クロスボウ隊の女子隊舎は意外と大きい。
 今のところ女子隊員はミカガミまで合わせても10人くらいしかいないらしいが、将来的な展望も合わせて(あと何かと大きく勘定しておくセレスタ軍の体質もあって)、女子隊舎は50人分くらいの個室のある宿舎になっている。
 もっとも、空き部屋はほとんど物置に使われている。客間として普段から整えてあるのは5〜6室といったところか。
 そのうちの一室に、ベッドやマットを色々運び込んで寄り集まってしまったうちの雌奴隷ズに、俺とエマはついさっきまでの行状を白状することになった。
 ……というか、単に幻影で隠れてまでどこで何をしていたの、ということを質問されただけなのだけど、エロ絵巻へのファーストコンタクトは済んだのでもうバラしても平気なのだ。
「あの二人のエロ絵巻か……」
「それほどに素晴らしいものなのですの?」
 苦々しげなアンゼロスと、少し興味深そうに巻物を開くオーロラ。
 それを覗き込むはテテスとナリス。
「こういうのってセレスタならではですよねー。印刷術の無駄使いというか」
「南部大平原の方で似たようなの見たことある。でも一応芸術品って扱いだったなー」
「芸術ー? なーんか男の人の言い訳を感じるねー」
「エロとは切っても切れない言葉だよ芸術。古今東西、男の人にとっちゃ女の体は何を差し置いても見たいもんだしねえ。芸術と言い張れば心持ち堂々とできる」
「そういうの抜きに、完全に猥褻物として生産してるセレスタ文化の方が、なんというか潔くていいと思う」
「んー……まあ正直はいい事だけどねぇ。でもその結果あのランツ君やゴート君みたいなのが大量に生まれていることを考えると」
「……うーん。確かにちょっと……困る」
「ああいうのはセレスタでも別に多いわけではないからな?」
 ……いや、俺が知らないだけで結構いるのかもしれないけど。
 あとセレスタは性に対して他の国より開けっぴろげな文化があるおかげで、男の独身率が高いという話もある。
 独身のまま、特定の相手を決めずに若い女の子と一夜の恋だけを楽しみ続けるのもひとつのライフスタイルとされているのだ。
 よその国では「所帯を持たないと半人前」みたいな価値観があるところが多いので、必然としてそういうのは蔑視され、歳経るにつれて減っていくものなのだけれど。
 ……まあ、庶民でも一夫多妻がアリなセレスタだからこそ、って部分でもあるけどね。
 一部の男がその調子で嫁取らなくても、一部の金持ちがいっぱい引き受けるので、最終的なバランスは取られる。
「しかし……うむ。芸術と呼びたい気持ちはわからなくもないな」
 アルメイダが一本の絵巻をスルスルと流し見しながら深く頷く。
「これだけ美しく彩色されている絵が庶民に手に入るのは、少なくともアフィルムでは考えられない」
「線画は印刷だけど彩色は手仕事だっていうからなあ。だから完全総天然色ってのは少ないし高いけど」
「それでも一介の兵士が田舎にいながらにして集められるものなのだろう」
「まあね」
「明日をも知れぬ命懸けの兵士だ。入れ込むのもわからなくはない」
「……まあ、田舎部隊だからそんなに悲壮なものでもないけどね……」
 もちろん命の危険はないわけじゃないが、そんなに意識するほど死ぬ目に遭う職場でもない。ディアーネさんの存在もあるし、ここはそんなに実戦の機会が多い部隊でもないし。
「この絵巻が私は気に入りました。優しい絵です」
「あらシャロンちゃん、お目が高ーい☆ それ、かなりのベストセラーになった奴らしいわよ」
「もう少し、肉感的なものが男性受けしそうな気はするのですけど」
「それがそうでもないのよねえ。なんていうのかしら、セックスしたい女とキスしたい女みたいな違いで、あんまり露骨すぎるのは逆に伸び悩むって聞いたことあるわ」
 シャロンに対して解説しているヒルダさんもなかなかの猛者のようだ。
 っていうかタルクはエロ文化の坩堝だし、カルロスさんちは商家なんだから、当然エロ絵巻についても並々ならぬ知識は蓄積されるんだろうか。
「……なかなか深い話です」
 シャロンが微妙に傷ついた顔をしたのは、露骨過ぎるおっぱいのために色々苦労した過去があるからか。
「…………」
「…………」
 そしてネイアとベアトリスは一言も発せず黙読。
 ベアトリスなんか文字読めてないと思うけど、まあ絵巻だしな。ストーリーは雰囲気でわかる。
 顔を真っ赤にしつつ目が離せない様子のベアトリスと、まるで何かの学術書でも読むように冷静な目つきで読み続けるネイアの差が面白い。
 多分ベアトリスはこういうエンタメとしてのセックスという文化がわからないのだろう。基本的に子作りはもっと義務的な何かだと思ってた節があるし。ネイアの方は……勉強熱心だから、普通に何か吸収しようとしているんだろうか。
 その一方で、エロ絵巻に興味なさそうなのがルナとフェンネル。ルナはちょっと眺めて飽きたらしく、部屋の隅で毛づくろい……いや、髪の手入れに戻ってしまい、フェンネルはせっせと就寝に向けての準備をしている。いや就寝と言うか、今夜のエッチ。
 アイリーナやライラ、マイアもどちらかというと興味ない派。三人でささやかに酒盛りしている。
 彼女らにとっては普通に意味を感じられない書物なのだろう。
 まあ俺も逆の書物を誰かが持ってきたとしても、夢中になれる自信はない。
「それでー……ご主人様としてはこの中でどれが好みなんです?」
「うーん……正直甲乙つけがたいというか……エルフスイートナイトは基本中の基本だよね、絵も安定感あるし」
 謎の隠れ里風俗シチュエーション。流れ着いた男がエルフの娼婦たちに歓待される目くるめく一夜の物語。
 ほとんどの巻は毎回別の主人公、別のヒロインたちによるストーリーで、隠れ里の位置すら砂漠の真ん中や海の孤島、迷いの森の彼方や岩窟など、それぞれ別の場所に設定されている。
 幻想的な光景の中で裸体を晒すエルフ女と出会ってはセックスを繰り返し、快楽に意識を埋め尽くされ、気がつけばその隠れ里の外にいる……というのもお決まりの展開だ。
 セックス中のエルフ女たちもさることながら、月夜の砂漠に佇む薄布一枚のエルフ娘の神々しい姿や、光さす森の泉で蠱惑的に尻を振って男を待つエルフ娘たちの嬌態、閉塞感に満ちた岩場の谷の底で裸体を広げるエルフのどこか哀しい雰囲気の媚態など、背景と合わせて気持ちを没入させる絵の数々が素晴らしい。
 そして9巻では、数巻前に一度隠れ里を訪問した男が、再び同じ里に訪問することが叶った……という設定から一味違ったシナリオ回しが展開される。
 空白の十数年の間に年老いた男。だが隠れ里の淫乱エルフたちはその時間を感じさせない若々しさで、まるで昨日別れたばかりのように男を歓待し、彼の精液を搾る。
 そして圧巻は彼の娘たちを交えた乱交。やはりというべきか、時間は流れていたのだと判明すると同時に、このどうしようもなく淫らな世界では親子という倫理すらも溶けて消えるのだ……という文脈が、ゾクゾクする幽玄なタッチで描かれる。
 これまでの巻に比べると明らかに異質だが、シリーズの基本を忠実に踏襲しながらも、まったく別の情感を持ち込んだということで評価はさらに高まった。
「これは元々持ってたけどさらに素晴らしさを認識した……うん」
「なるほど……じゃああれですね」
「?」
 テテスはその場にいる雌奴隷たちをぐるりと眺め回して、アイリーナとエマ、マイア、そしてベアトリスを指差し。
「彼女らが娘という方向でいってみましょうか」
「!?」
 にっこりと微笑んでよくわからないことを言った。
「なんじゃと」
「何を言っているのですか」
「……?」
「え? え?」
 指定された娘たちは話の流れがわからずに困惑。
「今夜はご主人様を『パパ』と呼んでください。あと母親役は……うーん、見た目的には……ベアトリスはライラさんが『ママ』。アイリーナさんはシャロン騎士長。あとエマさんはフェンネルさん、マイアさんはアルちゃんを『ママ』と呼ぶこと」
「なんでわらわが栄光の姫を母などと!」
「同時に父親に犯されるプレイです♪」
「……うむ」
 テテスの明快な説明に何故か納得してしまうアイリーナ。
 それでいいのか。
「私が母親なのか……いや、いずれそのうちとは思っているが、しかしドラゴンの母とは……」
「だって私やナリスちゃんが親だと全然そんな気分になれないじゃない」
「私の方が相応しく見えるということか……そうか……」
 アルメイダも複雑な顔。
 フェンネルも困った顔をしながら服を脱ぎ始める。
「そんなに年上に見えるでしょうか……」
「まあ、落ち着いてはいるよな、お前」
「複雑です……」
 そうは言いながらも躊躇なく下着一枚になり、自然に俺に最後の一枚を任せようとお尻を近づけてくるあたりは非常にノリノリだ。
 ……それにしても。
「あのなテテス。断っておくけど、俺、このエロ絵巻が好きなだけで、別に自分の子供を犯したいとかそういう願望があるわけじゃないからな?」
「はいはい、わかってます♪」
 テテスは笑顔で返事する。わかってくれてるならいいけど。
「まあのう。実際に現物が年頃にならぬとわからぬじゃろうの」
「真顔で何言ってんだ」
 しかしライラは俺のことを信用していないようだった。
 なんで俺に娘が犯されること期待するんだ。

(続く)

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