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それから一週間ほどして、森林領を抜け、砂漠を望む街ヘリコンに到着する。
そして呆然。
ヘリコンの目抜き通りの門に「ドラゴンの街ヘリコンへようこそ」と書かれた横断幕がかけられていた。
「……ディアーネさん」
「言うな。大体予想はついているだろうが」
「いや、でもさあ」
「アイツなら別に不思議でもなんでもないだろう」
グリグリとこめかみを揉みほぐすディアーネさん。呆れ笑いのセレン。溜め息をつくアンゼロス。
「そういや、隊長たちが発つ前の晩にドラゴン見たとかって騒ぎがあったな。あれで町おこしする気かよ」
「ドラゴンなんて。この近くにドラゴンパレスがあるなんて聞いた事もありませんわ」
ライラのことを知らずに、なんとなくついてきている特務百人長とオーロラは平和な感想を漏らす。
俺たちはしばらく門を見て脱力した後、ことの真相を確かめる為に目抜き通りを歩き出した。
そして、俺とデイアーネさんの大体の予想通り、目抜き通りの真ん中あたりで昼間から酒盛りしているライラとその他一般市民の集いを発見した。
「……ほ? おお、坊や。ディアーネもよう戻ってきた」
「おお、ライラ様のお知り合いか。ほれほれ一杯」
「よーっしゃ、ライラ様のお知り合いが来たぞー! 酒だ酒だもっともってこーい!」
「記念じゃ記念じゃー! 今日も記念日じゃー!!」
もうめっちゃノリノリの一般市民たち。
「こんなに景気のいい街だったっけ?」
「ほ。なんぞ我の噂を聞きつけて、近くにあったトカゲどものコロニーが一気に交易ルートを開いたらしくての。以来なんだか皆の衆大喜びでのう」
「……なるほど」
ディアーネさんが納得顔をする。
「どういうことです?」
「リザードマンは伝統的にドラゴンを主君に戴こうとする習慣があると聞いたことがある。この辺ではドラゴンは火竜戦争以来いなくなったことになっていたから、ライラの噂を聞いてリザードマンたちがみんなご機嫌伺いに交流を求めて来たんだろう」
「ああ……そうか」
リザードマンは優秀な商人が多いという。そのコロニーと友好的な交易ができるとなれば、そりゃ景気もよくなるだろう。
と、納得していたところで、後ろからあーっという声が聞こえてきた。
「十人長だー!!」
「うおっ!?」
松葉杖をついているので、背後に振り返るのも困難な俺。首をめぐらせると、背後からジャンヌが思いっきり飛びついてきて、ただでさえパワーのあるドワーフ娘のタックルに踏ん張れない俺が耐え切れるわけもなく、あっさりと地面に押し倒されてどざーっと滑る。
「あはははっ!! 十人長相変わらずひ弱だなー!」
「い、いや、今はちょっとマジでその」
「……な、なんだ? どうして杖なんかついてるだ? 怪我しただか?」
「足ちょん切られて死にかけたんだよ!」
「なっ!?」
「いやほんと大変で。後で話してやるからちょっとどいてくれ、マジで動けない」
慌ててジャンヌが俺の上からどく。感覚のない左足から血が出ていないか、骨折とかしていないか確かめつつ、セレンに手を貸されて苦労して立つ……と、ジョッキを置いたライラがなんだかマジ顔で俺の目の前に仁王立ちしていた。
「坊や、どういうことじゃ」
「い、いや、ちょいとキッツい戦いがあって。その辺の武勇伝はあとで話すからその、な?」
茶化して愛想笑いして何とか場の空気を壊さないようにしようとしたが、ちょっと遅かったようだ。
ライラはいきなり服を脱ぎ捨てた。というか脱ぐなよ。
「森林領と言っていたか。……我の飼い主に牙剥くとは。明日から荒野領にしてくれようか」
「待て! ライラちょっと!」
一瞬、意識がぶれる。
次の瞬間、ライラの姿が消え、広めの目抜き通りに全長50mの黒いドラゴン出現。
「ちょいと待っておれ。焼き尽くしてくる」
「待て! 待てったら!」
怒り狂って空に火を噴くライラ。雲がいくつか吹き消える。
「な、なん、なん、なんですのあれはっ!?」
「……お、おいおい、嘘だろ、マジでドラゴンかよ!? 俺も初めて見るぞ」
さすがにパニックするオーロラと特務百人長。
「うおおお! ライラ様がご出発じゃあ!」
「ライラ様、お帰りをお待ちしておりますぞ!!」
「ラ・イ・ラ! ラ・イ・ラ!」
そしてノリノリの一般市民。乗せるな。
というか一番先頭に立って煽ってるの憲兵隊じゃねーか。
「やめろーっ!!」
危うく大惨事になるところだった。
「ふむ。権勢を駆ったマスターナイトか。我も無理にもついていけばよかったのう」
「あー……」
「それもドラゴンスレイヤーの器を隠し持っていたとはな。……許せぬ。ますます行けなかった事が口惜しい」
よかった。連れて行かなくて本当に良かった。
こいつを連れて行ったら俺の足が壊れない代わりにクラベスが本当に灰になっていたかもしれない。
晩。
酒盛り場の近くにある豪邸(この辺の豪商の邸宅だったらしいがライラに献上されたらしい)に招かれ、なるべく軽く、面白おかしくルーカスとの戦いをジャンヌとライラに語ったのだが、目を輝かせるジャンヌとは裏腹に、ライラは憤懣やるかたないといった顔で歯を噛み締めた。
「ま、まあ、結局俺は助かったわけだし。アンゼロスなんか大金星だし。ライラに借りた息吹の封石はその……勝手に使っちゃったけどさ」
「ほ。あんなもの、その気になれば百個単位で作れるから気にせんでもええ。しかし、そんな使い方をするとはの。書く時の力の入れようによっては手元で暴発していたかもしれんから、次からは物書きに使うでないぞえ」
「……はい」
よかった暴発しなくて。俺マジでラッキー。
「して、次は北の地か」
「その前にディアーネさんのお姉さん迎えに行かないといけない。アップルっていう、胸撃たれて以来眠りっ放しのハーフエルフがいてさ」
「ほ。なるほどの。例の雌奴隷一号か」
「……うん」
「連れて行くにやぶさかでないがの。しかし大所帯じゃのう。背嚢でも作ったほうが良いかもしれんの」
人間入りリュック背負ったドラゴン北の地へ、か。
……凄い絵ヅラかもしれない。
「うむ、わかった。この街も名残惜しいが、他ならぬ飼い主のためじゃ。行くとしようかの」
「ありがとう、ライラ」
「ほ。礼は熱き子種で良いぞ♪」
「お、おい、ライラ」
ジャンヌがいるのにあんまり生々しい話はしたくない。
と思ったら、ジャンヌはちょっと頬を紅潮させているが、別にわかってないって顔はしていない。
……というか、そういやジャンヌって俺と同い年だっけ。
「ふふ。我らとて二十日近くも何もしておらなんだ訳ではないぞえ?」
「わ、我ら?」
ライラはにーっと笑う。ジャンヌは視線を落とした。
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