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「久しく、ライラ殿。八十年ぶりにもなるか」
「ほ。誰じゃ」
「……ミスティ・パレスの青竜ブロールだ」
「……おー、おーおー、そうかブロールか。老けたのう」
ドラゴンとドラゴンの対話という一大イベントは、宿屋の食堂で一杯引っ掛ける中でフランクに始まった。
というかフランクすぎだライラ。一応大物じゃないのかこの人。
とはいえ、ブロール氏は苦笑いで済ませた。
「我が主が、先だって亡くなってな」
「……そうか。それは……」
「老け込みもする。良い女だったが、森の外で拾ってきた風邪でコロリとな」
「ほ。それではこの一杯は、故人の思い出に」
「ありがとう」
ライラは飲んでいた「大氷原」を、ブロール氏の杯に注いだ。
「して、ついにライラ殿が乗り手を定めたと聞き、半信半疑で馳せ参じたのだが」
「ほ。何故疑う」
「あの時の貴方の弱りっぷりを見ては、あと300年は乗り手など定めぬと思ってもおかしくあるまい。ただでさえ貴方は奔放な竜、他人の正義に染まる方とは思えなんだ」
「ほほ、そうじゃな。じゃが、我の眼鏡に適う男は現れた」
「それがあの人間か」
「うむうむ。故に……邪魔をするなら、そなたら全頭相手でも容赦はせぬぞ」
何無闇に脅しなんかかけてんだあのアホ竜。
「お、おい、ライラ」
いくらなんでもドラゴンパレス丸ごと敵に回すのは馬鹿げていると思い、割って入ろうと踏み出すが、その前にブロール氏が頷いていた。
「邪魔はせぬ。……銀のフェイザーから調教師だの邪悪な人間だのと聞いて疑っていたが、本当に貴方が懐いたのなら、彼は正義なのだろう」
「うむ。物分かりが良くて助かる」
ま た フ ェ イ ザ ー か 。
もうほっとくつもりだったけど、あいついっぺん酷い目にあわせた方がいい気がしてきた。
「が」
「?」
「聞けばまだ力の契約、我が眷属マイアと取り交わしていないというではないか」
「ほ。そういえばそうじゃの。どうする飼い主殿、本当にマイアも飼うのかえ?」
「本当にって……」
今さら遊びでしたとか言えるなら俺はガチ勇者だと思う。
いい意味じゃないにしても。
「……飼って、くれないの?」
マイアが俺を見上げる。
……うぅ、すごい不安そう。
割と無表情系のマイアがこんなに不安そうな顔してるのはこう……不謹慎だけど勃起しますね。
い、いやいや。
「飼うよ。ちゃんと飼う。ちゃんと一生俺のペットだ、お前は」
「〜〜っ♪」
マイアがパァッと笑う。
横で食事しながら見ていたボナパルトのおっさんとディアーネさんが揃って溜め息をついていた。
「倒錯しているな」
「ああ……だがアンディは何故かそーいう倒錯した女に好かれる」
「あなたもか、戦神」
「私は倒錯していないっ。……ひ、比較的な」
自信を持って言ってくださいディアーネさん。対外的にだけでも。
それはそれとして。
「なるほど。では僭越ながら、我らのドラゴンパレスにてマイアの契約の儀、見届けさせていただきたく思うのだが?」
「ほ。……なにやらそんなことをいわれておるぞえ、アンディ?」
「え、ドラゴンパレスで?」
……なんでわざわざ?
と思ったが、ブロール氏は重々しく言った。
「それが正式な契約。アンディ殿、我らの末娘の嫁ぐ儀礼、見届けさせていただけないか」
……そ、そういや一応結婚並みのアレなんだっけ、力の契約。
そりゃ……仕方がないか。
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