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隊舎には昼過ぎに到着した。
クロスボウ隊は大騒ぎになった。
正体不明の客分であるライラとマイアが揃ってドラゴンであり、彼女らに乗って(というか隊の馬車に詰められて)王都まで行け、という命令がディアーネさんから出たわけなのでそりゃあ騒ぎにもなる。
「ま、マイアちゅわんが! 俺のマイアちゅわんが!」
「ドラゴン……ドラゴン……いや待て、ドラゴンなのにスマイソン印……?」
「ライラさん! いやライラ様! どうしてスマイソンの首輪を!?」
「スマイソンなんてひと噛みじゃねえだか? それ奴隷の印だで」
……いや、ドラゴンだという事実そのものより、ドラゴンが俺の首輪をしていることの方に話題の焦点が集まっていた。
そして俺は追いかけられ始める前に再出発の準備をする。
「アンディ! 僕たちに内緒で行ったな!?」
「何故一声かけてくださらないのですか!」
「やだなー、先生、アンディくんにまで置いていかれたらどうすればいいの?」
「旦那さんの方を待ってあげてください……」
俺に置いていかれた恨みを語る三人と合流し、ライラに乗って再び王都へ。
マイアとジャンヌは代わりに置いていく。隊を運搬する馬車の補強のためだ。
準備が出来次第、逐次みんなを王都へ運ぶ手筈になっている。
そして、夕方には王都へととんぼ返り。
飛んでいく途中で事情を話したら、アンゼロスは難しい顔をしていた。
「……そうか……やっぱり、間違いじゃなかったのか」
……アンゼロスも、自分には希薄な父親像を少なからずボナパルト卿に重ねていたようだ。
少し眉間に皺を寄せて考え込みながら、王都近くに着陸するまで目を閉じていた。
そして、そのままみんなで王都に入る。
「……わ、わあ……本当だ、王都にこんなにエルフが」
「でしょ」
街角にちらほらと見えるエルフたちの姿を認めて驚くアップルと、何故か自慢げなセレン。
……いや、別にセレンの自慢することじゃないと思うけど。
しかしそれを指摘するよりも、リンダさんに会う方が先決。
俺たちは一路、あの大きなノイマン家を目指した。
そして、ノイマン家。
「あらま、よくきたわねアンジュ!」
「母上!」
予想外に短い間隔で訪問してきた娘の姿に、リンダさんは破顔する。
そして数秒の抱擁の後、アンゼロスは目的を伝えた。
「……母上。王は……王への謁見は、できないかな」
「謁見?」
「知ってるでしょう、母上も。……剣聖旅団」
「!」
リンダさんは顔を強張らせた。
「……どうするつもりだい、アンジュ」
「王に、王都を脱出させる」
「そうかい。……これはトロット王国内の問題だと思うんだけどね。セレスタ軍の意向かい?」
リンダさんのゆっくりと試すような言葉には、ディアーネさんが代わりに答える。
「……いずれは軍からも、打診はあるでしょう。ですが我々はもっと速い移動手段を持っています」
「……ま、いいけどね。あのジジイに言うことを聞かせられるなら、お好きにしよ」
リンダさんはすっかり熱の冷めた顔で、ふるふると首を振る。
脱出そのものに、王が反対しているのだろうか。
……ありえない話じゃ、ないんだよな。
王侯貴族の究極的な存在意義は、民と国を守ること。
それを王自らさっさと放棄するのでは、例え命が断たれていなくとも社会的には死んだも同然になる。
だけど。
「既に象徴化されて権力もない、剣聖旅団相手には満足に勝ち目もないのに……なんでここにしがみつかなきゃいけないんだ」
「そうさね」
俺の呟きに、リンダさんは呆れたような声で同意した。
「ま、あのジジイなら……東の客間にいるよ。説得できるなら、行きな」
「いるんですか」
……本当に危機感がないな。
ちょっとボナパルト卿の言う通り、有能ではないんじゃなかろうかと思えてきた。
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