バッソンの駐屯地は隊舎を増築したので、俺たちが現れても一晩二晩程度なら泊まる余裕はある。
が、やはり兵隊の若い男どもの好奇の視線は、一般の女性たちにはちょっとキツい。
というわけで、バウズと元麻薬患者の皆さんには市街の宿屋に泊まってもらうことになった。
……と言っても、セレスタなんてほとんど歩いたことのないラパール人が多いので、念のために案内にベッカー特務百人長もつける。
「……なーんか、うまいこと厄介払いされてる気がするぜ」
「気のせいです」
「まあ、あえて邪魔はしないけどな。……お前さえいなければはっちゃけられるのに、っていうあの圧力は勘弁願いたいし」
「すみませんマジで」
うちの雌奴隷たちは結構貪欲だ。
たとえベッカー特務百人長といえども、邪魔に思ったら容赦ない視線を送るだろう。
「ま、頑張れよ。……場合によっちゃ見学させてもらうかもしれねえが」
「やめてください」
「なんだよ。レンファンガスの砦じゃ気にしてなかっただろうが」
「あそこはあそこ、ここはここですんで」
「ちぇっ」
っていうか、覗く気なのか。町まで結構距離あるのに。
……いや、この人の足なら距離なんてないも同然なのか。
「ま、いいや。とにかくこっちのことは任せとけ。たまにはセレスタの夜もいいもんだしな」
「よろしくお願いします」
食事や酒も、ちょっとしたお楽しみな店も、セレスタにはセレスタの楽しいところがある。
そういう意味では、いつでも変わらず雌奴隷に囲まれる夜が待っている俺は、旅の楽しみは味わいきれないとも言える。
いや、そっちを楽しみたいとちゃんと言えばいいんだけどね。
でもまあ贅沢ばかりは言うまい。求められるのも幸福だ。
それより。
「この部屋か。……そういやあいつら同室なんだなぁ」
オナニーブラザーズことジェームズ・ランツ&ボッツ・ゴートの部屋。
一階はオーガとドワーフに優先的に回されるという決まりだが、普通に人間族のランツもここだ。
……うん、まあオナニーに対して真剣かつ貪欲すぎるあいつらは、ちょっと他の隊員としてもついていきづらいし、まとめておいたんだと思うけど。
……男二人部屋で常にエロ絵巻と相方の精液臭に囲まれる生活かぁ……。
「……うぇ」
うん、普通に気分悪い。そりゃあいつらだけでやってろってなるよね。多かれ少なかれ童貞男の兵隊はそういうの悪く言えないところあるけど。
もう何ヶ月も本人たちが帰ってきてないにも関わらず、早くも部屋の中に入る気力が萎えかけているが、それでも勇を奮い立たせてちょっとオーバーサイズなドアレバーを押し(オーガ合わせだ)、彼らの根城に入っていく。
……部屋の中は不思議なくらい整然としていた。
「誰か整理してるのか……?」
いや、そういえばゴートって意外とマメなんだよな。
俺はここで暮らしてた頃は一人部屋だったし、自分以外入る予定のない部屋だから雑然としてたもんだけど。
そして200巻のエロ絵巻は……ない。
「あれ?」
そんなにあったら目立つと思うが、オーガサイズでちょっと広いこの部屋にはそれらしきものは見当たらない。
「……実はもう既に他の連中の略奪にあってるのか?」
あいつらを差し置いて部隊再編もあったことだし、それはそれでおかしくない……いや、でもなぁ。さすがにちょっと留守中に私物略奪は無礼にも程があるよな。
隠してる……と見るのが正しいんだろうか。
でも自分が隠したものならともかく、他人の部屋で宝探しなんて……ノーヒントでやるのは難しいぞ。
ちょっと途方に暮れながらも、とりあえずベッドの下を覗く。
「…………」
あった。二人のベッドの下にそれぞれ一巻ずつ。
枕の下……に隠してたりしないかなと思ったら枕が変な感触だったので、ちょっといじってみたら中から出てきた。やっぱり一巻ずつ。
……もしかしてそういう「見つかりそうな場所」に全部散らしてある?
今見つけた4巻を軽く開いてみれば、中身は「厳選11巻」ではなく、どちらかというと重要度の低いものであることがわかる。
これは……あいつらなりのリスク管理か。
なにかの原因でここが家捜しされることになったら、こういうわかりやすいのから取られていく。見つかりやすく仕込まれたこれらが目くらましになって、本当に重要ないくつかまではたどり着かれずに済むだろう……というわけだ。
「……まあその危機意識はいいんだけど……俺に頼むなら手がかりぐらい書いとけよ……」
リストには書名以外なにも書かれていなかった。
ある程度はここにありそう、ここにもあるかな、で出てくるのだが、何しろ200巻だ。
「床の板が四角く切れてる……ということは、と」
ナイフを差し入れてテコにして、床板を持ち上げてみると、やはり出てくるエロ絵巻。
しかし若干凝ったところでも、やはり11巻のうちのものはない。
一時間ほどあちことひっくり返して80巻くらいは出てきたが、どれも重要でないものばかりだ。というか俺も大半は目を通したことがある。
「これの折れ目、見覚えあるぞ……もしかしてこれ何年か前に俺が買った奴じゃないのか?」
部隊内の同好の士同士で流通だってする。
直接ランツやゴートに渡したエロ絵巻なんて覚えがないが、巡り巡って彼らのコレクションに加えられたのだろう。
……しかし、この調子ではよくないな。
目ぼしい場所を見つけ終わり、難易度もどんどん上がっている。
朝までかかっても11巻を見つけられそうにない。
やっぱり無理にも本人たちに来させるべきだったろうか……。
途方に暮れつつもゴソゴソと捜索を続けていると、半開きの扉をコンコンと叩く音。
顔を上げてみると、そこには元部下たちがいた。
「久しぶりです、スマイソン十人長」
「久々に酒盛りでも誘おうかと思っとったに、何しとるだなや」
「ジャンジャック……ラックマン」
二人以外にも懐かしい顔が何人も。
中には見た事がない奴もいたり。まあ「噂の」俺を見に来たってとこか。
……そうだ。
雌奴隷たちに探させるのは気が引けるけど、こいつらなら。
「……実はこの部屋にはあと百巻ちょいほどエロ絵巻があるらしい」
「え、そこに積んであるの以外で?」
「さすがオナニーブラザーズ……ってとこだなや」
「ああ。で、これらのほとんどを隊の連中に譲ってくれって言われた」
「マジですか」
「ああ、あいつらもうポルカに住み着くつもりらしいから、どうしても惜しい11巻だけ持ってきてくれって言われてるんだ」
俺の言葉に、元部下たちにザワッと動揺が走る。
「ズルいぞ! 俺だってあそこ住みたい!」
「ワシもだ!」
「っていうかセレスタ人住んでいいの。あそこトロットでしょ」
「なんか特務隊の特権とかでアリになってんじゃないの? いいなー」
それらを両手を挙げて制し、俺はランツたちに貰ったリストを見せる。
「というわけでこの11巻以外は進呈するから一緒に探してもらえるか。俺一人じゃちょっと探しきれそうにないんだ」
「えーこれランツが書いたんですか? ちょっとチョイスが微妙。俺ならここに淫魔の舞踏を入れる」
「え、何だそれ聞いたことない」
「最近ハーモニウムで新興の画房が出来たらしくて、そこで新進気鋭の絵師が描いたんですよ。ほかにも無名絵師の作だけど結構粒揃いのエロ絵巻が刊行されてまして」
「あ、新興と言えばバルボアートワークスが分裂したの知ってます? 人気絵師がごっそり引き抜かれて今アトリエムーンロードっての立ち上げたとか」
「俺、個人系のとこしか知らないからなあ……大手は上手いんだろうけど変な画風を競ってる感じで鼻につくんだ」
「そうそう。でも個人系は流通量がねえ……お値段も張るし」
エロ絵巻談義で盛り上がる。
なんだかんだで俺の部下たちはみんな結構好きなのだ。当時布教したしな。
「とにかく探してくれ。あと淫魔の舞踏ってのは今度是非見せてくれ」
「イェッサー」
「あいつらの隠しそうなトコ……そういや天井裏見ました?」
「天井裏? 天井の板ってあれ直接床じゃないのか?」
「ここ少し天井低くなってますよ。多分一枚は……おい、誰か手伝ってくれ」
元部下たちが協力して天井の板を外す。
確かに他の部屋と同じと見せかけて、まるで二重底のように天井の上にもう一枚天井があった。
この隊舎は安普請だから、だいたいは上の階と下の階は床板一枚だけの区切りなんだけど。
そして。
「おお、あるある! 何十巻もありますよ!」
「マジか!」
ゴールドラッシュだった。
みんなで協力してエロ絵巻を運び降ろす。
しかしその中にも厳選11巻はない。
「これで大体何巻ぐらい?」
「えーと……ちょっと待ってください、おい、それぞれ10本ずつ山にしてまとめろ。種類とかはいいから」
「……今170巻くらいですかね」
「まだ30巻も隠してるのかよ……もう隠す場所ないんじゃねえの?」
「ちょっと待ってください。ベッド自体が怪しい……ゴートの奴器用だから、もしかしてベッドの柱に何か仕掛けを施したとも考えられます」
「それを言うなら机とかクロゼットだろ」
「ドアがちょっと分厚くないですか、他のとこに比べて」
「怪しいと思ったところはとことん調べよう」
「うッス!」
結局、総勢13人で家捜しをして、最終的に最後のエロ絵巻が出土したのは床下だった。
最初に俺が床下物置と思っていた場所のすぐ横に巧妙に隠された別の物置があり、それがさらに二重底になっていたのだった。
「……大事にするのはいいんだけど、こんなに厳重に隠してたら滅多に使えないんじゃねえの?」
「あいつらのことだからオナニーのための苦労は厭わない! とかそういう信念なんじゃ」
「迷惑な奴らだな!」
と言いつつもエロ絵巻の山分けをする元部下たちの姿に、色々な意味で安心する。
お前ら隊が新しくなっても変わらないなあ……。
(続く)
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