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トイレ休憩を数度挟んで、確かに夕方近くになって、俺たちは砂漠端の街を見下ろすところまで飛んでくることが出来た。
「……で、ライラ」
「ほ?」
「めっさ下の方で人がこっち見てる」
「…………」
俺たちが乗ったライラの巨躯を指差してる。なんか叫んでいるようで、次々に周囲の家から人々が出てきてこっちを見上げて恐慌するのが見える。
「……姿を消すのをすっかり忘れておったわ。人里の上なぞ飛ぶのは数十年ぶりじゃての」
「おい幻影魔法の自称エキスパート」
こいつは駄目だ。
「飛龍便のつもり……ってわけにはいかないかな」
「アンゼロス、飛龍はこいつの口だと一口で食えちゃう大きさだぞ」
「う、ううん」
「これは困ったな……」
ディアーネさんとアンゼロスが考え込む。ライラはしばらくばっさばっさと旋回して作戦を待った。
……そしてうんうん唸って一言も発しない二人に痺れを切らした。
「……ほ、どうせここで妙な噂になっても良いのじゃ。どうせあと百年ぐらいはアンディに飼われる予定じゃての。ちょいと強引にいくぞえ」
「ライラ!? 俺の寿命せいぜいあと50年くらいだけど!?」
「そこじゃないです、そこじゃないですよアンディさん……」
「というか強引て何すんだオイ!」
「ディアーネ、他の三人とお主の姿だけ上手く消しておくが良い」
「お、おい、ライラ!?」
ぶわっさぶわっさ、とライラは街の西に旋回。
夕日を背に、目抜き通りの真ん中に……勢い良くどざーーっと着陸。
阿鼻叫喚。
「ドラゴンだーーー!!」
「な、なんで!? またバカな冒険家でもドラゴンパレスに入ったの!?」
「逃げろ!! 逃げろーーっ!!」
人々が我先にと逃げ惑い、憲兵が駆けつけ、さーっと青くなりながらも一応槍を向ける。
その人々に紛れて俺たちが路地裏にこっそり隠れたのを確認して、ライラはパッと人間体に変身した。
『!?』
広い目抜き通りのど真ん中で、ドラゴンの鎮座していた場所に突如現れる……全裸の黒髪美女。
周囲が凍った。
「……あの、ディアーネさん。ドラゴンの変身ってメキメキ巨大化したりするわけじゃないんだったら、服とか脱がなくてもいいんじゃないんですか?」
「理論上はな」
なんともいえない顔でディアーネさんが頷く。
「じゃあなんであいつ全裸なんですか」
「趣味だろう」
「……趣味かあ」
ディアーネさんの「そんなこと私に聞くな」的な投げやりな答えだったが、妙な説得力があった。
そして道の真ん中で全裸晒した変態ドラゴンの方は。
「……あー、あー。我はラッセル砂漠の黒竜、ライラじゃ。別に冒険家が来たりとか面白いことがあったわけではないので安心せい」
そのまま声明を出す気らしい。服着ろ。
「が、この度北方軍団の某十人長に飼われることになったので、迷宮のドラゴンパレスは今後百年ぐらい立ち入り禁止じゃ。来てもなんにもないので冒険家どもにはがっかりしてもらおう」
おい。
「この言葉を聞いた者、その旨を知る限り広くに吹聴するがいい。それでは我はこの辺で失敬」
しゅた、手を上げて優雅に尻、というか背を向けるライラに、憲兵たちがにじり寄る。ドラゴン体ならともかく全裸女にナメられてはたまらんとでも思ったのだろうか。
「ほ。我と遊んでくれるのかえ」
「き、貴様、ドラゴンに化けるとは不届きな! 他国の妖術使いか!?」
「だからドラゴンじゃと……ええい、どちらでも良いわ。ちょいとは楽しませてくれるのじゃろうな」
その辺にあった棒っきれを拾うライラ。いいから乳ぐらい隠せ。憲兵たちが微妙に前かがみで可哀相だろ。
「さあ、ひと暴れくらいは奴も許してくれよう。どいつから相手して欲しい?」
「こ、この、不埒な!!」
アンゼロスがちょっと拳を握って憲兵を応援していた。確かに言葉だけ聞いてると不埒すぎるが。
「い、いくぞ、全員で一気だ」
「よ、よし」
「ほ。それは剛毅」
ゴッ、とライラの裸身から殺気が燃え立つ。一斉に飛び掛ろうとしていた憲兵たちがギクリと足を止めた。
あの目は怖い。何人かが思い出したように腰を震わせているが、失禁している可能性もある。
「……ふん、ぬっ!!」
その全員の武器を棒っきれで薙ぎ払い、そのままの勢いで飛び回し蹴りで全員なぎ倒すライラ。
やはりディアーネさんと互角にやりあっただけあり、無闇に強い。でもぱんつはけ。
「ほ。物足りん。精進せい」
あまりにあまりな光景が逆に痛快だったのか、周囲からパチパチと拍手が聞こえる。それに笑顔で答え、道沿いの衣料品店のおばさんからローブまでもらって、立ち去るどころか腰を落ち着けて飲み食いまで始めるライラ。
「……メチャクチャな奴だ」
「いや……これは憂慮すべきことだ」
「ディアーネさん?」
「……市民を守る憲兵が倒されて拍手が起こる。父上の言う通り、軍が私物化され、民に好かれていない証拠だ」
ディアーネさんはマントを脱ぎ、路地裏から出て俺たちを促した。
「行こう。急ぐべき理由が出来た」
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