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 あの後、戦後処理というかなんというか、後始末をいくつかせざるを得なかった。

 まずルーカス。
 あいつの事に関しては「単に女を襲おうとして正当防衛でやられた」ということで処理。こっちにお咎めがなかったのは幸いだが、俺やアンゼロスがただの旅人としてしか身元を申告しなかった関係で、パワーハラスメント及び北方軍団への侮辱として処理することはできなかった。
 セレスタの地方自治体は治外法権の色が強い。特に亜人種コロニーが主体となっている場所では、風習への無理解からトラブルが絶えないが、そういう場合には大体旅人の方が悪いことにされやすい。
 そういう風潮なので、旅人への危害はあまり罪に問われない傾向がある。やらかしたことの割にはルーカスは軽いお咎めで済みそうだ。
 ……オーロラの話では少なくとも片玉は駄目だったらしいが。うん、これだけでも充分キツいお仕置きかもしれない。
 ちなみにドラゴンスレイヤーはさすがにお目こぼしにはあずかれなかったようで、飛龍便で首都に回収されていった。

 次に南方軍団の自称精鋭三百人。
 これに関してはベッカー特務百人長が裏で手を回しているらしく、おそらくは解散の上でそれぞれ別の部隊に再編成されるそうだ。
 あまりにルーカスの色に染まりすぎているが、かといってルーカスに食い取られた南方軍団は現在人員不足も激しい。無闇に切るわけにもいかないのでそういう処置らしい。
「まあ、ディアーネ隊長にやっつけられて、ルーカスなんぞまだまだ井の中の蛙と気づいた兵士も少なくなさそうだしな。やっぱ世界が狭いのはよくねえよ」
 とは特務百人長の弁。それぞれ健全にセレスタの守りに復帰してくれるといいけど。

 それで俺。というか俺の足。
 ルーカス邸に転がっていた膝から下の切れっぱしは、いつの間にかディアーネさんが回収してきてくれた。
 それであの翌日に、近くの病院で手術。
 ディアーネさんが執刀した。なんでも、成人して一番最初になった職業は医者だそうで。
「上から3番目と22番目の兄と9番目の姉が医者だったのでな。まあ百何十年も前の医術だ、繋げる事は繋げるがそんなに期待はするな」
 と言いつつ、炭化した部分を切り取って足を繋げ、足りない肉と骨は……なんか鹿だかカモシカだかから移植したらしい。その移植技術はクラベスの先端魔法技術で補ったんだそうだ。
 でも繋がっただけ。
 残念ながら感覚は全然ないし、いくら頑張っても動きもしない。ぶらんぶらん。
 そうなること自体は手術前からわかってたんだそうだ。
「触覚だけを復活させることは幻影魔法を使えば出来なくはないんだが、動かすのはちょっと難しい。今の医術でもここまでが限界のようだ。……やっぱりポルカの霊泉の力が必要だな」
 ということで、俺は予備役入りしてでもポルカに向かうことは確定。このままだと俺は軍人としても全然役に立たない。確実に退役だし。
 ちなみに排便の世話はセレンがやたら嬉しそうに手伝ってくれている。

 で、アンゼロスとオーロラについて。
 アンゼロスは鎧がもうバッキバキにブッ壊されてしまったので、いい機会だから男装をやめることにしたらしい。
 となると、どんな恰好をするかという問題が持ち上がり、セレンのように動きやすい北方エルフ風短衣にするか、ディアーネさんのような砂漠民族風の最低限の布面積で構成された服にするか、トロットの町娘風の膝丈スカートにするか、などいくつもの案が持ち上がって女連中の間で半日ほど盛り上がっていた。
 が、最終的には手堅く、スリットの深いスカートとシンプルなシャツの上から矢避け用に刻紋の入ったベストを着るというスタイルに落ち着いた。
 わりと活動的とはいえ、素直に女の子っぽい服装をしているアンゼロスは新鮮だ。
 その上、あのルーカス騒動の最中に微妙に告白しあったような恰好になっているので最近ちょっと落ち着かない。
 ちなみに髪に関しては毎日セレンに遊ばれている。今日は三つ編みだがポニーテールとかツインテールの日もある。
 で、オーロラは当面、特務百人長預かりということで特別諜報旅団が身柄を引き受けつつ、さらにそこからの出向という形で俺たちについてくるつもりらしい。
 アンゼロスというライバルを得て、元々なんだか競争好きらしい彼女は燃えているようだ。

 そして、今後の予定。
 俺たちはこういった諸事情のために今日までクラベスに逗留していたが、午後にはまた折り返しオアシスに向けて発つ。
 ヘリコン経由でまずはディアーネさんの出身地であるオアシスコロニー「タルク」に向けて旅をする。
 そこでディアーネさんの姉の一人であるヒルダさんという人を拾ってからライラのドラゴンパレスに行き、ライラにポルカまで連れて行ってもらおうという計画らしい。
「そのヒルダさんて何者なんですか」
「医者だ。魔法医学を専攻している、はず」
「はず、って」
「もう20年近く会ってないんだからしょうがないだろう。父上の話ではまだ医者を続けていると思うが」
「その人に治してもらえるんならポルカまで行かなくて済む……あれ? 拾うってことは連れて行くってことですよね」
「言っただろう。今の医学では正攻法でお前を治すのは無理だ」
「…………」
「だけど、確かポルカにはお前の他にもセレスタ先端の医者が必要な奴がいるって話だったと思ったが」
「……あ、そうか」
 アップルのための要員として、わざわざお姉さんについてきてもらうということらしい。
 わざわざ俺の他の女のためにそんな手配まで考えてくれるディアーネさんの真面目さがありがたくて愛しい。


「よし、忘れ物はないな」
「ありません」
「僕も大丈夫です」
「私はアンディさんがいればなんにも問題ありませんよー」
「他国への旅など初めてです。ワクワクしますわね」
 馬車に乗り、クラベスを後にする。

 数分してから、ベッカー特務百人長が走って馬車に追いついてきた。
「おい! おい隊長! わざとか! わざと俺を置いていきやがったのか! おい!」
 両手に小さな酒樽を持っていた。
 もしかして出発直前に急に買いにいかせたりしたのか。
「ちっ」
「おい! 隊長! ちょっと! シャレになんねーぞおい!」
 ……もしかしてディアーネさん、クラベスにいる間、特務百人長が邪魔で夜這いかけられなかったのを恨んでるのか。


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