11巻のエロ絵巻を抱えて(一応ズダ袋に入れた)女子隊舎に持っていく。
 ミカガミ姉妹はあれからバッソンで子育てしてるらしくて、女子隊員は少ない……というか、ちょろちょろと入隊している知らない女子隊員が幾人かいる程度だった。
 俺の部屋はもう引き払ってしまっているので、男子隊舎で泊まる事に執着する必要はないし、女子隊舎のほうでみんな泊まるのに混ぜてもらうことにしたのだ。
「さて……これをいつ確認するかな」
 一応タイトルだけは確認した。
 不朽の名作「エルフスイートナイト」最新9巻。まあこれはエロ絵巻を嗜むスケベガイなら誰でも持っているレベルの有名作なので希少性は低いが、それでも外せないのもわかる傑作だ。
 ちょいと渋めの絵柄だけど自在な構図によるおっぱいの表現に定評のある「夜の果樹園」。これも実は俺も買った。お世話になりました。
 手間を厭わぬ彩色による多人数セックスが持ち味の「百発物語」3巻。これまた有名作で、今のところ6巻まであるけれど、3巻で絵師が交代しているので前期のものにプレミアがついている。俺が持ってたのは後期作だけで、前期のには手が出せなかった(ちなみに刊行ペースは2〜3年に一巻くらいが普通なので、前期作品は10年ぐらい前のものになってなかなか出回らない)。前期最終作をどうにかして手に入れていたとは、オナニーブラザーズなかなかやる。
 さらに有名シリーズで言うと「ムーンウィスパーが消えるまで」5巻。獣人族テーマの金字塔で、特に5巻はヒロインの狐獣人ピピちゃんの人気が伝説的だ。この巻には他にも数人のキャラクターがいるが、ピピちゃんにハマって何年も他のオカズが使えなくなった紳士が相当数出たという噂がある。
 それと「奴隷品評会」シリーズが1・4巻で指定されている。これは色々なヒロインがタイトル通りの品評会に出品されて姿かたちからエロテクにアソコの具合まで審査され、値がつけられて売り飛ばされるまでを描く輪姦物。ワンパターンかと思いきやハードなのからギャグオチまで色々な話があって、画力よりもストーリーが評価されてるシリーズでもある。
 あと聞いたことないのが「ピンクサナトリウム」「エキゾチックセックス」「ヴァギナヴァーサス」「実録娼館紀行2」「爆乳狂宴」。
 俺も結構好きなんだけど、知らないものは結構ある。
 エロ絵巻は大量印刷物だけど、印刷規模は様々で、商人もあまり堂々とは持ってこないから出回り方も独特だし、広告されるわけでもないから情報がなかなか手に入らないんだよな。
 特定の発行者を気にしてる奴だけが、行商人の耳打ちでようやく存在を掴める……なんてものもある。
 横断的にまとめた目録とか発行されたら、それだけで売れるような気もする。
「俺好みそうなのはとりあえず『ピンクサナトリウム』と『実録娼館紀行』……かなぁ」
 内容は読んでないからともかく、絵の雰囲気はかなり好みだ。
 それと「百発物語」3巻、「奴隷品評会」1巻は前々から気になっていた。
 シリーズの他の巻は持ってるのだけど、○巻はもっと素晴らしかった……という評判はその筋で有名だった。漠然とした評判だけでは(好みの差やガセの情報もあるし)そんなに気にならないけど、シリーズ物として比較対象があるなら「これよりもっといいのか」と具体的に気持ちが煽られる。
 ……とはいえ、トロット人兵士の安月給だからなあ。いくらエロに情熱があると言っても、なかなか無節操には手を出せない。酒代も馬鹿にならなかったし。
 しかし、階級が下とはいえ元々セレスタ人で給料の目減りが少ない上に、あんまりカパカパ飲まないランツとゴートは違ったようだ。二人で共同所有してたということは、エロ絵巻に単純に倍使えたということだし、このコレクションの充実も納得できる。
 それを拝めるというのは、今さらではあってもありがたい話だった。
「さてと…………どうやってじっくり見よう」
 ふと途方に暮れる。
 女子隊舎に入ってから、一人でゆっくり巻物を広げられる部屋はない。
 女の子たちは咎めはしないだろうけれど、気まずいことこの上ない。
 あとエロ絵巻で抜けない。
 雌奴隷たちにいくらでも射精すればいいといえばそうなんだけど、そういうことじゃない。違う。わかってもらえるだろうか。
 作品世界の相手に夢中になったまま射精したいのだ。別のものに別の興奮を覚えながら抜くのはちょっと違うのだ。色々な要素に目移りしながら贅沢に射精というのも悪い体験ではないのだけど、やっぱり違うのだ。
「できればじっくりと余裕を持って見たい……」
 俺が女子隊舎の入り口で立ち止まって考え込んでいると、エマがシュトッとどこからともなく舞い降りてきた。
「お困りでしょうか、主様」
「あ、いや、エマじゃ解決しづらいことなんで気にしないで」
「……それは私が未熟ということでしょうか」
「いや別にそういうことではなくてね?」
「せ、先日は主様のせっかくのお情けを受けられずに終わりましたが、もはや覚悟はできています。いざとなればこの身、例え衆目の前で罵られながら股を開いてまぐわうことになろうと、喜んで伽を務めさせていただく所存です」
「別にそういう趣味はないから、そういうのはもっとマイルドにしような?」
 正確には、相手が喜んでるならちょっとぐらいそういう趣向でやるのは嫌いではないけど。
「では……」
「いやそうじゃなくて」
 そう。別にエマとセックスするのではなく。
「あー……なんというかな」
 頭を掻きながらなんと説明したものか迷う。
 まだ知り合って日も浅いエマに、俺がこういうのを好む趣味を理解してもらえるだろうか。
 ……いや、むしろ隠してもしょうがないんだろうか。
 どうせそのうち伝わるだろうし、ドラゴンというのは乗り手の全てを受け入れて寄り添う存在であろうとするものだ。今言って幻滅されるようなら、関係は元々続かないものだろう。
 そう思い直して、俺はエマに打ち明けることにした。
「ここにエロ絵巻というものがある」
「? は、はあ……」
「なんだかよくわかってないと思うから見てみるといい」
 そっと「エルフスイートナイト」を取り出してエマに読ませる。
 一体なんの話だろう、という顔をして、おもむろにエロ絵巻を受け取って開いたエマは、クルクルと絵巻物を広げていきながらその内容に次第に表情を強張らせ、赤くなっていく。
「なっ……な、なんですかこれは」
「だからエロ絵巻。セレスタが生んだ人類文化で最も素晴らしいものと言っていい」
 真顔で言い切る俺。
「せ、性交の……その、報告書か指南書のようなものでしょうか」
「芸術だな。優れたイマジネーションで人のセックス妄想を掻き立てるものだ」
「……掻き立てて一体何になるのでしょう。これを読んで気分を性交に向かわせることで……その、まぐわいの成功率を上げるなどといったものでしょうか?」
「単にオナニーをするんだ。心の中で創作上の状況を再現して体験するんだ」
「不毛では」
「不毛だよ! そうさ不毛だ! でも俺たちはその不毛な行動が日々の糧なんだよ!」
「……あの、落ち着いて下さい主様。俺たちというのがどういうことかはわかりませんが……」
「女の子山盛り連れていつでもどこでもセックスしたい放題の俺には必要ないだろうって? 違うよ! どんなに素晴らしい現実があっても! 愛しい妄想というのは、ある!」
「は、はあ……」
 ちょっと興奮しすぎた。モテないクロスボウ隊員の気持ちは、二年やそこら経ったからって決して他人事にはならない。
「というわけで俺はこれらをじっくり読みつつできればオナニーもできる有意義な時間を過ごしたいんだ」
「……え、ええと……」
 困惑するエマ。
「というわけでエマ。君はこの状況の役に立てるか」
 ちょっとばかり勝った顔をしてしまう俺。
 カッコ悪いことでも、全力でぶちまけてしまえば怖いものはない。……おそらく、しばらくしてから後悔はすると思うけど。
 エマはしばらくエロ絵巻と俺の間で視線を往復させていたが……ややあって。
「わかりました。……それではお手伝いいたします」
「いやお手伝いはいらないんだって。オナニーしたいんだって」
「いえ。大丈夫です。お邪魔はいたしませんから」
 エマはグッと拳を握り、使命感に燃える顔をする。

 そして。
「丸一晩となると怪しまれてしまいますが、ここで二時間程度なら……」
「え、ここで……?」
「屋内に自由にできる部屋はありませんので……大丈夫です、幻影を張っていますから、外からは見えていません」
 エマは女子隊舎の屋上に俺を連れ出し、月明かりの下で俺に「ここで読め」とばかりに音声含めた幻影を張り、さらに風除けの結界も用意してからピタリと俺を見て正座した。
「さあ、どうぞ」
「え、いや、その……あんま見られながらオナニーは」
「性交なら今までにも見ております。自慰など今さら気にすることもないはずです」
「オナニーの方が情けなさは相当上だと思う……」
「しかし、ここにいなくては。幻影の外に出てしまえば私からも見えなくなってしまう。不測のことに対処できません」
「……え、えー……」
「大丈夫です。私はあなたの竜です。どんな姿でも失望したりはいたしません!」
 困らせるのを承知でぶちまけて煽った手前、エマのその覚悟を否定もしにくい。
 押しきられて、渋々と俺はエロ絵巻を広げる。
 月明かりは明るくて、絵巻を読むのに苦労はしなかった。
 そして、思った以上に素晴らしい完成度のエロ絵は多かった。
 が。
「……じゃ、じゃあ……オナるけど」
「はい! どうぞ!」
 まっすぐな目で正座で見つめる女の子の目の前で、エロ絵を眺めてオナニー。
 なんという奇妙で恥ずかしいシチュエーション。
 ……でもエロ絵にちゃんと反応するちんこは我ながら流石だと思った。

(続く)

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