「いいねえここ。えらく立派な屋敷。エルフ式でもダークエルフ式でもない、オーガが通ることも充分に配慮されてる、それでいて格調ある建築様式。イマジネーションが刺激されるよね」
グロリアさんは「セレスタ屋敷」をえらく気に入ったようだった。
充分に広く、数も多い客間に、元麻薬患者の皆さん含めてみんなが荷物を運び込んでいるのをよそに、一人で屋敷のあちこちを探検している。
「ただの建物ですよ?」
訂正。一人ではない。
一応新参の客が何をやらかすかわからない……ということで、案内兼見張り役としてテテス、そして俺がついて回っている。
「創作者は木の一本、石のひとつからだって、それを彩るストーリーとシーンを想起するものさね。こうも風格ある建物ときたら、ここで今までどんな奴が過ごして、どんな光景が生まれていたのか……想像したくなるじゃないの」
「まあ、そんなに大したいわくがあるわけじゃないですけどね。レンネストではきわめて平凡な造りですし。ちょっと前まで地方貴族のシャルマン家が所有してたんですけど年賀の登城の時しか使ってなかったみたいですし」
「ストップストップ。そーゆーのはどうでもいいの。現実の歴史とか実在の人物とか、そういうのをモノから逆算して当てる……みたいな占いじみたことじゃなくてね。ただここに似合うキャラクターと相応しいシーン、それを直観するのが創作センスってものなのよ」
「……はあ」
テテスはわかったようなわかってないような顔をした。
グロリアさんは溜め息をつき。
「……まあ、あなたみたいな子なら多少はわかってくれるかしらね。いい?」
「?」
「まず、こう」
グロリアさんはテテスを強引に抱えるようにして、その背後から眼前の空間に、手をゆっくり狭めていく。
それぞれ互い違いに親指と人差し指を伸ばして、四角い枠を作るようにする。それをテテスの目の前、20センチほどに。
「この空間を絵にします」
「……は、はい」
「ここに。例えばスカートたくしあげた女がお尻を突き出してる」
ちょっと待て。
「いかにも華やかな夜会服。そのお尻には既に何回分もの情事の痕。……想像できてる?」
「……な、なんとなくは」
「できるだけ詳細に。……そこに尊大に声をかける貴族。『やれやれ、あまりにもはしたない顔をしているものだから、つい汚してしまったではないか。今夜のパーティーにその服で出る事はできんな』」
すらすらとエロ絵巻空間を展開しないで下さい。
っていうかグロリアさん、情緒のある風景見つけるたびにエロ絵巻のアイディア生成してるのか……?
驚愕している俺を尻目に、テテスはスッと手を上げて。
「そこから差分で素っ裸にして『今夜のお前のドレスはザーメンが相応しい。その恰好でフロアに出たまえ』と続くわけですね」
「いきなりハードな展開に転がしたわね……そこから輪姦?」
「晒し者羞恥恍惚シチュで」
「なるほど……前説抜きでホットスタートする分、いったん焦らし系のシーンで緩急つけるのね」
うなずくグロリアさん。
っていうかさ。
「無粋だとは思うけど、女二人で何もない窓辺見て、真剣に討論する話じゃないと思うんだ」
「でも、これが専門なんだよね、あたし」
「結構面白いアプローチじゃないですか?」
「いや、とりあえずはちょっとエロから離れようよ。っていうかそこまで見るもの聞くものピンクに染める思考法してたのグロリアさん!?」
「え、あ、いやぁ、それほどでもないけど。この子もエロにかなり積極的な子だし、例示には変に芸術ぶったネタ出しちゃいけないかなーって」
「テテスは頭いいから普通の例でもちゃんと通じると思う。っていうかそいつにエロネタ振ると本当に際限ないからちょっと控えてください。若いせいかエロ方面で暴走すると止まらないんです」
「ご主人様ひどい」
正当な評価だと思うよ。
「あはは、若いっていえば確かにね。アイリーナ様とか例のハーフの剣士の子とか、もっと幼く見える人いるから『そうだっけ?』って思うけど、人間だから見た目通りに若いんだ」
「エルフの間にいると自分の若さが注目されないとこありますよねー……そういえば私、ディアーネ特務隊に来るまでは何やってても若さで驚かれるクチだったんですよ?」
「そりゃそうだろうな……」
何年前から働いてるのか知らないけど、テテスの歳で騎士なんて滅多に見るものじゃない。それなりに形式ばった試練を乗り越えなくてはいけないトロットやセレスタではなおさらだ。しかも女となればなおさら少ない。
大人びているから忘れがちだけど、オーロラでさえまだまだ驚きに値する若さなのだ。
さらには魔法もエルフ並みかそれ以上に使える。冷静に言ってめちゃくちゃな天才児だ。
「それだけの才能があって、なんでこんなドスケベキャラとして落ち着いちゃうことになったんだろうな……」
「それはご主人様があまりにもえっちすぎるから……♪」
「え、俺のせいってことになるの!?」
「少なくともご主人様に仕込まれるまではおまんこもアナルもそういう用途で使った事ないですし」
「酒持ち出してまで無理矢理エロに持っていこうとしたよねお前!?」
俺とテテスが言い争っていると、グロリアさんが怪訝な顔をしてしまう。この人のこういう顔、何度目だろう。
「どういう馴れ初めだったのか想像もできないんだけど……」
「ご主人様が私の若いカラダに目がくらんで、ある晩ガバーッと……えっちなことに免疫がなくて抵抗できない私のお尻をさんざんオモチャみたいに弄んで」
「グロリアさんマジ混乱するからいい加減にしような!?」
テテスのこめかみを拳骨で挟んでグリグリした。まったくこの子は。
運び込みのごたごたが終わると、いよいよシャロンたちガントレット組の帰還報告ということになる。
「ここ出ちゃったら、しばらくはまた無骨な魔物狩り生活かぁ……」
「なんだかんだでナリスが一番残念がっているな」
「こっちの部隊にいれば私がこれといって活躍しなくても済むからですよぅ。レンネストじゃどうしたって暇な生活はできませんし。余ってたらどんどん仕事回されますし」
「やっぱりナリスちゃんは雌奴隷生活が性にあってるのかもねー」
「戦う日常が不似合いなのは認めるけど雌奴隷がやりたいわけじゃないからね!? すぐに人を巻き込もうとするんだからこの淫乱奴隷ども!」
「だがなナリス。積極的に働きもせず、アンディがセックスしようと呼び集めればちゃっかり参加するような生活は、雌奴隷生活とどう違うんだ……?」
「それはこう、気構えとかいろいろ違うでしょうが」
「気構え以外の差はどこにあるんだ?」
「それは……その、堂々堕落してみせるスタイルとか……首輪とか……」
「それは気構えの範疇ではないのか」
アルメイダに追い詰められているナリス。
「いや、別に俺は雌奴隷特に増やしたいわけでもないし、基本的にお前らにも首輪はできるだけ外して生活してほしいと思ってるからな? それつけてて俺が得する事って基本的にないからな?」
俺の主張は「はいはい」という感じで聞き流された。
最近ぞんざいじゃないですかこの流れ。俺ここに関しては真剣に訴えたい。雌奴隷自任するのはもうしょうがないとしても、外部の人を挑発するような結果は避けたい。
……そこでグロリアさんが「これから離れちゃうんだねえ」と残念そうに溜め息をつき、みんなの注目を浴びる。
そんなに縁がある相手ではないのだから、グロリアさん的には残念がることもないはずに思えるのだけど。
「や、特に見栄えのいい人たちだし、せっかくならスケッチの一枚もしておく時間があったらよかったな、って」
「スケッチ? 絵のモデルということかしら」
シャロンがつぶやくと、グロリアさんは頷く。
「もうちょっと時間があればねぇ。こんな上玉の集団相手に筆をとる機会なんてなかなかないから少し狙ってたんだけど……」
「それだ」
ビ、と指差したのはナリス。
「モデル、やりましょう。そうしましょうそれがいい。いい記念でしょ? 二、三日くらい時間とっても許されるうんうん」
「そこまでして先延ばししたいの、ナリスちゃん」
「なんだよう、だいたい肖像なんて気の利いたもの描いてもらう機会ないじゃん普通。そりゃテテスちゃんや騎士長みたいなザ・貴族様は違うかもしれないけどさあ」
「うーん……でも、ちょーっと往生際悪過ぎないかなあ、ナリスちゃんは」
「まあまあ、そう言うな。ナリス同様、絵のモデルになるのは私も多少興味がある」
「そうね。故郷でモデルをやらされた時はあまりに退屈で楽しくなかったけれど……離れている間にご主人様の慰めとなるなら、やぶさかではないわ」
なぜか乗り気のエルフ三人に囲まれ、仕方なくテテスも同意する。
「はあ……まあ、私も無理に早く原隊復帰したいわけじゃないですから。いいですけど」
そうして同意が取られたところで、いいかい? と俺に話を振られて、まあ俺もグロリアさんが描くところは多少興味があったので無論頷く。
で。
「失礼するぞ、ベルガからの報告を……っととっ!?」
「きゃあああっ!?」
「兄上っ!?」
「急に入ってこないで下さいよう!?」
グロリアさんがやるのだから、もちろん絵の条件は「裸婦画」であり、多少ナリスが躊躇ったものの、結局ガントレットの四人は屋敷の一室で裸でポーズをとる運びとなった。
で、当然のように俺がそれを眺めていたところ、バスター卿が直々に訪問してきて……いつもの気さくな調子でドアを開けて、シャロンとテテスとナリスが大騒ぎ。
ちなみにアルメイダはあんまり動じていなかった。長いアフィルムでの軍隊生活で、男に肌を見られるのは慣れているらしい。
「大騎士長、見ての通り絵を描いてもらっておりますので、我々に話があれば後ほど……」
「な、なんだお前ら、スマイソンの名義でエロ絵巻でも売り出すのか!?」
背中を向けて叫ぶバスター卿。
「惜しい。当たらずとも遠からず」
描いてる人はエロ絵巻作家だ。売らないけどポルカの家にでも飾る予定だ。
「売っていいのコレ?」
「駄目だよ」
売る気なら本人とわからないくらいにアレンジしてほしい。
身内がモデルにされたエロ絵巻はどうなるのか、ちょっと興味はある。
(続く)
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