バッソンという都市の大部分は最近出来たものであり、全体が新しい町といえる。
 景気がいいにせよ、急に大きくなるにはそれだけの人口がどこかから移動してこなければならない。
 移動というのは現在、多くの場合は徒歩や馬。それに荷車を組み合わせたものであり、体力を必要とする。となれば大挙して移住してくるのは衰えた老人ではありえない。
 とても当たり前の話ではあるが、それが何を意味するかと言うと。
「……若い女、多いな。こんなイロモノイベントに」
「町が新しいからだろうね」
「ババアばっかりの伝統行事だと思ってたんだがな……」
 ガッシュと精霊たちは、競技場の客席最前列にいる。
 ブライトとヒーリィは張り切って朝一番に受け付けを済ませたのだが、それからどんどん女性たちがエントリーしては客席に入ってくる。
 下は短い下穿きでふともも丸出しなものの、上は特に色気のないシャツで戦うルールと知ってガッシュは一安心したが、そんな良くも悪くも目立たない恰好でやる相撲大会なんて流行りそうもない。せいぜいが20人やそこらの婦人会でやってるような行事だと思っていたら、既にその倍は詰め掛けている。
「賞品が豪華だったりするのか?」
「金一封とあるね。まあ、具体的な金額を書いていないあたり、それほどの金額ではないだろう」
「わからねえ……こんなに集まる理由がわからねえ」
「私にはなんとなくわかるがね」
「ん?」
 ブライトは借りたシャツの胸元をこまめに直しつつ、呟くように言う。
「この町は娯楽がないのさ」
「……娯楽ねぇ。女買ったりバクチ打ったりってことか?」
「ああ。軽く回った感じ、二万近くを抱える町にしては驚くほどそういった店がない。酒場はそこそこあるが、この町が特に酒の町というわけでもなさそうだ」
「いいことじゃねえか、健康的で」
「よくはないよ」
「あ?」
「急に大きくなったという話は聞いているだろう? 外から来る人間が多い町で娯楽が足りないのは治安の悪化に繋がる。楽しみがなければ人はそうそう行儀良くは過ごせない」
「……そんなもんかね」
「誰だって生きていれば嫌なこともある。少しはしゃぎたい時もある。道は二つ、それを抑えるか、消化するか。抑えるならば強権か教育を充実させる必要があるし、消化するには娯楽が要る。見たところ、この町は強い領主がいるわけでもなければ大勢力の影響下にあるのでもなさそうだから、強権で手綱を締めているわけではない。新参が寄り集まって急成長した町で教育にばかり期待するのは楽観だ。残るは娯楽の充実だが」
「それがこんなトンチキイベントに集まるほど足りてない……ってことは、バランスがどこかで崩れたら一気にワルの天国に早変わりってわけか」
「その可能性はあるね。まあ、通りすがりの町に余計な心配をしすぎか」
「ちょっとは勉強になったがな」
 来たばかりの町には違いない。が、楽しそうに出番を待っている、ふとももあらわな女性たちの喧騒が、薄氷の平和の証左なのだと思うとどうにも空寒い。
 ……そんな話をしていたガッシュたちに、背後から声がかかる。
「黙って聞いてりゃ随分と大上段から切り捨ててくれるじゃないか」
「何?」
 背後を振り返るとヒゲ面の親父がいた。
「誰だよアンタ」
「その娯楽の少ないバッソンの町の住民様だってんだ」
「そりゃ悪かったな。素人見立ての言い捨て話だ、見逃してくれよ」
「ああ、確かにウチの町は町長も大して権力持ってるわけじゃないし、どこぞの大商会から贔屓されてるってわけでもないさ。地勢がいいってだけで、別に産業があるわけでもないしな。だけどワルはそうそうデカい顔できない。ちゃんと理由があるのさ」
「へえ?」
「この町にはな、あのトロット戦争を決めた伝説のクロスボウ部隊がいるんだ。奴らスゲエんだぜ? ナメた泥棒が盗みに入って、まんまと逃げおおせたと思ったら地平線の向こうからスコーンと撃ち込んで来て見事に一撃! 足ブチ折られてパニックした泥棒が這って逃げようとしたら今度は腕! 耳! しまいには首の横1センチにドスンとな!」
「……無理に決まってんじゃねえか、そんなの森のエルフだってできるかどうか」
「ハッ、そう思うだろ? 一度じゃねえんだぜこれが。それにあいつらの頭領はディアーネ百人長っていうんだがな、これがえっらい美人なのにオーガの酔客を片手であしらうバケモノみたいな強さ! あの部隊がバッソンにいるってわかっててはしゃぐ悪党はいねぇって寸法よ」
「……ほう、なかなか興味深い」
 ヒゲ親父が調子に乗って話す内容はガッシュにとっては眉唾だったが、ブライトはいたく興味をそそられたようだった。
「というか、そっちのダークエルフの姉さん、そういやディアーネ百人長とよく似てるね。もしかして身内かい?」
「知らない名だが……どうも他種族はダークエルフが皆家族に見えるようだね」
「いや、違うんなら謝るよ。雰囲気もね、結構似てると思ってね」
 ブライトとヒゲ親父が話し込み始めたので、取り残された恰好になるガッシュ。
 最初に親父とやりとりをした手前、そのまま引き下がるのも恰好がつかないので、話題が回ってきたら割り込もうと待っているとヒーリィに肩を突付かれる。
「?」
「ガッシュ、お相撲得意だったよね」
「……いや、得意っていうか……」
 しばらく前に精霊祭でやってみせたのは、別に得意だったからというわけではなく、戦士としてのプライドとかその辺の問題だったのだが。
「ま、上手いかどうかはともかくな。挑まれりゃ負けるわけにいかないから嗜んではいるってとこだ」
 意訳すると「ルールぐらいしか知らない」というだけの話なのだが、プライドのために持って回った言い方をする。
 ヒーリィはそんな実情に気づくことなく、「よくわからないけど自信がある」と受け取ったようだ。
「じゃあちょっと練習させてよ。あんまりすぐ負けちゃったら悔しいもん」
「……どうせなら優勝してやる、とかは言わないのな」
「私ガッシュじゃないし……」
「俺はそういうこと言うイメージだったのか」
 目標を高く設定して自分を追い込む部分もあるが、そんなに身の程知らずなつもりはない……と自分では思っているガッシュである。実際はいつもいい恰好をしようとしてそういうことを言ってしまうのだが。

 とりあえず競技場の裏手の芝生に回る。
 他にも準備運動をしている参加者の姿が何人か見られるが、それにまで気を配るのは自意識過剰というものだろう。
「組み合っちまったら後は筋力と姿勢がモノを言うんだ。つまり、ちょっとでも体力の強い奴に当たるとそこで負ける」
「つまり、相手よりうまい姿勢で組めばいいのね」
「理屈ではそうなんだが、それは勝つための得意技がある状態の話だな。普段から鍛えて。相手をどう崩すのがやりやすいとか、体をどう使うと力を入れやすいとか、ちゃんと見極めておかないとそのへんはどうにもならねえ」
「……えっと、つまりうまく組み合っても私じゃ勝てない?」
「そうだな」
「そんな、いきなり指導投げ出さないでよ!」
「だから組んじゃだめだ」
「……組まない?」
「そうだ。まあ要するに相手がコケるか場外になればいいんだから、そっちを狙うんだ。運がよければそれで一勝できる」
「ど、どうするの?」
「まずは一直線に突き飛ばすとか、それが出来ないなら組ませない工夫の仕方だな。素人レスラーも多いみたいだから相手も似たこと考えてる場合があるから、その時はチャンスだ。組まずに突撃する相手なら呼吸を外せば自滅させられる」
「そ、そういうのだったらどっちにしろ運で決まるじゃない。普通のお相撲が得意な人が来たらどうするの」
「経験者に勝つのは難しいが……老師が教えてくれた足運びの一つに、相手から見ると一瞬消えたように見える動き方ってのがあってな。距離に注意する必要があるが、これなら隙を作ることができるかもしれない」
「……それ、本番までに私に教えられる?」
「…………」
「えーと、ガッシュ自身がそれ覚えるのにかけた時間は?」
「……二ヶ月」
「駄目じゃないそれ!」
「ま、真似だけなら多分できる! 駄目元でいけ駄目元で!」
 ガッシュは「お前はものを教えるのにはまったく向いていない」と常々故郷で言われていたのを思い出した。
 でもヒーリィならできるかもしれない。精霊だし。
「……そういやさ」
「え?」
「お前、その体本当は実体じゃないんだよな? こう、任意でパワーつけたりとかできないのか?」
「あっ……」
「できるならやっとけよ、怪しまれない範囲で」
「せ、精霊としてのチカラを使うなら組まれた瞬間背後に回るとかできちゃうけど」
「……自尊心の許す範囲でな」
「う、ううー」
 ヒーリィは悩みだした。
 ズルはしようと思えばいくらでもできる。しかし優勝賞金も大したことはなく、そもそも目立ってもいいことなどないのにそこまでする理由はあるのだろうか。
 でもいきなり負けるのも悔しいし。
 ……といったヒーリィの苦悩が手に取るように感じられる。
「今の力で頑張るから、ガッシュもそのつもりで教えて」
「よく言った」
 結局正攻法に落ち着いたらしい。ズルを推奨しておきながら、ガッシュはちょっと嬉しくなる。

 そして。
「やれやれ。私にも少し教えてくれたらよかったのに」
「お前はあのオッサンと喋るのに夢中になってただろうが」
「嫉妬かい? 嬉しいね」
「ブライトが喋り終わるまで待ってたらそもそも特訓なんか出来なかったって話だよ!」
 ついに始まった相撲大会。
 先に出たブライトはあっさりと転がされてトーナメント脱落。
「まあ、参加賞も美味だからいいけれど」
 参加賞は近くの惣菜店の揚げ物盛り合わせだった。昼食に食べろという事らしい。
「お前食わなくても生きてけるんだから、俺にちょっと分けてくれよ……」
「それは出来ないね。女性にこれを配っているのも本来は販促だろう。美味そうなのを付き添いの男性達が見て、自分の分は自腹で買うわけだ。君もまさか女性から戦いの報酬を奪う情けないヒモ男になるわけにはいくまい?」
「クッ……意外としっかりしてやがるぜ、バッソン」
 ガッシュは渋々と出張営業している惣菜店の屋台に向かう。店員は美人だった。

「ガッシュ、次はヒーリィだよ」
「お、もうそこまで進んだか」
「さすがに素人勝負は長引かないからね」
 ブライトと一緒に揚げ物を無心でムシャムシャ食べていたら、一回戦の最後のほうだったはずのヒーリィの出番まで回っていた。
「で、どうだいヒーリィは。勝てそうかい」
「相手のレベル次第だな」
「……玉虫色の答えをしてくれちゃって」
「言っとくが俺は俺より強い奴に勝つような指導は出来ないぞ。あそこのオーガのオバサンなんて2mぐらいあるじゃねえか、リーチで勝負以前だ」
「そんなことは言うまでもない。少しは相撲の形になったかと聞いてるんだよ」
「それは……」
 ブライトに相槌を打とうとしたその時、ヒーリィの一番が始まる。
 指を立てたブライトに促され、ガッシュは競技場にしつらえられたリングを見る。
 身構えるヒーリィ、それを自信ありげに受けて立つのは年長の女性。ガッシュは知らないが、揚げ物屋のシルビア・マクレインの母、エステル・マクレイン45歳である。
「さあ」
 ヒーリィに悠々と手を広げて腰を落とすエステル。
 対するヒーリィはその貫禄に気圧されてじりじりと左右に動くだけ。
 ……ガッシュは組み合うなと教えたのだから当然だ。
 そしてこういうお見合い状態になった時のことまでは教えていない。
 ガッシュの言う事を守る限り、相手がかかってくるのを待つしかヒーリィの選択肢はなかった。
「ヒーリィは何かを待っているようだね」
「そりゃな。自分から倒しにいく技は教えてない」
「つかみに来た相手を迎撃するのはできるのかい?」
「…………」
 ガッシュは苦い顔をした。リザードマン同士にだけわかる表情で。
 しかしブライトは何故かそれを察知する。
「それも教えられていないのかい?」
「いや……」
 ガッシュが言葉を濁している間に、勝負は動いた。
「こっちから行くわよ!」
 オバサン、いやエステルが真正面から掴みに動いた。
 それに対し、ヒーリィは軽く斜めに一歩。
 その動きを回避のための一歩目だと踏んだエステル、牽制のように手を広げ、

 次の瞬間、エステルの視線が振れたのと逆のサイドにヒーリィが回りこんでいる。

「!?」
「はぁぁぁっ!!」
 バランスを崩したエステルの側面に躊躇なく飛びつくヒーリィ。
 エステルは下半身を溜めており、そう簡単には倒れまいとするが、素人ならではのがむしゃらな突撃にはさすがにかなわない。
 押し倒すようにして決着。
「おお……なんだいあれは、もしかしてヒーリィは」
「『すり抜け』じゃねえよ。あれはウチの老師の得意のフェイントステップだ」
「……また微妙にすごそうなのを教えたね」
「俺もまさか二十分でモノにされるとは思わなかったよ……」
 二ヶ月間、老師に杖で叩かれながら必死に練習した動きを簡単に真似られたのはとても切なかった。
 精霊はどれだけポンコツに見えてもやはりすごい、と再認識させられる。
 並みの種族のの才能と並べてはいけないのだ。知性にしろ運動性能にしろ、それは精霊たちがこちらにあわせているに過ぎないのだから。
 ……と自分を慰めてみるものの、やはり納得がいかないものはある。
「エステルさんが負けた……!?」
「これは……番狂わせだ!」
「面白くなってきたぞ! あの子の次の対戦は誰だ!」
 俄かに客席の男臭も騒ぎ出す。地味に実力者だったらしい。
「こりゃ今回こそ『竜巻ドロシー』の牙城を崩すってことも……!」
「いやいやわからんぞ。今回は他にも粒が揃ってて」
 どうやら下馬評が定まる程度には定期的かつ盛り上がっている大会らしい。
 それを横目にちょっと不機嫌そうなブライト。
「ますますコーチングを受けなかったことが悔しいね」
「だからさぁ……」
「受けられなかった理屈を繰り返すことはないよ。……しかし、ヒーリィばかりが面白いのもちょっといただけない」
「……ヒーリィを楽しませるための寄り道なんだからいいじゃねえか」
「私は特に楽しい思いをしたくない……なんて言ってはいないはずだよ」
「……意外と子供っぽいのなお前」
「精霊の心は常に新しいのさ」
 ブライトはガッシュの手を引いて立ち上がる。
「さあガッシュ。私に指導の時間だ」
「もうお前負けたじゃねえか!」
「相撲の指導とは言っていない」

 競技場の片隅にある倉庫で、ガッシュはブライトに二本の逸物を交互にしゃぶらせていた。
 いや、しゃぶられていた。
「はむ、ん……んふぁっ、はぶっ……っ♪」
「何の指導をねだるかと思えば……」
「ぷはっ……拙くていいものじゃないだろう? 今後にも役に立つし♪」
「今後ってお前な……いついなくなるかわからないと言っといて」
「ふふ、確かにそうだが、百年先の話かもしれないじゃないか」
「まあ、それなら役に立ってもらうけどな」
「そういう言い方をすると途端に私をモノ扱いしているように聞こえるね」
「……そりゃ悪かった」
「悪くなどないさ。何度も言っているだろう、この身はどう扱っても問題ない……精霊の口は性玩具として扱っても、ひどいことではないんだよ♪」
「……やけに楽しそうだなブライト」
「ふふ、君がヒーリィばかり気にしているから、少しは奪いたくなるのさ♪」
 喋った側から右のペニスを口に入れ、左のペニスは手に握ったまま、しゃぶるのと同じペースでしごき、長い耳に当てる。
 そして唾液にまみれさせれば次は逆。
 見る間に彼女自身の唾液が両頬を濡らしていく。
「……むしろ、私の唇に欲情してくれるなら嬉しいよ、ガッシュ。叶うなら是非、私の口は精液を絞り、流し込むための穴として認識して欲しい。無論、下半身も構わないが」
「何、妙な挑発してるんだ……」
「ヒーリィにするように甘い睦言ばかりでは飽きるだろう? 私は君の猛々しいところも気に入っているからね」
「……変な奴」
「ふふ……んぶ、んく、ぷほっ……んっ♪」
 再びガッシュの二股ペニスをしゃぶり始めるブライト。テクニックはけっしてあるわけではないが、彼女の囁く魔性の挑発と、情熱の篭もった奉仕に男が猛る。
 いつしかガッシュはブライトの頭を掴み、彼女の言う通り、まるで玩具のように使って快楽を求め始める。
 ブライトの言葉を真に受けたわけではないが、途中から薄暗い欲望への違和感が消え失せる。
 それはヒーリィを愛するガッシュの純真な愛情とはまた別の、獣人としての獣性に基づいた肉欲。
 刺激されてまろびでた、もう一つの欲望。
 自分のペニスと同じように、ガッシュは自分の中にもう一つの欲があるのだと自覚させられる。
 ヒーリィを包み込みたい、包み込まれたいという真摯な願いとは別に、ブライトをねじ伏せたい、屈服させて従属させたいという危険な誘惑。
 いや、ヒーリィもブライトもその欲をすら包もうとするだろう。ブライトはもとよりヒーリィすら、ガッシュであればねじ伏せることも従属させることも許容するだろう。
 しかしガッシュの理性はそんな一面的な欲望に全てを塗り替えられることを望んでいない。
 二つの「至福」が同時に存在するためには、二つの「穴」が必要だった。
 ガッシュが「愛情」に秘密で「獣」になれる穴。
 それをブライトは見抜き、買って出ているのだ。何よりガッシュ自身がその並存に納得するための秘密の相手として。
「くそ……なんか、腹立つな、お前はっ……!」
 醜い部分も何もかも見透かされて、慈しまれてしまっている。
 それがなんだか情けなくて、そして情けなさを許容されるのが心地いいなんて。
 ガッシュはみょうなくすぐったさを胸の底に覚えながらも、ブライトに甘える。
 甘えて、射精する。
「う、うおおっ……!!」
「んぶ、ん、ふぁっ……あふ、あっ……♪」
 ブライトの口にたっぷりと射精しながら、片方の耳にもドロッと練乳より濃い精液を振り掛ける。
 同時に出てしまうので、両方口の中とは行かない。汚してしまう。
 ……これではブライトは客席に戻れない。射精の終わり際にそんなことを考えた。
「余計な心配をすることはないよ、ガッシュ。私の肉体は仮初めだ、一旦消えれば元通り」
 そんなガッシュの考えを見抜いたようにブライトは囁き。
「だから……綺麗になる前に、こちらからの精液も味あわせて……こっちの耳にもかけてくれるかい?」
「……淫乱精霊め」
「悪くないね」
 再び、口淫に耽り始める。


「消えれば元通りって言ったくせに何でそのまま戻ってるんだよ……かなり匂ってるぞ……」
「拭ったから見た目はわからないだろうに。それに、ヒーリィに羨ましがらせてやってからでいいだろう?」
「性格悪いなお前は本当!」
 ブライトと一緒に客席に戻る。
 その途中で次の取り組みがわかる案内板があったので、ふと目をやる。
 ヒーリィ・ウォーターとカチ合うのは誰か。
「……ノール? どこかで聞いたような」
「……まさかね」
 ブライトが眉を顰める。
 その時、真後ろで「うわあっ」と声がした。
「?」
 振り返ったブライトの目の前には、同じように短い下穿きと窮屈なシャツに身を包んだダークエルフの女。
 いや。
 同じ顔の女がいる。
「……すごい、鏡を見てるみたい……」

(続く)


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