キュートを含め、猫獣人たちの外見以外の個性について、俺は実はあまりよく知らない。
キュートは見た目どおりに明るく幼く、マローネやミリルは落ち着いているけど謙虚過ぎて若干卑屈な感じもある、というくらいか。
別にそんなのは特別深い関係じゃなくても数分話せば分かることだ。
彼女らはいったんは人生を半分諦めなければいけないようなハンデを負い、それが解消して感激して俺の雌奴隷となることを選んだわけで、ゆっくり関係を深めた結果の雌奴隷契約ではない。
そういう意味では仕方ないのだけど、俺が軍務で飛びまわることをやめた今になって、初めて彼女らに向き合うことができた……というのは、よく考えると少し酷いかもなあ、と思う。
人一人の人生を引き受けているのに、彼女らの好きなことも嫌いなことも、得意なことも苦手なことも、過去も夢も……全然知ろうとしていないまま、何ヶ月も過ぎてしまったのだ。
結構、不義理だよなあ。
「ご主人様ー」
「よ、キュート。仕事はもういいのか」
「夜営業の準備はセボリーさんやっといてくれるってー。その代わりセボリーさんが誘われた時は一人でやってね、って」
「あー……なるほどね」
お互い邪魔をしない。誰かのエッチのチャンスにはサポートしあう。
そういう雌奴隷たちの奇妙な協力関係の賜物だった。
俺はキュートの肩を抱きつつ、どこに隠れてキュートにイタズラしようか……なんてゲスに考えを巡らせ、ふと「それ以外」のこともしてみてもいいかも、と思う。
確かにキュートだってエッチを期待しているのだから、俺がこのまま物陰や猫屋敷で遠慮なくセックスに及んでも全く問題はないだろう。
キュートは夜営業の時間にはまた酒場に戻らなくてはいけないし、時間だってそうあるわけじゃない。
だが、セックスばかりではキュートという女の子に対する理解は深まらない。
性欲を満たし、子作りをするのはとても有意義だが、個性を理解せずにひたすら下半身だけの関係を続けるのはもったいない。女の子の色んな面を見てこそ、その最も恥ずかしく大事な部分を思うままにすることにも感動が生まれるのではないか。
……まあ要するにデートで気分に変化をつけるのもいいよね、ってだけなんだけど。
「キュート、せっかくだからおやつ食べよう。リンドンの饅頭好きか」
「にゃー。すきー」
「よし。んじゃ、食べに行くか」
キュートの砂色の頭を優しく撫で、互いに抱き寄せ合いながらリンドンに足を向ける。
キュートとは身長差があるので、どちらかというとデートというより親子って感じだ。キュートが無邪気に喜んでいるのもその感覚に拍車をかける。
いつかセレンの生んだエレニアなんかも、こうして甘えてくれたりするかな。
俺はこんな風にギュッと慕われる父親になれるかな、なんて思いながら、ゆっくりゆっくりと歩く。
で、饅頭屋の店先のベンチではキツネ野郎がゴロゴロしていた。
「よく会うなスマイソン」
「……お前昼寝場所いくつ確保してんの?」
「そんなに多くねえよ。気分とか日の加減で7箇所ぐらいある中から適宜選んでる」
「いや、多いよ!?」
「ここで昼寝するなら饅頭買わないと気が引けるしー。温泉行った後にしっぽ乾かすんならヒタヒタ滴らせて歩くよりは町外れの方がいいし、直射日光当たるのも気持ちいい日和と暑すぎる日和とあるし、朝と夕方はまたいい場所違うし、だいたいそんなもんだって」
そうは言うけどまず普通、街中で昼寝とかしないからな。
……なんてやり取りをしていると、ちょっと久々な気がするキールが店の中から顔を出した。どうやら今日は町の門番は休み、店番の日らしい。
「おう、アンディ。キュートちゃんも連れてるのか」
「ああ。プレーンの奴、4個くれ」
「4個でいいのか?」
「2個ずつ食うんだけど……なんだ、前より小さくしたのか?」
もっと食べるのが普通なのかな、と思うと、店の中にネイアとベアトリスの姿発見。
二人とも十数個は抱えている。
「…………」
「……あ、えっと、スマイソンさん。こんにちは」
「ちょっと、やっぱり多いんじゃないの? なんかあの男、呆れてるっぽくない?」
「で、でも、食べ始めるとこれくらいはなくなっちゃいますよ? このお菓子は本当においしいんです」
「そうは言っても……冷静に考えなさいよネイア、これ総量でいうとアンタの頭二つ分くらいあるんじゃない? お皿に盛ったらどんなことになるか」
「本当に食べてしまいますから。とにかくそれでいいんです。あなたが食べ切れなくて余ったら私がいただきますから」
……うん。この一点に関しては、常識というか手加減を知らないのはベアトリスでなくネイアの方だな。
「なあキール。在庫的に迷惑かけてない?」
「最初はちょっとびっくりしたけど、最近ではネイアちゃんが買ってく量も計算して作ってるからそれほどでもないよ。ま、セレスタのクロスボウ隊もよく食ったし、本職の肉体労働者ってそんなもんだろ?」
「……そ、そうかもな」
まあ、常識外れなのは何もネイアに限った話じゃない。もしオーガのゴートやボイドが満足するまで食べるとしたら、やっぱりこれくらいは食べるだろうし。
でもネイア、今んとこそんなに栄養消費するほど暴れる機会ないだろうに……。
「こんなに贅沢していいのかな。おいしいからって食べたいだけ食べるなんて、カールウィンの民なら年に一度できるかできないかの贅沢なのに」
「私たち戦士はいつ何と戦うかわからないんです。力をつける意味でも、良いものを食べておくに越したことはないんですよ」
「そんなもんかしら……」
ベアトリスとネイアのやりとりはカールウィン語なので、キールには何を言っているのかわからないだろう。微笑ましく味について語り合っているだけに見えるかもしれない。ちょっと意地汚い大食い正当化論なんだけど。
「ご主人様ー、あの人たち何ゆってんの?」
「……キュートも勉強したらわかるよ。多分そのうち、ああいう言葉を話す客がポルカにも多くなるから、誰かから教わることも考えておけ」
「にゅー」
……霊泉は太るのを止めてはくれない、って確かジャッキーさんちの嫁さんが言ってたっけ。
ネイアのためにも、今後も時々適度に冒険することを考えておかないとな。ずっと出ることもせずにここにいたら悲劇が起きそうだ……。
「ほらよっ、注文の品受け取れアンディっ」
「わ、こら、キール、食い物投げるなよっ!」
キールが投げてよこした饅頭の包みは、ぴょんと跳ねたキュートが見事キャッチ。
ヒュー、と口笛を吹いたキールは、背後から伸びたお袋さんのゲンコツでどやしつけられていた。
うん。売り物にそりゃないよね。
「食べていいー?」
「おう。俺にもひとつくれ」
キュートが包みを開け、さっそく一つ頬張る。
甘い饅頭はやっぱり女の子には威力抜群だ。至福、という表情で咀嚼する。
……俺はキュートがこんなにも幸せそうに物を食べるってことも、知らなかったんだよな。
ふと、もっとキュートや、他の雌奴隷たちが喜ぶ顔が見たいな、と思う。
エッチや子宝はもちろんみんな望んでいるだろうけど、もっといろんなことで喜んでほしい。
いろんな笑顔を知ってこそ、そんな魅力的な女の子と愛し合っていることに俺も幸せを感じられる。そんな気がする。
「……こ、これは……確かに、ちょっと……二個や三個じゃ足りないかも」
「そうでしょう」
ベアトリスはキュートと俺が食べるのを見て自分も口にすることにしたようで、しかし笑顔でなく、まるで戦慄したような顔をした。
甘さの喜びが顔に出るのではなく、そもそも未体験の味というレベルだったようだ。反応はそれぞれだろう。
「おじさーん、まんじゅうおくれー」
「私も私もー」
俺たちの足元を縫うように、町の子供たちも饅頭を買いに来る。そろそろ教会寺院のこども教室も解散の時間か。
「あのなーお前ら。俺まだおじさんって歳じゃねえだろ? ほら言い直せ」
「おっちゃん!」
「キール!」
「違うだろ! 『お兄さん』だろ! っていうかそっちのお前、なんで呼び捨てになってんだよ! おかしいだろ!」
キールは子供たちにもおちょくられていた。とはいえ、誰も彼もが赤ん坊の頃から知り合いの田舎ならではの距離感といえなくもない。
「ねーねーきつねのお兄さん、しっぽ触っていいー?」
「んー。いいけど毛は抜くなよー」
だらしなく昼寝しているケイロンも何気に子供たちにたかられていた。
平和。
……その二文字が表現している幸せが、ここにある気がした。
(続く)
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