そこでグロリアさんが待ったをかける。
「せっかくだし、絵とか売れない? こういうところじゃ難しいかな」
「絵?」
「絵。それもエロスは万国共通語だと思うのよねぇ」
 グロリアさんは手荷物の中から一枚広げる。
 それは……顔や髪、肌色の特徴を変えているが、体型的にはノールさんあたりだと思われる裸婦画だった。
 深い森での水浴びをイメージし、神秘的な雰囲気に彩色されたその絵は、確かにどこでも通用しそうな感じがある。
「ノールさんかな、これ」
「お、よくわかるわねぇ。顔かたちや色は別人にしてあるのに」
「グロリアさんの筆なら細かいところまで表現してると信頼できるから、わかるよ」
「やーもう、褒めてくれちゃって」
 なんか妙に照れているグロリアさん。ちゃんと描けている前提で評価されるのが嬉しいのかな。
 ……そしてガラティアは困惑する。
「こ、こんなえっちぃ絵を誰に持っていけばいいのかなぁ」
「普通にその商人さんに持っていけばいいんじゃない?」
「ヘザーさんは金銀宝石には強いけど、こういうのの目利きは怪しいんだ。そもそも両替商だから、普段そんなに手広く売り買いしてる口じゃないし」
「まあ、美術品は専門家じゃないと値を低くつけられがちよねぇ……しょうがないけど」
 グロリアさんは苦笑する。ある程度は買い叩かれても諦めよう、という感じだ。
 ヒルダさんが手を叩く。
「それならいっそのこと街で大々的にオークションしたらどうかしら」
「って、誰が!?」
「あら。これでも私、商人の娘よ? ツボは心得てるつもりだけど?」
「それ女の裸の絵だよ!?」
 ガラティアは「正気?」みたいなリアクションだが、その程度でヒルダさんが気にするわけがないのは他全員が分かっている。
「俺、それよりも自分の妹の素っ裸の絵を叩き売りしようとするヒルダさんがちょっと怖い」
「でもノールさんもエロスに関してはあんな感じだからね……」
「色がこうも変えてあるなら別人ともいえますわ。……まぁ、白エルフでここまで豊かな胸の持ち主は滅多にいませんけれど」
 アンゼロスとオーロラもそれぞれ苦笑い。
「いいのよ。胸はリアルよりドリーム! 創作は受け手あってのものよ!」
 まあグロリアさん自身がそういう創作論なら他人がとやかく言うべきじゃないよね。砂漠のアイドルの現身だけあって、スタイル的にはボリューミーではあるけど不自然ではないし。
「じゃあ、そこの広場の商人さんたちに話を通しましょ。いきなりやったら流石に目をつけられちゃうしね☆」
「ええ……本当にやるの……?」
 ガラティアは微妙に気が進まないようだったが、楽しそうなヒルダさんが近くの商人に話に行くのを慌てて追う。

 で。
「はいはい、これはセレスタ某所に実在する女性の裸体画でございまーす。こんなにスゴいおっぱいのエルフ実在するのか! とお疑いのジェントルメン、実はこれよりスゴいおっぱいしてるコも私知ってるー。そのコめちゃくちゃエッチだけどそれは別のおはなし。このコもよく知ってるけど割とノリノリで脱いじゃうコよー☆ 今回はセレスタの知る人ぞ知る絵師が精魂込めたこの一幅、まずは1000からスタート。印刷の量産品じゃないから二度と手に入らないわよー☆」
 ヒルダさんは白衣を脱ぎ、自らもちょっとセクシーな感じに服を着付け直して広場に設えられた壇上に立つ。
 ガラティア(というか赤クジラ海賊団)による口添えがあったことと、ヒルダさん自身の愛想の良さ、その裏に忍ぶしたたかさにより、広場の商人たちはこぞってヒルダさんのオークションに協力してくれた。
 夕暮れの広場でも絵とヒルダさんが見やすいように魔法の明かりがいくつも浮かべられ、期せずして派手に注目を集める形になる中、それに対して値を張っていくのはスケベ紳士どもは多く、タダ見をしているだけの連中も含めて、人だかりは優に数百人という規模になった。
「1100!」
「1200!」
「2000だ!」
「てめっ……2100!」
「2200!」
「2500出そう」
「3000! ほぼ等身大のあの大きさであの鮮やかさ、あのクオリティならこれでも安いぞ」
「3200!」
「3250」
「ええい、5000!」
「げっ、正気か……」
「はいはーい☆ 5000出ましたー☆ この絵は5000で決まりかしら?」
「5200でどうだ」
「ご、5300!」
「ええい、今回の利益全ブッ込みだ! 6000!」
 …………。

「いよっしゃああ!!」
 そして。
 金貨8000枚の値をつけて手に入れたのは、広場の商人の一人だった。
 どうやら事前に「コレ売りたいの☆」とヒルダさんが見せて回った段階で、あの絵の魅力に夢中だったらしい。
「すげぇ……あんな値が付くもんなんだなあ」
「黙って売るだけじゃああはならないよねぇ。あたしの予想だと2000ってとこだったわ」
 グロリアさんが苦笑する。
「あれほど綺麗に彩色してる一品物でもそんなもんなの?」
「エロは最低は高いけど最高は低いのよ、意外と。芸術として素直に認められるものなら天井は上がっていくんだけどね。エロというだけである程度の付加価値は保証される代わり、俗悪な代物ってことで、本当の金持ちは手を出さないの。ま、似たようなものは探せばいくらでもあるものだし、いくら丹念に描いても……飛びぬけた値をつけるほどの差はないかもね」
「なんだか難しいな……」
「芸術ってそうなのよ。馬鹿みたいな価値をつけられるようなモノには、綺麗なだけじゃない、斬新さとか考察余地とか技巧の絶対量とか、そういうのも必要。いいおっぱいやおまんこ描くだけじゃ、そのステージには行けないのよね。ま、一度名声を得ると逆に何をやっても盛った評価になっちゃう面もあるけど」
「で、裸ばっかりが専門のグロリアさんは、そこまでは行かないっていうこと?」
「あたしは値段を求めて絵を描くのはちょっと違う気がするのよねぇ。ま、そういうトコにいる人を否定はしないけど、あたしが一番美しいと思って真似した絵はそれじゃなかったから」
 どこか寂しげに、しかし誇らしげに、グロリアさんは人手に渡る自分の作品を見つめる。

 とにかく、グロリアさんとヒルダさんのおかげで食事代と服代には十分な金が手に入った。
 というわけで、エマの服をそこらの古着屋で見繕う。
「あたしのと同じじゃ貧乏くさいよねー……もっと色とか考えた方がいいのかな」
 ガラティアがエマにいろいろな服を当て、首をかしげる。
 しっくりこないようだ。
「……おい、嬢ちゃんがた。本当にいいのかい、そっちの兄さん見てるんだが」
 古着屋のオバちゃんが困惑しながら俺を指差す。
 エマが裸になって色々な服を当てられているのに、俺が横で見物しているのがおかしいと思ったようだ。
 が。
「いえ、いいのです。この方は私の主様ですので」
「……なんだい、奴隷かい」
「ええ。着るものは主様に気に入ってもらわなくては」
「随分綺麗な奴隷じゃないかい。躾もいい。高かったんじゃないかい? お宅みたいな身なりで、しかもその若さで買えるもんなのかね?」
 俺をジロジロ見るオバちゃん。この国でも奴隷は大っぴらではないが、大陸に比べればそう珍しい話ではないらしい。……まあ貿易拠点でもあるし、他の奴隷制国家からの客も寄るってのもあるんだろうな。
 なので、普通に会話が成立してしまっているのだが。
「買ったんじゃないんで……」
「奴隷なのに?」
「強いて言うなら、戦った結果というかですね」
「ますます見えないねぇ。お宅、そんなに強いのかい?」
「特定の状況では」
「……?」
 細かく説明するのもどうかと思うし、強く否定したらエマがいきり立って面倒なことになりそうなので、ふんわりと当たらずとも遠からずの言い方でお茶を濁しておく。
 ……ま、間違ってはいないよね。

(続く)

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