いつの間に寝たのか、自分でもよくわからない。
 それ自体は酒を飲み始めた頃からいつものことだが、最近は飲酒中の寝オチに対して自分でも警戒心が薄すぎるなあ、と思う。
 俺がいくら酔い潰れても、ライラかマイアがいれば、寝込みのスリでスッテンテンなんてことにはならないと思うからか。ドラゴンは酔わないしな。
「んー……」
 しかし、いい酒は悪酔いしないって本当だな、と、結構いい酒を飲む機会が多くなって思う。
 粗悪な酒だと、味への不満を無茶飲みで誤魔化すせいだ、とも聞いたことがあるけど。
 鼻で楽しんで至福、舌で味わって至福、喉を通して至福、余韻に浸って至福……と、どんな段階でも愛おしい酒は、確かに無茶飲みはできないよね。もったいなくて。
 ……なんて、昨日の宴を思い返しつつゆっくり目を開ける。
「ほ。起きたか」
「ライラ……膝枕してくれてたのか」
「大した事でもあるまい」
「……いや、こういうのって嬉しいぞ」
 目が覚めるまで膝枕を続けてくれる女がいる、朝の目覚め。
 まあ、普通は痺れちゃうだろうけど。
「ほほ。目覚めは朝勃ち処理のまぐわいで目覚めるのが極上……ではないのかえ」
「エロばっかりが愛情感じる瞬間ってわけでもないし……んーっ」
 喋りながら伸びをする。そしてライラの膝から身を起こすと、肩からズルリとマントが落ちた。ネイアのものだ。
 ネイアはどこだ、と首をめぐらせれば、日の出前の青い闇の中で、篝火を背景に影絵のように動いている人影がちらほら。
 幽玄、という表現がよく似合う、なんともミステリアスな風景。
「……ネイアやエマは?」
「エマめは色直しじゃ。ネイアは汗が気になったらしいのう。水浴びを所望しておった」
「あー……っていうか、まだそんなに気にするほどポルカを離れてから時間経ってないのに」
「たわけめ。臭いと思われてからでは遅かろう。女心のわからぬやつめ」
「……そ、そう?」
 今までにだって割とアレな強行軍とか監禁状態とかも経験してるんだし、そんなに細かく気にするものでも……と思ったけど。
 それをいっぺん経験したら、もう後は気にしないって感覚こそ「女心のわかってない」男特有のものなんだろう。
「男の前にあるならば、常に喜ばれる姿でありたい……よい傾向ではないか。何かと言えば勇者だ責務だと殺気立つばかりだった頃を思えば」
「まあ、な」
「そのうち、いつでも雌奴隷として可愛がられるため、服を纏わず待つようになるかもしれんのう。ほほほ」
「……時と場所はよく考えてくれるといいなぁ」
 俺がそういうの求めたら応じてくれるっていうのはいいんだけどね。

 しばらくしてエマは新しい衣装に着替えてきた。
「主様、目を覚まされたのですか。寝床の準備もしておりましたのに」
「ちょっと酔っただけだからな。昼間も別に疲れることはしてないし、そんなに眠かったわけじゃないよ」
「それでも、ちゃんとした床で休まれてはどうですか。もう急ぐ用もないのでしょう」
「まあ、確かに急ぎじゃないけどな……」
 半日やそこら寝過ごしたって、ディアーネさんは怒るまい。いやそもそも今日行くなんて知らせてないわけだし。
 しかし、あんまり甘え過ぎるのもなぁ……と、傍らのライラに目で判断を仰ぐ。
 ライラは肩を竦めた。
「好きにせよ。もう二日三日、宴に浸るのも良い。その程度で邪険にされるほど貧しいパレスでもなかろうて」
「いや、さすがにそう何日もは入り浸らないけどな?」
「こちらは一向に……」
「確かに酒も料理もうまかったけど、飽きるまで続けるってのは主義じゃないんだ。またそのうち、恋しくなったらな」
「はっ」
 半分は心苦しさからの言い訳だ。今までそんな主義主張掲げる機会なんてあったわけじゃない。
 しかしエマは疑問に思わなかったようで、特に食い下がらなかった。
「でも、寝床は……ちょっと借りようかな」
 硬い長椅子に寝転がっていたので、体が少し痛い。行軍中なら仕方ないと諦める痛みだが、誰も彼もが寛容な中、まともな寝床での二度寝の誘惑には、抗いがたいものがある。
「こちらです」
 エマは嬉しそうに先に立って歩き出す。
「ライラはどうする?」
「ほ。このまま飲ませてもらおうかの。さすがにベッドの邪魔は無粋じゃ」
「そっか」
 ……なんか妙な言い回しだなあ、と思いつつも、いい寝床で二度寝ができるという誘惑には勝てず、ちょっとフラつきながらもエマについていく。綺麗に酒気は抜けたと思ったけどまだちょっと残ってるっぽいな。

 石造りの一軒の家に案内され、その奥の部屋にある大きなベッドを指し示される。
「良いバネを使ったベッドです。村のものはあまり使いませんが……」
「なんで?」
 というか、バネ入りのベッドなんて王都でも金持ちの持つ物だ。
 大体は硬い下地をマットで誤魔化すか、木組みに網目を張ったベッドを使っている。
 そんな上等品をわざわざ避ける理由なんてわからなかった。
「竜はそもそもあまり眠らないのです。眠るとしても、病身でもなければ格別な寝床を必要とはしないものです。立ったままでも、飛びながらでも眠れますから」
「んー……そりゃそうなのかもしれないけど……なら、どうしてこんなものを用意してあるんだ」
「……人が訪れることは皆無ではありません。それに、……異性同士が契約を交わせば、こうした床が必要になることもあると……」
 えー。そういう……つまり、ここはセックス部屋的な?
「……もしかしてここ、ライナーも使ったりしたの?」
 ちょっとそれを意識すると気まずいなあ、なんて。
 いや、贅沢だろうけど。
 しかし、エマは首を振る。
「知る限りでは、ないと思います。シャリオたちとライナーが村の中で交わっているのは、誰も見たことも聞いたこともないのです」
「……外でヤッてたのかな」
 まあ、ライナーの気持ちはちょっとだけわかる。超聴覚を誇るドラゴンたちに囲まれた村で、誰も彼もが聞いているのにセックスとかしづらいよね。
 ……で、ここら辺で薄々気づいた。さっきのライラの遠慮の意味。
 地獄耳でこの部屋の事情もある程度察してたってことか。
 つまり、エマは……俺に二度寝をさせたいんじゃなくて。
「……じゃあ、エマ」
「はっ……」
「俺とエマは異性同士で、これから契約するわけだけど。……こういう寝床で何するかはわかってて、俺に全部説明したんだよな?」
「……っ」
 エマは少し俯いて真っ赤になる。
 初々しい。
 俺はすっかり眠気も酔いも覚め……いや、なんか微妙に気分が嗜虐的になってるから、厳密には多少酔いは覚めてないのかもしれない。
 とにかく、エマに対して俺はちょっとだけサディストが入ったまま接する。
「さすがに自分がどうされるかわからないほど幼くはないよなぁ?」
「……も、もちろん……です」
「期待して、俺をここに連れ込もうとしてたわけだ」
「…………」
「それどころか、俺がこのパレスに来たときから、エロいことされるの想像してたりしたんだろ?」
「それ、は……」
「違うのか? まさか俺に従うといった昨日の今日で嘘なんかつかないよな?」
「……う、うっ……あの、そのっ……」
「…………」
「……想像、して、ました」
「淫乱」
「っっ……!」
 突き放すように投げつけた言葉に、エマが少し涙目になる。
 あ、ちょっとマズい。この子、しっかりしてる分、イジメると変な快感がある。
 俺にイジメられるとすぐトロトロになっちゃう雌奴隷たちもそれはそれで可愛いけど、まだ葛藤がしっかり働いてるエマは、少し本気で俺に軽蔑されてると思ってる。
「俺が雌奴隷たちと毎日ドロドロのセックスしてると聞いて、自分もドロドロにされるとわかってて……それでも望んでここに引っ張ってきたんだよな? その上等な服早く脱いで、本性見せてみろよ」
「う、っ……あ、主、さま……っ」
「その寝台に乗って、股を開いて……こう言うんだ。『私は早くセックスしたくてしたくてたまらなかったんです、早く私のおまんこをチンポで塞いで下さい』ってな」
「ひぅぅっ……」
「言えないか? ま、それならいいよ。出て行ってもいい。俺は寝るだけだ」
「やっ……い、いいます、言いますからっ……!」
 エマは羞恥で頬を真っ赤に染めながら、着ていた服をしゅるしゅると脱ぎ去り、ベッドに横たわり……まだ未成熟ながらスレンダーな魅力の詰まった肢体を強張らせつつ、ゆっくり、ゆっくりと足を開き……。
「股を開けって言われてそうくるか。ははははっ」
「っっ!!」
 足を立てたり抱えたりして広げるのではなく、ただ真横に開脚するエマ。
 まあ、セックス未経験では言葉通りにただ開くと取っても仕方ないか。
 だが、俺の笑い声に更なる羞恥を募らせたエマは、もはや限界とばかりに泣き出しそうな声で搾り出す。
「わっ……私は、早くセックスしたくてっ……したくて、たまらない……たまらなかった、からっ……」
「はい、違う。言い直しだエマ」
「っ、く……は、はいっ……」
 全身強張って、震えてすらいるエマが、再び口を開く。
「私は……はやく、セッ……クス、したくて、したくて、たまらなかったんです……」
 貪るように息を吸い、そして言葉を続けようとするエマに、俺はいきなり襲い掛かって覆いかぶさる。
「!?」
「……面倒臭いからこのままぶち込むよ。この程度のこともできないなんて失望だ」
「ひ、ぃっ……や、やぁっ……あ、主様っ……!」
 エマがついに泣き出した。
「や、やだっ……主様、やだっ……! やだ、あっ……!!」
 さすがにやり過ぎた。ドラゴンだからもうちょっとイジメても平気かと思ったが、肉体はタフでも精神的にはそれほど超越していないのだった。
 俺は慌ててエマの上から身を起こそうとする。
 と、エマは必死でしがみついてそれを止めた。
「やだっ……私、がんばりますからっ……がんばって、期待に、応えるからっ……見捨てないで、ぇっ……!!」
「……え、エマ、ちょっ……そうじゃないっ、調子に乗り過ぎたって、ごめん、ちょっ、落ち着けって!」
「うええええええっ……うええええええええええんっ……」
 エマはしばらくショックで泣き止まず。

 しばらくしてエマはようやく落ち着き。
「そ、そのっ……本当に、お見苦しいことを……」
「いや、俺が調子に乗って……ああもう、酒入るとすぐこれだからエマも注意してな? 俺、結構酒で正気を失いやすいんだ」
「いえ……その、言われた通りにできなかった私が悪いんです……そんなに難しい事をさせられたわけではないのに……これでは主様にご満足いただけません」
「いや、ホントごめん。なんかイジメたら可愛い気がしちゃって……」
「……か、可愛い……ですか」
「すまない。雌奴隷たちの中には、こういうイジメみたいなエッチ好きな奴、何人かいるんだ。そういう奴に合わせてたつもりが、なんか俺にもそういう成分あったみたいで、たまに暴走しちゃうんだ」
「……わ、わかりました……その、ちょっと驚いただけです」
 思いっきり泣いて取りすがってたじゃん。
 と思いながらも、裸で身を抱きながら真剣に俺を見つめ返すエマから目が離せない。
「その……わ、私、あまりそういう、他人に失望されたり貶されたりといったことに経験がなくて……なんだか、自分でも驚いてしまうくらいショックを受けてしまって……すみません、少し落ち着いたら……私、なんて無様な」
「……うん。ごめん」
 兄貴に甘やかされてたんだろうなあ、この子。
「こ、これからはあなたの所有物ですので……そういうのも克服します。ですからっ」
「そんな気負わなくていいんだって。……悪かったよ。優しいえっちから、少しずついこう」
「……主様」
 俺はエマを抱き締めてキスし、そしてそのまま肌を寄せ合って、撫でながら眠りにつく。
 今日のところはこれでいい。本番はまた今度だ。

 で、昼になって起きたら、パレスの皆様の俺を見る目が少し変わったような変わらないような。
「その。……スマイソンさん。丸聞こえでした。私にすら」
「……そ、そうか」
 ネイアに呆れ顔をされる。
「よく、いきなりそんな強烈なことをしようとしますね……」
「正気じゃなかったんだ……」
「う、受け入れ切れなかった私に問題が」
 エマが慌てて俺をフォローするが、もうみんな聞き知ってるんだからそういうの言うだけ無駄だと思うんだ。
「ほほ。ま、それも竜の御し方のひとつじゃ」
 ライラだけは微妙な空気などどこ吹く風だった。
「よく竜を従える手管。これもまた、偉大なる乗り手の条件なのやもしれませぬ」
 長老が遠い目をした。
 あんた、もっともらしいこと言ってるけど、実は後付けでそういうの言ってるだけで、本当はあんまり考えてないんじゃ……?
 ちょっとポルカのハリー爺さん思い出した。

(続く)

前へ 次へ
目次へ