しばらく水浴びをしてからオアシスを出ようとすると、フルチンのオーガ二人がのしのしと近づいてきた。
「お客人、こいつですぜ」
ダークエルフ男を捕まえている。
というか、一瞬誰かと思ってしまったが車引きの二人だった。
オーガはデカいことだけに目が行き過ぎて、顔の個性とかにあんまり目が留まらないので、服を脱ぐと識別しにくかったりする。……けどこれって自分から見た異種族全般にある現象だな。
まあそれはともかく。
「これって石を投げた奴?」
「そうです。太ぇ奴だぜ、オニキスの客人に手を出してタダで済むと思いやがって」
ポイッと投げ出されたダークエルフは受け身も出来ずに浅瀬に顔から落ち、ガボガボ言ってから起き上がって情けない声で言い訳を始める。
「だ、だってよう、そんなのわかるわけねえだろ! そんな金持ちなら公共のオアシスなんかで自慢してんなよ!」
「やかましい。神妙にしろ。それ以上不興を買ったらオメェ、オニキスだぞ。コレもんにされても誰も文句なんか言えねえんだ」
オーガの片方が自分の首を指でシャッと横に引っかく動作をする。
……恐れられてるなあ、やっぱり。
「まあ、俺だからそこまではないと思うけど。でも俺の横に居たの、オニキスの会長の妹だぞ? もし手元が狂ってたら、それこそ一思いに死ぬより酷いことになってたかもしれないぞ」
俺はダークエルフ男に警告する。
が、その当のヒルダさん(脱衣所に行く前なので当然裸だが、至近距離のオーガやらダークエルフ男やら相手にも当然さっぱり隠さない)は苦笑い。
「私に当たるよりアンディ君直撃の方が絶対酷いことになってたと思うなー」
「そうよね……」
ノールさん(同じく裸だが潔く丸出しなのでタルクの水浴文化の奥深さを感じる)も物憂げに頷く。
「カルロスさんは絶対肉親の方が激しく怒ると思いますけど」
「兄上はそうでも、ライラちゃんやマイアちゃん、それにエマちゃんがいるじゃない」
「誰も止められないわよ。タルクが消えてなくなるわ」
二人は自分で言いながら怖気立つように身をすくめる。
「……消えてなくなる、って」
オーガたちとダークエルフ男はポカンとする。
横にいたミラ嬢(彼女もまた何一つ手で覆う仕草もしていないので、当然おいしそうなおっぱいがおっぱいでおまんこもおまんこ)は片眉を上げる。
「気のいい子たちに見えたんだけど、そんなに?」
「ディアーネちゃんよりもっと極端な性格してるわよ、三人とも」
「敵には本っ当に容赦しないのよね……シタールで見たわ」
「……あー……シタールってしばらく前のあれのこと……かぁ」
ミラ嬢が「うわー」と納得顔をした。
……そんなにシタールでやらかしたんだ、ライラ。詳しいとこ聞かなかったけど。
っていうか、ディアーネさんってそういう表現でいいの? 姉妹間でそういう代名詞なの?
「というわけで、アンディ君が同情的なうちにちゃんと謝りなさい。家族や友達もみんな死ぬところだったのよ?」
「ど、どういう……」
「謝りなさい☆」
何事なのかイマイチわかってない風のダークエルフ男に、ヒルダさんは有無を言わさぬ迫力で謝罪を迫った。
「まあまあ。どうせエマが守ってくれてるわけですし」
「そういう話じゃないのよ」
ヒルダさんは俺を見ず、彼に対する圧力を緩めない。
結局、それに負けて彼は俺にひれ伏して謝る。
「ご、ごめんなさい」
「う、うん。もうやめろよ?」
「はい……」
俺も戸惑いながら許し、その場はなんとか収まる。
「あのね。アンディ君と当人同士で話して、ちゃんと許した、っていう形にしておかないと、どっちにしても兄上が動いちゃうのよ」
服を着ながらヒルダさんが言う。
「さっきも言ったように、私がゴツンされるよりよっぽど恐ろしいことになるところだったんだから。コロニーリーダーの兄上にはタルクを守る義務があるの。ドラゴンの怒りを買う前に、その危険に対してケジメをつけなきゃいけない。『味方は守り、友には与え、客はもてなし、敵は殺す』……適当に逃がされた彼に対して、兄上が取る行動はひとつ。でしょ?」
「あー……」
「悪いことをしたら、ちゃんと罰を与えるのも力あるものの義務よ。特権ではなく、ね。……アンディ君がしないなら兄上が罰する。兄上も罰しないなら、事情を知った誰かが勝手にやるかもしれない。それは不幸なことよね」
「……納得はしますけどね」
謝罪を迫ったのはヒルダさんらしからぬ強引さだと思ったが、それが彼自身を守る方法だったということか。
でも、それを自分の判断には容易には加えられそうにないな。
……横紙破りは俺の方がよくやってる気がするし。
っていうか今回もどっちかというと場のルール的に駄目だったの俺のほうだったし。
「さっきの人も言ってたけど、金持ち向けのもっとエロい方向性の水浴施設とかあるのかなあ……」
「あるよ?」
俺の呟きに、シーマ嬢があっけらかんと答えてくれる。
「どういう……?」
俺が疑問を呈すると、三姉妹が顔を揃えて表現を探る。
「他のとこなら連れ込み宿っていうのかな、アレのちょっと趣旨が変わった感じのやつ。連れ込み風呂?」
「風呂っていうとおかしいかな。沸かしてないしねー。連れ込みプール?」
「外のお客さんはあんまり利用しないけど、伝統的にやっぱりあれなのよ、水浴びしながらえっちなことしたい! ……みたいな要求ってあるんだよねー。特にダークエルフ」
「体裁では水浴びはいかがわしくない! ってことになってるけど、やっぱり溜まってたらムラムラッと来るっていうのは否定できないよね」
なんという。いや気持ちはよくわかる。わかるぞタルクの民よ。
「で、その水浴び風呂というのは……基本的にはカップルでよそからは見えない感じに……?」
「そういうとこもあるね」
「見せ付け合い前提で大きいプールもあるって聞いたことある。……あと、噂ではごくまれに乱交好きの人が周囲を巻き込んで女の子ヤラせるから、童貞君が期待して一人で入場して待ってたりするとか」
「宿屋以上に入場料かかるのにねー。……童貞の情熱ってすごいよねー」
なんて切ない話だ。でもわかる。わかるぞタルクの民よ。
「俺もここに赴任してたらそういうプールに全給料かけて通ってたかもしれない……」
拳を握って共感すると、ルナとヒルダさん以外がシンと静まる。
「なんで……?」
「弟君っていっぱい相手いるじゃない」
「あ、わかった、見せるのが趣味? 違う?」
「主様、そのようなことに金銭を使わずとも……かの青竜のパレスで充分では?」
「自分の女がマワされるのが趣味とか」
ほとんど全員が「理解に苦しむ」という反応をしたので、俺は力強く反論する。
「だって二年前まで俺童貞だったし! エロ絵巻でオナニーするのが人生唯一の楽しみだったし!」
「ええー……」
「に、二年? 二年ってことは……えーっと、今雌奴隷が何人いるって言ってたっけ」
「エロ絵巻でオナニーは……下手すると風俗で三人くらい同時に買ってウハウハする方が安くない?」
「タルクだとそんなもんだねー」
「結構ハンサムなのになんでー?」
シーマ嬢がハンサムと呼んでくれた事はとても嬉しいですが、一般的には割と冴えないと評判の俺です。
ダークエルフはみんな美形揃いだから、かえって通りいっぺんの綺麗な顔じゃない方がステキに見えたりすることもあるんだろうか。
「鍛冶屋に兵士に、男ばっかりの職場だったし……子供の頃ハーフエルフにエロいイタズラしまくれる恵まれた環境にいたから、そこらの人間の町娘じゃイモ顔にしか見えなかったし……ディアーネさんは仲良くしてくれたけど、まさか本当にエロい仲になれるとは思ってなかったし……アンゼロスは男だと思ってたし……」
「聞けば聞くほど意味がわからないわー……」
「アンゼロスってあの可愛い子だよね、剣士のちっちゃい方の」
「若い人間の男の子って、イモどころかヤギとでもセックスしたいほどの性獣って聞いたけど」
「本当、早くタルク来ればよかったのに。ダークエルフの肌の色でイケるなら、いっくらでも娼婦いるし」
本当にここすごいよね。ダークエルフの女の子自身があっけらかんとこういうこと言い切っちゃうんだから。しかも処女なのに。
「む。娼婦ならエルフにだっているよ。そんなに安くは……ないかもしれないけど」
「そこで対抗しないでくださいグロリアさん。っていうか何で対抗するんですか」
「えーと、なんとなく……」
グロリアさんもよくわからない人だ。
「まあ、アンディ君がオマンコお金で買ってそれで終わりの人だったら、きっと雌奴隷もついてこないし、ライラちゃんたちとも縁はできなかったと思うけどねー☆」
「まあ……それはそうですね」
雌奴隷というのは女に対する独占欲の表れだ。
まあ俺の場合、女の子側からの誤解なども多分に含んではいるけれど、女の子とエッチすることを「金を払って後腐れなく気持ちよくしてもらっておしまい」で済む概念だと認識していたら、きっとこうはなっていない。
一度セックスしたら、俺は相手を独占したくなる。
他人じゃなく自分とだけ何度もエッチする人であって欲しくなる。
それでありながら、自分は誰にも独占されてやらない。好きなように、一方的に、魅力を感じた女の子を抱きまくる。
甚だしく身勝手なことくらいよくわかっている。
そういうわがままで欲張りなやり方を、力強い女たちがそれでも肯定し続けてくれたおかげで、今の俺がある。
女というものが気軽に、簡単に、手を出せて、手を放せるものであってはいけなかったのだ。金を払うという行為は、女をそういうものにしてしまう。
だから、ここの風俗文化はとても素晴らしいけれど、俺の人生にあまり早く接触してはいけなかったのだろう。
「ま、最初はお金で買っても相性次第ですよー。そのままお金抜きの付き合いになって、晴れてゴールインっていうのもタルクじゃそう珍しいことではないんですよ♪」
急に明るく話に入ってきた声が、全くそうと感じさせない気安さだったので反応が遅れる。
この明るい子は三姉妹の誰だっけ、と考えて、三秒置いてハッと気が付く。
「……あ、うわっ、レスリーさん!?」
「はいレスリーちゃんです♪ お客さんならコスモスって呼んでもいいですよ♪」
「何でここにいるんだ……」
「ふふふ、偶然です」
少女としか言いようのない小さく華奢な肢体に、バランスよく豊かなおっぱいが主張する。
明るさ満点のダークエルフ。実はヒルダさん同様の400歳台後半の娼館オーナーにして現役娼婦。
「偶然オニキスの本家にあのスマイソンさんが来ているってウチで働いてる子が耳にしたんで、いそいそお邪魔してみたんですが、人力車でお出かけするところだったんで……私も人力車呼んでカラの車探してたら、オアシスでのえっちな営業は間に合いませんでした♪」
「それ偶然の要素少な過ぎない!?」
源氏名レスリー、本名コスモス。
可愛いけど曲者さんだ。
(続く)
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