少しフワフワした気分のまま、一抱えのエロ絵巻を抱き締めて宿屋の帳場前を通っていく。
「おう兄さん。アンタ、チェックインしてないんじゃないのかい」
「あー……えっと、先に連れが来てるはずなんだけど」
宿の主人はドワーフだった。ドワーフ訛りは少ないが、声はしっかり低くしわがれている。
ボルトンのホテル、というグロリアさんの言い方からすると、彼がボルトンという名なんだろうか。看板にはホテルとしか書いてないけど。
「連れって誰だい。名前言ってくれなきゃ。ドサクサで出入りされちゃ敵わないんだよ。そういうツラして入り込んで備品とかパチッていくバカもいるからな」
「あー……誰の名前で取ってるんだろ。アイリーナかオーロラ……なのかな」
「アイリーナ……アイリーナねえ」
ドワーフの老人は手探りで眼鏡を取り、宿帳を覚束ない手つきでめくる。
ドワーフはみんな歳食ってるように見えてある程度以上の歳はわかりにくいが、この人は本当に老人な気がする。
「……くそ、字が小せえったらありゃしねえ」
「目、悪いの、爺さん」
「爺さんって言うんじゃねえよ。これでもまだ150だ」
「……爺さんじゃんか」
半掛けしたら75歳。若さを保つポルカでも、これで若いつもりの爺さんはいない。
「若い頃にはよく見えてたんだがな……眼鏡も作りなおさなきゃいけねえか」
「それで、名前あった? 待ち合わせてるんだ、早く入って着替えないと」
「待ち合わせだぁ? チェックインもまだのくせに売女でも連れ込もうってのかよ」
「売女とか言うなよ……まあ娼婦には違いないんだろうけどさ」
そこで俺はグロリアさんに言われたことを思い出す。
「……グロリアさんが相手してくれるって言うから」
「グロリア……って、お前みたいなヨソ者をグロリアが? なんてこった、あの女……」
「……なんだよ爺さん」
「……なんでもねえよ、ったく俺は一ヶ月待ちにしておいて」
「爺さんもエルフとヤリたいの!?」
「う、うるせえ、あの女は別格なんだよ!」
ドワーフはエルフを一般的に毛嫌いする。「貧弱すぎてヘシ折りそう」とか言って性交相手としてもあまり見ない場合が多い。
もちろんラックマンみたいに守備範囲いくらか広いのもいるけど。ちなみにドワーフとオーガは比較的お互いアリだったりして、時々壮絶な体格差のカップルがいたりするがそれは置いといて。
……こんな爺さんでもグロリアさんの順番待ちしてるのかぁ。
「グロリアはいつ来るって?」
「身綺麗にしてから来るって言ってたから……まあ一時間かそこらはかかるのかな」
「……ま、あいつの口利きってんならしょうがねえ、行きな。こう見えないんじゃ宿帳睨むのも疲れちまうし、ここは信用しといてやる」
「…………」
あとでヒルダさんに治療できないか聞いてみるかな、と考えつつ、俺はそっと奥へと進む。
どこに部屋取ってるかと思って小声で「ライラー、マイアー」と呼んでみたら、ガチャガチャガチャッと数室のドアが一気に開いてびっくりする。
「ほ、何を驚いておる」
「アンディ様の部屋、こっち」
「私の名を呼ばれなかったのはどういった理由なのでしょう」
「あ、いや、エマはまだちょっとお客さん感があるっていうかね?」
続くようにそこらの部屋からドアが開く音がする。見回すと全員うちの雌奴隷たち。
そうか。宿の部屋なんて二人部屋くらいが当たり前だから、人数分取ったら最低でも6部屋か7部屋は取らないといけないのか。ドラゴンたちの部屋も取ると三人増えるしな。
実際には一人部屋も使っているようだから、宿の一区画をほぼ全部、うちのみんなで占拠したような状態になっている。
「アンディの部屋をどうするか、みんなで意見割れてたんだよ」
「どうせ回るのですから、これといって一つのところに落ち着ける必要はないのではないかと思うのですが」
「この人たちナチュラルにスマイソン十人長が犯して回る前提で喋ってる……昼間たっぷりやったじゃん……」
「え、寝る前におやすみの中出しくらいして欲しくない?」
「おやすみのキスみたいなノリでそういうのどうかと思うよテテスちゃん!?」
「夜だぞ。静かにしろナリス」
「まあまあ。このあたりの部屋は私たちの独占だもの、エルフでもなければ聞きつけないわ」
既に寝間着に着替えているものもいれば、特に気負いもなく裸に首輪だけで廊下に顔を出しているものもあり。というかシャロンとアルメイダは真顔で全裸(首輪のみ)だ。二人の部屋は完全に臨戦態勢らしかった。
「あ、あのさ……ちょっとこれ買いに行った流れで、さっきのグロリアさんが……その、ここに来てサービスしてくれるって話になってな?」
俺が抱えたエロ絵巻を軽く揺すってみせると、そのうち一本を手にとって開くアンゼロス。
「この前持ってたのと違う……」
「当たり前だろ、持ってたら買いになんて来ないよ」
「……これ買いにハーモニウムまで来たの?」
「あっ」
アンゼロスが呆れ顔をしたので、俺は自分がうっかりしたと気づく。
これを買いに来たというのは秘密で、表向きは観光のはずだった。
「ま、まあ、ほら、楽しみの一環としてな?」
じとー、とみんなの視線が俺に集中するのを感じる。
「それにしたってなんでこんなに……」
何本も抱えているのを数本取ってアンゼロスが呟く。
「み、みんな欲しがってたんだよ。これ流通量少ないんだ」
「ランツやゴートならともかく、わざわざ隊の連中のためにアンディがこんなのに手を回さなくても……」
「こんなのって言うな。芸術だ」
「そうかもしれないけどさ……」
くそう。無理解が辛い。
お前らだって、この前エロ絵巻をネタにしてエッチに取り込んだくせに。
「ほ。飼い主殿なら、どんなエロ絵巻にも負けない淫蕩地獄に遊ぶこととて出来るじゃろうにのう」
「質でも人数でも負けない」
ライラの言に、ぐっと拳を握って同調するマイア。
いや、そうは言っても百人とセックスしたりするぞエロ絵巻って。……あ、でも猫獣人コロニーって最大で百人以上種付け待ちしてたりするな。うん。
時間的にも精力的にも、なかなか全部は回れないけど。
そのあたりの話題でグダグダになりそうになったところで、
「まあまあ。問題はエロ絵巻じゃないでしょう。さっきのお姉さんがご主人様にサービス……つまり一発まぐわいに来るなら我々もぼんやり迎えるわけにはいかないと思いませんか!」
と、テテスが拳を振るう。
「いや迎えないで寝ようよテテスちゃん。明日までほっとこうよ。今さらこの人が知らないお姉さんと一度や二度にゃんにゃんしたところで目くじら立てなくてもいいじゃない」
ナリスの意見は誰も聞いていなかった。
「うむ……確かにこういった絵巻に劣るような体たらくを、雌奴隷たる私たちが見せるわけにはいかない気がする」
「そうね。ご主人様がもっと贅沢な境遇にあると見せ付けなくては」
アルメイダとシャロンが変な使命感に駆られる。いや、別にそんなのいらないと思うよ。
「このわらわがそなたに奉仕している姿を見せたら、かの女はどういう反応をするじゃろうのう?」
「興味ありますわね……♪」
アイリーナとオーロラは悪戯な顔をして、廊下だというのに寝間着を脱ぎにかかる。
「そうは言ってもベッドにみんな待ち伏せるというわけにもいかないわよー? アンディ君にも残弾の問題があるしねえ」
「あれって解決したんじゃないんですか」
「マシにはなったけど、また全員犯してみせる! なんて張り切ったら流石に貧血で倒れちゃうかも」
ヒルダさんの言葉にみんなが思案し。
「代表者でいくしかないじゃろ」
ライラの提案にみんな渋々頷き、それから誰が迎撃メンバーに入るべきか真剣に討論が始まり。……俺の意見は特に聞かれず。
約一時間後、そっと扉がノックされて、おずおずと開けられる。
どの部屋で待っているかは部屋の外でライラに案内させた。
そして、軽く水浴びをしたのか、どこかさっぱりしっとりした感じのグロリアさんが部屋にそっと入り……そして、硬直する。
「よ、ようこそ……」
俺は少し気まずい気分で彼女に引きつった笑顔を向ける。
「え、えっ……あ、アンタ、たち……?」
「よう来た」
「れろ、ん、はむっ……んちゅ、んぅっ……♪」
ベッドに座る俺の股間には、全裸に首輪だけの姿になったアイリーナとオーロラが嬉しそうにしゃぶり付き。
左右には同じく首輪以外一糸纏わぬルナとテテスがしなだれかかり、甘えるように胸板に頬を寄せながら彼女を待っていた。
なんでこの人選かというと、ちんこしゃぶってる二人は身分との落差のインパクト、ルナとテテスは種族のバリエーション。
エルフにばっかり人気の人と誤解させないように! というテテスの主張の結果だが、その誤解を正して何の意味があるのかはよくわからない。
「この男に体を貪らせるのじゃろう? 先ほどそなたが察した通り、そなた以外にもこの男と床を共にする女は多い。種汁もそなたの独り占めとはいかんが、まあ、許せ」
「……し、白の長と……空色の姫様が、何をしてるんだい」
「わたくしもアイリーナ様も……このお方の、雌奴隷……なのですわ……♪」
「しゃぶれと言われればいつでもチンポをしゃぶり、股を開けといわれれば誰の前でも股を開く……そうすることに悦びを感じておるのじゃ……♪」
「……な、何者……なの、アンタ」
たじろぎながら俺を見るグロリアさんに、侍っているテテスが楽しくて仕方がないといった感じで答える。
「ドラゴンライダーですよー。それもとびっきりの……今までいくつもの国家的事件を収めてきた英雄で、幸せにされちゃった女も両手両足の指じゃ足りない、生きる伝説みたいな人♪」
さらにルナが続ける。
「みんなアンディの子供、産みたがってる……一回でも相手されるの、光栄に思っていい」
「…………」
絶句するグロリアさん。
そりゃそうだよね。うん。作品たくさん買ってくれたお礼に一晩の愉しみを提供しようと思ったら、いきなりエルフの最高指導者がその相手のちんこを自慢げにペロペロしてるとか、衝撃映像過ぎる。
っていうか、やっぱりこの演出ものすごくいらないよね?
「あ、あの……ですね」
俺は台詞に迷いながら、なんとかグロリアさんをショックから立ち直らせようと手を差し伸べる。
全部嘘だから安心して、というのもちょっと無理がある(冗談で氏族長が素っ裸になってちんこ舐められるわけもないし)。
だが、彼女らの言う流れに従って「俺は実はごらんの通りのセレブなんだ、抱かれることを幸せに思え!」と組み敷くというのも難易度高すぎる。
さて、どう説明してどうやって納得してもらおう。一応せっかくだし、できるものなら一発相手してもらいたい気持ちもあるけど。このままダッと逃げられても文句は言えない気がする。
「ええと……む、無理にとは言えないんですけど、できればその……お相手してもらえたらなあと」
「……え、えふんっ」
グロリアさんは俺の手を数瞬見つめて、自分が何をしに来たのかハッと思い出したような顔をして、咳払いをして気を取り直す。
そして口を開いて指を立て、止まりそうになる思考を必死に回すように息をゆっくり吸い。
「そ、そうだよね、あたしはプロだし……や、やることはやんないとね」
「む、無理にというわけじゃ」
「ご、ごめん、びっくりしただけ。うん、びっくりした……」
あはははは、と笑い、少し虚ろな顔になって。
「……こういうのマジであるんだ」
「こ、こういうの?」
「女が自分で雌奴隷とか言っちゃうようなハーレム展開……」
「展開って言うのはどうかと思う」
いかにも創作者っぽい言い回しに、つい素でツッコミ。
「どこまでマジなの?」
真顔で聞いてくるグロリアさんに、ちんこ舐めながらアイリーナが答える。
「今のところ冗談は誰も言うておらんぞ?」
「あたしを担ごうとしてるとか、脅されたりお金だったりの切実な事情があるんでなく?」
「そのようなことで、アイリーナ様やわたくしが不本意にちんぽを舐めたりなど有り得ませんわ」
オーロラの答えに、グロリアさんは困惑したように俯く。
「……だよね。有り得ないよね……エルフの中じゃ世界一の権威だもんね北の九氏族の長って……」
「聞いて驚くでないぞ。桜の名代とアーカスの姫も、この男の雌奴隷に入っておる。タルクの長の妹二人と……そこの小娘はかのレンファンガスのアレックス・バスターの縁戚じゃ」
「えへへー」
にぱっと笑うテテス。縁戚とは曖昧な言い方だが、異母妹というのは色々な意味で説明に困るので、そう言うしかないのだろう。
「この子が王族か何か……というわけじゃないよね。っていうか商王様やアフィルムの皇帝だって、エルフ相手にそんな贅沢な姫君集めなんかできっこない……」
「左様。わらわも空色の姫も、この男に……このチンポに心底惚れておるだけじゃ。権力を傘に、異種族に降嫁せよと言われても応じたりはせぬ」
「その通り……ん、ちゅっ、……んんっ♪」
「その方がいかれてる気がするけど、まあいいよ……」
グロリアさんは難しい顔をしながら服を脱ぎ始める。
そして下着を残してだいたい脱ぎきったころに、はぁ、と深く息をついて、ぐっと気を取り直したように顔をあげ。
「……ものすごい貴重な体験するチャンスじゃない、これ」
変な事を言い出した。
「子作りのための生々しい後宮とかの話はよく聞くけど、こういうスケベ純度十割のエロ絵巻そのものなハーレムって探してもなかなかない。そう考えると芸の肥やしだね」
「…………」
「参考にさせてもらおうじゃないのさ」
ニヤリと笑うグロリアさん。若干ヤケクソ感が漂ってる気もする。
「参考にしても良いが、わらわたちはほんの氷山の一角じゃぞ」
「ここに来てる全員でもまだまだ半分ですらないですしねー」
「……全員って、もしかしてさっき連れてた女たち……」
あれ全員と肉体関係あります。
……というのを雰囲気で肯定する雌奴隷たち。
堂々とした方がいいのかもしれないけど、俺はグロリアさんの信じられないものを見る目に耐え切れず、心持ち小さくなった。
(続く)
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