深夜の鐘が鳴らされると、それまでの喧騒が少しずつボリュームダウンし、前後不覚の酔っ払いたちや今夜のお相手がいない連中を残して、みんなが自宅や宿に引き上げていく。
 お相手がいない奴らは、次回の精霊祭に向けて「次こそは恋人作るぞー」と気勢を上げるために同性で集まって飲むのがこのあたりでは一般的らしい。
「侘しいなあ、それ」
「それはそれで楽しいのよ。アンディ君だってしばらく前までそうだったんでしょ?」
「バッソンあたりでは精霊祭ってそんなに盛り上がるイベントじゃなかったからなぁ……」
 よくある祝祭日という感じ。ここらほど性的な雰囲気にはならない。まあ元々寒村だったバッソンでは、伝統行事で盛り上がろうにも文化基盤がないんだけど。
 この祭日にはこういうことをやるんだ、という共通認識、そして大規模なイベントを運営する資本と労働力。そういったものは新しい街ではなかなか望めない。
 そういう意味では、タルクは実に情熱的な地域といえる。
「みんなが当然のようにエッチしまくってるっていうのがわかってて、それでもむさくるしく徹夜飲みをやるよりは……さっさと寝ちゃいたいかも」
「エッチだけが主題ってわけでもないんだけどねー。もちろんそういう恋人たちもいるけど、家族の絆を確かめ合う穏やかな過ごし方でも、決して邪道ではないし、もちろん友情もね。大きな感謝を精霊に捧げ、そしてその精霊に見守ってもらう晩、というお題目だもの。もちろんエッチが『いい結果』になってくれるのを精霊様に期待する……って向きはあるけれど、今夜は色々な絆を深め合う日なのよ☆」
「いい結果って……」
「一般的には、子宝っていうのは精霊に願ってでも欲しいものよ☆」
「……そう聞くと、楽しい晩なのにちょっと重たくなるなあ」
「あら、アンディ君は孕ませイケイケじゃなかったかしら」
「もちろん雌奴隷に孕んでもらうのはいいんですけど。……そういう期待込みのエッチとなると、楽しさ気持ちよさ一辺倒のつもりだと意識がズレちゃうなー、と」
「別にアンディ君はそのままウヒョーってしてればいいじゃない☆ 女の方だっておまじない程度に期待が強まるだけよ、どうせすぐにはわかるものじゃないしね」
 そうは言っても、やっぱり子供を作るとか子供を欲しがるっていうのは軽く流していい命題ではないわけで。
 ヒルダさんは特に、子供を作ることにはこっそり執着してるというのはわかるしなー。
 嫌というわけではないんだ。ただ気持ち的に遊びやイタズラのつもりでいられなくなる感じというかさ。
「だいたいねー。あの人数相手にそれなりに軽い気持ちでいられるだけでアンディ君はすごいわよ。父上だって10人お嫁さんいるけど、そのうち一晩で満足に相手できるのは魔法込みでも四人かそこらなのよ?」
「そんなもんですか?」
「アンディ君みたいに強い立場ってわけでもないし、精霊祭の夜のメンバー決めも嫁同士で決めちゃって勝手できないんだから。……あ、ほらほら」
 ヒルダさんが指差す。……消えかかったかがり火の向こうに何人かの影。
 しばらく目で追うと、それが数人の女性とアシュトン大臣だとわかる。ほとんど連行されていくような感じだった。
「気が乗らない……ってわけでもないんでしょうが、なんか足が重そうですね」
「カーミラ、カサンドラ、プリシラ、マルガリータ……今年は若い母上中心ねえ。父上にはちょっと重労働よね」
「重労働……」
 労働、というと急に辛そうに思えてくる。
「アンディ君は女の子が何人いたって自分主導で楽しむけど、普通はベッドの上で男女の人数差が大きいと、意見の強さも比例しちゃうものよ。父上はどっちかというと押し負けちゃう方なのよね。女の方が妥協してくれるまで頑張って、ダウンして朝を迎えるの」
 逆らえない女に囲まれて、言われるままに限界までセックスかー。
 確かに想像すると微妙に羨ましくない。セックスにはお互い自由と意欲があってこそだ。
「まあ、そんな目に遭っても次の日には風俗行ったり若い子にデレデレしたりしてるから始末が悪いんだけど」
「強いんだか弱いんだか分からない人ですね……」
 なんとなく名実ともに偉い人なわりに、子供たちからの扱いが悪い意味が分かった気がする。
 能力があってもそれじゃあちょっと尊敬はされづらいよなあ。
 ……俺もポルカで新しいエルフの女の子見かけたら、デレデレしてないとは言い切れないのがつらいけど。
「やあヒルダ。それとヒューマン」
 そこにカルロスさんが現れた。祭りの最後の見回りといったところか。
 隣でナンシーさんが肘を突き出した。
「こら、カルロス」
 俺に対して「ヒューマン」とか言ったのがマナー的に悪いというツッコミらしい。別にいいんだけど。
 カルロスさんはドスッと入った肘に、笑顔と体を引きつらせて言い直す。
「ぐっ……あ、アンディ君。これからかい?」
「あ、……えーと」
「下世話ですまないね」
 ナンシーさんが苦笑いをして、指で何がしかのジェスチャーをする。
 多分タルクあたりでは何か下世話なことを意味するジェスチャーなんだろう。よくわからないけど。
「義姉上ったら。アンディ君にソレはわからないわよ☆」
「ああ。……すまないね、年寄りにしかわからないサインを使ってしまった。何せ両腕が生えているのにまだ慣れなくてね。ついつい昔の流行りを持ち出してしまう」
「もう半年も経ってるじゃないの」
「今でも毎朝自分の手足があることを不思議に思う程度には、不自由に慣れていたんだよ。本当にこれが……」
 苦笑するナンシーさん。話が長くなりそうな気配を察し、カルロスさんが再び身を乗り出す。
「と、とにかく精霊祭の晩だしさ! コスモス君たちも呼びつけたんだ、さぞや派手にやるんだろう。安心したまえ、今回はちゃんと大きい部屋を用意した。マットもたくさん用意したから好きに頑張ってくれたまえ。でもノールとヒルダ以外の妹には手を出すなよ?」
「えっ」
「えっ、てなんだい。もちろんディアーネはいないから数えてないよ」
「いや……その」
 言いよどむ俺の代わりに、ヒルダさんがあっさりと。
「ミラたちが多分混ざると思うなー☆」
「なんでだい!?」
「ミラたちもミラたちで都合があるのよ。アンディ君はちょーどいい感じなの☆」
「そんな適当な感じで妹をどんどんこの腐れヒューマンに捧げるのやめてよヒルダ!?」
「私がけしかけたわけじゃないからねえ」
「嘘だ! っていうかそれならヒルダ、頼むからうっかり妊娠だけはしないようにちゃんとだね」
「本人たちの意向を尊重しつつ善処しまーす☆ っていうか自分の身の心配しようね兄上」
「え」
「義姉上が自分を差し置かれて拗ねてるぞ☆」
 ハッとナンシーさんを振り返るカルロスさん。
 ナンシーさんは腕組みをして、確かに少し拗ねた感じに片目でじっとカルロスさんを見ていた。
 ちょっと話の流れでほっとかれた程度で拗ねそうな人には思えないんだけど。
「ヒルダの言う通り、今夜くらいは私との睦言に集中して欲しいものだね」
「ナンシー」
「兄弟を気にするのはいいが、もう大人だ。口出しもほどほどにしなくては、かえっていやらしい」
「それは……」
「繰り言はもうよそう。私とお前も忙しくなるし、彼はもっと忙しいはずだろう?」
「……うぅ」
「子供は欲しいだろう、カルロス?」
「ほ、欲しい……けど」
「今夜は精霊の見守る夜なのに、明けるまで無粋に過ごすのは私に対しても無体というものじゃないか」
 ナンシーさんはどこまで本音で、どこまで俺達に配慮してくれたものか。
 結局カルロスさんは折れる。
「……ま、まあ、あの娼婦たちもいるんだ。いくらケダモノなヒューマンとはいえ、そうそう余裕でいけるものでもないだろうしね!」
「ヒューマンはよせと言ってるじゃないか」
「ぐふっ」
 肘がまた入り、悶絶したままのカルロスさんを引きずっていくナンシーさん。
「さて、私たちも始めましょうか、アンディ君☆」
「結局何人になるんだろうなあ……」
 ヒルダさんと二人、用意された大部屋への長い廊下を進む。

 そして。
「お待ちしておりました」
「開けますよー」
 メイド長さんともう一人のメイドさんが大部屋の扉に手をかける。
 裸エプロンで。
「その恰好で待機してたの……?」
「ご安心を。この建物は本来男性は進入を禁じられておりますので、みだりにこのような姿を見せびらかしているわけではありません」
「何がご安心なんだ……っていうか同性でもその恰好は変な顔されるでしょ」
「今宵は別室にて女子脱衣ポーカーの催しもありますゆえ、それほどでも」
「マジで」
「こらこらアンディ君、裸の女の子の数ならこの中の方が多いわよ☆」
 ヒルダさんに首根っこ掴まれて、改めて扉に向かわされ。

 メイド二人が引き開けた扉の中には、なるほどポーカーなど眼中に無い女体の楽園が広がっていた。
 アンゼロス、アイリーナ、オーロラ、フェンネル、ネイア、そしてグロリアさん。白エルフの六人はひとかたまりに。
 部屋の線対称の位置に、対抗するようにミラ嬢、シーマ嬢、ルキノ嬢にノールさん、そしてコスモス嬢とイザベル嬢も挑発的に立っている。
 ……え、そっちなんだノールさんたち。
 さらにルナは白狐のフェリシア嬢に絡まれ、ベアトリスもマルチェ嬢に話しかけられている。……ってマルチェ、ヴァレリー語喋ってる。
 そしてオーガのドミナ嬢はライラ、マイア、エマと一緒に持ち込みの酒をまだ煽っていた。オーガはドワーフとかと違って種族的酒豪ではないはずだけど、それでもあれだけ飲めるのは天性なんだろうな。
 誰も彼もが娼婦御用達の透け布の衣を纏っている。ほぼ裸ではあるがまだ脱ぐ余地があるという趣は、俺もこの数日でなんとなく分かってきた。
「コスモス本舗の出張ハーレムサービス、ご指名ありがとうございまーす♪」
 いの一番にそう声を上げたコスモス嬢に、着慣れない恥ずかしい衣服を気にしていたミラ嬢がギョッとした。
「えっ、これそういうのだったの!?」
「気にすることないです。レスリーさんよく適当言うです」
 って、イザベルさん平然と混ざってるけどイザベルさんもヤるの?
「いやー、昼間はエキサイティングでしたねー。うちの娼婦たちもわりと羞恥プレイには強い子多いんですけど、あそこまで場違いなトコで堂々とおっぴろげるのは経験ない子ばっかりだったんじゃないでしょうか」
「え、そうだったの?」
 コスモスさんの言葉でちょっと意外に思う。堂々としたものだった。
 が、それぞれ雌奴隷に絡んでいたマルチェ嬢とフェリシア嬢は、俺の驚いた視線を受けて少しはにかんだような顔をして。
「娼館の中ではいっつも裸みたいなものなんだけどねー。一般の人たちの前ではなかなか」
「ヤるつもりで娼館に来るジェントルメンはみんなヌードに喜びこそすれ、嫌がったり蔑んだりはしないもんね」
「うんうん。……あれだけ普通の人たちに視線で犯されるのは……さすがにちょっと恥ずかしかった」
「一人で脱げって言われたらちょっとできないかも」
「え、そう? ……一人かー。う、想像したらちょっと高まる」
「マルチェは本当に底なしだよね……」
 まあ総括すると恥ずかしかったらしい。
「イザベルさんとかも?」
「イザベルはそうでもないです。これでもだいぶ色々経験してるです。オーガの宴会で裸接客とかしたこともあるです」
「あー、懐かしい懐かしい。景気良かったよねーあの年のトライデント」
 さすがの猛者だった。
 娼婦たちですらそうだったので、他の娘たちも思い出すほどに恥ずかしかったらしく、それぞれ顔を見合わせては「やっぱり恥ずかしかったんだ?」「うん実は」みたいな会話を一斉にしている。
「ほ。滾った男どもの視線はむしろ心地よかったがのう」
「なんとも思わなかった」
「……正直、もう一度はやりたくありませんね」
 ドラゴン三頭は三者三様。うん。ライラやマイアはともかく、エマにはちょっと悪いことをしたかもしれない。
 少し気になって、ドアを閉めてからずっと部屋の中に佇んでいるメイド長さんとメイドさんにも視線を向けると。
「問題ありません。今後とも同様のご命令があればなんなりと」
「ああいうシチュエーションも、若干上級者向けとはいえメイド的に定番ですから♪」
 何この人たちレベル高い。
「それではまずは第一戦の決着を。……はい、皆さんどうぞ♪」
 コスモス嬢がそう号令をかけると、床に伏せてあったり壁に立ててあったり後ろ手に隠してたり、それぞれに手の届くところにあった絵が一斉に掲げられる。
 ……あ、そういやこれで一番エロい絵を決めるみたいな勝負してたんだっけ。
「……グロリアさんまで」
「ちゃ、ちゃんと鏡使って昼間に描いた奴よ」
「屋外で鏡全裸自画像とかやってたんだ!?」
 俺はセックスしまくってて注意散漫になってたんで気づかなかったけど、なんとも凄いパフォーマンスをやっていたらしい。

 で。
 一通り見て回った結果。
「……絵だけで言うならグロリアさんが一番エロい」
 そうなのだ。
 できる限り公正に見て回ったら、グロリアさんの絵が一番エロかったのだ。
 なんといってもポージングが絵画栄えする。胸や腰の曲線にも切り取られた表情にも計算しつくされたアピールがあり、リアルの裸に勝るとも劣らないほど肌の暖かさ柔らかさ、そして膣内への想像力をかきたてる一枚になっていたのだった。
「ずるい!」
「それは雌奴隷と娼館側のどっちが勝ったことになるのかしら」
「自分を一番エロく描くのは反則よねえ」
「いや逆にそれ凄くない? 自分をエロく描くってだいぶハードじゃない?」
 当然、絵を持ってアピールしている娘たちは納得いかずにブーイング。
 とはいえ、女の子たちが自分の裸を描いた絵を持ってアピールする姿は、これはこれでとても面白い光景で。
「……でも、どれも素敵なエロ絵だった。できれば持って帰って抜きたいくらいだ」
 俺がそう総評すると、みんなの雰囲気が変わる。
「……オナニー、するの?」
「それは駄目だよアンディ。……絵で興奮するのはいいけど、アンディのザーメンは無駄に出して捨てちゃ駄目。みんな……飲んだり浴びたり妊娠したりしたいんだから」
 それが、何かの合図になったように……彼女たちは絵を下ろして、俺の膨らんだ股間に視線を集中させ、自らの薄すぎる衣を緩め始める。

 ちなみにアイリーナは絵を描いてもらえなかったので、隅っこでちょっと拗ねていた。

(続く)

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