みんなでセレスタ屋敷の庭に戻り、立ち話で相談。
 もうネイアも戻ってきたことだし、ここほどうかうか歩けない町もない。
 用もなくあまり長居するのもどうかと思うので、そろそろ次の場所に飛ぼうか、ということになる。
「ライラが帰ってきたら次にいこう。次の目的地は……クラベスかヘリコン、かなあ」
 レンネストから見て南西方向。セレスタエルフの森林領州都と、そこからさらに西の砂漠沿いの町。
「クラベスに行くのはどうかねぇ……特別の用がないなら近づきたくないね、あたしは」
 グロリアさんがへの字口で言う。
 追放される前は彼女の家でもあった土地だ。帰っても許されるアテもない今、観光客のフリをして通りすがるのだって避けたいのだろう。気まずいだけだし。
「その連れてる娘たちの移住先を吟味する旅なんだろ? そういう意味でも向いてないよ、あそこは。異種族ってのはもちろん、同族でも余所者がそうそう住める土地じゃないしね」
「まあ、そうだよなぁ……」
 ちらりとオーロラを見る。
 彼女にとっても故郷だ。あまり芳しくない評価を言い捨てるのはちょっと無神経かもしれない。
 個人的にはクラベス嫌いじゃないんだけどな。観光客として行くだけなら、そう悪くない土地だ。短期滞在して風景や文化を楽しむだけなら、北の森やレンネストなんかよりずっと穏やかに反応してくれる。
 いや、北の森も俺に対してだけは熱烈歓迎ムードの氏族庄が多いんだけど、基本的にはキツイよね。
「まあ、わたくしもクラベスはオススメいたしません」
「オーロラ?」
「先の戦いで兄の名誉回復が成ったのだとすれば、見目の良いよその女を連れ込めば、アンゼロスさんの時のようなことになるのは目に見えていますわ」
「いや、さすがにもうそれは懲りてるだろ」
「謹慎の主な名目も『ドラゴンスレイヤーの無断所持』だったはずですわ。タルク閥のダークエルフをかどわかしていたのも父向けの献上品だったわけですし、兄本人のことではありません。ですから、中央政府から兄の女好きと無節操を咎められたわけではないのです」
「……そ、そういやそうか……な?」
 そういやあの事件、わりと大乱闘だった気もするけど裁定自体は軽く済んじゃったんだったっけ。
 だからって未だにアンゼロスを無理やり嫁にしようとしたような真似を今もやるとは思えないけど。
「何をしたのですか、オーロラさんのお兄さんって」
「……あんまり細かく語るのは気が引ける程度にはゲスなこと、かな」
 ネイアがアンゼロスに小声で質問し、アンゼロスは苦笑い。
 実はあの事件、直接知ってるのってディアーネさんとアンゼロスとセレンとオーロラ、あとベッカー特務百人長だけなのか。オーロラも正確には直接じゃないし。
 つまりここではルーカスの所業を知るものは圧倒的少数派。
「好みの容姿の女性を何人もコレクションのように娶り集め、歯向かうものは将軍としての大兵力とコロニーリーダーの長子としての権力で押し潰し、この世の春を謳歌していた俗物ですわ。あれでマスターナイトの実力があるのが腹立たしいのですが。……そして、アンゼロスさんをもその毒牙にかけようとした兄に対し、わずかな手持ちの武器と強い勇気で挑みかかり、ドラゴンスレイヤーまでをも持ち出した兄を撃退したのが、アンディさんの華麗な戦歴の始まりなのです」
「いや別に俺あれが初戦ってわけじゃないからな? 一応クロスボウ兵として山賊狩りや魔物狩りは結構やってたからな?」
 オーロラの偏った紹介につい訂正を入れる。ホントこいつ兄貴を軽蔑しまくるよなあ。
「確かに、カールウィンで見た彼の活躍は凄まじいものでしたが……アンゼロスさんをスマイソンさんが守ったのですか?」
「うん。カッコ良かったよ……片足切断されて死にかけたのに、最初から最後まで全然諦めなくて……」
 怪訝な顔をするネイアに、うっとりした顔で回想するアンゼロス。
「お前らの中であの事件の記憶がどんどん歪んでいる気がする」
 っていうか俺、あいつが油断してたところにライラの封石で不意打ちして、さらに重たいドラゴンスレイヤーで調子乗ってたところをクロスボウで射ただけだよ。基本あいつに勝ったのはスピードに目覚めたアンゼロスだよ。
「往々にして、歴史は小さな忘却と美化される解釈のもとに、少しずつ歪むものじゃ」
 訳知り顔で頷いているアイリーナだけど、それがわかっているならちょっと止めようよ。
「かような男が今も権勢を振るう街に、そうそう立ち寄る意味などありません。飛ばしてしまいましょう」
「お前兄貴にも故郷にもやたらと厳しいよね!?」
 あとさ。口挟めなかったけど、兄貴の悪口だいぶ俺にも突き刺さってるからな。むしろ女関係と権力に関しては俺の方が相当えげつないことになってるからな。
 唯一、理性的にあの時のことを覚えていそうなベッカー特務百人長はと言うと、耳をほじりながら。
「まあ細かいとこはともかくとして、クラベス行かないってのは賛成だな。隊長もいないのに変な因縁つけられたらめんどくせえよ」
 細かいところを訂正する気はさらさらないようだった。まあ主にルーカスの悪口だし、言われっ放しでもベッカー特務百人長としては何一つ問題ない……といえはそうなんだけど。
「……っていうかさ、あのお嬢さんたち、とっととタルクやクイーカに連れてっちゃおうぜ。隊長の裁量でやってることなんだから、軍やオニキスの勢力が強いところに行くのが一番だよ」
「クイーカまでドラゴンで乗り付けるのはなぁ」
「今さら何遠慮してんだよ。ディアーネ隊長がカールウィン制圧作戦に関連して色々触れ回ってるんだし、オーバーナイトの二人にだって面通ししてるだろうが」
「そりゃあそうなんですが……あそこでパニックが起きたらと思うと」
「まあ、やたらとカオスな街だけどよ。そんなことにはなりゃしないって。あの暴虐のアネットですら使節として入れたんだぜ」
「……説得力がある」
 暴れて被害出したりパニックを起こしたりする危険は、アネット大騎士長の方がドラゴンよりずっと高い……いやいやいや。
 ドラゴンは一般的に災害だ。アネット大騎士長は(そのポテンシャルはともかく)見た感じはただのオーガ女性だ。パニック起きるわけがない。
「やっぱクイーカはナシですよ。タルクは行きますけど」
「ちぇー。行ってくれたらウチの嫁たちや、爺様と婆様にも顔見せられて楽だったんだがなー」
「お爺さんとかお婆さん? ベッカー特務百人長ってお爺ちゃんっ子でしたっけ」
「家族が他にいねえんだよ。昔俺を拾ったのが独り身のバードマンの親父、その両親が俺の稼ぎで暮らしてんの。まあアパート建ててそこの家賃入るようにしてるから、俺がうっかり金入れ忘れても生きてはいけるはずだけど」
「はー……だからキングフィッシャー将軍と仲いいんですね」
「仲良くはねえし関係ねえ!」
 本人はそう言うが、まあ……バードマンに育てられたっていうことは、バードマンと仲良く付き合う上で重要だったんじゃないかと思う。
 慣れないとギョッとするもんな、彼らの動き。
「ヘリコンに行って、タルクに行って……シタールからラパールに移ろうと思うんですけど。だいたいタルクまでで元患者の彼女らの下ろしは終わっちゃうんじゃないですかね。酷い目にあったんだし、わざわざシタールやラパールまで戻ろうって人はあんまりいないんじゃ」
「どうだかな。旅行としちゃともかく、人が生活するってのは結局、便利とか綺麗が一番ってだけじゃ片付かないもんだ。そっちの出身の子がいたら、例え酷い目にあった記憶があっても、帰りたいと思う。そういうのも人情だぜ」
「それもそうか……」
 自分の知らない文化圏に放り出されるのはつらいだろうし。
 故郷に帰りたがらないグロリアさんやオーロラは特殊例で、本来は例え嫌な記憶があっても、自分の文化圏で生きていきたいんだろうな。
 幼い頃からあっちこっちの文化に振り回された俺は、その辺の「住めば都」の感覚が強いせいか、どうしても元の環境で、という他人の願望を汲めていないかもしれない。
 ポルカに住める事になったのも、はっきり言うとラッキーの積み重ねのおかげだしな。家族もいなかったし、もし男爵があんなに親切にしてくれず、すげなく追い返されていたら、今もバッソン住まいだったことだろう。
 自分の考えの締まらなさに悩んでしまった俺を励ますように、アイリーナはペンペンと肩を手の裏で叩く。
「ま、あちらこちらに寄ったのは、あの若いオーガとガントレットの四人を戻すのが第一目的の行脚じゃろう。それ以外の場所を見て回るのは、あの元患者の娘らのためもあろうが、何よりスマイソン殿の物見遊山ということでよかろう。難しく考えることはない。もう軍隊の任務ではないのじゃ」
「そ、そうか。うん」
 ディアーネさんがいると、ただの移動のひとつひとつも、目的をきっちり定めて動いてくれる。
 俺は無意識にそれと同じように、キビキビとしっかりした意思を持って動こうと、気負い過ぎていたのかもしれない。
 もちろんそういう計画性は大事だけど、今はもっと気楽に「行きたいから行く、そこで何ができるかはあくまでオマケ」みたいな感じでいていいんだろうな。ドラゴンの翼なら移動に予算がかかるわけでもなし。
 効率的な行動を心がけ過ぎるのは、人生を楽しむのには向いていないよな。
「じゃあ、ライラが帰ってきたら出ようか。決めた、次はヘリコンだ。ライラのことを慕う町民やリザードマンが多いから、多分楽しいし、移住したくなるかもしれない」
「ライラ様なら、もうそろそろ……」
 マイアが空を見る。夕日が陰り、群青の闇に支配され始めた空に、よく見れば黒曜石のような煌きが見える。
「もう帰ってきたか」
 俺が呟くと、ライラは軽い幻影衝撃を起こしながら空から人間体になって飛び降りてきた。
「ほ、ヘリコンか。今から飛べば夜明けまではかかるまい」
「バウズも場所分かる?」
「昔はよくユーファと旅をした。セレスタの地理もおおよそは覚えている」
「んじゃ、俺はそっちに乗せてもらうとしようかね」
「ユーファにあまり馴れ馴れしくするなよ。気が弱いのだ」
「アンタが思うほど俺はガサツじゃねえさ。こう見えて他人の警戒心を解くのは得意だ。向こうに着くまでにはお互い相性占いする仲になれるぜ」
「……余計なことをするなといっているんだ」
 ベッカー特務百人長はバウズの船に乗せてもらうらしい。こっちに気を使ったのか。
「じゃあ、僕らも準備しようか」
「ガンレットの皆さんに挨拶していかなくてよいのかしら」
「流石に昨日の今日で手続きが済んではおらぬじゃろうて。一月もしたらまた拾いに来ると言い置いたのじゃ。それまでは存分にここの空気を吸わせてやろう」
 アイリーナは澄まし顔で言い切る。ちょっと性格悪いぞ、お前。
 まあ俺もいちいち訪ねていきはしないけど。ナリス以外はなんか急に事務手続きも放り出してまたついてきちゃいそうなとこあるしな。

 そして、馬車と船に分かれて、俺たちは再び空に舞い上がる。
 エマとマイアも空っぽだったり荷の軽い馬車とはいえ、馬車を置き残していくわけにはいかないので飛行要員。
 しかし……こうも気軽に訪問できてしまうと、こうも遠い街なのに、まるで隣の集落みたいな感覚でしかない。俺のようにドラゴンに指示できるアテのない他の娘たちは、そんな気分じゃないのかもしれないけれど。
 で。
「結局、気兼ねしてしまって……本気で楽しむことは、レンネストではできませんでしたね」
「ごめんねアンディ。せっかく体の性能落としてまで射精できるようにしたのに、抜いてあげられなくて」
 まだレンネストの街明かりが見える時点から、フェンネルとアンゼロスがいそいそと服を脱いで俺に絡み付いてきた。
 それを見て他の娘たちもモゾモゾと服を緩め始める。ベアトリスやグロリアさんまでも。
「いや、強制参加じゃないからな?」
「どうせ派手にやるっていうのに、縮こまって見てるだけなんてつまらないし……わ、私が遠慮する義理ってよく考えたら全然ないし!」
「ま、あたし個人としては、無茶しない範疇でのエロは得意で好物だからねぇ。第一、半端に服なんて着てたらかえって汚れるだけじゃん、その射精の勢いじゃ♪」
 二人は多少恥らいながらも、要は「せっかくだから乗らなきゃ損」的な勢いで混ざってくる。
「テテスやシャロンいなくなったから、そういう『エロに混ざれ』的な圧力はなくなったと思うのに……」
「ふふん。先生をお忘れね☆」
「アンタが吹き込んだのか!」
「混ざる度胸のない子に見せつけながらのセックスも楽しいけど、アンディ君はもう全員手をつけてるんだから、半端に牽制させあうよりまとめておちんちん味あわせちゃう方が簡単でいいでしょ?」
 ヒルダさんが、知らないうちにベアトリス&グロリアさんに、こういうのに混ざるように説得しちゃっていたらしい。
「どうせ勿体つけたって意味ないんだから。みんな気持ちいい仲間に入っちゃっていいのよ☆」
「そ、そうよ! どうせ他にどうこう言ってくる奴なんて乗ってないんだし、いいじゃない!」
 すっかり裸になったベアトリスが鼻息を荒げる。
 しかし、ヒルダさんにねっとり説得されたら、生娘でもなんとなく乱交に参加しちゃいそうな危険さを感じる。
 今回はありがたいけど、あんまり気を利かせすぎないように言っといた方がいいかも。

(続く)

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