さすがにもう一晩泊まるのもどうかという感じなので、ライラとネイア、そしてエマを加えた俺たちは、夕方前にクリスタル・パレスを出る。
歩くしかない普通の旅人なら、暗い中では無闇に進めない。日暮れを前にして出発などといったら相当な強行軍だが、ドラゴンの翼は無制限の行動範囲と、時を選ばない安全性がある。頼もしい。
「リェーダはまた今度じゃな」
「ライラって随分リェーダのこと気にするけど、実は気に入ってたりするのか?」
「はっきり言ってしまえば、マイアもエマもまだ仔竜に毛が生えた程度じゃからのう。さりとて飼い主殿は、ブルードラゴンの後家どもを娶る気はなさそうじゃ。成体の竜と縁が出来たのは良いことよ」
「あー……」
なるほどね。ライラにしてみれば、ようやく本格的に自分の代わりも頼める要員なのか。
「わ、私とてそれほど侮られる歳のつもりはありませんっ」
「そなたもマイアも、あと三十年も経てばそこそこ頼みにしても良いのじゃが。飼い主殿は短命の身じゃからのう。あまり気長に、というわけにもいかぬ」
「う……」
「えーと……人間でごめん」
「そ、そのようなこと、どうしようもないことです」
そうだよなあ。彼女らがライラの歳になるころまでは、俺はちょっと生きられないだろう。
これがエルフだったら、彼女らの成長を見込んでじっと待つことも苦じゃないんだろうが、俺はそうはいかない。
……そして、自分が死んだ後の事を考えると、歳若いエマやマイアを迎えてしまうことに少しだけ罪悪感もある。
「そうだよな……俺にとっては二百年先とか千年先とか御伽噺みたいな話だけど、みんな普通にそれまで生きるんだよなぁ。俺が無責任に嫁にしちゃって、老いぼれて死んだ後も」
「みな、それを承知でそなたの元におる。別れが遅いか、早いか……ま、人の生など、それでなくともいつ終わるかわからぬ。気にすることはないと思うがのう」
「そうは言ってもな」
「せいぜい、子を成してやることじゃ。そなたと共におったことを後悔させたくなくば、それに勝るものはない」
「……つまり、毎日乱痴気エロ三昧が一番女の子たちのためになる」
「そうじゃな」
「……なんだろう、それはそれで俺と一緒になった事を後悔させそうな気がする」
「時々、そなたはおかしなところで常識人になるのう。ほとんどの娘は、そなたに性欲の捌け口として扱われることを念を押され、心より納得して門に降っておろうに」
「いやまあ、そうなんだけど」
「むしろ、そなたが乱痴気しないもので不満を募らせている娘も多いじゃろう。高尚なことを考えるのなどディアーネと白のチビ助にでも任せればよい。しばらくは女の尻だけ考えて過ごしたらどうじゃ」
「それはちょっと難しい」
俺は腕組みをした。
「何故じゃ。懸案は殆ど片付いておろう」
「おっぱい大好きポルカっ子としては、おっぱいと半々以上にはお尻のことを考えづらい」
「……ククク。なるほど、それは重大じゃ」
ライラは笑い、バサリと服を脱ぎ捨てて荒野に全裸を晒す。
そして、ドラゴン体へと変化。
「では女の乳と尻の饗宴のために、とっとと進むとしようぞ」
「スマイソンさん……」
「主様……いえ、不満はありませんが……」
呆れているのかと思いきや、苦笑しているネイアと、しきりに自分の胸を気にするエマ。
ツッコミがなくて寂しい。
それから、日が暮れる前にはカールウィンの王宮に辿り着く。
「アンディ。まだ休んでいなくていいのか」
「もう半月近く経ってるのに疲れなんて残ってませんって」
出迎えたディアーネさんは、非常に豪奢に着飾っていた。
「しかし凄い恰好ですね……お姫様っていうか」
「事実上の決定権を持つ者が、あまりみすぼらしい恰好をするな……と、官吏たちから、な」
溜め息をつくディアーネさんは、スターナ姫が着ていたのとも違うエキゾチックなドレスに、離宮の宝物庫から出してきたと思われる数々の金のアクセサリーを髪や首、腕にあしらっていた。
「ここが独立領として見栄を張るには、地位を持つ者はそれなりの恰好をすることを、王族のスターナ姫以外にも習慣づけなくてはならない。……わかってはいるんだが、こんな恰好は趣味じゃないから疲れる」
「このドレスは東方山地の?」
「しばらく前にシルバードラゴンから贈られたものだ。この国の織物より上等だからな」
言われてみると、昨晩シルバードラゴンの舞い手が着ていたのとよく似てる。
「ところで、彼女は?」
「ああ、この子はシルバードラゴンのエマです。長老派として、谷での行動中に手を貸してくれた……今度から俺のドラゴンになるって」
「そうか。よろしく。アンディの女の一人、ディアーネだ」
「エマです。こちらこそ、よろしく」
そういえばエマって、俺とテテス、マイア、アップル……それとネイアには面識あるけど、大部分の雌奴隷とは全然顔を合わせてないんだな。
「ディアーネ殿は主様より立場が上のような口調ですが……」
「俺の直接の上官なんだよ。事務能力も高いし強いし、人望もある。ドラゴンの加護とディアーネさんの存在、どっちが大きいか迷うくらいに凄い人だよ」
「よしてくれ。流石に私もドラゴンより存在感が強いとは自惚れられない」
「では、ディアーネ殿は主様より上の存在として接するべきということでしょうか」
エマはどういう態度を取ればいいか困惑しているらしい。
まあ……ちょっと困るかもなあ。俺がディアーネさんを理屈抜きに尊敬しているのは事実だし、その関係にドラゴンとしてどういう立場を取ればいいのか。
「私のことは呼び捨てで構わない。ドラゴンの立場は、人の関係の埒外だ。私に対して過度の敬意を払う必要はない。アンディより位階が高いといっても、しょせんは百人長だ。国をも一人で互角に相手取れるドラゴンと対等ではないよ」
「ほ。いくつもの国の首脳を手玉にとっておるそなたの言い分とは思えぬな」
「人聞きが悪い。今回はたまたま嘆願を聞いてくれるものがいくらかいただけだ。手玉なんてとんでもない」
「ククク。それに、我に対して『例えドラゴンが相手でも容赦せぬ』などと吹いたこともあろう。先の戦いの活躍を見るに、実際この首も危うかったやもしれんな」
「お前は私をどうしたいんだ。彼女には、マイアが私に対するのと同じ程度に振る舞ってもらえればいいというのに」
ディアーネさんが苦りきった顔をする。
そしてエマは若干緊張した面持ちになっていた。
「人づてですが、先の戦いで、竜を相手に圧倒的な戦いをした者が幾人もいたと聞いています。ディアーネ殿はその一人ということなのですね」
「左様。舐めてかかると酷い目に遭うぞえ」
「ライラ! ……全く。気にすることはない。さっきも言ったが、私もアンディの女の一人に過ぎない。いずれ見る機会もあるだろうが……アンディにみっともなく愛でられるのが何より好きなだけの、ただの小器用な女だ。妙に畏まられても、いざという時に居心地が悪い」
「……やはり、主様は褥においても只者ではないのですね」
「え、そこで俺に振ってくるの!?」
予想外のところで俺への尊敬が高まるエマ。
「褥か。……ああ、只者じゃないのは確かだな。特にねじ伏せるように抱いてもらうと、言葉に言い表しづらい幸福感が湧いてくる……」
「それはそなたが無駄に強いがゆえの屈服願望じゃろう」
「ライラも似たようなものだろう?」
「我はいかような抱き方でも幸福じゃが。強き竜を躾けんとする猛々しき肉欲は確かに好物ではある」
「わ、私も……その、少し強くねじ伏せられてしまったのですが……やはり完全に身を任せるべきだったのでしょうか」
「突っ張っても良いことはないぞえ。それより、主が己をそうして躾け、貪り、飲み干さんとする欲望に身を委ねるがいい。雌竜は、その果てにある隷従に喜びを見出すようにできておる」
「隷従……」
エマが呟き、プルッと肩を震わせる。
「飼い主殿。次に抱く時は、最初からエマに愛玩動物であると刷り込んで臨むがよいぞ。一度殻を破れば底なしの悦楽じゃ。そのチンポで飼う以上、良き快楽の沼を教え込んでやるのも飼い主の甲斐性じゃろう」
「あー……その、アドバイスは助かるんだけどな」
俺は周囲を見渡す。
ディアーネさんに続いて、王宮から出てきた人影がいくつも。
セレスタやトロット、レンファンガスから派遣された官吏と思われる人々。そしてデューク神官長……いや、国王代理と、その右腕たるブライアン・ルオ。
それらの人々も急なドラゴンの来訪を無視できるわけもなかった。そして気を利かせたネイアが先んじて挨拶しているものの、猥談していることはどうにも隠しようがなく、ネイアは若干気まずい表情でこちらをチラチラと見ている。
そしてエマは、どうもその視線を気にする俺の態度をどこかで勘違いしたらしく。
「改めて挨拶を。昨日より、新たにアンディ・スマイソン様に隷属することとなった銀竜エマと申します。よしなに」
わざわざ進み出て挨拶。
そして、まだ不足と思ったか、付け加えるように。
「まだ主様にご満足いただけるほど熟練してはおりませんが、いずれはライラ殿と同じくどのような行為も受け入れられるよう……」
「いやもういいからさ! ちょっと冷静になろうエマ、新しい扉開きかけてるのはいいけど!」
「え、ええと……私、何かおかしなことを……?」
「えっとな? ドラゴンは割と勘違いしてるというか微妙に価値観違うことが多いけど、性的に可愛がられるってことは、例えどんなに誇らしい相手でもそうそう公言すべきじゃなくてな?」
「は、はぁ」
よく考えたら、秘境でズレた価値観持ってるのは、カールウィンの民だけじゃないんだよな。裸族のマイアたちより文化的に見えるから、少しこっちも油断しがちだけど。
「まずはポルカに連れて行くのが先決かもしれないな。他の雌奴隷たちに色々教わるほうが早いだろう」
「ディアーネ、そなたはまだ用は済まぬのかえ」
「諸々、まだ手をつけたばかりだ。少しポルカも恋しいが、まだ放り出すには早すぎる」
「難儀じゃのう、いつもながら」
「アンディの成したことを台無しにしないための仕事だ。おろそかにはできないさ」
小さな国家の再編という、ディアーネさんの地味な戦いはまだまだ続くらしい。
俺は応援しかできないし、適当で投げてしまえなんて言えるはずもない。
だから、前向きな彼女の気持ちはとてもありがたかった。
(続く)
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