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 一通り、串焼きや薄焼きパンなどの屋台料理で腹を満たして。
 ちょっとだけ酒場を覗いて、やっぱり酒場の中心で酔っ払いどものアイドルになって呑みまくっているライラとその他二名を確認。
 そして、宿である離れに戻る。
「なあスマイソン」
「……何」
「何がそんなに気に食わないんだ」
「……別に」
 カツン、カツンと杖を使って寝室に向かう俺に、ついてくるアンゼロス。
 多分、俺をほっとけないっていう義務感がそうさせているんだろうが、辛いのでやめてほしいという想いと、それでも俺に構ってくれるのが嬉しい、という情けない心がせめぎあう。
 なんとも言えないまま、俺は素っ気なく振る舞ってしまう。
「僕が悪いのか?」
「何にも悪くないよ」
「嘘だ」
「お前は俺を充分守ってくれた。何の恨みも不満も出るわけないだろ」
「…………」
 そんな覇気のない俺を心配しているのか。アンゼロスは問い詰めるように俺に異常の原因を吐かせようとする。
 ……言えるか。
 お前が特務百人長と仲良くしてるのを見て嫉妬した、なんて。
「……もう寝室だ。また明日な」
 さすがに寝室は全員分、相部屋にならずに割り当てられるだけある。そのうちのひとつの戸を開けて、俺はアンゼロスに、努めて平静を装って振り返る。
 と、アンゼロスが俯いていた。耳は……しょげかえっているかのように、へろっと下を向いている。
「……なんだよそれ……」
「アンゼロス?」
「……オーロラがいるから僕は要らない、って、そう言いたいのか?」
「お、おい、何言ってる」
 アンゼロスは下を向いたまま。表情は見えない。耳でもよくわからない。
「本物のエルフのオーロラが手に入ったから、ハーフの僕なんかもう必要ないから、だからもうまとわりつくなっていうのか?」
「なっ……そんなわけないだろ」
「だってっ!!」
 アンゼロスが顔を上げた。
 ……涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「だって、さっきオーロラとシたんだろ!? それからおかしいよお前っ!! まるで僕が邪魔みたいだ!!」
「そ、それは関係ねーよっ! ただ、なんかお前が……」
「僕が何だっ!!」
「…………」
「言えよぉっ!!」
 こんな、泣き言みたいな、嫉妬のことなんて言うべきなのか、迷う。
 迷うが、アンゼロスはもう泣き言どころか本気で泣いている。何でだかわからないが、俺に素っ気なくされたのをすごく悲しんでいる。
 その迫力に押された。
「……ベッカー特務百人長と仲良くしてたから、やっぱり特務百人長のほうがいいのかなって思っちまって、……特務百人長に何一つ勝てるものないなって、自分で納得しちまって」
「このっ……大馬鹿スマイソンっっ!!」
 アンゼロスにほっぺた張られた。
「僕はっ!! ちゃんと言っただろ!! あの時お前が、ルーカスになんか可愛いお前を渡さないって言ったから!! ちゃんと責任取れって言っただろ!!」
「……う、うん」
「なんで……なんでそこから迷うんだよぉっ……何で、僕にだけ躊躇するんだよぉ……!」
 アンゼロスは泣いたまま、ゆっくりと、本当におずおずと……俺の胸に顔を埋めた。
「……僕は、ずっと……っ、ずっと、お前と一緒にいたんだぞ……いくら特務百人長が強いからって、なんでお前への想いにかなうと思うんだよ……!」
「……アンゼロス」
 アンゼロスは、胸の中で、今まで聞いたこともないような鼻声で。
 恨めしそうに、俺への思いをちょっとずつ吐露する。
「……僕だって、ハーフエルフ、なんだからな……一度好きになっちゃったら止まらない生き物なんだからな……」
「……悪かった」
「悪かったと思うなら……抱き締めろ。もうやだ。僕のこと避けるなんて、許さない」
「……畜生、可愛いことばっか……でも、俺は今一人じゃ立てない。立ったままお前を抱き締めてはやれない体なんだけど」
「う……」
 立ったままで駄目なら寝るしかない。
 そしてここは寝室前。
 寝ながら抱き合うとなったら、もうやることやるしかない。
 さすがにそれに対してはアンゼロスも尻込みした。
 うん。これが普通の女の子の反応だな。ちょっと安心。
 が。
 空間から滲み出るように、ひょこっとセレンとオーロラの顔がすぐ近くに現れる。
「!!」
 ビクッとする俺。アンゼロスが涙目のまま不思議そうに顔を上げ、ぐしっと鼻を鳴らす。
 空間指定の幻影から全身を現した二人は。一方ニンマリ、一方は赤面して渋い顔。
「立ったままじゃ駄目なら寝てするしかないですよねー」
「う……ほ、本当にこんな場面になるとは。ちょっと驚きですわ」
「お前ら」
 なんというタイミングで。
「な、ななっ……な、にゃんでっ」
「えへへー。……なんかアンディさんとアンゼロスさんが微妙な雰囲気だったので、二人でほっといたら面白いことになるかなーと」
「あ、悪趣味ですわ」
「本当にな」
「ど、どうする気だ! 僕は……僕は、やだぞ! もう邪魔されたって、スマイソンから離れるなんてやだからな!」
 アンゼロスが俺の体をぎゅっと抱き締めて猛抗議する。嬉しいけどちょっと痛い。
「んふふー。……そんなことしませんよー。ただちょーっと、私もたまり気味なんで混ぜて欲しいかなーって」
「……ま、毎日……この私に中出しするとか、全部の穴犯すとか、豪語なさいましたわよね?」
「…………」
「……スマイソン」
 ジト目のアンゼロス。
 言ったことは事実だ。事実に相違ありません。
 でもここで言う事ないだろオーロラ。品がないぞ。
 でも。
「んっ……僕が先だ」
 アンゼロスは背伸びして俺にキスして、まだちょっと鼻声でそう主張した。


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