「なあ、もっとこう……別にあそこの物置でもいいから屋内ってわけにいかないかな」
「何故屋内で?」
「なんでって……そ、そりゃオナニーは基本的に人に見られない場所でやりたいし」
「大丈夫です主様。幻影のおかげで私しか見られませんし、私は主様が多くの女と交わっているところも拝見しています」
「オナニーはちょっと基準が違うよ!?」
っていうか、綺麗な女の子をキャンキャン鳴かせている様は、他人に見られても恥ずかしいなりにちょっと優越感を得られなくもないけど……自分のちんこを必死でしごいている様を見られるのは、ただひたすらに惨めじゃないだろうか。
「ポルカに残してきたあの二人は、どこで誰に見られても特に気にしていないようでしたが……」
「あいつらは基本的に突き抜けた特殊な生き物なので参考にしないように」
まあ、ランツとゴート以外にもディアーネさん見てこっそりシコる奴はいなかったわけじゃないけど、あいつらほど自分のオナニーしたい気持ちに正直に生きている奴はそういるものじゃない。いるかもしれないけど会いたくない。
あれより大胆となったら多分、他人を認識できない系の心の病気だと思うし。
それはともかく。
「オナニーというのは一人静かで豊かにやりたいものなんだ」
「は、はあ……」
「できればこう……そうだな、例えばだ。鏡の前で、誰かに対する挨拶の練習をしていたとする。そこに誰かが急に乱入してきて『自分が見ていることは気にしなくていいから続けろ』と言ってきたら……どうする?」
「……確かに少し気がそがれるかもしれません」
ドラゴンにも伝わるか伝わらないか、多少微妙な例え話だったが、エマは少し顔をしかめて同意してくれた。
やはり、レイあたりに似たようなことをされた経験があるのだろうか。
「自慰行為はそういうのに近いのでしょうか」
「絵をもとにイメージを膨らませるという行為は、目の前に他人の存在ありきでは難しい。自分にとって都合のいいシチュエーション、夢のような女性の艶姿に興奮するのは……そういうものだと思うんだ」
「なるほど……つまり私の姿は現状では見えない方がよい、と」
「……ま、まあ、そうなる」
「お任せ下さい」
エマは力強く頷くと再び魔法を使用し、今度は俺からも姿が見えなくなった。
「実際にいなくなっているわけではありません。しかし、この地は安全に限りなく近い場所とはいえ、万一にも主様から目を離し、怪我などがあっては気がすみません。どうか、どうか私のことはこのまま意識から外していただければ」
「……う、うん。これなら……って」
根本的に「月明かりの屋外でオナニーしなくてはいけない」という状況がマズいのだ、ということが伝わっていない。
しかし、実際に魔法で隠れているのだから、気分の問題と言えばそうでしかない。
どこか室内に隠れたところでそれほど安全性が向上するわけでもなし、エマにさらに文句をつけても「じゃあここが屋内という感じに見えるよう、幻影をさらにいじります」という話になっていく気がする。
観客がいない……いないと思い込めるように配慮してもらったのだから、これ以上贅沢を言わなくてもいいか。
俺からも歩み寄りは必要かもしれない。
そう思い、俺は深呼吸を一つして文句を飲み込み、手元にあるエロ絵巻の中から最初のオカズをチョイスすることにする。
そうだ。とにかく完全な環境を作るよりも抜くことの方が大事だ。
時間をかければかけるだけ、ライラやマイアが不審を感じるリミットも近くなる。彼女らはエマが俺についているからこそ、過度の護衛をせずに放っておいてくれているはずだ。
エマに贅沢を言うのに時間を費やすのは、ライラたちの行動を呼び、余計に観客を増やすだけだ。
それよりは、五分でも、一分でも無駄にせずに抜く。それこそが時間を建設的に使うことではないだろうか。
うん。別にライラたちや雌奴隷たちとのセックスもしたくないわけじゃない。初めて見る上等なエロ絵巻で抜く、というプロセスを純粋に楽しみたいだけだしな。
というわけで、最初のオカズは「百発物語」3巻。
自分がすでに持っていて、ヌイたことがある奴(「エルフスイートナイト9」と「夜の果樹園」は持ってた)を除外すると、安定と言えるものはこれなのだった。
とにかく一枚の絵に入る裸体の数が多く、それでいて一つ一つの女体がおろそかにされていない。一枚限りの登場の、背景のような裸体も多くあるが、ストーリーに絡んで何枚にもわたって登場するキャラクターもきちんと描き分けられていて、もし首から上を隠したとしても、根気よく見れば、どのキャラの裸体なのか繊細に読み取れる。
同じ構図の絵はほとんどない中、服や特徴ある髪色髪型、奇形化した体型などに頼らない執念のような描き分けは、印刷技術の限界にも挑んでいると言われるほどだ。
その絵師としての気配りが出しゃばらず、ハーレムライフエンターテインメントとして、ストーリーも嫌味なく流れていく。
話と言っても、1巻や2巻で完成されたハーレムを3巻で改めて味わい尽くすという内容で、俺としても他人事ではなく、そして俺の置かれた状況とはまた違った輝かしさが存分に描写されていて、なんというか「エロ絵の宮廷晩餐会」とも言えるゴージャスさだ。
これはプレミアもつく。
後期の絵師とはちょっとタッチが違うし、後期はこんなに繊細な描き分けができないのか、記号に頼ったキャラがちらほらいて賛否両論なんだよなあ……。
などと思いながら、絵巻物を少しずつ広げては柔らかく折り重ね、次のエロ絵を開陳しながらちんこを擦っていく。
読みながら心の赴くままにオナニー。正直、横から見てるエマとしてはとてもかっこ悪く見えるとは思う。
しかし、魂にズクンと来るリビドー溢れるエロ絵に対し、拍手のようにちんこを擦るこのひとときは、これはこれでまた満足感のある時間だ。
絵師の入魂、さあこれてヌけ! という熱さに対して素直に下半身で応じる。描き手と読み手の真剣勝負、あるいは熱烈なチークダンス。
それが美しいエロ絵であればあるほど、本能で熱狂し、下半身で喝采する。
これこそが良質なエロ絵巻との最高のコンタクトであり、礼儀だと俺は思う。
そして、このエロ絵巻はそれに値する逸品だった。
程なくして俺は膝立ちでちんこを擦りながら快楽の頂点を極めようとして……ふと、エロ絵巻を目の前に長々と広げたまま射精してしまった場合、俺のあまりにも強化された射精量は絵巻を汚さずにいられないという恐るべき事実に気づいてしまう。
「し、しまっ……!!」
止められない。
手が止まらない。上質な妄想は上質な快楽を生み、それは「手を止めて快楽を急停止させなくてはいけない」という認識との間に断絶を生む。
自分の手なのに制御ができない。本能が求めるままに俺は駆け抜ける快楽のまま手を動かし、この素晴らしいエロ絵巻を台無しにしてしまう、という絶望を感じながら精液を……解き放つ!
「ああっ……が、あああぁっ……!!」
噴射される白濁液。
空を舞うそれが、絵巻に飛び散って落ちるまでの時間が、やけに長く感じる。
…………あれ?
「あ……あ、ああ……」
のどの奥で呻きながら前立腺の脈動を繰り返し、夜気の中に放たれる俺のザーメン。
しかし、それらは宙を舞ったまま……最後に勢いを失ってぽたぽた垂れるのまで含めて、全部空中で止まる。
というか、何か見えないものにぶっかかって、そのまま……。
「え、えっと……?」
「……うぷっ」
「も、もしかしてエマ!?」
しばらくすると幻影が解け、体を張って絵巻が汚れないようにしてくれたエマの姿が浮かび上がる。
胸元から顔、そして両の手、膝……全体に汁がドバドバかかって、鼻の辺りなんか精液でチョウチンができていた。
「あ、ありがとう……でもなんでこんな」
「た、大切な物なのでしょうし……射精の前に主様が慌てたのを見て、これはと思い……うぅ」
すっ飛んできてインターセプトしてくれたらしい。なんていい子なんだ。
「大丈夫か……?」
「は、はい……心配は無用です、着替えはありますし……」
「しかし、そっか……俺、こんなに精液量増えてたんだなあ」
出す瞬間にちょっと手で押さえれば、被害程度を抑えられるのが、通常の射精だろう。
が、俺のそれは完全に小便と見間違うクラスだ。多分精液で雪面に名前書けるレベルの。
ここまで強化されてしまってからエロ絵巻オナニーなんてしてなかったから、絵巻を膝立ちで追いながらのオナニーでは、咄嗟に絵巻を守りきれない状態だとは思っていなかった。
「あちゃあ……こ、これじゃあ絵巻を綺麗に保ったままオナニーするのは厳しいかもしれないなぁ……」
ちょっとガッカリする。高い書見台を用意したり、精液を飛び散らないように皮袋で受け止めるなどの対策をしなくては、気兼ねなくオナニーすることはできないだろう。
これは……うん。お預けかなあ。まだ「百発物語」3巻も半分しか読めてないし、あと未見のものも8巻あるけど……。
オナニー不可能の状態で初めて中を読むのはつまらない。感動がない。真剣勝負ができない。
そんな風にがっかりしている俺を見て、エマは手ぬぐいで顔を拭きながら、使命感に燃えた顔をする。
「ご、ご心配なく! 私なら大丈夫ですので!」
「え、あ、いや……そうじゃなくてね、これらを楽しむのが難しいかなって……」
「今の要領で私が受け止めますから、主様はこの後も気兼ねなくお楽しみ下さい」
「え、エマ?」
「ちゃんと幻影で隠れたまま続けます……主様の望みを叶えるのが竜の務め!」
「……あー、その……う、うん、お願いできるなら」
俺はというと、エロ絵巻の続きをちゃんと楽しんでおきたいという目の前の欲求が勝ってしまった。
かくしてシルバードラゴンをエロ絵巻オナニーの精液避けに使うという、とんでもないオナニーナイトが始まった。
途中からエマは服を脱いで裸で精液を浴び続けたが、もちろん俺はその姿を見ていないので純粋にエロ絵巻を楽しみ、無事全てのエロ絵巻完走。
そして。
「そのような阿呆な真似をせんでも、わらわにかかればちょちょいと魔術を仕掛けられるのじゃがのう。絵巻を水弾きの素材のようにすることも、すでについた汚れや皺を綺麗にしてしまうことも造作もない」
経緯を聞いたアイリーナが呆れ果てた顔で言う。
延べ20回近くも俺の大量射精を浴び続けたエマは、最後にはもうほとんど体の前面がまんべんなくドロドロになっていた。それでも黙って頑張り続けたのだからえらすぎる。
「でもちょっと馬鹿だよねエマって」
「なっ……ぶ、侮辱ですか青竜!」
「アイリーナが言うくらいの魔法はあんただって使えるはず」
「……それは……しかし、そもそも主様の精を浴びたくないからと余計な真似をするのも、下僕としての不義理のような気もするものですし……」
モゴモゴ言うエマに、アイリーナも溜め息をついて。
「馬鹿じゃのう」
「あなたまで!」
うん。俺もちょっとお馬鹿だなーと思いながら、かわいいので続けてしまった側面は否定できない。
(続く)
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