グロリアさんがどうも出し物のひとつになってしまったようなので、他のメンバーもただボーッと楽しむよりは、何かできることはないものか、ということになったのだが。
ちょっとした曲芸に優れるセレンやテテナリなどがいるならともかく、今回乗り込んでいるメンバーはあまり隠し芸は得意ではない。
「こういうのはできるけど、単にライラのパクリ芸だからね」
アンゼロスが木片を軽く投げ上げ、一瞬で炭化させながら「我ながらイマイチ」といった顔をする。
凄い芸ではあるが、確かに当のライラを座らせておきながらやるような芸ではない。
「竜にもそこまで炎を小さく、精密に操れる者は多くないがのう」
当のライラは感心しているようだった。
「そうなのか」
「必要がないからの。人間体でも大抵もっと雑に垂れ流すだけで事足りる。アンゼロスは本当に妙な所が小器用じゃな」
「火が自由に扱えると言っても、実生活ではほんのちょっとの火の出番が多いからね」
アンゼロスは苦笑する。……っていうか、そんな身近なことに応用する努力してたのか。
すごいけど、やっぱり総合的にはあまり受ける芸とはいえない。ライラの存在をおおっぴらにもできないしね。
「わたくしも……これぞというのは斬撃波になってしまいます」
「それを隠し芸として扱っていいのか」
「……悩むところですわ」
「いや悩むなよ。普通に駄目だよ」
オーロラもちょっと曲芸には明るくない。
斬撃波は芸というにはあまりに危ないよな。見世物として安売りをしていいものでもないし。
「オリジナルスペルなら、市井の者をあっと言わせるようなものもないわけではないが」
「それも宴会の出し物じゃないだろう」
「うむ……趣旨が違う気がするのう」
アイリーナの魔法もちょっと違う感じはする。祭りの場で披露すべきはそういう技術や理論の自慢とかじゃなくて、もっとエンタメ的なものだよね。
「フェンネル……は」
「だ、ダークエルフの皆さんの真ん中で注目を集めて何かするなんて」
「だよなあ」
忘れがちだが、フェンネルは今までまともにエルフのいないような遠くを旅したこともないのだった。
ポルカで俺の雌奴隷として色々慣れていた分、グロリアさんほど価値観が凝り固まってはいないにしろ、「ダークエルフの中に急に放り出されたりしたら怖い」という感覚は拭いがたいだろう。
「私たちは……」
「ネイアとベアトリスはそもそもこっちの祭りの雰囲気とかわかってないだろ。っていうかベアトリスは言葉自体通じないし」
「す、少しはわかるようになってきたってば! ……少しだけど」
「えらいえらい」
まあカールウィンの二人は素人芸人としては論外。
……うーん。なかなか難しいなあ。お世話になってるし、こういうところで少しは役に立ってみせたいところだけど。
「やっぱり僕とオーロラで演舞でもするのがいいのかな……」
アンゼロスが呟く。それしかないかなぁ、という空気になるも、見守っていたナンシーさんが苦笑しながら割って入ってきた。
「無理にそんなことをするよりは、他の者の芸に手を叩いてくれる方がいいよ。カルロスはあれで君らをちゃんと客人扱いしている。グロリア嬢に話を持ちかけたのは、彼女にも利がありそうだからさ」
「そうなんでしょうけど……一応ヒルダさんやディアーネさんに手を出しているのは事実ですし、身内というなら身内の義務を果たしたくて」
「いい心がけだけどね。武芸大会や魔法実演会は別の会場でやっている。元々そういうのが見たい者はそっちに行ってしまうんだよ」
「あ……じゃあ、そこに行けば」
「だが素人の大会だ。ナイトクラス持ちが割って入るのはいかがなものかな」
「……あー」
なるほど。うちの女の子たちもほとんどは一般的なエースナイトどころじゃないし……そりゃ気まずいな。
となると……確かに、こっちで素直に他の人の芸を楽しんでいる方がいいのか。
「半年後までに隠し芸の練習しないといけないな……」
「そうですわね……こうしてみるとつくづく、わたくしは剣以外の技能が足りませんわ」
アンゼロスとオーロラは真顔でそんなことを言っている。そんなに参加したかったのか。
「彼女たちはともかく、弟君は何か一発芸でもないのかい?」
「俺はー……時間のかかるチマチマ作業が唯一の芸ですから」
考えてみると、俺も人を楽しませる技術って持ってないなあ。
「ふっ」
カルロスさんが少し遠くから小馬鹿にしたように笑う。
「やはり所詮は短命種だなヒューマン。僕はいざという時のために小粋な手品からタップダンス、ダートやボーラの曲投げにタルク民謡にタルク伝統楽器一通り、一突きで他人を麻痺させるツボや声がひっくり返ったままになるツボ、腹話術に催眠術に完全女装まで隠し芸のネタは常に万全だぞう!」
「女装!?」
「141年ほど前の精霊祭でこっそり女装して接客したら、他のどの妹たちよりも紳士からの一夜のお誘いが多かったほどだ! まいったか!」
ひでえぞこのコロニーリーダー。俺が紳士ならその後自殺しかねない。
「っていうか、ちらほらとガチなスキルが混ざっていたような……」
「……本当にね。そういう特技がありながらなんであんなに弱いのか理解に苦しむ」
ナンシーさんが苦笑する。
いや、それ全部本当にできるの? 本当に弱いの? この人。
「ちなみにツボ押しは私の直伝よー☆」
「あんたか!」
ヒルダさんの仕込みだった。ってことはヒルダさんもできるのか、危険なツボ攻撃。
……まあ、ヒルダさんの場合、他人を魔法でさくっと無力化する姿が違和感ないので、ツボ押しで相手をオトしたか、魔法でオトしたか……の違いはあまり気にならないかもしれない。
ノールさんとの久しぶりの再会は騒ぎに紛れてしまったが、改めて彼女は朝食後、俺とヒルダさん、グロリアさんの部屋に訪ねてきた。
「さっきは兄上がてんやわんやでちゃんと挨拶できなかったけど……久しぶり、ヒルダ姉さんに弟君♪」
「お久しぶりです」
「今日着くとは聞いてたけど……どこから戻ったのか知らないけど、朝食前に来るなんて早いのねえ」
「クイーカの方にね。気が向いてぶらぶらしてたのよ。精霊祭の時期が迫ってるのに気がついて焦っちゃったけど、また飛龍便借りちゃった♪」
「父上ったら、ノールにあまり甘い顔ばかりしてると、他の勢力にもつつかれるんじゃないかしら」
「大丈夫よ、飛龍兵のコは私と二人乗りできたの喜んでたし、不利なことは触れ回らないでしょ」
飛龍の二人乗りって、確か飛龍は小さいから馬みたいに密着することになるんだよなあ。
女神様扱いのダンサーたるノールさんと乗れるなら、そりゃ、下手なこと言ってまた一緒する機会を失うよりは……と慎むのかもしれない。逆に自慢して回っちゃいそうな気もするけど、そんな口の軽い奴は伝令兵にはしてもらえないか。
などとノールさん相手に暢気に会話してる俺たちだったが、この部屋の中で一人、グロリアさんだけが感激した様子でノールさんを眺めている。
「これが宝石蝶……っ! やっぱり本物はオーラあるねぇ……!」
「あら、肖像画とか見たことあるのかしら。白エルフの女の子が興味持つなんて珍しいけど♪」
ノールさんはクスッと笑って髪を払い、軽くポーズをとる。普通の女がやったら自意識過剰だが、有名美人にだけ許される仕草だ。
「し、肖像画っていうか、ご同業の作品っていうか……あはは」
「あら。私のエロ絵巻なんて出てたりするの?」
「そりゃあるわよー☆ ノールちゃんってそういうの興味ないのかしら」
気まずそうにバラすグロリアさん。
特に気にした様子もなく純粋に興味持ったらしいノールさんに、そこそこ知識のあるヒルダさんが教える。
「前にエッチした男の誰かがエロ絵巻の絵師だったのかしら。覚えはないんだけど」
「そういうのは別にナマでヌードやセックス見てなくたって想像で描けちゃうのよ☆ そうでないと他の姫君や令嬢を使った絵巻なんてそうそう出回るわけないじゃない。ま、お姫様のお相手がエロ絵師だった場合は別だけど」
「そういうもんなのかしら。でも見てもない奴に乳輪大きく描かれてたら嫌よね」
「そうそう、そういう極端なのってあるのよねぇ。あたし許せないわー。あとエルフ系のエロ絵巻なのに陰毛描く奴は寝ぼけてんのかって言いたくなる」
「みんながみんなエルフのおまた見た事あるわけじゃないのよ☆」
「それでも、せめて一晩くらい買ってから描けって言いたくなるわ」
「んー、白エルフ一晩買えるとこって少ないんじゃない?」
セクシー業界のエルフ女性たち三人のぶっちゃけトーク。非常に興味深い。
……が、それはそれとして。
「今日はちょっと出かけようかと思うんですけど、ノールさんはどうします? 一緒に街歩きしてくれますか」
せっかく精霊祭まで数日間ある。
今回の旅には特に差し迫った目的もなく、タルクで余裕を持ってゆっくり過ごす機会。ならば観光しておくべきかと思っているのだった。
が。
「え、弟君出かけちゃうの? せっかく久しぶりに会ったんだからまず襲うのが礼儀じゃないの?」
「真顔でいきなり何を言いやがりますか」
「……? だって弟君ってば、あれだけ孕ます孕ます囁いて、他の男におまんこ使わせるなー、なんて命令しといて欲求不満のおねーさんほっとくの? 外道?」
「いや、別にそんなつもりじゃ……って、それでも普通はそういうのおっ始めるのって夜でしょう!?」
あくまでノールさんは俺の雌奴隷外の人だし、それなりの常識でもって対応しようと思うものの。
「まだ朝だっていうのに夜まで待たす気なんだ……ひどい子だー。お姉ちゃんそんな子に育てた覚えはないぞ」
「育てられてませんが!」
ノールさんは芝居がかった仕草で顔を伏せ、俺を悲しそうに見る。
ヒルダさんに助けを求めるように目を向けると。
「前回別れた時にあれだけガッツガッツいってたんだから、ノールちゃんのエロテンションがそのままなのよ☆」
「…………」
あー。
俺は会うたびにいちいちテンション変わるけど、この人は一度相手に深いところまで許すと、何ヶ月たっても同じところからスタートしちゃう人かー。
「……え、えっと……あたしここで見てていい?」
「いいんじゃない? いいよね、弟君?」
「……ええまあ」
流れ的に一発済まさないとどこにも行けなさそうなので、俺はノールさんにおずおずと手を伸ばす。
「……♪」
まるで猫が飼い主の膝に収まるように、ノールさんは俺の手に豊かな胸を揉ませながら、腕の中に自然に収まった。
(続く)
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