全員と一通り楽しんだ頃にはもう夕方になっていた。
最後まで居心地悪そうにしながらも場を離れなかったベアトリスは、当然ながら手についた刺し傷はすっかり跡も見えないくらい治っていた。
「飯もここで作れるようにしねえと長居はできねえだな」
「うむ。いくら温泉が暖かいとは言っても、眠るのも浴槽で……というわけにはいかぬしのう」
「トイレなどもしっかり整備しておかないと。将来的には宿屋ひとつを建てるつもりで作っていかないといけませんね」
ジャンヌとアイリーナ、クリスティが「壁」を振り返りながら相談している。
本格的に俺専用の保養施設……いや、乱交会場のひとつとして不自由ないように完成させようということらしい。
それはそれで楽しみだけど、自宅や猫コロニーを始めとして「そういう」場所は結構あるよね俺。きっとこれからはレンファンガスの砦でもそんな感じだろうし。
「みんながエロいのはとてもいいことだけど、こんなにあちこちエロ拠点ばっかり作ってたら、そろそろ誰かに怒られそうな気がする」
「ほほ。竜の乗り手の縄張りとしてはささやかなものではないか」
「そうかなあ……?」
「そなたが勝手放題を決め込む場所を全て合わせたとて、せいぜいポルカの半分にもならん。竜の乗り手は国をも興せる力を持つのじゃ。王者の我侭としては決して派手な方ではないと思うぞ」
「そういうのは本物の英傑の特権って気がするけどなあ……別にドラゴンライダーでもひっそりやってるのも多いんだろ?」
「それはそうじゃが、そなたはもう、隠れて世間を窺わねばならぬような小物とは誰も思うておらぬじゃろう。それだけ人を救い、国々を動かした力はいずれ、まさに本物の英傑と呼ばれることじゃろうて。……それだけの影響力をもて何も企まずにおるのは、むしろ不気味と思われておる節もあろう」
「あー……そういや前に先王に絡まれたことあったなあ」
「うむ。何もせぬよりは何がしか愚かなことでもやっておる方が、見る側は安心するものじゃ」
「うーん……納得はいくけど」
「ま、なんにせよ、その程度のことで気兼ねはせんでよい。どうせそれで不幸になる者がおるわけではないからの」
「そりゃ……うん」
誰かが大損してるのを我慢させた上で……というのではさすがに決まりが悪すぎる。
「やれやれ。何かと下っ端思考が抜けぬものじゃの。そもそも忘れてはおらんか? 多少の無茶ならなんとでも調整できる権力者も多く雌奴隷におるじゃろう。コソコソと我慢するよりも金出しでも口利きでもして、そなたとの時間を思う存分楽しむ方がずっと良いと考える者たちを否定してやるでない。愛じゃぞ、それも」
「あー……うん」
言われてみればそうだよな。
俺がエロ大好きだとわかっててくれるからこそ、そういう舞台を積極的に整えてくれるんだ。遠慮ばかりするのは、その配慮を無下にするってことでもあるか。
「ま、横柄になるのもそなたらしくない。それなりにわかれ、ということじゃがのう」
「……うん」
ライラにまるで弟のように頭を撫でられつつ、服を身に纏う。
夕食は酒場。
本当は家でアンゼロスやオーロラが作ると言っていたのだが、急だったために用意が足りないのは明らかだったので、今日のところは、と酒場で納得させた。
「キュートちゃんビール! あとソーセージセット!」
「にゃー」
店に入るなりビッと手を上げて注文するナリスと、相変わらずにゃーとか返事してるキュート。
そして店のちょっと奥の方ではヒルダさんとシャロン、アルメイダが飲んでいた。
「あら、アンディ君」
「おかえりなさいませ」
「戻ってきたのはセレンから聞いていたが」
美貌のエルフとダークエルフの女三人席。町のおっさんたちが(特にビキニアーマーのシャロンのおっぱいに)熱視線を向けている。
っていうか、そろそろ夏になろうとしているとはいえ、ビキニアーマーではさすがにちょっと涼し過ぎる気もするけど。シャロンあれお気に入りだからなあ。
「ただいま。……ちょっと森の温泉で遊んできた」
「ああ、あそこねー」
「お呼び下されば馳せ参じましたのに」
「遊んできた……うむ、温泉で遊んだ……というと、つまり」
アルメイダが微妙に遅れて意味を噛み砕き、一人で顔を赤くしている。シャロンやヒルダさんは心得たもので、まるで自然に受け入れているが。
「男爵邸の面々と、テテスたちを連れて行ったらしい」
「わたくしたちを放っておくなんて。妬ましい限りですわ」
ちょっとだけふて腐れた顔のアンゼロスとオーロラ。ささっと給仕についたセボリーが二人にも陶コップを用意し、それにシャロンが手元の酒壷から酒を注いだ。
「あ、騎士長それ結構いいワインじゃないですか? いーなー」
「最近、王都の方から届いたらしいのよ。ここのところ、アンゼロスさんのお母上からの働きかけで商人の出入りが増えたおかげで、いいお酒も多くなったわね」
「私にも一杯いただけますか!」
「ちゃんと自分の杯を空けてからね」
「ナリス一気いきまーす!」
いきなり立ち上がって陶ジョッキのビールをごくごく飲み始めるナリス。周りのおっちゃんたちもさっと手拍子をあわせて盛り上げる。見事なコンビネーションだ。
「ぷはーっ! さあ騎士長! さあさあさあ!」
「急がなくてもお酒は逃げないのに」
「でもライラさんいるじゃないですか! ウワバミじゃないですか!」
「……蛇なぞと一緒にするでないわ」
ライラはライラで自分の酒を酒壷から直接飲んでいる。思いっきり持ち込みで、店の酒じゃないが、見咎められて怒られたりしないのは……まあここが田舎の酒場ってことと、ライラだからってことが半々か。
「セボリーさん。私にもソーセージセットを」
「……ね、ネイア。私にも何か適当に持ってこさせてよ」
「あなたは北西語の練習もすべきです。これからはここも、カールウィンと深く関わる土地になるのですから」
ネイアとベアトリスもヒソヒソと言い合っている。微笑ましい。
そして、ドアが開いて入り口からルナ、マローネ、ミリルも姿を見せる。
「アンディ」
「ご主人様!」
「お帰りなさい!」
猫三人の登場で、さらに酒場が華やかになる。
というか、男爵邸に戻ったアイリーナとクリスティ、それとジャンヌら以外はみんな俺についてきているので、女の子たちだけでテーブルを既にいくつも占領している。
「アンディが帰ってくると、むさ苦しいココが一気に女っ気で潤うな」
赤ら顔のおっさんが冷やかしてくる。
それを聞いたヒルダさんが言い返す。
「あーら、毎晩私が来てるのにむさ苦しいなんて」
「いやいやヒルダ先生は確かに綺麗だけどよ、大人の余裕っての? こう、娘たちのキャピキャピとはまた雰囲気違うじゃないか」
「私これでもまだまだ若いんだけどなー☆」
「とにかくアンディが来ると一気に娘っ子が押し寄せてきて、こう、なんてーの? 若返る感じがするんだよ、空気がよ」
「あーわかるわかる」
「たくさんいるとまた雰囲気が変わるよな、女の子って」
おっさんたちがニヤニヤ笑いながら頷きあう。
「みんな俺のだから、手を出したらライラが承知しないぞ」
「わーってるって」
「ったく、うまいことやってるよなあ。あのピーターの息子のくせに」
「そうそう。ちょっと色っぽい女にすぐデレッとしては、マリーさんに足蹴にされてたんだ」
ニヒヒヒヒ、と笑って、ちょっと懐かしそうな顔をする。
「あれから何年だ。ったく、馬鹿なことで死んじまってよ」
「よりにもよって、このポルカでなあ。……生きてりゃよ、ここで俺らに代わって息子と飲めたってのに」
「どんな顔で息子を迎えたんだろうな。こんなドスケベ放題のドラ息子をな」
ちょっとしんみりしつつ、おっさんたちは示し合わせたように杯を上げる。
今は亡き親父に、と、無言のうちに捧げてくれたようだった。
「……何の話、してるの、あれ」
ベアトリスが急に空気がしんみりしたおっさんたちを見ながら呟く。
俺はシャロンのワインを一杯飲んで小さく息をつき、そして。
「……俺の親父の話だよ。……お人よしでだらしなくて、騙されやすくてスケベで、……色んな人に好かれてたんだ」
「……おやじ……父親のことよね」
「ああ。……子供の頃しか一緒にいられなかったけどさ。俺も……できれば一緒に飲みたかった」
「……どんな人、だったの?」
「ああ」
少し泣きそうな気持ちで、笑う。
「ちょっと長くなるけどな」
そうして俺は、ベアトリスやネイア、そして雌奴隷たちに、とりとめもない親父の思い出を語り始めた。
たまにはこんな夜も、いい。
(続く)
前へ 次へ
目次へ