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 夜。
 俺たちはこっそりと剣聖旅団とおっさんをつけて、次の宿場に入った。
 取り巻きの民衆も少なからずついてきているので、多少不審なハーフエルフやドワーフを連れた俺たちも気にはされていない。
 そして、おっさんに接触する機会を窺おうと路地裏から剣聖たちの宿を覗こうとしていたら、目の前におっさんが現れた。
「う、おおっ!?」
「やあ青年。……一ヶ月ぶりだな」
「……おっさん」
「見たかね、私の昼間の演説。堂々としたものだったろう。まあ原稿は部下に任せっきりだが演説の度胸には定評があってな」
「そんな……そんな話じゃないっ!!」
 俺は相変わらずとぼけたおっさんを前に身構えつつ、言葉を放った。
「どういうつもりだ! アンタ、そんなことする人じゃないだろう! 王を倒すなんて……意味がないだろう! ただでさえ弱ったトロットが割れてる時じゃないだろう!」
「どこで聞きかじったかは知らないが、君に断言されることではないと思うがね」
 おっさんは超然と微笑むと、俺たちの背後の闇に目を向けた。
「私は、ユリシス王を殺す。……あなたは、どうする?」
「……な、何を」
 おっさんの意図がわからず、背後の闇を横目で見ると。
 そこに、人影がうっすらと見えていることに気づいた。
「……チッ、そういうことか……狙いは」
 闇は舌打ちしながら輪郭を際立たせ、やがて美しい女性へと変化する。
「……ディアーネさん!?」
 そ、そうか。そういうことか。
 さっきからライラの挙動が変だったのは、ディアーネさんが幻影で隠れてついてきつつライラに助言していたというわけか。
「アンディだけにコナをかけることで私たちに初動を取らせないようにしつつ、アンディがこの噂を聞いたら動くことまで予想して……私を釣ったというわけか」
「ははは、遠からずというところだな」
「え……」
 ま、まさか。
 ……俺は、ディアーネさんをこうして釣り出すための……!?
「さあ、戦神よ。……我らはもうすぐ、王都を戦場にする。それを知ってあなたはどうする? 我らの前に立ちふさがれるのは……竜の機動力を得たあなたの部隊だけだろうな?」
「……リベンジというわけか?」
「どう取るも自由だよ。……それとも、今ここでやるかね? さすがに私もドラゴン二匹と戦神では分が悪いな」
「……くっ」
 分が悪いのはこちらだ。
 相手にはドラゴンスレイヤーと、それぞれ衰えているとはいえ大剣聖の集団がいる。
 今、一撃でおっさんを殺せるならいけるかもしれないがそれはほぼ無理だ。そしてたった3人で全戦力と戦うのも無理だ。
「……待っている。戦場でな」
 おっさんは背を向けた。
 ……俺たちは、それを見送るしかなかった。

(続く)


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