いよいよ海を越えてラパールに渡る。
 とは言っても移動手段はドラゴンなので、今までより暑くなる以外は大した差はない。これが船移動だったら、波に揺られて酔ったりとかベタベタの潮風に辟易したりとか嵐の心配したりとかいろいろ大変なんだろうけど。
 ドラゴンなら嵐なんて黒雲が見えてからでも簡単に避けてしまえるし、なんなら嵐を飛び越えてしまうことだってできる。
 それにラパールは普通の船の速度なら遠いが、ドラゴンの翼ならそう何時間も飛ぶわけではない。昼を過ぎてから飛んだって、その気になったら夕食にまた戻ってこれるくらいだ。
「みんな用意はできたか?」
「ほ。元よりここでは荷を広げるほど滞在する気だったわけでもなかろう。服さえ着ればすぐじゃ」
「また脱いでるのか!? なんで!?」
「ほ、すまぬ、そういうことではない。旅装を整えればということじゃ」
 びっくりした。
 せっかくレディ・スワローと話すためにみんな服着たのに、ちょっと目を離した隙にまた脱いでしまったのかと。
 と、胸を撫で下ろしていたら、ヒルダさんが旅装(というか本格的に徒歩旅行するわけでもないので、普段着に上着一枚羽織るだけ。他もみんなそんな感じ)を身に付けながら近くの部屋から顔を出した。
「脱ぐのは馬車に乗ってからだものねー☆」
「それはそれでいいんですが節度に関する話をした直後だと肯定しづらい!」
「パチッと否定してもいいのに微妙に正直なアンディ君が先生大好きです」
 だって馬車は実際座ってるだけで暇だし。やりすぎを反省してエッチなこと禁止ーなんてもったいないし。人が見てないところではどんどんやっていいよね。
「ところでグロリアさんは? そろそろ移動するけどまだ描いてる?」
 ライラに聞いてみる。ライラの耳なら何やってるかくらいはわかるだろう。
「筆の音は止まっておるが」
「一応、見に行ってみようか」
 ライラと二人で彼女のアトリエ……ではなく泊まり部屋を見に行く。

 グロリアさんは昨日見た光景よりもパワーアップした力作の集団エロ絵を描いていた。
「こんなに人、いなかったような……」
「うん。これはむしろ想像上の『絶対支配者の宴』って感じ?」
「絶対支配者?」
「王様とか、でももっと極端に欲望を満たすためにやりたい放題な感じの」
「現実の王様って、言うほどやりたい放題じゃないもんなぁ……」
 実際、王様ってことで正室側室何十人っていうのもあるけど、子作り以外にやることも多いし、嫁さんたちにも実家との繋がりや個人のプライドもある。
 いろんな女性と合法的に子作りセックスできる、という字面だけなら激しいのだけど、まあ精力の問題もあるし、ゆうべのような完全エロエロ祭りダンサー付き、なんて体験は多分ほとんど現実ではやらないだろう。少なくともトロットやセレスタやレンファンガスでは無理。
 むしろタルクの風俗で実現する方が簡単だと思うが、それにしても個人で女性数十名使った贅沢なエロパーティは、本当にただ気分的な満足しかないので、やっぱりやる奴はいない。意味もなく処女を集めて並べて裸で踊らせる、なんてのは本当に……えーと。
 俺昨日すんごいことしてたんだね。
「エロ絵巻にするには恐ろしい手間がかかるけど、やりたいよねえ。こういうスケールのでっかいやつ。現実であんなん見ちゃうとさ」
 グロリアさんの絵の中では、画面に入っていないのも含めれば百名にも至ろうかという女性たちが局部丸出しの卑猥な衣装で舞い踊り、その真ん中で「絶対支配者」が、犯し散らした女たちが陰部から白濁を溢れさせる中心で、背面座位で年若い娘に腰を振らせるという壮大な絵になっている。
 一晩で描けたのが不思議なほどの大作だ。
「でも、読者としては一人の女のエロスに注力したのも重点的にしてほしいなと思う所もある」
「君、びっくりするほど多人数オープン主義なのに絵では違うの?」
「抜くなら迫力あるおっぱいやお尻に注目したいし、キャラクターがこんなに小さいと乳首や表情の判別もしづらいんで……」
「あぁ……まぁねぇ。せっかく裸を描いたのに抜くには使えないってのもねえ。シチュエーションそのものが痺れるとはいえ」
 筆を咥えてグロリアさんは腕組みをする。
 いや、まあ俺自身のセックスにも言えることだけどね。ちゃんと個人を楽しまないともったいないよね。
「ほほ。しかし、有り得ぬスケールと言いながら、ドナめのコロニーではこれに匹敵するほどの勝手放題をやっておるじゃろう」
「……ある意味な」
 この街は一応一般常識というブレーキはあるが、猫コロニーは全くない。大人も子供も全員妊娠OKという究極の非常識エロ空間。多分みんなで外に出て裸で踊れと言ったら、処女でも誰でも当然楽しそうにやってくれる。
 あそこに関しては本当、どんな王侯貴族でも狙って作ることはできないだろう。
 というか自分の趣味であんな里作ったのがバレたら、どんな権力者でも猛批判されるに決まってる。
 ……俺すんごいことしてたんだね。
「何度も話には聞いてるけど、聞けば聞くほど信じられないわねえ、そのコロニー」
「俺も思い出すたびちょっと非現実的に思えてくるところはある」
 とはいえ、そこから何人も猫獣人がポルカに来て住み着いているのは事実なんだよなあ。それも俺に妊娠させてもらうつもりで。
「ラパールも楽しみだけど、あたしはそっちが今から気になってるよ」
「そういや帰りがけに寄るってことは、レディもあそこに連れていくことになるのかなぁ……」
「ほ。バウズめが新たな麻薬の患者を運ぶのじゃろう。そちらに乗せて素通りさせてしまえばよかろうて」
 今からこんな算段なんかしてどうするんだ、と思わなくもない。


 そして、俺たちはシタールを出発する。
 天気は快晴。海風は心地よく、紺碧の海の彼方を目指して飛ぶ四頭のドラゴンたちの姿は、遠目には宝石のようにきらめいて見えているだろうと思う。
「砂漠やシタールも暑かったし、さらに南に行くともっと暑いんだろうね」
 アンゼロスが風に髪をなびかせながら少し辟易したように目を細める。
「ラパールより南ってもっと暑いのかな。どこまで暑くなるんだろう」
 俺がふと生じた疑問を口にすると、ちびライラが耳元でほほほと笑う。
「南が暑いというてもある程度までじゃ。そのうちまた寒くなる」
「そうなの?」
「うむ。それに、むしろ陸地は暑い。海の上では、多少南でもそれほど暑くはならぬものじゃ」
 そんなライラの言葉を聞きながら、海の彼方に思いを馳せる。
 南。南の果てか。一体何があるんだろう。暑さを過ぎて寒くなった先には、何があるんだろう。
 いや。そんな彼方ばかりじゃなく、南部大平原、東方山地、アフィルム半島。西方大陸。
 俺はベアトリスやグロリアさんに「世界を見て回れ」と言いながら、手が届くのに行ったこともない場所がたくさんある。
 いつかそれらを巡る旅をすることもあるんだろうか。
 一人前になるのが先か。あるいは、一人前になって忙しく仕事をするようになってからでは遅すぎるのかも。
「それはそれとしてー。えっちなことはする? それともたくさんする?」
 遠ざかるシタールの海岸が見えるうちに、ヒルダさんがいそいそと服を脱ぎ始めていた。
 それに触発されたように、車内の他の娘たちも肩をぶつけ合いながらおっぱいを晒し始める。
 ちょっと呆れるほどに彼女たちはエッチで、俺は実際に呆れたふりをちょっとだけしてからヒルダさんのおっぱいをわしづかみにする。
「昨日いっぱいやったので今日はまったりと触ったり吸ったり揉んだりを中心にしますけど」
「それはそれで歓迎よ☆」
「って、あたしまだ脱いでないっていうかいきなりあたし触るの!? ちょっ、待ってよ脱ぐからシワになるでしょ!」
 もののついでに手を伸ばしたグロリアさんには微妙に抵抗されたりしつつ、俺はまた肌色に満たされた馬車で快楽色の数時間を過ごす。

 やがて日の傾くころ、ネイアにヒルダさんが実地でパイズリのコツを教えている最中にちびライラから赤クジラ島到着の報告が入る。
「ほらほらみんな服着ろ服」
「別にこのままでもいいんじゃない?」
「前回、海賊の皆さんにはわたくしたちの雌奴隷ぶりを見せつけたはずですわ」
「あの時はあの時だっての! とりあえずお前たちは厳重注意! 少し常識を取り戻すように」
 アンゼロスとオーロラに警告しつつ、着陸態勢の馬車の中でまたみんな服を着る。
 そして、着陸。
「船長ー! 船長ー! なんかドラゴンが一杯きやがった!」
「落ち着け! いずれ来るのはわかっていただろう!」
「でもこないだのと違って銀とか黒とか四頭いる!」
「黒いのは一度来ただろうが。……四頭?」
 砂浜に着陸すると、洞窟の中からテオ船長と何人かの下っ端が現れる。
 それを御者台から覗き見て、俺は馬車から降りてあいさつすることにする。
「しばらく。また麻薬患者の子は来た?」
「……お前直々に来たか」
 船長は少し苦々しい顔をして(娘さんを巻き込んだトラブルとかいろいろ思い出すんだろう)、一息置いてから答える。
「数人というところだ。ラビネスの顧客が何組か薬を求めてこの砦に来たが、本隊ではなく使い走りというのもあってな。魚の餌にしてやったが、そいつらが持っている奴隷にはこちらから手を出すことはできん。戦力が一隻では限度がある」
「なるほど」
「綺麗に根絶やしにするのは難しいぞ。薬の禁断症状を抑えられないとなると、奴隷も用済みになって海に捨てられる場合もある。そこまではすべて面倒は見られん」
「……ある程度はどうしようもないんだろうが、手が届く分は助けたい」
「甘い話だ。それに、たとえラビネスの被害者全てを救ったとしても麻薬というのはそれだけじゃない」
「わかってる」
 結局、偽善的だと言いたいのだろう。だがそんなことは百も承知。
「ドラゴンは神様じゃない。何もかも思い通りにしたいわけじゃない。ただ目の前にあった汚れが気に食わないから洗う。それだけだ」
「…………」
「協力してもらうぞ、船長」
「わかっている」
 テオ船長としてはなかなか果てのない話に思えてきているのだろう。だけど、少なくとも何年かは続けないと意味がない。
 この島を返すことを条件に、一度取り交わした契約だ。そこは守ってもらう。
 そんな、ちょっとした緊張感を孕む会話をしているうちに、ライラ、マイア、エマは人間体へ。
 そしてバウズは。
「俺は最後に残った娘たちをファラールに送り届けてくる。ここで下ろしても仕方がないからな」
「ああ、そうか」
 たくさんいた元麻薬患者たちのうち、最後の数人。
 このラパール諸島にまで残ることを選んだ彼女らは、首都ファラールでまた新しい人生を歩み出すことに決めたらしい。
 おそらくは元々このラパールの出身者なんだろう。色々な土地を見て、それでも故郷に戻り、やり直すことを選んだ女たちだ。
 この国には俺たちが世話できるアテはない。彼女らは自分で生活をやり直せるだろうか。
 ……余計なお世話、という奴だろう。俺たちが手厚く口利きをして回った中で、最後のここまで来た彼女らは、あえてそれを選んだのだ。
 でも、これからの人生の幸福を祈ることくらいはしよう。

 そしてバウズを見送っている俺の背中に、少し不機嫌そうな、それでも少女らしく高い声がかかる。
「おいっ」
「……?」
 俺は振り返る。
 そこには予想通りガラティアがいた。
 海賊らしいシンプルな貫頭衣、明るい色の帯。相変わらずあまり丁寧でない、緩く太い三つ編み一本の金髪。
 だけど精いっぱいのオシャレなのか、南国の花を一輪、猫耳……獅子耳?の上あたりに差している。あまりしゃれっ気のない服装にそれは少し浮いている。
 だが、そのために出てくるのが遅れたのかと思うと、俺は思わず笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
「久しぶり」
「……や、約束」
「覚えてる。あとでな」
「……うんっ」
 ガラティアは俺の答えを聞いて急にうれしそうな顔をし、頷いて駆け去っていく。
「おい。……約束とは何だ」
 そして案の定親父さんが食いついた。
「あ、あー……いや、土産を持ってくる約束で」
 うん。概ねこの説明で合っているはずだ。
「土産とは何だ」
「……アクセサリーだけど」
 別に母親の首飾りがどうとかそういうのは言わなくてもいいよね。
「アクセサリーだと……?」
 なんでキレた顔をするんだよ船長。
「……欲しいならいくらでも手に入れてやるというのに、何故この男に……!」
 ああ、そういう……。
「駄目親の香りがするのう」
「娘に執着しすぎる父親は面倒ですわよね」
 アイリーナとオーロラが少し冷たい目でテオ船長を見る。船長がたじろいだ。
「ひ、人の家の事情に口を出すな。エルフに何が分かる」
「そなたが邪魔者なのはわかるぞえ」
「そんなことは……!」
 アイリーナに一刀両断されるテオ船長。あの迫力の大男相手にさくっと皮肉を突き刺せるアイリーナもさすが百歳オーバーといったところか。
 でもちょっとはわかってあげて。娘がハーレム引き連れて歩いてる野郎に懐きそうになってるなんて俺が親でもちょっとつらいよ。

(続く)

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