「七ツ星群島は潮が速すぎて泳ぐには不向き。もう少し西にいい島があるよ。入り江の外側に岩が立ってて、船から望遠鏡で覗こうとしたって見られない。入り江も浅くて溺れない」
 ガラティアは地面に雑な海図を描いてみせる。
「もちろん人も住んでないし、風通しがいいから魔物も湧かない。あたしのお気に入りの島」
「お前が気に入ってたって、船は一人じゃ動かせないだろ。毎回みんなで行ってるのか?」
「潮に乗れば赤クジラからボートでも行けるんだー。帰りはマーマンサイン出して送ってもらわないといけないけど」
「マーマンサイン?」
「海の中で音を鳴らすの。三回、五回、三回、五回の順で叩くと、このあたりのマーマンは寄ってきてくれる。で、いくらか払うとボートの先導してくれるんだ。マズい海流があっても、マーマンなら強引にボート引っ張って抜けたりできちゃうから安全なんだよ」
「すごいな……」
 というか、そんな風に交流するもんなのかマーマンって。
「本当はそういうのって父ちゃんには怒られるんだけどね。マーマンの力ばかり当てにしてると海を侮るようになるって」
「……なんとなくわかる気がする」
「でも、取引は取引でちゃんとやってるんだし、女一人で泳ぎたいなんて言って、ブラッディオルカごと動かすのも気が引けるし……仕方ないと思わない?」
「……知ったかぶってコメントするのは控える」
 親子それぞれの事情や信条は当然あって、そのうちのどれが優先されるべきなんて、今までの合計しても数日の付き合いの俺が裁定すべき問題じゃない。
 そもそも、お前に海の何がわかると言われると本当に答えられないしな。パーフェクトに陸育ちで船にすらほとんど乗ったことがないし。
「とにかく、そこが泳いで遊んだりするには一番適してるってことなら、まずはそこに行くってことでいいんじゃないかな」
 アンゼロスがそう言ってまとめる。
「北の森なら、見られたところでお互い流せば済むのじゃがのう」
「そういえば北の森って、水浴び中のバッタリ遭遇には変に寛容なとこあるよな」
「森では互いに出会うことすらそう多くはない。見たの見ないのといった話を罪と呼び、追求するのも馬鹿らしいからの」
「……枯れてるというかなんというか」
「性に関しては、どこかに寛容なところもなくてはならぬ。ただでさえエルフは性欲の乏しい種族。そういったことを忌むばかりでは、いざという時になっても羽目も外し方すらわからぬようになる。……ま、あの通りの惨状であることを鑑みるに、焼け石に水じゃがのう」
「……あー」
 アイリーナの言葉に苦笑い。
 ポルカにおいて女湯覗きがあまり罪とされないことも、ある意味では近いのかもしれない。
 落ち着いた社会を形成するためには、女が見境なく男を誘うようでも困るが、だからといって女の魅力に反応する機会が奪われてばかりでは、両者ともに自分を磨かなくなってしまう。
 適度に女としての魅力を披露する場は、どこかに必要なのだ。それが能動的か受動的かはそれぞれだけれど。
「そういう観点の話だと、女が見られるばかりっていうのも不公平だけどねえ」
 グロリアさんが腕組みをしてヘの字口になる。
 しかしヒルダさんが割と真面目に反論。
「そこは社会構造の問題でしょう? 女が男を選んで摘まむような形が許されるなら、男も見られる側になるだろうけれど」
「北の森でもどこでも、あくまで女は選ばれる方ってことね。仕方ないけど」
「ま、選べたとしても裸を見ただけでは男の価値の比較はしづらい物でもあるしね。おチンポの大きさで選ぶのはナンセンスよ。オーガの独り勝ちになっちゃうもの」
「あー、言われてみればそうよね……形で選ぼうにも、水浴びしながらギンギンでいてくれるわけでもなし。むしろ勃起してたらそいつゲイよね」
「それにおチンポが理想的でも、好みのセックスをするかというとまた完全に話が別なのよねえ……」
「うん、男を裸で選ぶのは無理ね。そもそもチンポ抜きでいいカラダしてるかどうかって話なら、覗くまでもなく男って割と脱ぐし」
「そ。だから逆覗きって、文化的には醸成しづらい部分よね」
 百戦錬磨同士でなんか納得するグロリアさんとヒルダさん。
 と、やや面倒な議論に辟易したようにルナが俺にくっついて一言。
「そんなのなんでもいい。どうせ今から見るのもヤるのもアンディだけだし」
 それを聞いて皆に苦笑いが広がりつつも、これから「泳ぎに行く」という行為の「裏の意味」をあけすけに表現したことで、みんな僅かにテンションが上がる。
 ガラティアさえも、なんだか急かすように。
「ほ、ほら、いくら今は夏って言っても……日が落ちてから泳ぐのは危ないし寒いよ?」
「お……おう」
 俺たちは彼女の提案のまま、お気に入りのビーチのある島に向かうことにする。

 ボートでたどり着けるような島ならそう遠くはない。
 ドラゴンの翼なら、当然だがあっという間につく。
 馬車に乗っている間もガラティアはずっとテンションが高く、それに対してベアトリスはずーっと不機嫌。
 で、馬車の中にいる間にヒルダさんが他の娘たちに日焼けを防ぐ魔法を施していく。
「アンディ君はどうする?」
「どうする、ってどういう意味ですか」
「他の子は肌を焼くのは嫌だっていうから焼かないようにしたけど、男の子だと夏なら焼くのがステイタスっていうとこもあるじゃない」
「俺はその文化圏に属してません」
 タルクとかその辺ではアリなのかもしれないけど、とりあえずポルカっ子としてはわざわざ日焼けをファッションとして楽しむ文化はない。焼けると痛いし。
「じゃあアンディ君も日焼け止め、っと。────!」
 ヒルダさんが魔法をかけてくれる。
 ガラティアは既に浅く焼けているため、その様子を見て少し自分の二の腕などを気にしている。
「日焼け、って……しない方がかわいいのかな……」
「特に白エルフは赤焼けになりやすいのよ。あなたみたいに自然に日焼けできてる子とはちょっと事情が違うのよね☆」
「そ、そうなんだ」
「あなたはあなたで可愛いと思うわよ☆ ま、ポルカの霊泉だとすぐ白くなっちゃいそうだけど」
「えっ、あ、ああ、麻薬抜きに使ってるっていう癒しの泉?」
「麻薬以外にも何でも治るんだけど、日焼けはどうも外傷判定みたいなのよねえ。別にダークエルフが白くなるわけではないんだけど」
 ああ、そうなのか。……って、今まであまり理解してなかったな、そのへん。
「そ、そっかぁ……ちょっと興味出てきた。ラパールにいると日焼けしないなんて無理だから……」
「ふふー。来てみる? 来てみる? 面白いわよーポルカ☆」
 なに勧誘員になってるんですかヒルダさん。

 そして馬車から降りると、まずガラティアが飛び出して、白い砂浜で踊るように手を広げ。
「ここ! ここがアタシの砂浜!」
「おおー……いいね」
 自慢するだけある。砂漠の砂とはまた一線を画す、不思議な感触の砂浜。
 まあ、それ自体は赤クジラと同じなのだけど、それが綺麗な弧を描き、遠浅の浜を作り、そしてちょうどいい場所に衝立のように岩の島が点在するロケーションは、確かに遊泳にはもってこいだ。
「しかし良い陰がないのう。……我がこのまま庇を作ってやろう」
 ライラがドラゴン体のままそう言って、片翼を伸ばして香箱座りをする。
 影はできたが、翼を片方だけピンと伸ばすのってつらくないだろうか。
「っていうかお前は泳がないの?」
「ほ、今さら海ではしゃぐほど子供ではないわ。……それよりも、いつまで服を着ておるのじゃ、飼い主殿」
「え?」
「他の女は皆脱いでおるぞ」
 振り返ると、まるで服を着ていることが我慢できないかのように雌奴隷たちは一斉に脱ぎ始めていた。
「人目がないからって……気が早いなあ」
「ほほ。まあこの暑さじゃ。水に入れるとなれば我慢もできなかろうて」
 北のエルフの青の氏族は、海に入るための下着として尻に締め込むような独特の奴を着けるというが、そんな風に海に入るための特別な服を持つ文化はむしろ珍しい。
 基本的に泳ぐとなればみんな裸だ。
 そして、うちの雌奴隷たちは「裸になるのが嫌だから泳がない」なんて不心得者はいない。むしろ泳がなくても裸になる。
 黒竜の翼で直射日光を遮られてなお明るい白いビーチに、少女たちの裸体が並ぶ。
 喜々として全裸になり、俺を待つアイリーナとフェンネル、アンゼロス、オーロラ。
 淡々と脱ぐルナとマイア。
 雑談しながらも脱ぐのは躊躇しないヒルダさんとグロリアさん。
 周りの勢いに押されながらもどこかおずおずと脱いでいくエマ、ネイアにベアトリス。
 そして、ガラティアはというと。
「……うー……え、えいっ!」
 周りを少し気にするように見回しつつ、腰帯をすぱっと解き、勢いよく貫頭衣を脱ぎ捨てる。
 そしてその下の下着はもう剥いて捨てるようにぱぱっと脱ぎ、まるで度胸試しか何かのように素っ裸になって、ちょっとひきつった笑顔で俺にニッと笑ってみせる。
「も、もー二回目だしね! どうせみんなすっぽんぽんだもん、見たいだけ見なよ!」
「……えーと、まあ見るけど。たっぷり見るけどさ」
 ガラティアは、前回の滞在時に俺が赤クジラでさんざん爛れたセックスライフを送っていたのを知っている。
 そして、それでも俺に興味を示した。示してしまった。
「自分の周りにいないタイプ」という、田舎娘が引っかかる典型的な罠に自分からはまり込んでいる。
 俺が来るまでの数か月の間に、おかしな覚悟もじっくり決めてしまったのだろう。
 それを諫めようか、どうしようか。
 しばらく悩んで。
「お尻側からも見ていい?」
「うぇっ!? い、い……いいけど」
 まあ判断は別として、じっくりと彼女の裸は見せてもらうことにした。
 潮風にゴワつきながらなお美しい金色の髪と尻尾、そして10代の引き締まった裸に日焼けで生じたコントラストが味わい深い。
「ち、近い」
「……お尻触っていい?」
「……ちょ、ちょっと考えさせて」

(続く)

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