精霊祭前日は結構みんな忙しい。
 で、俺は適当に過ごそうとしても意外とエロが絡んでしまうので、射精しないことを念頭に置くと下手に出歩くわけにもいかない。温泉やオアシスはもちろんエロエロだし、ばったりコスモス本舗以外の高級娼婦のお姉さんに出会うかもしれないし。
 自意識過剰かもしれないけど、もしも出会ったら俺に求められるのって射精だよね。
 ……というわけで、前日はまったりとバウズとユーファさんの部屋に行ってお茶を飲んだり、タルクの大通りで毎度の精霊祭前日に行われるという、モノコーンとトリコーンのオーガによる壮絶徒競走(お互いに妨害OK)をオニキス本家の屋根の上から眺めたり。
 あと何故か微妙に暇そうだったカルロスさん(指示は数日前に全部出し終わっているので順調だと暇になるらしい)とチェスで勝負したり。
「僕が勝ったら君の精霊祭の食事は全部生野菜サラダだ。これは勝負なのだからね、たとえナンシーが眉をひそめても、正当な契約に異を唱えることは……ククク」
「よ、よーし。わかりました、それじゃあ俺が勝ったら一番上等な酒を蔵から出してもらいます」
「アンディ様、それじゃない。そっちのポーン進めるのが先」
 マイアが横からアドバイスをくれて、最初は黙認していたカルロスさんだったものの、だんだん形勢が悪くなって冷や汗ダラダラになったり。
「……な、なあヒューマン。今更だけど僕と君との勝負なんだから、横からアドバイスもらうのって駄目じゃないか?」
 焦ったカルロスさんがそう言い出したものの、途中から横で見ていたナンシーさんがニヤニヤ笑いながら。
「もうすぐ800歳にもなるお前が、まだ20年や30年しか生きてない彼を相手にするんだ。サシの勝負が正々堂々でもないんじゃないか? それにマイアさんだってまだ60歳やそこらだというよ。我々ダークエルフで言うなら大人とも言えない歳だ。負けたら胸を張れないね」
「ドラゴンって頭いい種族だろう!? ズルいよ!」
「それを言うなら私たちだって、人間よりだいぶ頭脳労働向きの種族だと言われているけれど」
「むぐぐぐ」
 結局、そのまま勝ってしまい、カルロスさんは「こ、これがウチの蔵で一番いいとされる酒たちだ! まあどれも甲乙つけがたいから好きなのを……」と20本くらい持ってきて、即座にマイアに「これが多分一番おいしい」と選び取られて露骨にガッカリしてたり。
 ……多分、違うの取ってくれるのを期待してダミーの酒をいっぱい出したんだろうな。でもドラゴンって種族的に飲兵衛だし鼻もメチャクチャ利くんです。
 で、晩はそれを飲んでいい具合に酔い潰れたりして。


 精霊祭当日がやってきた。
「待ちに待ったという感じねえ」
 ノールさんが大入りの客を眺めてニコニコしながら頷く。
 やっぱりオニキスのホームパーティの側面もあるし、幹事側としては盛況なのは嬉しいんだろうな。
「そうは言っても目玉は……お前たちのヌードだぞ? 邪な期待をしている男たちがたくさんいるよ」
 ナンシーさんが苦笑している。
 ヌードスケッチ会の噂は数日のうちにタルクじゅうを駆け巡っていた。
「どうせオアシスにでも行けば裸の女なんていくらでもいるじゃない」
「オアシスではそれでもあまりジロジロ見たら非難される。しかし、今回に限っては明確に見世物だ」
「精神的には違うってことかしらねえ。大差ないと思うけれど」
 ため息をつくノールさん。
 しかしエロの集客力は強い。俺だって近所でそんなのあったら絶対いくもん。
 ……で、それを描く役のグロリアさんは、眠そうにしながらメイドさんたちに髪を梳いてもらったり晴れ着を着付けてもらったりしていた。
「なんでそんなに眠そうなんですか」
「娼館モノの絵を朝方まで描いてたからね……やっぱりビビッときたらすぐ描くに限るじゃない」
 怠惰そうに見えて好きな事には妥協のない人だ。
「そんなんで一日大丈夫ですか?」
「これはこれで素晴らしいシチュエーションだから逃せないわよ」
「倒れないでくださいよ。いや、お医者さんもいるけど」
 そのお医者さんはというと、既に最初のモデルとして裸に巻き布一枚纏ってスタンバイ。
「ふふーん。アンディ君、えっちな目で眺めるのはいいけどシコシコしちゃ駄目だぞー☆」
「え、駄目なんですか」
 解禁日なのに。
「せっかく溜めに溜めたザーメンを、女の膣内以外で吐き出したら無駄よ無駄。せっかくならアンゼちゃんあたりのおまんこ借りて使いなさいな☆」
「アンゼロスのまんこを右手代わりに……」
「ん、僕はそれでもいいよ? なんならヌードスケッチの間はそっち見ながらハメっぱなしでも……♪」
 他人の裸で興奮しながら膣だけ使われることになるけど、それでいいのかアンゼロス。……いや、まあ、いいんだろうなこいつの場合。
 そんなアンゼロスもヒルダさんに続いてヌードモデルをやるために同じく巻き布一枚。
 そしてどちらも首輪はしっかりつけている。
「やっぱり首輪は……取らない?」
「取らないわよー☆」
「だって、僕を裸にしてるのはアンディだ、ってみんなに見せ付けたいし」
「俺、それだと悪者じゃないか」
「それくらいのことはご主人様として引き受けて欲しいな」
 まあ、うん。
 確かにうちの雌奴隷たちをここまで変態プレイ上等のエロの権化にしたのは俺との日々なんだろうけど。
 北の森に続いてこっちでも調教師としての名が轟いてしまうのは、ちょっと思うところもないではない。
 このタルクの真ん中で、文化的に違うはずなのに衆目に全裸を晒す白エルフやハーフエルフたちの姿は、まあ間違いなく俺の女性に対するカリスマ、悪く言えば洗脳力的なものを見せ付けることになるだろう。
 洗脳とかしてるつもりじゃないんだけど。でも俺の雌奴隷になって、周りに流されるように異常なエロに慣れていくのって、普通に考えたら大差ないのかも。
 ……と、悩むのだが、それはそれとして。
「思いっきりすっぽんぽんを晒す度胸で一般の皆さんに負けるわけにはいかないよね!」
「さすがにこーんなに……埋め尽くすような観客いるのは私も初めてかな……」
 でん、と登場したのはオーガのドミナ嬢とウェービーな髪のダークエルフのローサ嬢。
 一応待機用の幕の内側とはいえ、二人は巻き布を身に着けてすらいない。
 二人だけじゃなく、コスモス本舗から出張してきた娼婦の皆さんは、若干のネックレスや足環などのアクセサリー以外、誰も服を着ていなかった。
「今日はよろしくお願いしまーす♪」
「ほんとはレスリーさんとイザベルふたりして店を空けるのは良くないですけど」
 店長のコスモス嬢とイザベル嬢もしっかり参戦。お二人とも朝から素晴らしい裸体を披露していらっしゃる。もちろん他の娼婦たちが素晴らしくないわけではないのだけど、立ち姿のちょっとした腰の角度とか腕の置き所とか、さすがに見せ慣れているコケティッシュさがある。
 で。
「他ならぬオニキスのお屋敷で、よその方々に主役を取られるわけにはまいりません。皆さん、お客様や本職の高級娼婦が相手だからといって臆することはありませんよ。私たちは町一番のメイド団なのです」
「メイド長。今更ですけど、別にマッパになるのにメイドとしての熟練は無関係だと思います」
「では脱ぐのをやめますか」
「いや脱ぎますよ面白そうだし♪」
 オニキス本家に勤務するメイドたち(ほとんどがダークエルフ)も、交代で全員参加でヌードモデルをやるらしい。……全員参加? 誰も異論を唱えなかったの?
「全員分描けるんですか、グロリアさん……? 合計すると70人くらいになりそうですよ?」
「ふふふふふ……むしろここで手を止めたらあたしの生きてる意味がないくらいのクライマックスじゃないの」
「俺が言うのもなんですが変な人生観ですね」

 そして、ヌードスケッチ会がスタートした。
「はいはーい、このロープの内側に入るのは禁止でーす。皆さん紳士的にお願いしまーす!」
「物を投げ込んだりしないでくださーい! 変な魔法とか使っているのを発見したら即座に会長にお知らせしまーす!」
 メイドさんたち(ちゃんとメイド服着て通常勤務中)が整理に励み、人間族やダークエルフ、オーガなど多数の紳士が視線を浴びせる中で、半径5メートルくらいのステージの真ん中で、全裸のヒルダさんが椅子にもたれてポーズを作る。
 その表情には一切の緊張はなく、絵に描かれることを意識した神秘的な微笑みは絶やされることはない。
 ……しかし、なんつーか……すごいドキドキするな。見てる俺のほうも。
 もちろんヒルダさんの裸体に興奮しているというのもあるが、自分の女の裸が多数の男に注目されているという異様な状況には、感情移入とも緊張とも嫌悪ともつかない、独特のもぞもぞした感情が渦巻く。
 こんなに最高のカラダの女が自分専用のおまんこなんだぞ、という誇らしさもあり、彼女の女としての防御を全て剥ぎ取った姿が、たとえ恥ずかしくなっても逃れようのない状況で、全方位に晒されていることへの征服感もあり。
「タルクってすげぇな……」
「ダークエルフの女はこんなに簡単に素っ裸晒しちゃうのかよ。恥ってものはねえのか」
「誰にでも股開いてるんだろうな……」
 ……なんて、ヒソヒソ聞こえてくる会話には反論したい発作に駆られるが、それを察したコスモス嬢(待ち時間もずっと裸)が唇に指を立て、こっそりと囁いてくる。
「この周りに集まってきてる人たちなんですから、みんな必死で、夢中なんですよ。ヒルダのおっぱいやおまんこ見ようとして……ね。そして、そんな自分のみっともなさを誤魔化したくて、ああいうことを言っちゃうんです。いやらしいものに夢中になる自分が悪いんじゃない、いやらしい女がそこにいるのが悪いんだ……って」
「なんか、余計カッコ悪いなぁ」
「マイナスな自分には言い訳をしたくなるし、できれば人のせいにしたくなるのだって普通のことですよ。私たちみたいなお仕事をしてると、男の人のそういうカッコ悪さはしょうがないことだと思うし、そこまで愛してナンボです」
 なるほど。
 彼女のどこか「一枚上手」に感じる雰囲気は、そういう男の見栄を透かし見た上で受け入れる人生経験の厚さや度量がもたらしているのかもしれない。
「それに……そんな浅ましい有象無象に、極上の自分の女を見せびらかすのって優越感ありません?」
「……たまにコスモスさんって妙におっさんみたいな視点ありますよね」
「お客さんの視点に理解があると言って欲しいです」
 そうこうしているうちに、ヒルダさんのスケッチは終わっていた。
 次は誰だ、と思っているとノールさんが颯爽とステージに踏み出し、見ている男たちに一回り微笑みかけると、長い髪と巻き布を振り回し広げるようにくるりと周り、脱いで全裸に。
 そして椅子を使って挑発的なポーズをとる。
 誰からともなく、おおお、というどよめき。そして口笛や指笛が響く。
「ノールさんはそういう見栄も粉砕するパワーがあるな……」
「あはは。確かにそうですねぇ」
 さすがは宝石蝶と呼ばれたエンターティナー。小理屈をねじ伏せる存在感は、コスモス嬢も苦笑いだ。

 娼婦の皆さんの最初からクライマックスな全裸登場も男たちをうろたえさせ、メイドさんの生脱ぎなども続く。
 特に自分のすぐ近くで観客整理や給仕をしていたメイドさんが、出番が来るとそのままステージでその服を脱ぎ捨ててヌードモデルに……というのは、男たちが無口になったあたりで変な興奮があったのがわかる。
 次はこっちのメイドさんも脱ぐのかな……あそこにいるメイドさんもかな……と、そこらじゅうのダークエルフ美人を期待して見てしまうのだ。
 その気持ちはとてもわかる。さっきはコスモスさんを尊敬した感じに見てしまったけど、今度の現象は俺も手に取るようにわかる。
 そして、夕方まで一日かけて全員が脱ぐのだと知っている俺はもう本当に皆さんとても魅力的に見えてたまりません。おっぱい見せてくれる女性はみんな女神。
「なんだよー。こっちにさっきから丸裸見せっぱなしの女がいっぱいいるんだよ? 出し惜しみしてるメイドなんかよりエロエロだよ?」
「う、うわっ、ちょっ……いきなりそういうのはマズいよ!?」
 ドミナ嬢が俺の顔におっぱい押し付けてくる。いやそのおっぱいも非常に魅力的なんですが、見えてるからといってそれ以上エロいことをするには今のロケーションは開放的過ぎまして。だってカーテン吊った囲いがあるだけだよここ。普通に内からも外からも音なんか丸聞こえだよ。
「それでしたらご安心を」
 オーロラ(今しがた堂々とステージでポーズをキメてどよめかせてきた。だって白エルフなうえ裸になってもお嬢様の雰囲気全開だ)が指をくるくるしながら微笑む。
「小規模の認識幻影を張りますわ。声が聞こえても意味がわからなくなるように」
「エロい音とかしたら駄目じゃん。というかいきなり娼婦の皆さんとやらかしていいのかお前」
「本当はわたくしたちから始めて欲しいところですけれど。狭量なことを言い張ってしまっては、わたくしたちがアンディさんと致すことも不当になってしまいますし。ここは一度ずつ交代ということで」
 そうだった。オーロラは公平な勝負事ならわりとなんでもアリな子だった。
「話せますねお姫様」
「その呼び方はやめてくださりますかしらコスモスさん。わたくし今はただの雌奴隷ですもの」
「いい調教振りです。さすがスマイソンさん♪」
 と、雌奴隷陣営と娼婦陣営が協定を改定していると、ステージが終わったダークエルフのメイド長さんがソソソと寄ってきた。
「話の流れからすると、スマイソン様は我々にも興味をお示しのご様子」
「あ、いや、見てて素晴らしいとは思いました。おっぱいありがとうございます」
「どういたしまして」
 スケッチが終わりたてなのでまだ裸で服を抱えたままのメイド長さんは、俺の変な感謝にも真顔で答礼。
 そして。
「いかがでしょう。よろしければ手すきの者が性的なご奉仕も提供できます」
「マジで」
「もちろん。噂を耳にして虎視眈々と機会を窺っていたメイドも何人か……いえ失言でした」
「ちょっと打消しまでの失言長くない!?」
 冷静なメイド長さんも意外と面白い人のようだ。
「ちょっとメイド長。そのまま流れで自分が一番乗りはずるいです」
「さすがにそこまで企んでいたわけでは。いえ、どうせ一度脱いだ服を着る前なので、ちょうどいいと思っていなかったわけではありませんが」
「私たちとも相談してくださいよー。なんか雌奴隷さんとかコスモス本舗の人たちとかとも順番分け合う形になるみたいですよ?」
 メイドさんたちがすみっこで相談を始めてしまう。……期待した俺のちんちんはどうしたら。
「あ、順番決まってないならうちで頂いていいですかー?」
「まだ描いてもらってないけど汚れちゃっていいのかな」
 コスモス本舗の少女娼婦マルチェ嬢と、白い狐獣人のフェリシア嬢が揃って下半身に身を寄せてくる。
 ……幕の外ではネイアとベアトリスがあまりに大量の男の視線に緊張してしまい、身を抱くようにしたまま固まってしまったので仕方なくグロリアさんがそのまま描いているところだった。

(続く)

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