イザベル嬢は俺たち(というか、雌奴隷たちとグロリアさん)の要望を数分の会話で巧みに汲み取り、まずはこの館の娼婦たちの基礎をレクチャーをしましょう、ということで、全員にそれっぽい恰好をさせてくれることになった。
特に関係ない職業の女たち(しかも半数は武人)がみんなして「娼婦の真似をしたい」なんていう状況はどう見ても意味不明なのだが、そこはさすがコスモス嬢の右腕、察してくれるらしい。
「このコたち若い頃のイゴールさんより強いですね。見た感じでわかるです。特にハーフエルフのお二人さんはマスターナイト級の腕前とお見受けするですよ」
「イゴール?」
「トライデントのご隠居です。40年くらい昔はタルク最強だったです。今はふにゃちんです」
アンゼロスやネイアの強さを、パッと見ただけで見抜くのはわりとすごい眼力だ。
その二人は貸し与えられたスケスケ巻き布を、コスモス嬢に手伝ってもらいながら着付けている。少女らしいスレンダーさのアンゼロスと、低身長の童顔に見合わぬ巨乳のネイアは、同じエロ衣装でも趣が違ってそれぞれ実にそそる。
「というか、みなさんデタラメに肌が綺麗なので嫉妬するです。うちのお店でも肌は商売の種なのでお店に出す前に念入りにケアするですけど、いくらエルフとはいえここまで綺麗な子はほとんどいないです。……グロリアさん以外は」
「面目ないわー……」
一番ノリノリで騒ぎながら透け布を体に巻いたグロリアさんだったが、女の目で見ると肌はやはり見劣りするらしい。俺はあんまり気にならないけど、女同士だと特に目についちゃうんだろうな。
そういえば女って枝毛とか見つけあうのすごいよね。なんで髪の毛一本のことなんていちいち注目できるんだろう、と思う。
「さてさて。それでは種馬さんはこちらです」
「え?」
「女性向けの講習をぼんやり見てても多分あんまり面白くないです。それに新しいことを覚えたら、できればサプライズさせたいのが人情です。彼女たちの成果は追って自分で体験するといいです。……真っ昼間なので、ウチも今、暇な女の子いるです。適当に口説いて遊んでるといいです。はい、イザベルコイン」
「……?」
なんか紫色に光る楕円形のコインを一枚渡された。
「なんですかこれ」
「イザベルによるサービス命令の証です。どんなプレイでもこれ一枚で一発分は無料です。本当はそれなりのお代金と引き換えのコインですよ」
「……ど、どんなプレイでも?」
「いきなりつきつけちゃ駄目ですよ。……普段は、女の子が自分の裁量でサービス料金つけてるです。それぞれ可能なプレイや好きなプレイが違うので、その気になったら『いくら出したらここまでやるですよ』とプレイを提示してくれるです。それに対してイザベルコインはワイルドカードになるです。あくまで何をしてくれるかは種馬さんの口説きスキル次第なのですよ。口下手だと手コキやフェラで巻き上げられてしまうです。あくまで一発分です」
「な、なるほど……」
ある意味、ゲームみたいな感じか。
これ一枚でどれだけイイコトをしてもらえるか。ことによっては素晴らしい体験ができるかもしれないし、下手すればオナニーのオカズになってあげるわ、みたいなので消費してしまうかもしれない。
「一発分の体力が惜しいなら、外の食べ物屋とか服屋、酒場なんかでもワンオーダーだけイザベルコインで通用するですよ。まあ……種馬さんと名高いお人がそんな意気地のないことしないと思うですけど」
「……も、もちろん」
お手並み拝見、というちょっと意地悪い顔をするイザベル嬢。その挑戦を受けて立つ。
しかし本音を言えば、そういう「知らない女性を口説いてその気にさせましょう」というミッションはすっごい苦手だ。
言うまでもなく俺はグイグイ口説いていくタイプじゃない。
特殊事情や勘違いなどで相手が乗り気な場合は勢いでいただいてしまえるし、その後の関係もどんと来いなのだけど、相手が受け身で「私にどうアピールしてくださるの?」と待っている場合は、なーんにも攻め手を持っていない。
それでも……この紫色のコインで何ができるか。
「では……行ってきます」
「行ってらっゃいです。あ、もしかしたらプレイを後ろからみんなで覗くかもしれないですよ」
そういえばそういう目的だった。他のお客の遊んでるところを見せてもらうツアーだと思い込んでいたんだけど。
……ま、まあ、あれだ。うまくいったらうまくいったで丸儲けだし、しょっぱいサービスで掠め取られたとしても、雌奴隷たちは女遊びの下手な俺に安心してくれるかもしれないし。
どっちにしても俺に損はない。当たって砕けろだ。
ぎゅっとコインを握って、俺は力強くイザベル嬢の指した方へ歩き出す。
コスモス本舗は広い。
貴族の大邸宅……というほどではないが、そこらの宿屋なら二軒か三軒はまとめたくらいの広さを誇っている。
「どこまで入り込んでいいのかな……」
ちらほらと人の気配を感じるのだが、ちょっと近づいてみると男と談笑中だったり、思いっきりカウチで熟睡中だったり。もしかして寝てる娘さんにはイタズラしてもいいんだろうか、とか思いながらも、全く知らない女性にそんなことできる度胸はなく、イザベル嬢同様のほぼ全裸みたいな寝姿を拝むだけ拝んで退散する。
でも正直それだけでも結構気持ちは充実している。
妖しいお香と妖しい光、裸同然の姿で男に買われるのを待つ美女たち。
エロ絵巻に見るだけで実際は空想の世界だった、薄暗く淫猥な営みの中で俺は好きに歩き回っている。
実際のエロいことは、気心の知れた雌奴隷たちにいくらでも頼めばいい。
でも「娼館にいる」という経験は、身内のごっこ遊びでは手に入らない。
童貞だったらここまで気持ちに余裕はなかっただろう。
とにかく誰でもいいから童貞を捨てさせてもらおう、と血眼になり、寝てる娼婦に逡巡の末に襲い掛かっていたかもしれないし、その辺を通りかかる娼婦に土下座して「どうか童貞食べてください」とお願いしていたかもしれない。
イザベル嬢に貰った紫のコインは、それだけできる魔法の券なのだ。
「とはいえ……なんにもせずに戻るっていうのだけはナシだよな……」
誰か見つけてお相手してもらわないことには、さすがに恰好はつかない。
例え手コキだけで終わろうとオナペットプレイで済まされようと、まずは挑まないといけない。
騙されたり負けたりするのは恥じゃないが、何もしないのは恥だ。男にはそういう時がある。それが今だ。
「暇な女の子いるとは言ってたけど……誰がどういう感じでいるのが『暇』なんだろう……?」
館内は仕切り壁はあるものの、部屋を区切るのは白い垂れ布で、それを無造作にめくっていい物かどうかがまずわからない。そしてめくってそこにいたとして、それは交渉していい相手なのかもわからない。
高級娼館ではまったりと酒を飲んで語らい、その気になったら自然に始めるような遊び方をするという。色欲丸出しの突撃はよくないのだろうか、なんて考えて、どういう風に声をかけたらいいのかわからなくなる。
そんな風に幕の向こうの娼婦たちの姿に迷っては離れ、覗き込んでは躊躇い……と歩いているうちに、俺は自分がどこにいるのかすっかりわからなくなっている。
途中でスロープを上ったので多分二階じゃないかなーと思う。
ここ階段はないみたいなんだよね。薄暗い照明だし、酒酔いで転げ落ちたりしないためだろうか。
スロープの横にできるであろう高低差でも人が落ちることのないよう、しっかりと壁が立ててあって、配慮されているのを感じる。
で、娼婦自体は二十人くらいは見かけただろうか。だいたいはダークエルフ女性で、こちらを見かけると意味深な微笑を浮かべてくれたりするのだが、それはOKということなのか、あるいは俺が何かおかしなふるまいをしてて生暖かく嘲笑されているのか判然としない。
しかしこうしていても始まらない。ミラ嬢たちが夕食の用意をしてくれているのだから日が暮れてしまうのも困る。
話しかけよう……と意を決したところで、背後からポンと肩を叩かれた。
「えっ」
「ねえ、もしかしてこういうとこ初めて? どうしたらいいかわからなくて迷ってる?」
「……は、はあ」
肩を叩いてきたのは俺よりちょっと背の高い女性だった。
無論、裸同然の透け布のいでたちだが、人懐っこそうな微笑を浮かべた髪の長いオーガ女性だ。角は2本で、その先端は短めの五角錐みたいな形に削ってある。
大きな体格ならではのおっぱいの迫力でちょっと気圧されるが、顔立ちからすると結構若いんじゃないだろうか。
「じゃあ私が相手したげよっか。大丈夫大丈夫、私まだランク低いからお値ごろだよー」
「ら、ランク?」
「人気ある子やえっちのうまい子はAランク。基本料金お高いんだよ。もちろん親密になったら同じ料金でサービスよくしてくれる子もいるけどね。私はこないだ入ったばかりだからCランク。一番下はDからだけど、オーガまんこは特別だからすっとばしね。でも中出し本番でもなんと40。初めてのお客さんにはオススメだ」
「……おぉ」
や、安い。40というのは金貨でいいんだよね。
タルクは性風俗が盛んなので相場も安いとは聞いていたけど、金貨40枚ってちょっとした宿代程度だ。
ま、まあ、イザベルコインあるからそこは問題じゃないんだけどね。
と、そのオーガ嬢のあけすけなお誘いに、近くの幕の裏から別の娼婦が現れて文句を言う。
「ちょっと、いきなりそういう誘い方はないんじゃないの? あんまり強引な売り込みはやめろって言われてるでしょう?」
「初めての人が迷ってるんだから親切しただけじゃんー。大店の大旦那ならともかく、お店慣れしてないお客さんに回りくどい言い方したってわかんないよ」
「全く、デリカシーがないと上客なんてつかないわよ?」
ダークエルフ娼婦はそう言って軽く溜め息をつく。そして俺に微笑みかけて続ける。
「でも初めてだからって遠慮せずに、わからないことがあったら誰にでも聞いてね。さっきから見て回ってたのは品定めしてるんだとみんな思ってたんだから。例えば目当ての娘がどこにいるか、なんて話でも、ケチケチ教えない娘はいないわ」
「あ、ああ……そっか、俺、目移りしてるように見えたんだ……」
ただ、どう言って絡んでいけばいいのかわからなかったんだけど。
「それで目当てはある? ないんだったら私と遊ぼうよ。昼間って結構暇なんだよー」
「あ、あー……それは、どうしようかな」
「オーガはやだ? いっぺん体験してみたらきっと変わるよ?」
「しゅ、種族にそんなにこだわりはないんだけど……」
俺がモタモタと答えていると、近くにいた娼婦たちが次々集まってくる。
「何、この娼館初めて?」
「お目当てのプレイとかないんだ? じゃあ私も混ぜてー」
「この分だとしばらくは誰も来そうにないし、やる? 頑張っちゃう?」
「あ、あわわ」
なんだか色々な人が来てしまった。みんな裸同然で平然としている娼婦の皆さんが。ダークエルフばかりじゃなく人間、それに狐獣人の女の子もいる。
「その……ええと、俺、これ一枚しかなくて」
なんだか変なノリになりそうだったので、正直にイザベルコインをビッと掲げる。
それを見た娼婦の皆さんは一瞬シンとして。
「おー……なるほど、そういう」
「へえー……イザベル姉さん、そういうつもりかー」
「ふふん。じゃあ頑張っていかないとねぇ……♪」
娼婦たちはむしろ何かやる気になっていた。
あの、これ一枚ってことはつまりお代は一発分しかないんですが……。
「つまりその一発でウチの良さを思い知らせろってことでしょ?」
「ふっふっふ。腕が鳴るねえ……いやこの場合は子宮が鳴る?」
「怖いから膣が鳴る程度にしておいてよ……」
え、そういう話になるんだ?
っていうか口説けって話は?
(続く)
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