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翌日。
さすがに一応は落ち着いた朝礼の席で、元からいた人以外の自己紹介(とさりげない言い訳)が行われた。
「南方軍団第二歩兵隊より転属、特別諜報旅団預かりにてディアーネ様のお供をさせていただいております、オーロラ十人長。よしなにお願いいたしますわ」
オーロラの優雅な所作には、みんな溜め息。
なんだかんだ言ってディアーネさんやアンゼロスは颯爽としていて女性的な感覚にはちょっと遠い感じがするしな。
「ディアーネちゃんのお姉ちゃんで魔法のお医者さんのヒルダ先生です。虫歯からシモの悩みまでなんでも相談に乗っちゃうぞ☆」
こちらはいつもの調子。そして清潔な印象ながらディアーネさんに輪をかけたプロポーション、そしてさりげない「シモの悩みもドーンとお任せの美人女医」というフレーズに自然と鼻息荒くなる奴多数。
「人妻だがな」
ディアーネさんの注釈にも、意気消沈する奴が3割、残りは逆に鼻息荒げる始末だ。
駄目だお前ら。
「ジャンヌ・クラックス。砂漠大迷宮のコロニーでスマイソン十人長に弟子入りしてついてきただ」
ジャンヌもジャンヌで美少女には違いない。主にドワーフ連中と一部困った趣味の連中がその笑顔に蕩けた表情を返していた。
うん。ここまではまあそのままで何も問題ない。
問題はこのあとだ。
「あの、アップル……といいます。セレンの親友で……その、セレンと一緒に雌奴隷……の誓いをしちゃってまして、ええと……その」
記憶が飛んだ部分もあって微妙に自己紹介に困ったアップル。そこにセレンが助けを入れる。
「あーあー、えーとですね、まあその、病気だったんだけどヒルダさんのおかげで治りまして。晴れて奴隷としての人生の第一歩を、ね?」
「……う、うん」
そう。
とりあえずアップルは誤魔化さないことにした。
ちょっと誤魔化しようがないし、みんな俺とは無関係というのにも無理がある。
多少ずつでも真実を混ぜていった方が慣れもあって受け入れられるだろう、というディアーネさんの提案だった。
……ああ、でも俺ガン睨みされてる。視線に攻撃力があったら俺そろそろ命が危ないかもしれない。
で、さらに問題の二人。
「ライラじゃ」
「……マイア」
「こやつは我の妹。故あって、我らディアーネの世話になることになった」
全然似てないが肌の白さと美形度では並ぶ二人だ。姉妹といえば姉妹に見えなくもない。
……こいつらには正体を隠してもらうことになった。
いや、ドラゴンですよと言ってもいいんだけど、なんでお前そんなん二匹も連れてるのと言われると返事に困る。本当に困る。だって俺もよくわからない。
「ちょっと待て、マイアさんの方はなんかドラゴンみたいなのになってなかったか」
「オラも見ただよ」
当然上がる声。
うん。
そして、昨日見たことは。
「ほほ。幻影じゃ。我らは魔術の才があってのう。マイアは悪戯によく竜の幻を使うのじゃ」
「ごめんなさい」
「……ということで、許してやってくれぬか」
……こういう言い訳で押し通すことにした。
例のライラフリーク化したヘリコンの街で、ライラがナマ降りしちゃった時にかけられた疑いを逆手に取ったのだ。
「な、なんだぁ」
「そういうことだったのか。俺マジビビリしちゃったよ」
見事に騙されるみんな。
そう。ドラゴンなんて基本的には遠い世界の超存在。違うよ、という理屈さえつけば、まさか本物とは思われない。
大体はこれでなんとかなる……はず。
ヘリコンの憲兵隊の皆さんありがとう。あなたたちのヒントのおかげだ。
と、ライラたちの自己紹介が終わると、そのあとからクールな印象の美しい女性兵が進み出た。
「リンネ・ミカガミ十人……いえ、正兵です。西方軍団第三歩兵隊におりましたが、このたびこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
……誰。
「……彼女は?」
アンゼロスも不思議そうに尋ねる。
ディアーネさんは腕組みをして息を吐き、補足してくれた。
「狼獣人でエースナイト。エースだから十人長だったが、若いのと、過疎コロニー育ちで世間知らずな部分があって未熟過ぎるから、と自主的に降格願いを出しているらしい。が、仮にも精鋭で有名な“西の第三歩兵隊”でやってたからな。戦闘力は司令部からも太鼓判を押されている」
「へえ……」
アンゼロスが面白そうな顔をする。オーロラも同様だ。いいライバルが出来たと思ったのだろう。
「それと、なんだか……ええと、アイザック? お前の婚約者だというのは本当か?」
「……ええまあ、その」
アイザックが照れている。ミカガミ正兵もなんかまんざらでもなさそうに頬を赤らめて……うむ。
アイザックにみんなの殺意の視線を集めてる。
「こないだと言ってることが違うぞアイザック……憧れとか生易しいこと言ってたじゃねえか」
「畜生……アイザックのくせに……牛のくせに……」
お前らいちいちそうやってSITTOパワーをたぎらせなくてもいいと思う。さすがにちょっと気持ちはわかるけど。
……ハッ。
「これが……嫉妬か……」
「お、おいスマイソン? お前は味方だよな? お前こそ百人長ともよろしくやってるわけだし」
「なんだとアイザック、それは本当か!」
「情報提供感謝するぞアイザック。俺たちのSITTOパワーは向かう先を間違えているようだ」
うわ、矛先が一気に俺に収束してきた!
「百人長、今の話は本当ですか!」
「百人長! まさかあなたまで!」
「う、うるさいうるさい。私が誰と付き合おうといいだろう」
そこでその反応はナシと違いますか。
「畜生スマイソン十人長のくせに!」
「脳内彼女を具現化させただけでも妬ましいのに!」
「お、お前ら一応上司に対する敬意とかその辺をだな!」
「うるせえどんな手使ったこのド変態!」
「悪に裁きを! 彼女持ちに鉄槌を!」
盛り上がる駄目隊員たち。
「思えば首輪なんぞみんなにつけさせて! 隊舎離れてどれだけ鬼畜度アップしてんだ!」
「これ見よがしに名前まで書いてるだよ!」
「待て待て、これにはわけがあるんだ!」
嘘だけど。
嘘で固めた言い訳だけど。
──遠く砂漠の向こうのとある村では、首輪をつけていない女は問答無用で襲っても怒られない風習がある。
首輪はただの首輪ではない。男子による庇護と所有の証。
例え旅人といえど例外ではなく、女が不用意にその村を一人で訪れれば、妻の数を競う豪傑たちによる強姦と拉致監禁の危険がいっぱいだ。
そのため、村のオババたちは片時も外さぬよう強く言いつけて、旅人である我々に首輪を与えてくれたのである。
俺の名前が入っているのはその村の「夫の名を示す」風習のためであり、俺は一行でただ一人の男だったために、女たちの仮の所有者に選ばれたのだ。
ちなみにヒルダさんは既婚者なので他の男の名を入れた首輪をつけるわけにもいかず、村には入らなかった。ディアーネさんはどんな男に襲われても超余裕で跳ね返せるからつけなかっただけ。
そんな村が戻ってくる前の滞在地だったため、みんな首輪をつけていたのである。
とかそういう感じのフィクション設定を考えていたのに。
「はい嘘ー」
「スマイソン十人長が根っからの首輪野郎なことは周知の事実だ」
「作りや名入れの位置がセレンちゃんに作ったのと同じだ! お前の手作りであることは一目瞭然!」
一発で見破られた。
「それにしたってセレンちゃんは趣味で納得するにしても、アンゼロス十人長! どういうことですか!」
「オーロラ十人長! むしろ俺と結婚してください!」
「ジ、ジャンヌちゃんオラとこ嫁に来るだよ」
何故か一周回って大告白大会になる場。
そして大玉砕大会。
「あ、アンディはあれで結構頼りになるし……」
「わたくしが初対面、通りすがり同然の方と同衾するほどさもしい女に見えまして?」
「おっちゃんみたいなのは好みとは違うだよ」
そして大逆切れ大会。
「スマイソン十人長!!」
「貴様を有罪とする!」
「一発殴らせるだよ! 前歯直撃で!」
「や、やめろー!」
全力で逃げ出す俺。追ってくる十数人の隊員たち。
ディアーネさんは溜め息をついて俺を見送りながら、残った隊員たちに新しい議題を提示していた。
気が済むまでやらせる気だ。確かにこいつらを押さえつけても地味に嫌がらせされるだけだろうけど。
「というわけで、私とセレンだけならともかく女が少し増えすぎたので新しく隊舎を増築しようと思う……」
さて逃げ切ろう。
逃げ切れるといいな。
みんな俺並みになまってるといいな。
……駄目?
最終的には木に吊るされて一晩メシ抜かれたまま真下でバーベキューパーティされました。
畜生この鬼畜どもめ。
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