午後になって、ひょっこりとバウズとベッカー特務百人長が隊舎に現れた。
「ようスマイソン、今ここの一番偉い奴って誰だ?」
「特務百人長。……えーと、多分アイザックでいい……はずですけど」
 隊舎の外に休憩用に並べられたベンチ(オーガも座れるように頑丈な石台に木材を葺いてある)に座ってぼんやりしていた俺は、アイザックの姿を目で探す。
 午後の浅い時間は訓練か備品の手入れをしているはずだから、そこらにいるはずだ。
 ……と、そこで背後からポンと肩を叩かれる。
「おいスマイソン。俺のこと忘れてないか」
「……あ、あー……いたんだっけお前も」
 クロスボウのもう一人の百人長、ウイリアムズだった。
「いたよ! ずっといたよ! なんでみんな俺にそういう反応するんだよ! 一応今のここのダブルリーダーだぞ!? なんでみんなアイザックばっかり!」
「だって……なんというか、お前に何か頼っても解決しそうな気がしないし……」
「偏見にも程があるだろ!?」
 いきなりテンション最大値なウイリアムズに、ベッカー特務百人長は腕組みをしながら「まあどっちでもいいよ」と溜め息。
「ここらに移住したいっていう子が何人か出てきてるんだ。そういうのの手配、頼めるか」
「移住? 移住って……どっかから誰か来てるんですかね」
「……なんで事情把握してないんだよ」
 呆れる特務百人長。こっちについた時に一応、今回の訪問意図は説明したのだけど。アイザックから伝わってなかったらしい。
「ラパール人と南海岸出身の、どいつも若い女の子だ。全部で5人」
「外国人ってなると色々手続き面倒臭そうな……」
「全員、一度人身売買と麻薬の被害に遭ってる子達だ。とりあえずは住むところと仕事の斡旋……籍に関しては、まあ後回しでいいだろ。そのうちディアーネ隊長が手を回してくれるんじゃねえか?」
「え、ええー……身元はっきりしてないのを俺たちの権限でゴリ押すんですか?」
「……やっぱお前駄目だわ。牛の方連れて来い」
「あ、いやいやいや別にやらないとは言ってませんて! 問題点があるのを認識しているという話でしてね!?」
 セレスタはもともとそんなに戸籍の管理が徹底していない。できないというべきか。
 当局の把握できない砂漠大迷宮などの地域にも人が多く居住しているし、雑多な種族の生活様式により、完全な管理は不可能に近い。ちゃんと把握した方が税金徴収なども捗るので努力は続いているけれど、ある程度は諦められているところでもあるのだ。
 だから、ポッと出てきた人間が戸籍を取得すること自体は珍しくなく、そう複雑な話でもない。各所に顔の利くディアーネさんが口添えすればなお簡単だろう。
 ウイリアムズが渋っているのは、任されたのならトラブルが起きた場合に後見せざるを得ないというあたりだ。
 軍の後見があれば大抵のことは丸く収まるが、それでも面倒ごとが増えるのは間違いない。
 ……けど、それを態度に出しちゃなあ。
「アイザックだったら『そういうことなら任しといて下さい』ってドーンと引き受けるだろうに……」
「あいつ口では頼もしいこと言うけど、書類仕事全部ミカガミ任せにしてやがるんだぜ。威勢がいいだけでアイザックを信用しちゃいけない」
「ミカガミがいなかった時はちゃんと自分でやってたじゃん……手伝ってくれるから仕事振ってるだけじゃないのか」
「いーや、単なる堕落だね! 俺には分かる! あいつも言うほどリーダーの器じゃないね!」
 そんなことお前が主張してどうなるんだウイリアムズ。だからってお前の地位が向上するわけじゃないんだぞ。
「バウズはどういう用件でここに?」
「次の移動はいつになるか知りたくてな。長くなるようなら船の置き場も少し考えなければいかん」
「ああ」
 バウズは船で人を運んでるんだった。その辺に置いておいたら馬車よりずっと目立つだろう。さすがに幻影で隠してはいるだろうけど、一度の施術で長期は維持できない。
「そんなに長居するつもりはない……っていうか、そっちの女の子側の調整がついたら明日にでも発っていいんだけど」
「町でお前たちが動いているのをほとんど見かけなかったが……」
「よく知ってる町だからなぁ。この通り知り合いもいるから、南に向かうならちょくちょく立ち寄るし、今どうしてもここで楽しまなきゃいけない事も多くないんだ」
「そうか……ここは気候もいい。こんなにいい場所があるものかと女たちも喜んでいたのだが、お前にとってはそれほど魅力的な町でもないようだな」
「いい町だとは思ってるよ」
 バウズの言う通り、気候はちょうどいい。ポルカのように雪にうずもれた冬を過ごさなくてもいいし、砂漠の酷暑があるわけでもない。町はほどよくセレスタ的な活気がありながら、治安も悪いというほどではない。
 それに魔物が町を襲うこともあまりない。クロスボウ隊がその前に大抵狩ってしまうし。
 腰を落ち着けるには、なるほどとてもいい町だと思う。
「でも、それならもっと居住希望者がいそうなものだけどなあ」
「まだ一つ目だからな。他にも色々な場所を巡るのだろう? 行ける場所は見てから決めるというしたたかな娘たちも多い」
「なるほど」
 確かに慌てて永住を決めることもないか。徒歩や船では大金と時間のかかる旅が今ならあっという間だからな。
「となると、できるだけいろんな場所に寄りたいな……それも住みやすい場所か」
 砂漠の猫コロニーも行っておきたいけど、これは行き道で寄る必要もないかな。とりあえず外から女性を移住させるのに適した場所ではない。帰りがけでもいいだろう。
 となると、レンネストに行くことを想定すれば砂漠の東、草原地帯寄りのルートだよな……。
 一度レンネストを回って、また山脈を越えてヘリコンあたりに一休みして、あの海岸のシタールにもちょっと寄ってからラパール諸島へ。
 それぞれ二日くらいの滞在期間を予定すれば、ポルカには2〜3週間くらいで着くだろう。それからまたカールウィンに行ってレイラやコルティに会えばいい感じか。
 頭の中でルートを思い浮かべる。……そういえば、青蛇山脈をここから直接越えずに、しばらく南下してから直角に東に曲がってレンネストに行くルートなら、その途中でハーモニウムにも寄れる。
 工芸都市と呼ばれ、北方軍団の根拠地でもある街だ。行ったことないけど。
 あそこには移住を支援できるコネはないけど、寄れると個人的にはちょっと嬉しい。あの傑作エロ絵巻「淫魔の舞踏」の版元があるのだ。大きな街だし、探せば手に入るだろう。
「……じゃあ、ウイリアムズの方の仕事にメドが立つなら明日の夕方出発で。次の目的地はハーモニウムってことで」
「ハーモニウム? あんなとこにはさすがに移住しづらいんじゃないのか」
 変な顔をするベッカー特務百人長。
「まあ、それはそうなんですけどね。個人的に買いに行きたいものがあるんで」
「確かにここやオフィクレードよりゃモノも豊富かもしれないが。タルクでいいんじゃねえか?」
「タルクにはないかもしれないんです」
「?」
 ベッカー特務百人長は怪訝そうな顔をする。都市規模はタルクの方が大きいし歴史も古いので、武器や道具、あるいは酒など、類似品でいいようなものならタルクに行けば手に入るだろう。
 が、エロ絵巻はそうもいかない。しかしいくら男ばかりとは言え、真面目なバウズのいる前で堂々と「エロ絵巻買うためです!」とも言いづらい。
「ま、ま。完全に俺のわがままですけど、それくらいは許してください。観光ってことで」
「ん、ああ……そりゃお前が主宰みたいなもんだから、文句は言わないけどな」
「ふむ……観光か」
 特務百人長とバウズも多少不審がりながらも納得してくれて、次の目的地は決まる。

 翌日。
「というわけで、そろそろ次の目的地に移動するからみんな準備なー」
『はーい』
 バウズ側のメンバーはともかく、うちの雌奴隷たちは旅慣れたもので、俺が号令をかけると三十分で荷物を馬車に格納した。
 元々長居をするつもりではない。テテスたちはレンネストに行くのが目的だし、それ以外はラパールが目的地だとわかっているので、あまり荷物を広げてはいなかった。
「これでセレスタともしばらくお別れかあー」
「いやテテスちゃん、別にセレスタにそんなに未練ないでしょ」
「そりゃポルカの方がいいけど、しばらくレンファンガス出られないかもなーって思うと、異国情緒がちょっと名残惜しいかな」
「あー……えらい人の娘さんは大変だねぇ」
「私もブラックアームとして少々面倒なことになるのではないかと気がかりです……」
「騎士長は少し面倒なことに専念して頭冷やした方がいいです。ちょっとスマイソン十人長に毒され過ぎです」
「意地悪なことを言うのね」
 相変わらずお喋りなガントレットナイツに続いてアイリーナとフェンネル、それからネイアとベアトリス、ルナ、ヒルダさん、そしてアンゼロスとオーロラが続く。
「そんじゃ、またなスマイソン」
「おう。子供大事にしろよアイザック」
 アイザックが見送りに来てくれたので手を振り、俺も馬車に乗り込む。
 と、名残惜しく外を見つめながら椅子に座って……ふとゴソゴソ周りがうるさいなあと思って見回したら、車内の雌奴隷たち(一部雌奴隷でないのも)が、まるで温泉の脱衣所のように当然といった風情で服を脱ぎ始めていて呆気に取られた。
「……何やってるんだ」
「え、もちろんハーモニウムまでの間にありとあらゆる御奉仕するんですけど?」
「テテスお前か!」
 どうやら最初に馬車に乗ったテテスの提案に、他全員が普通に乗ったらしかった。
「あら、いーじゃない。どうせ暇だし、もうベア子ちゃんやネイアちゃんが乗り気なら気を使う必要も何もないんだし☆」
「ほら、ベアトリス。手伝いましょうか」
「うぅ……い、いきなりこんなところで裸になれだなんて、よく真顔で応じられるわねアンタたち……」
「もちろん私も恥ずかしいですよ」
 狭い車内ではなかなかうまく手も伸ばせず、ネイアに脱がしてもらっているベアトリス。
 他にもアイリーナをフェンネルが、シャロンをアルメイダが、ナリスをテテスが手伝って脱がしていて、ある意味見ごたえのある風景になっている。
 俺は一息。
「……俺からは動かないからな?」
「はーい」
「任せて」
「口でも腰でも御奉仕いたしますわ♪」
 みんなノリノリだった。
「いや別に私はそんなどうしてもセックスしたいわけじゃないんですけどね? この状況で頑張って踏み止まっても意味ないですからとりあえずひとつの社交儀礼的に倣いますけどね?」
「ナリスちゃん一人でうるさいー。たまには素直になりなさいこのっ」
「うるさいやいこっちにはこっちのプライドってもんがあるんだい! 最後まで言わせてよ!」
 ……悪いけど、これに即混ざってるようじゃ、そのプライド全く意味ないよナリス。

(続く)

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