一夜明けて、隊舎の食堂に顔を出す。
 雌奴隷たちは俺よりずっとしゃんとして、涼しい顔で朝食を取っていた。
 俺は長い夜だったように感じられるが、彼女らにしてみれば別にそんなこともないらしい。だるそうな娘は誰もいない。
 それもそのはず。俺視点では縦横無尽のセックスをしたが、彼女らにとってはただ順番待ちをしていただけで、負担は十分の一以下だ。まあ俺は先にオナニーで消耗していたというのもあるけど。
 元々体力が異常に高い娘が多いというのもあるし。
 結果として、昨夜の情事の余韻はほとんど残っていないのは……まあ、隊の連中への外面的にはいいことだけど。
「ようスマイソン。昨日はお楽しみだったか?」
「特務百人長」
 これまた朝の爽やかな空気で声をかけてくるのは……あ、ちょっと酒残ってる感じのベッカー特務百人長。
「ちょっと息がまだ酒臭いっスよ」
「久々のセレスタ酒場だったからな。ここらには馴染みの酒も多いから、ついつい色々懐かしんじまった」
「特務百人長ってここらの出身でしたっけ?」
「西部だよ。大アルモニカ河流域だ。が、酒の文化圏って意味じゃここらは東部より西部に近いよな」
「どっちかというとトロット寄りですけどね」
 セレスタは中央の大部分を砂漠に占められているので、西部(ジャングル狐獣人圏)・東部(草原人間圏)・南部(湖沼&海岸のダークエルフ・オーガ圏)のそれぞれで文化が結構はっきり区切られていて、それぞれ特色がある。あと南東部のエルフ領も独特。
 北部という区分けがあればバッソンはそこに入るはずなのだが、砂漠の範囲とトロット国境線の圧のおかげで、ここらにはそれほど強力な文化圏を形成する人口はない。というか、豊かな部分はだいたいトロットが占めている。
 オフィクレードからバッソンのあたりがむしろ例外で、この辺が有事には東部と連結してセレスタの進軍経路になる。
 トロット側はセレスタと戦う際はここを攻略するか、峻厳な山岳と濃密なジャングルの西部地域を踏み越えてセレスタに進撃せねばならず、それ以外の位置からセレスタを食い取ろうとしてもすぐに砂漠に踏み込んでしまう。そこらを無理してトロット領に維持する意味はないので、西部からオフィクレードまで連なる街道筋は、トロットからも旨みなしとされ、セレスタの国内交通路を完結させるべく維持される宿場としての寒村しか残っていないのだった。
 というわけで、あまり大した文化は形成されないので、北部文化圏という言い方はあまりしない。バッソンは近年急に豊かになってはいるが、ここも元が寒村だったので、急に流入したトロット文化と、同じく急に増えたセレスタ人種の折衷という趣がある。
「東部の影響の方が強そうな気もするんですけどねえ……酒的には西部なんですかね」
 東部はあんまり飲み比べるほど長居したことないんだよなあ。
「いかにもセレスタ的なクセの強い奴が多いんだよ西部。東部って結構保守的。で、ここらはクセ強めの酒が多く入る。多分、トロットへの輸出需要の関係もあるんじゃねーかな」
「というと?」
「トロットにトロットっぽい酒を売ったってしょうがねえだろ? 向こうのほうが品質も生産量も大きいんだから。セレスタから買うなら、セレスタっぽい酒こそトロット人はよく買う。それを持ってくる窓口がバッソンってことだ」
「なるほど……」
 酒商人はトロットと交易するついでにバッソンに酒を落としていく。その需要が太いのが西部の酒ってことか。
「エルフ領やポルカの酒もいいんだけどな。やっぱこう、ガツンとくるのも飲みたいわけよ」
「わかります」
「わかりますわかります」
 いつの間にかナリスも横に来て話に頷いていた。
「……お前、どっちかと言うとワイン系っつってなかった?」
「好みの問題でいえば確かにどちらかというとワインなんですけどねー。同じお酒で百年の夜は過ごせませんですよ」
「そうそう。世界は広いんだ。色々あっていいし色々出会いたいよな」
「話せますねベッカー特務百人長」
 ばしっと握手するベッカー特務百人長とナリス。
 いや、俺もそう思うけどね。
「それはそれとして酒気抜きはしたほうがいいです。ヒルダさんがいい薬持ってますよ」
「えー……そんなに臭い?」
「はい」
 即答で頷くナリスに、頭を掻くベッカー特務百人長。ちょっと傷ついた様子。
 まあ……うん。匂うって言われると色々やるせないよね。うちの雌奴隷は俺の酒臭さは気にしないというかむしろ寄って来る子多いんだけどさ。

 で、護衛歩兵隊に稽古をつけるアンゼロスたちを見物したり、ナンパされてるベアトリス(言葉が通じないし、そもそもカールウィンに勇者をナンパする男なんかいなかったので、何を言われているのか理解できていなかったっぽい)を救出したりしつつ、まったりと午前中を過ごす。
 先を急ぐことはない。ここで定住したいと言い出す元麻薬患者が出るかもしれないし。
 と、そこで思いついて、昨夜聞いたエロ絵巻の詳細をあらためようと元部下のところを訪ねる。
「おーい。ジャンジャックいるー?」
「あっ、スマイソン十人長だ」
「女を山ほど連れてるくせにエロ絵巻で抜くスマイソン十人長だ」
「我が隊からディアーネ百人長とアンゼロス十人長を同時に寝取ったスマイソン十人長だ」
「下半身だけで独立したスマイソン十人長だ」
「俺何かお前らの機嫌損ねるようなことしたか!?」
 相変わらず連帯感の強い連中で涙が出る。
「昨日小耳に挟んだエロ絵巻、見せてもらおうと思ったのに」
「いいですけど貸し出しはしませんからね。オカズにするなら自分で手に入れてくださいよ」
「いーや、そもそもこの人がエロ絵巻をオカズにするということ自体がおかしいよジャンジャック」
「聞けば『ちょっと暇だからお前チンポしゃぶれよ』とかぞんざいに言い放っても従う女ばかりだというじゃないか」
「誰と誰のことだそれ……許せんぞ」
「あ、アンゼロス十人長はそんなことねえだな?」
「そ、そりゃあアンゼロス十人長のことだから……め、雌奴隷宣言だって自分が他の男に言い寄られたくないからしてるんだろうし」
 ごめん。そういうの一番喜んでやるのアンゼロスです。
 多分ナリスとベアトリスと……あとそういうの慣れないエマやネイア以外はみんな結構ノリノリでやると思う。
 ……とは口に出さずに下手に出た愛想笑いでスルー。
「そ、そういうのはおいといて、純粋に名作っていうなら見たいんだよ。……エロ絵巻はただのエロじゃない。芸術的、文学的側面もあるもんだろう?」
「む……そう言われれば頷かざるを得ないのですが」
「ジャンジャック、騙されるな。あんなブルジョワジーに懐柔されるんじゃない」
「そうはいうがな、じゃあスマイソン十人長が『本物の前ではエロ絵巻なんてカスだよ』とか言い始めたら俺たちは満足すべきなのか?」
「そんなクズ野郎は抹殺すべきだろ。エロ絵巻は世界に誇るセレスタ文化だ」
「まだそのことを理解しているスマイソン十人長を俺は見下げ果てることはできない」
「く……正論だが、感情が……」
「気に食わなくてもそれはそれ、これはこれだ……それが多様化社会ってもんだろう」
 よくわからないけど何か妙に高尚なお話になっているぞ。
「童貞を失ってもエロ絵巻の素晴らしさを見失わない……そんなスマイソン十人長を石もて追うことは俺にはできない」
「……そうだな……それは正しいかもしれん……だが!」
「こらえろ。感情を優先して誇りを貶めるな。俺たちの……エロ絵巻愛好家としての誇りを!」
 そんなマジ顔で震えながら討論するようなことかね……?
「そういうわけで……こちらがそれです」
 ス……と懐からエロ絵巻を取り出すジャンジャック。持ち歩いてたのかよ。
「これが『淫魔の舞踏』……」
「実はワシも初めて見るだ」
「ラックマンってロリ専じゃなかったっけ?」
「ロリ専とかいうでねえだ。同族好きなだけでねえか」
「意外とジャンジャックって出し惜しみするんですよねえ」
「大事にしてるだけだろ!」
 ワイワイと肘で押し合いながら男7〜8人でしゃがんでエロ絵巻を凝視する光景は、とても平均年齢20代中盤には思えない。
 しかし「淫魔の舞踏」は……ジャンジャックがオススメするだけあってなかなか素晴らしい。
「構図が大胆かつ肉感的……登場人物数が少ないのも画風とあいまって効果的だな」
「下手に特殊属性で誤魔化していないのもポイント高いですよね」
「ここまでおまんこを精緻に描いてるのに全体的な下品さは感じないっていうのはすごいバランス感覚だよな……」
「入れたくなる穴ってこういうのを言うんだろうな」
「自慢じゃありませんがコレで何百回も抜きましたからね……目を瞑ればティーリちゃんのヒダヒダの感触まで浮かんできますよ」
「いやジャンジャック。お前ちょっとそれハマり過ぎ」
「でも実際このオッパイは……こう、触った感触が伝わるほどだなや」
「ラックマンがオッパイを語ってる……!?」
「別に同族以外もいけるだよ!」
 イマジネーションを刺激する質感と構図。抜きに特化したストーリー。
 これは……傑作と言うほかない。これを語らずして傑作を語る事なかれというジャンジャックの言い分は大げさでもないと言える。
「これは……確かに欲しいな。誰から買ったんだ?」
「セドリックって行商人のおっさんですけど……もうこの辺では手に入らないんじゃないですかねぇ……半年前にもう在庫ねえわっつって笑ってましたから」
「あー……あの親父かあ……」
 何度か世話になったことがある。エロ絵巻は他の雑貨の片手間に持ってくるだけだから、いつも10巻かそこらしかないんだよなあ。運が悪いと会った時には他の好事家に全部買われちゃった後だったりした。
 彼を当てにするのは難しいだろう。そもそも行商人だから今どこにいるのかわからないし、捕まえるのは無理だ。
「こりゃ……でかい町で探すしかないかなあ」
「見つけたら俺の分も買ってきてください」
「俺のも!」
「あ、俺も予備を」
 みんな手をあげて好き勝手言い出す。
「お前らさっきは追い返さんばかりだったくせに調子いいな!」

(続く)

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