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 朝食時。
 特務百人長がいちにーさんしーごーろくなな、と、席についた女性陣を眺めて数え上げる。
「昨日の朝の時点で隊長とセレンちゃんとドラゴン姐さんとドワーフっ娘がお手つき」
「朝飯時なんだから朝飯食いましょうよ。ほらもぎたてフルーツマジ美味いっすよ」
「……ようスマイソン。まさかたった一晩のうちに……いやなんでもない」
 特務百人長。多分あなたは正解に近づいている。
 でもこうなった理由は俺にもわからないので今はそっとしておいて欲しい。
「ところで兄上ー?」
「なんだいヒルダ」
「私もアンディ君と付き合うことにしたから」
 一瞬の間。
「じゃない、アンディ君『に』付き合うことに……」
「ヒヒヒヒヒルダァァァァ!?」
 カルロスさん錯乱。椅子ごと倒れてメガネ割れた。
「おおおおおおおにーちゃん聞いてないっていうかちょっと待てちょっと待て落ち着こうぜみんな。こういう時は掌にヒューマンって書いてからkillって三回書いて飲むと落ち着くんだ」
「兄上ー。あんまり取り乱すとハゲちゃうわよ?」
「kill,kill,ジェノサーイド。よし僕は冷静だ。うんヒルダ。あんまり困った冗談は感心しないなHAHAHA」
「うん落ち着いて兄上。まあ半分くらいは正解だけどそういうこと言いたかったんじゃなくて。アンディ君の故郷に病人がいるから」
「ストップヒルダ。半分くらいってどういうことだい。君は71年前にオーリンズ君とこに嫁にいったと記憶してるんだ僕」
「そうね。でもタルクの条例だと下手すると死亡手続き出されてもおかしくないくらい長い事帰ってこないのよね、うちの旦那さん」
「オーリンズ君が出発してからたったの11年と8ヶ月と1週間じゃないか!」
「んー、そんなに一人寝してるとちょっと手が滑っちゃうこともあるのよ? 兄上も気をつけないと義姉上が逃げちゃうかもよ」
 ヒルダさん笑顔で怖いこと言わないで下さい。
 というか、まあ間男なのは否定しづらいけど、ここでカルロスさん焚きつけてどうするんだ。
「ううう、うわーん! 僕の妹たちをどうする気だ君は!!」
「い、いえその、ディアーネさんは下さい」
 勢いで何を言ってるんだ俺は。
「ヒルダはいらねえ座ってろっていうのか! ブッ殺すよ!?」
「どっちなんですか!!」
 この人もこの人で何言ってるんだ。
「んー、アンディ君、ヒルダ先生そんなに良くなかった? まだまだいろいろ必殺技持ってるんだけどなー♪」
「あんた楽しんでるでしょう!!」
「うん♪ てゆーか欲求不満の人妻の前であんなの見せた君が悪い♪」
「あんなのってなんだよヒルダ!? 何したんだよヒューマン!? こん畜生!! 君のお昼はグリンピースとピーマンとキャベツだけだかんな!! もちろん塩もドレッシングも禁止」
 カルロスさん……。


 食事が終わってから食堂を出際に、特務百人長がくるりと振り返った。その背後には俺とアンゼロスとオーロラ。
「うほん。えー……と。つまりスマイソンは昨日のうちに隊長のお姉さんに手を出したってことでOKだな?」
「え、ええ」
 特務百人長、ジト目。
「どう思うアンゼロス、オーロラ十人長」
 どうやら犯り過ぎの俺に対する抵抗勢力を作るつもりのようだ。
 ……一日遅かった。
「おっほん」
 アンゼロス、今日はツインテール。
「……まあ、僕のことも可愛がってくれるみたいなんで、いいかな、と」
「アンゼロス!?」
「えーと、特務百人長。別に秘密にしてたわけじゃないんですが。……僕、アンディのこと、好きです」
「…………」
 愕然とする特務百人長。
「わたくしもアンディさんに今後毎日種付けしていただく運びになりまして」
「オーロラ十人長までかよ!?」
「待てオーロラ。段々お前下品になってるからそろそろ注意だ」
「あら、ごめんあそばせ。アンゼロスさんより踏み込んだ関係であること、明確にしておきたく存じまして」
「……スマイソン。つーこた結局全員お手つきかよ! お前本当に何やったんだ!?」
「少なくともこの二人にはあんまり何もしてません!!」
「嘘つき。……命がけでかっこいいとこ見せたくせに」
「わたくしをああまで言い負かしておいて何もした覚えがない、とは。底知れぬお方ですこと」
 お前ら恋愛的にトリガー軽いにも程があるよ。
「畜生! なんでお前ばっかり美人にモテるんだよ! ちょっとでも仲間だと思った俺が馬鹿だった! お前の覗き魔の素質は評価してたのに!」
「……慧眼だとは思いますがこっちくんな」
「うおおん!!」
 ベッカー特務百人長はダッシュで飛び出していった。アホのように速い。というか砂煙しか見えない。
 ……行き先は、方角からして水浴びオアシスか。
「……アンディ、ちゃんと言ったぞ。もう疑ってないよな?」
 照れた顔でアンゼロスが傍に近づいてくる。
「……あ、ああ」
「そうか。……なら、ご褒美に、昨日の続き、してくれるか?」
「昨日の?」
「……ま、まだ昼間だから駄目、かな?」
 照れきっているアンゼロス。
 昨日の続き、ということは……結構本気だったんだろうか。
 朝昼晩でもどこでも誰の前でもいいから、という、アンゼロスの欲求。
「今後の予定次第だけどな。時間あったら、……うん」
「そ、そうだな。時間次第だよな」
 股間がつっぱらかって恥ずかしいが、今の俺は安直に襲い掛かることが物理的に不可能だし、ディアーネさんやライラの出発予定も確認しないとならない。
 ……と、オーロラが膨れっ面で割り込む。
「……わ、わたくしとてアンディさん一筋ですわ。アンゼロスさんに下さるならわたくしにもお情けを」
「お情けって」
 俺は一体どれだけ偉い人みたいになってるんだ。
 ……と。
「おー、坊や。ちょうどよかった」
「ライラ」
 ライラとジャンヌがてぺてぺと近づいてきた。
 何故かジャンヌがセレンの首根っこ、というか首輪を掴んで引っ張っていて、セレンがちょっと苦しそう。
「言い忘れておったわ。……我らの分の首輪、とっとと作らんか」
「首輪……?」
「こんなに立派なのをこの小娘にはつけているくせに。我らにはナシというのは納得いかぬ」
 セレンの首の、砂漠トカゲの革製の首輪。
 これはセレンがアップルの首輪を借りていたから、その代わりの「雌奴隷の印」なんだけど。
「これは……まだ俺が女の子のこと、幼稚な独占欲でしか見られなかったからというか……あの当時はそういう方法でしか約束できなくて、それでセレンたちが納得しちゃったからそうしたわけで」
「そーですっ! 私とアップルは、アンディさんの雌奴隷だから、絶対的に所有物ですから、その印なんですよぅっ! 普通にお嫁さんになる気の人は普通ので我慢してください!」
 何で得意げなんだセレン。
「ほ。我が嫁などと人間のような枠に収まると思うかえ?」
 ライラもなんでそんなに自信満々にわけわからんことを。
「アタシは十人長の弟子だけど、弟子兼雌奴隷でも……いいだよ?」
 ジャンヌも勢いっぽい。
 そして、アンゼロスも、何故かきゅっと俺の袖を引く。
「…………」
「何だよ」
「…………」
 訴えかけるような目。
「……欲しいの?」
「……うん」
「雌奴隷の印だけど」
「……それでお前が僕のことを、いつでも自分のものだって確信してくれるなら、所有物でも雌奴隷でもペットでもいい」
 上目遣いでまた可愛いことを。
「どっか工房みたいなとこ、あるかな」
「敷地の東の方に使われていない工房があるぞ」
 ディアーネさんがやれやれという顔で教えてくれる。


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