ミラ、シーマ、ルキノという三姉妹は、前回の精霊祭では協力して青空クッキングをしていたグループだった。
「しっかり挨拶してなかったよね。私がミラ、こっちの胸のある方がシーマでこっちのぺたんこがルキノ」
「ぺたんこじゃないよ! それなりだよそれなり!」
「ふふん。この世には勝者と敗者しかいないのだ。負けた貴様はぺたんこでも洗濯板でも甘んじて受けよ!」
「ほらミラが変なこというからシーマが調子乗ってる! 陥没乳首のくせに!」
「なっ、関係ないでしょお!?」
一応義理の家族に数えられる相手とはいえ、男相手の自己紹介でフリーダムすぎる三人だった。
ちなみにこっちの印象から言うと、ショートで若干大人びて見えるのがミラ嬢、ポニーテールでちょっと表情がアホっぽいのがシーマ嬢、ツインテールで少し生意気そうなのがルキノ嬢。ちなみに髪色はみんな銀。
まあ印象として10代に見えるけど、例によって俺よりはだいぶ年上なんだろう。
「三人は母親が同じだったりでつるんでるの?」
何とはなしに聞く。
「ん、違うよ? 三人ともバラバラだけど生まれ年が近いだけ」
「こーゆー家だからねー。一緒の時期に幼年期だとセット扱いで育てられちゃうのよ」
「ちなみに3人とも彼氏はいないから安心していいよ」
何を安心しろというんだ。
うん、まあ多分なんかエロいことがあった際にカルロスさんからの怒られ加減に影響するかもって話ですよね。っていうか俺とハプニング起きること前提なのかよ。
「ね、まさかとは思うけど……もう百歳近いのにまだ全員処女なの……?」
ヒルダさんが若干気の毒そうにおずおずと訊く。
「わ、わるいかー!」
「一人だけ裏切るなんて許されない!」
「ミラだけモテるのは何かの間違いだ!」
「……と、こいつらが言い張ってどこまでもついてくるので男の子と友達以上になれたことがなく」
……大変だなミラ嬢。
「……まあディアーネちゃんの例もあるから、百歳やそこらで焦る必要もないといえばないけどね……」
ヒルダさんは目を逸らした。……確かにディアーネさん、俺で処女卒業したんだよな。
でも俺が言うのもなんだけど、ディアーネさんの惚れ方も一般基準で言うとだいぶひどい感じだった。あんまりこじらせるのもよくないんじゃないだろうか。
「なーるほどー……ま、野暮は言いっこナシにしとこうか」
ノールさんは何かに得心したように小刻みに頷き、そして窓からひらりと飛び降りる。
二階だけどまあ彼女なら「危ない!」と騒ぐこともない。
が、そのまま元気よく行動に移られると、大回りしないと外に出られない俺たちは焦るわけで。
「さ、それじゃあ行きましょ。弟君もヒルダ姉さんも早く早く」
「え、ちょっ、ちょっと待ってくださいって。グロリアさん、ちゃんと上に着て! さすがにタルクでもそこまで開放的な恰好はまずい」
「あ、あたしだって夜着で外出るつもりは……って、うっわーシワになってる。どうしようかしら」
「どうせオアシスに行くんだから、ちょっとくらいトップレスでも誰も気にしないわよ☆」
「んなわけないです。俺の上着貸しますからとりあえずはそれで」
しばらくガタガタやってようやく外に出る。
タルク名物、オーガ人力車。
そこらの馬車以上にパワフルなそれに乗って、俺たちは朝の観光に出発する。
ちなみにダークエルフ姉妹五人にグロリアさん、ルナの他、護衛としてエマもついてきた。滅多なことはないと思うけど一応。
「さて、どこまで行きやしょうか」
「まずは近くの水浴びオアシス。そこでひと浴びした後に市場かしらね」
「あら、市場に用なの、ノールちゃん」
「お昼までに軽く見て楽しめるタルク名物って言ったら市場でしょ。史跡なんかは説明しないといけないし、そもそもあんまり華がないわ。南通り劇場なんかもいいけど、朝からやってないでしょ」
「それもそうね……」
「ねーねー姉さんたち、ウード温泉はー?」
「オアシス行った後に温泉もねぇ」
「知ってる? 実はウード山の近くに樹齢五千年の木があるんだって」
「それって楽しい……?」
「エルフには地味に人気だとか!」
「……グロリアちゃん、見たい?」
「あたしは木にそれほど執着する趣味は……っていうか『木』って大雑把ね。種類わかんないの?」
「それは調べそびれたなー……ナリスだったら多分食いつくと思ってチェックした奴だから」
三姉妹の頼りになるようでならない観光提案を聞き流しつつ、公共の水浴びオアシスにはものの五分で着く。
「ありがと。あなたたちもひと浴びしたら?」
降りながらノールさんが車引きのオーガたちに投げキッスしつつ提案すると、彼らは喉を鳴らしつつ顔を見合わせる。
「い、いいんですかねぇ」
「どうせ私たちが出るまでは動けないでしょ? オアシスは公共の場なんだから」
このオーガの車引きたちは一日分の先払いで雇われているので、仕事が済んだらさっさと帰るわけには行かない。とはいえ、砂漠のアイドルに「オアシスに一緒に入っていい」と言われるのはちょっとした役得どころではないだろう。気持ちはわかる。
「ま、もちろん私たちは私たちで浴びるだけで、別にサービスはしないけどね?」
「え、ええ、そりゃ妙な期待なんて滅相もないですが」
オーガたちは肘でつつき合いながら「どうするよ」「どうって……お前いけるか?」「いや、まあでもお前にはカミさんいるもんな」「そういう問題じゃねえだろう」などとブツブツ言っている。
そして大量の女性陣に紛れるように乗っていた俺は、ルナとヒルダさんにひっつかれながら馬車をなんとか降り、彼らの相談の邪魔をしないようにそっとオアシスの脱衣小屋に向かい……。
「お、おい、アンタ宝石蝶と一緒にオアシス入るのか」
「……ええまあ」
「すげえ度胸だな。怖くねえか、嫉妬で殺されるぞ」
「……それは多分大丈夫ですんで」
どうもオーガたちが気にしていたのは「役得はいいが他の男性客たちにギギギされやしまいか」というところらしい。
言われてみれば、確かにそういう視線を向けてくる奴もいるかもしれない。でもオアシスの中なんてどうせすっぽんぽんだ。嫉妬する奴なんていたところで何ができるとも思えない。
と、思って普通に他の女性陣と一緒に脱衣所で服を脱ぎ、ワイワイする彼女たちと水浴びオアシスに踏み込んだら、ビンビン感じる不審と殺意の篭った視線。
思った以上にノールさんは有名なのか。いや、それ以上に、合計で八人もの美女美少女に囲まれた状態でいるのが確かにバランス悪い。
だいたいの男は子供連れや家族連れ、あるいはお一人様で、彼らが仲良く水遊びをしたり、のんびり身を洗ったりする姿は、例え伴侶を伴っていたとしても、どこか牧歌的な姿。それに対して俺は明らかに不埒だ。ルナとヒルダさんは左右から明らかにべたべたくっついてきてるし、、その一歩外にいるエマも現実感を失うほど白い肌を俺に向け、公衆混浴文化に戸惑いながらも離れようとしない。
三姉妹もぷるぷるのおっぱいを隠す気配すらなく、しきりに俺にまとわりついて話しかけてくるし、どう見たってこう、家族の団欒的な「これ不埒な視線で見たら汚れてる」という感じの集団ではない。
ちなみに「ペチャパイ」「洗濯板」と揶揄されたルキノ嬢のおっぱいは、ダークエルフとしては若干控えめというだけで、エルフでこの大きさなら充分巨乳系に入るという感じのおっぱいだった。
と、凝視していたのを見咎めてルキノ嬢は軽く腕を身に巻く。
「えへへー。スケベ」
「無論です。俺はおっぱい丸出しの女性が目の前にいたら、例え握り拳が迫っていても謹んで心のままに拝見する男です。故郷の掟です」
ちょっと恥ずかしげに、からかうようなルキノ嬢の言葉には力強く返しておく。
隠し切らず、腕の隙間から乳首がチラ見えしたままのポーズは自然と目をひきつける。こういうのは計算でやってるんだろうか。天然なのだろうか。どちらにしても俺に損はない。ブラボー。
「ふふっ、変に純ぶるよりも、そうやってかぶりついてくれる方が嬉しいかも」
「ルキノよりこっちのほうが見ごたえあるよー♪」
シーマ嬢が両手で胸を持ち上げ、軽く揺するようにしながら、いたずらっぽくアピールしてくる。
彼女の手のひらには乗り切らない主張抜群のおっぱいは確かに乳頭が恥ずかしげに内に篭っている。
「乳首吸い出したいです」
「う、うわ、直球で来たねー……や、やってみる?」
「こ、らっ」
ぺし、とシーマ嬢のポニーテールを折るように後ろからチョップを入れたのはミラ嬢。
腰に手を当て、堂々とした裸体。おっぱいはシーマ嬢ほど大きくはないが遜色なく巨乳といえる域であり、ダークエルフの発育のよさを改めて感じる。
「っていうか、本当に遠慮なくおっぱいガン見するんだねえ。……私らより、ヒルダ姉さんやノール姉さんの方がすごいでしょ」
「すごいおっぱいも可愛いおっぱいも俺は大好きです。女性の美しいおっぱいはどれだって、男たちの心の故郷です」
「……ふざけてるのか真剣なのか、面と向かっても判断に困るセリフね」
ミラ嬢は困った顔をする。乳首はツンと斜め上を向いて俺の心を挑発する。
青空の下で素晴らしい裸体をみせてくれる彼女らに対抗し、俺のちんこも斜め上にツンと向く。
「んー……困ったことに、アンディ君はほぼ本気で言ってるのよねー☆」
「ヒルダ姉さん……それって思うところはないの?」
「女の子一人ひとりの魅力にいちいち上下をつけず、常に新鮮に、真剣に向き合う心があるってことよ。伊達に二十人以上も自発的に雌奴隷にさせてないんだから☆」
「……なるほどねー。ただ飽きて次々持ち替えてるわけじゃないってことかー」
「そっ☆ これだけ女に囲まれてても、初心というべき女体への感動と衝動を常に忘れない。だから私たちも、それに応えて愛欲に溺れることを躊躇わなくていいの。アンディ君は、優しいだけでも、スケベなだけでも、勇敢なだけでもないんだぞ☆」
「ん。アンディはすごい」
ヒルダさんとルナはそう言って、両の腕をそれぞれ抱きながら、俺の頬にキスしてくれる。
で、まあ俺のその姿は、どこから見ても全力でいかがわしい存在なわけで。
「……勝ち組は死ねー!!」
背後からそう聞こえてきたかと思うと、パンッという音が頭の後ろで鳴った。続いてぽちゃり。
慌ててヒルダさんとルナに放してもらいつつ振り返ると、握り拳大の石が足元に沈んで、波紋を広げていた。
もちろんはたき落としたのはエマ。
投げたと思われるダークエルフの若い衆は呆然としている。
「主様。絶やしますか」
「いや絶やさないで! っていうか何を絶やすんだ!」
「それはもちろん」
「うん駄目。絶やさないで。見えてるからなんか絶やせる気分になるのはわかるけどやめてあげて」
なんとかエマを止める。ダークエルフの勝ち組じゃない人はその間にさっさと逃げ出した。
無論投石はマナー違反で、周りから目撃情報が寄せられれば彼は捕まって処罰されるだろう。……手が滑ったらヒルダさんに当たるような危険行為だし、カルロスさんの耳に入って余計ひどい目にあわなきゃいいけど。
「っていうかすごいねーこの子。何、ナリスみたいに実はエースナイト級だったりするの?」
「あ、いえ、私は」
「ルナとどっちが身軽? 比べたことある?」
「どっちがどっちなんて決めなくていいって。一緒にやろうよー曲芸」
「あの、主様に承諾を得なければそういったことは」
三姉妹はすっかりエマを気に入ったらしい。……そういえばルナもエマも銀髪娘だ。何か親近感とかあるのかな。
ちなみにそういった騒動に背を向け、グロリアさんは、というと、無論オアシスに広がるおおらかな裸の世界、そしてそこに立つノールさんの姿に、すっかり指で枠を作って夢中だった。
「いやもー、なんかタルクすごいわ。私ここに本気で住もうかしら」
「エッチな風景目的でタルクに来るヒトってたまに聞くけど、女の白エルフは聞いたことないわね……」
「いかに自分のイマジネーションが貧困だったかわかるわ。なんかこう、解放されてるわよねここ。色んなものから。こういう世界を描き留めるのこそあたしの使命って気がしてきた」
「あなた自身もなかなか綺麗なのに……」
ノールさんは溜め息をつく。
猫背で女の裸まみれの世界に興奮するグロリアさんは、確かに残念な人にしか見えない。
(続く)
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