まず俺たちが飛ぶのはバッソン。
 テテスたちを連れて行くべきレンネストとどっちが近いかというと微妙なところだが、まずはボイドを降ろさないといけない。
 というか、とりあえずバッソンについた後、ドラゴンたちを散らした方がいいのかなあ。
 別にみんながみんなレンネストに行く必要もないし、猫コロニー、タルクやシタールといった町々もしかり。
 特に麻薬患者の皆さんやバウズたちは、あえてそちらに行く理由は薄いはずだ。
「どうしたもんかな……タルクで隊を分けてレンネスト方面に行く組とシタールやラパールに向かう組を分流させるべきかな」
「何ブツブツ言ってるんだ?」
 アンゼロスが横から顔を覗きこんでくる。以前よりだいぶ髪は短くなってしまったが、そのおかげで可愛らしい髪型もできるようになり、今はちょこんとしたサイドポニーだ。
「いや、航路を考えると、最終目的地のラパールまでの間に麻薬患者の子達やバウズをだいぶ寄り道させることになるだろ? 適当に南方の……用があるところを回っていくって腹積もりだけしかなくて、そういうのよく考えてなかった」
「ああ……ま、いつもそういう移動計画はディアーネさんに任せっきりだったしね」
「いつもそういうのってサラリと思いついたように言ってたけど、常に先々まで考えてたんだろうなあ」
「そりゃあ、アンディが考えてなさ過ぎるだけなんじゃない……?」
「え、そうか?」
「百人長クラスになったら当然団体を動かすんだから、食事も連絡も手配が不可欠だ。明日あさっての予定があれば充分ってわけにはいかないよ。最低でもどこまで、何人で動いて、ついた先で誰に頼るか……は、隊の頭領なら考えないわけにはいかない」
「そうか……そうだよなあ」
「アンディは急に百人長にされなくてよかったかもね。アンディのいいところは後先考えないで思ったままに行動するところだから」
「それは褒められてるのか……?」
「目の前に最善があっても躊躇する人は、大抵計算しきれない案件を積み上げている人だからね。アンディはそういうのを無視して手を出せる人でなきゃ」
「……うーん」
 遠回しにお前はアホだと言われている気がする。
「そなたはアホでいいのじゃ」
 ……アイリーナに遠回しじゃなく直接言われた。
「そういった細かい仕事ができる者はいくらでもおろう。他人にできることは任せよ。仕事を渡すのも長の重要な役目ぞ」
「じゃ、じゃあ……アイリーナならどうするんだ、この後」
「別にどうもせん。これより訪問する街に、竜を拒む場はなかろう。全員引き連れて、せいぜい観光旅行をすればよい。どうせ竜の翼なくしては数十日もかかる旅路よ、物見遊山で寄り道をしても不平を言う者なぞおるまい」
「そうかなあ」
「麻薬患者の女たちも、何がなんでもラパールに戻らねばならんわけでもあるまい。肌に合う土地を見つけたなら、現地で住む場所や仕事の世話など、口を利いてやるのもよかろう。どこでもアテはあるじゃろ」
「そりゃまあ……そうなんだけど」
 アイリーナは随分柔軟というか気楽というか。
 いや、俺が視点低いだけなのか?
 自分では結構無茶なこと考えるほうだと思ってるんだけど、あんまりこういう時には役に立たないよな、俺の発想力。
「自分では常識に囚われてないつもりなんだけど、あんまりそういうの考えつかないのが悔しいなあ」
「常識とか非常識という話ではない。そなたは理想が過ぎるのじゃ。妥協も立派な思考技術じゃぞ」
「妥協か……なるほど」
 根本的に変えるのではなく、大筋から少し妥協してみて、それでは駄目なのか考える。
 確かにちょっと俺にはそういう考え方が足りない。必要な発想法かもしれない。
「んで結局みんなでレンファンガス来るんですか? さすがにドラゴン4頭はバスター大騎士長も引きませんかね」
 壁に肘を突きながらナリスがぼやく。が、テテスはすぐに否定した。
「一応、バウズさんも含めてみんな顔は通してますしー。……あれ、エマさん違ったっけ?」
「大した問題ではないだろう。シルバードラゴンがアンディに多く降ったのは知っていることだろうし個体ごとの見分けは難しい。他のドラゴンと見比べて『アンディのドラゴンの仲間』と判断されるはずだ」
「アルメイダの言う通りだと思うわ」
「まあ、百歩譲ってそれでいいにしてもですよ。やっぱり四頭も来たら、その気ならレンファンガス終わっちゃうわけじゃないですか。近付くだけで国を挙げての一大事になったりしませんか」
「えー。でも二頭なら平気で四頭ならアウトの理屈よくわかんないよ」
「倍だよ!?」
「どっちにしたってご主人様が統率してるなら信用するしかないんじゃないかな、兄上も」
「せ、戦争になったりしないかな。一応ドラゴンともやりあえるよ、うちの大騎士長たち。何かと交渉上手のディアーネ百人長のおかげでバランスがいつも保たれてたんじゃないかって思うし」
「飛ぶアテがないから、用意もなしじゃ本気で勝負はできないんじゃないかな」
「ブレスで大人げなく襲えばレンネストは壊滅だな……その挑発の愚を犯してまで過敏に反応するとは思えない」
「今さらだけどやっぱ酷くないこの戦力!?」
 ナリスが騒ぐ。まあそれは俺もうすうす思ってるけど、ディアーネさんにしっかり調停してもらっているうちは大丈夫と信じたい。
「スマイソン十人長がヘタレじゃなかったらセレスタだってトロットだって征服できちゃってるよ……そんな戦力でノコノコと首都行くなんてやっぱおかしいよ……」
「いい加減諦めたらいいのに。そのドラゴンで送迎してもらってるんだから」
「別にそんなに送ってもらいたかったわけじゃないしー……もう少し粘ってもよかったし……」
「めんどくさいなあ。仕事の片付け済ませてまた一ヶ月したらポルカに行けばいいだけなのに」
「そりゃテテスちゃんは退役すりゃいいかもだけど私はこれでも真面目に働かないといけないんだよう。ポルカでのんびり待つのが仕事じゃなくなっちゃったらまた魔物相手に殺伐とした日々送らないといけないんだよう」
「割と堂々と給料泥棒宣言するよねナリスちゃんって」
 給料泥棒はセーフで返済休止はアウトという、ナリスの基準が相変わらずよくわからない。
 どっちにしても債権者はシャロンなんだから、いくらでも待ってもらえると思うけどなあ。
「すぐに戻りますから、待っていてくださいね、ご主人様♪」
 シャロンが囁いてくる。
 くれぐれも身辺整理で無理な横紙破りだけはしないでほしい。後が怖いし。

 バッソンの隊舎の運動場に四頭とも着陸させる。
 そして、その場でボイドを送り出す。
「バッソン市内まで送ったほうがいいか?」
「平気っスよ。乗り込んだらバレて騒ぎになる可能性もありますから。走っていくっス」
「そうか。……ま、頑張れよ」
「うス」
 ボイドはそのまま隊舎からすたたたたーっと走っていく。いやどちらかというとズダダダダーッという感じだけど。
 オーガとしてはそんなに体格ある方じゃないとはいえ、やはり足音は重い。
 そしてそれを見送った後、隊舎から出てきたアイザックに挨拶。
「ようスマイソン。ディアーネ百人長は?」
「今回は来てない。これから俺たちで色々回らなくちゃいけなくてさ。一晩泊めてもらうけどいいよな」
「まあ、部屋はあるっちゃあるが。掃除させないとなあ」
「あ、それとオナニーブラザーズの部屋、手ぇつけてないよな」
「なんだ、あいつらの部屋なんてロクなもんねえんじゃねえの?」
「私物整理頼まれたんだよ。エロ絵巻ちょっとだけ回収してあとはみんなに配れってさ。二百巻あるとか」
「それを聞いてやるスマイソンもなんというか……付き合いがいいっていうか、ちょっと甘すぎるんじゃねえか……?」
「い、いいだろ」
 その厳選11巻がとても気になるんだから。
 ……そんな俺の背後には、バッソンの青々とした森と草原を物珍しそうに眺め回すベアトリスやフェンネル、麻薬患者の皆さんの姿。
 ポルカの周りとはまた違った感じの植生だ。エルフのフェンネルには新鮮だろうし、ベアトリスだってこんな豊かな緑が他にもあることが驚きだろう。
 麻薬患者の皆さんは……ここらの気候が気に入ったら、バッソンで働き口を探す手伝いをしてもいいかもしれない。
「また随分見慣れない女が増えたな。あれも全部……コレか?」
「いや、全部じゃない。流石に」
 小指を立てるアイザックに苦笑いで答える。

 こうして、懐かしいバッソンでのしばしの休息の時が始まった。

(続く)

前へ 次へ
目次へ